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目からビーム

 アリナは次の勝負でも勝った。金貨百枚を投入し、チップ100枚で始め、今は200枚を超えている。


「おい、どういうことだ。あんなに当たりが続くのはおかしいのではないか?」


 そうクロードは休憩に入ったディーラーの男を呼び止めて確認をする。

 プロのディーラーと言っても、狙った数字に球を入れることは不可能である。回転して跳ねまわる球の軌道は予測不可能だからだ。


「分かりません……ビギナーズラックとしか……」


 そうディーラーの男も答えるしかない。ホールではまたもやアリナは当てて、チップは300枚を超えている。


「……まあいい。俺が合図したら、例の仕掛けを行え」


 そうクロードは小声で恐るべき言葉を唱えた。ディーラーの男の表情が曇る。


「クロード様……勇者相手に危険ではないでしょうか」

「1回だけだ。ここぞという勝負時で使う。多少の不自然はやむを得ない」

「……分かりました」


 ディーラーの男はそう答えた。多少のリスクは仕方がない。それに素人の勇者なら1回くらいはごまかせると思ったのだ。


「ユート、ついにチップは300枚を超えたわ。この町の人たちに無料の食事処を作るには、10000枚は欲しいところね」

「アリナ様、それは少し夢を見過ぎではないでしょうか」


 ユートはそうアリナを嗜める。主人を冷静にさせるのも付き人の役割である。

 ここまでは、敬愛するアリナの運の強さで勝ってきたが、さすがに100戦100勝とはいかないだろう。

 ルーレットは期待値の高いギャンブルではあるが、それでも負ける可能性は0ではなく、やればやるほど負けていくものなのだ。

 それはアリナも分かっていて、勢いのあるうちに全てを賭けていこうと短期勝負に出た。

100枚ずつ、3つの数字に賭けたのだ。


「7と9と17に100枚」

「おおおおっ……」


 周りの客は驚く。思い切った勝負と言うより、かなり無謀な勝負である。

 38分の3とはいえ、3点賭けに大金を賭ける勇気はなかなか出てこない。


(か、かかった……)


 クロードはほくそ笑んだ。休憩を終えて先ほどの男性ディーラーがテーブルに戻っている。

 クロードは合図を送った。ディーラーは頷いた。


「それでは回します……」


 ルーレットが回る。そして球が投入される。くるくる回る球。が、時折、弾かれるように不自然な動きを見せた。

 それはほんの小さな動きなので、注意深く見ていないと分からない程度であった。


「ユート……さっきより、おかしな動きしていない?」


 そうルーシーはユートの裾を引っ張った。

 アリナはうきうきと結果が出るのを待っている。


(なるほど……)


 ユートも少し違和感をもった。球の動きがおかしいような気がしたのだ。

 目のいいルーシーとユートだけがこの小さな違和感に気が付いた。

 だが、気が付いたからと言って、それが何なのか分からない以上、このルーレットの結果を覆すことはできない。


(ならば……)


 ルーレットの結果が出る前にアクションを起こすしかない。ユートはポケットから球を取り出した。ルーレットに使われる球である。こっそり、テーブルから拝借しておいたのだ。

 俊敏力のランクがZであるユートの動きを捉えられる人間などいない。


 「はい、結果が出ました……結果は……はれ?」

 

 ディーラーの男は固まった。

 それは予想外の結果に驚いているようであった。

 そしてそれは遠目で見ていたクロードも同様であった。彼はすぐに赤黒く顔を変色させて怒りを露わにしたのだが。


「……黒の17」

「や、やったー」


 アリナは万歳をする。100枚がけの36倍である。

 一挙に3600枚のチップを稼ぐことができた。周りの客はこの快挙に拍手を送る。

 このカジノ始まって以来の高額配当である。これには周りのテーブルで遊んでいた客もやってきてアリナに祝福の言葉を述べる。


「ユ、ユート……あなた、何かしたの?」

「ええ。大したことではありません。ディーラーが入れた球をノーマルの球に差し替えただけです」

「?」


 はてな顔のルーシーに、ユートはポケットから白い球を取り出して見せた。

 なんの変哲もない球であるが、ルーシーのベルトの金具に反応してくっついた。


「こ、これは……」

「おそらく、磁石が仕掛けられた球ですね」

「じ、磁石?」

「たぶん、0と00は強力な磁石で引き寄せあうようになっていて、あと偶数のポケットには金属が使われているか何かでしょう。アリナ様が奇数に賭けたので、あらかじめ仕掛けておいた罠を作動させたと思われます」


 そうユートはすまして答えた。ルーシーはその言葉を聞いて、球を再び手にしたディーラーの男の表情が変わったことに気が付いた。


(ユートの言ったとおりなら、あの表情は理解できる……でも……)


 ルーシーには一つ、腑に落ちないことがある。それはユートが、いつの間に球をすり替えたのかということだ。


「そんなの簡単ですよ」


 事も無げにユートは答えた。


「ディーラーさんが投げた球を眼力で粉々にして、瞬時に別の球を投げたんです」

「ほ、ほえええええええ!」


 ルーシーは驚いて変な声を出し、慌てて口を押えた。いくらなんでもそんなことが誰にも気が付かれずできるわけがない。


「眼力って……そんなんで固い球が壊せるものか?」

「え、できませんか?」

「できるわけねええええっ!」

「目で見て壊れろって心で念じるだけですよ」

「できない。普通の人はできない!」


 ルーシーは全否定する。魔法で衝撃波を使うものならできるかもしれないが、それでも目に見えないほど粉々にするなんてできるわけがない。

 それに新しい球もユートが投げれば、誰もが気が付くはずだ。


(それができないって……どんなけチートなんだよ!)


 ルーシーは呆れかえるしかない。もう人間離れしたユートの能力なら何でもありなのかもしれない。

 

(いや、ちょっと、待て……まだ何かおかしい)


 ルーシーは冷静に考える。


(ユートの奴が本当に球をすり替えて、ディーラーの不正を正したとして……。確率は38分の3になっただけじゃないか?)


 ルーシーは喜んでいるアリナの顔を見る。


(てことは、勇者の運ってことかよ!)

「さすが、アリナ様。その運の強さは世界一でございます」


 そうユートはアリナを褒めたたえる。

 アリナはますます気をよくしている。

 ユートはカジノ側の不正を防いだが、勝負に介入してアリナを勝たせたわけではない。

 あくまでもフェアな勝負に自分の主人を参加させただけなのだ。

 アリナの大勝を見て、顔を引きつらせたクロードであったが、すぐにアリナの元へ祝福に来た。

 手を叩き、満面の笑みを称えている。


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