ギャンブルへの挑戦
アリナは考え込んでいる。パーティの間も客には笑顔を向けていたが、時折、憂鬱そうな顔を見せていた。
「アリナ、考えているのは先ほどのことか?」
そう戦士ダンテは尋ねる。先ほどとは、アリナがこの町の市長に貧しい人たちへの救済を訴えたことだ。
「……市長はああ言ったが、きっと何もしないよね」
アリナは貴族のお姫様であった。よって世間一般的なことには疎い。
けれども、これまで勇者として冒険してきた経験から、あの副市長の腹黒さと権力差のしたたかさに感づいていた。
恐らく、彼らは何もしないだろう。
よそ者の自分たちの意見を聞く義理はない。
だが、それではアリナの気持ちが収まらない。
(何とかして、この町の貧しい人々を救う手立てはないかしら……)
パーティを終えて、馬車で宿舎へ帰る途中でもアリナは考え込んでいた。
しかし、よい方法はない。この町の貧しい人を救うには莫大なお金が必要なのだ。
「アリナ様、何をお悩みなのでしょう?」
馬車から降りて部屋へ向かうアリナにユートはそう話しかけた。崇拝する主人の感情など、付き人のユートはよく分かっている。
「ユートに言っても仕方がないけど……」
アリナは年下の少年に話したところで、何の解決もできないと考えたが、話すことで自分の気がまぎれることも知っていた。
「なるほど……さすがはアリナ様。お強いだけでなく、お優しい心に僕は感動します。この町の貧しい人々は、アリナ様の慈悲によって救われるでしょう」
「ユート、それは無理よ。彼らを救うには莫大なお金が必要よ」
アリナは分かっている。この町の貧しい人を持続的に援助するには、金貨で10万枚以上は必要である。
もちろん、与えるだけでなく、彼らへの就労支援や働く場所の創設を考えれば、その資金はさらに10倍となろう。
「アリナ様、お金が必要なら、稼げばよいのです。幸い、この町にはギャンブル場があります」
そうユートは説明した。ここまで大人しく聞いていたルーシーは、急に話がギャンブルになり、少し驚いた。
もしかしたら、ユートが自分の願いを聞いてくれたのではないかと思ったのだ。
(いやいやいや……)
ルーシーは首を振った。
一瞬でもそんなことを思った自分が馬鹿だと思った。
ユートの視線はアリナただ一人だけに向けられており、自分のことなんかまったく忘れているという表情なのだ。
「ギャンブル?」
「そうです。この町には市が委託した公益法人が、合法的にやっているギャンブルがあるのです。それでしこたま儲ければ、アリナ様のやりたいことができますよ」
「ギャンブルか~」
そうアリナの返答にルーシーは心の中で毒づいた。
(世間知らずの勇者が……勝てる訳ないだろ!)
あのインチキギャンブル運営集団、ライジンが主催するゲームに勝てるはずがない。
「それいいわね。ここに金貨100枚あるから、これを10000倍にすれば簡単だわ」
「さすがアリナ様、賢いです!」
そう勇者を褒めたたえるユート。そこまで聞いたルーシーはこの能天気ぶりにあほらしくなる。
いくら勇者が強くても、またユートが強くても、純粋にギャンブルだけならライジンに勝てるはずがないのである。




