盗賊娘の過去
ルーシーも生まれながらに盗賊だったわけではない。
10歳の時までは町の裕福な油問屋の娘であった。そこそこ大きな問屋で従業員も10名ほど雇うほど羽振りがよかった。
ところが父親が、ライジンが経営するギャンブル場に行くようになって経営が傾き始めた。
父親はルーレットにはまり、やがて店の資金にまで手を出すようになった。
負けが込むとライジンに借金を申し込むようになり、ついには莫大な借金を抱えてしまい、店は倒産。父親と母親は心中してしまったのだ。
後に残されたルーシーは孤児となり、紆余曲折があって盗賊の弟子となる。
「確かにギャンブルに狂って全てを犠牲にした親父が悪い……だけど、親父を誘ったのは、あの男なんだ」
「さっきのクロードって人?」
ユートの問いに頷くルーシー。子どもの頃は分からなかったが、成長するにつれて、ライジンの汚いやり方を知ることになる。
特に裏稼業で暗躍する盗賊団に身を置いていたから、一般人とは違ってライジンの裏の顔を知ることができた。
「最初は少し勝たせるのだそうだ。あたしの親父も最初にやったルーレットで少し儲かったそう。だけど、次からは少しずつ負けていった……」
ギャンブルの恐ろしさは、勝った時の快感を忘れられず、負けるたびに次ぎは取り返せると言う思考に陥ってしまうこと。
そうするために、ギャンブルを主宰する側は上手にコントロールをする。小金持ちであったルーシーの父親は、まさにカモであった。
たまにいい思いをさせながら、少しずつ負けを積み上げさせ、最後は借金漬けにして尻の毛まで抜くように全財産を奪い取った。
「最後は一発逆転を賭けて、富くじを買った親父。あちらこちらから無理を言って借りた金貨100枚でクジを買ったそうだ」
「ふ~ん。金貨100枚って大金だね」
「そのクジは銀貨1枚で1等は金貨5000枚が当たるという奴だったんだ」
「それで?」
「あったのは6等が1本。たった、銀貨1枚」
「……すごい減りようだね」
ユートが指摘するまでもない。クジ券1000枚で当たりは1枚。それもたったの銀貨1枚。1000分の1に減ったのだ。
「あとでお頭に聞いたんだ。ルーレットもクジも全部、胴元のライジンがぼろ儲けするようにできているってことを」
「ギャンブルとはそういうものだよ。悪いけど、君のお父さんには同情できないね。ギャンブルをしたのはお父さん自身だからね。でも、さっきの男の人も許せないけどね」
「そ、そうだろ……。ユート、あいつをお前の力で懲らしめてやってくれ」
ルーシーはそうユートに頼んだ。自覚はなさそうだが、ユートの力は神級である。少しその気になれば、あのクロードもライジンの組織ごと葬ることができるのだ。
「ルーシーさん、僕にはそんな力はないよ。僕は勇者アリナ様の付き人だからね」
「いや、お前、付き人の領域を超えてるだろう!」
「ははは……ルーシーさんも冗談がきついよ。この話はこれでおしまい。アリナ様のためならともかく、ルーシーさんの願いじゃ無理」
「お前、結構、傷つくこと言うよな」
「そうですかね」
「無自覚かよ!」
ルーシーは悔しい気持ちを抑え込んだ。ユートがそういう奴であることは十分わかっていた。




