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魔神復活

「ここが例の魔神が封印されているという神殿だよ……」


 ルーシーが案内したのは、この町で一番大きな神殿。ネイザーランド神殿である。

 ここの地下には魔神が封印されていると言われていた。もちろん、封印されている場所は極秘で一般の人間は見ることができない。

 地下への入り口は神殿の大ホールから少し入ったところにあるのだが、不思議なことに誰もいない。

 ルーシーは、この神殿に着いてから神殿内に漂う、よからぬ空気に気持ちの悪さを感じていた。


「ねえ、ユート、何か変だよ……入り口にも人が立っていないし……」

「確かに、人がいないね。ちょっと、覗いてみよう」


 ユートは地下への入り口と思われるドアを開ける。

 ドアは鍵もかけられておらず、地下への階段が見える。


「や、やばいよ……これは絶対に……」


 ルーシーはしり込みするが、ユートは全然気にしていない。


「大丈夫だよ。いざとなったら、アリナ様が助けに来てくださいます。何しろ、アリナ様は光の勇者。邪悪な魔神を退治してくださいます」

「……勇者って……あんたの方がよほど強いと思うのだけどね……」

「ルーシーさん、あなたは馬鹿ですか。僕はただのしがない付き人です。まだ、修行中の身なのです」

「……」


 すました顔でそういうユート。

 謙遜とか、ごまかしているということではない。本当にそう思っているのだ。

 もはや、ルーシーは何も言えない。

 階段はずっと続き、螺旋を描きながら、地下3階分に達した。

 たどり着いたのは大きな両扉。

 開けると人が500人は入れる大きなホールに出た。

 そこには祭壇があり、青白い炎があった。

 そして、このホールには100人もの神官が折り重なるようにして倒れていたのだ。


「み、みんな……死んでいる?」

「いや、息があるようです。きっと仕事に疲れて寝ているのですよ」

「そ、そんなわけねえだろ!」


 ルーシーは近くにいた神官を抱き起して確認する。

 わずかだが、呼吸をしていることが確認できた。


「あの、青白い炎……あれは魔神じゃ……復活したんだよ、きっと」


 ルーシーが指さした方向には、実体化しつつある巨大な体が見えた。それは青い肌、赤い髪、牛ような角、口からは牙が見える。

 体には巨大な蛇が2体巻き付いており、こうもりのような翼も背中についている。

 見るからに恐ろしい姿の魔神の姿であった。


「おや、まだ余の魔素を受けても気を失わない人間がいたのか?」


 魔神はそうユートたちに地の奥底から響くような声で尋ねた。

 そして、ルーシーの胸に輝くペンダントを見てにやりと笑った。


「小娘のペンダント、少々、魔力抵抗を高める力があるようだ。そのおかげでなんとか気を失わなかったようだ……だが……」


 魔神はユートに向けて指さした。


「お前はなんだ。どうして倒れない。ただの子供がどうしてだ?」


 そう言われてユートは首を傾げた。


「どうしてと言われても、僕にもさっぱり。あ、初めまして、僕はユートと言います。光の勇者アリナ様に仕えるただのしがない付き人です」


「うがああああああっ?」


 魔神はユートの能天気な答えに中指を立てて、顔に青筋を浮かべて威嚇した。


「ただのしがない付き人だと……。その付き人ごときが、どうして余の前で平気なのだ?」

「はあ……おっしゃっている意味が分かりません。それよりも……」


 ユートは1歩、2歩と前に出る。

 その歩みは堂々としたものだ。

 ルーシーはと言うと、あまりの恐ろしさに腰が抜けてしまっている。逃げようにも足が言うことをきかない。


「あなたの名前は何ですか?」

「……お前、正気か?」

「あ・な・たの名前は何ですか!」


 ユートは魔神の耳が遠いのかと思い、大きな声で復唱した。

 魔神の怒りは最骨頂に達する。

 勇者ならともかく、何を勘違いしたのか付き人ごときが、自分の名前を聞いてきたのだ。


(こんなこと、余が生を受けてから、2000年、初めてだ……)


 驚きと共に人間ごときが偉そうにしていることが屈辱に感じた。

 そして、意志を示す。その返答は瞬殺でもってなす。


「火炎地獄!」


 凄まじい炎の渦がユートに襲いかかる。

 しかし、魔神は信じられない光景を目にすることになる。

 炎の渦の中を普通に歩いてくる少年。

 思わず、魔神は口をあんぐりと開けたまま、炎を放った右指を見つめた。


(ば、馬鹿な……火炎地獄は人間ごときがまともに受ければ、一瞬で灰になってしまう魔法だぞ)

「うっ……」


 慌てて我に返った魔神。

 そして目を見張った。

 ユートがジャンプして、自分の身長を越えたところまでに到達したのが視界に入った。

 その瞬間、ユートのチョップが脳天に直撃する。


「ば、ぶううううっ!」


 変な声が出た。

 同時に脳への衝撃。魔神なのに思わず目を剥いてしまった。

 頭がくらくらして、足がもつれる。


「もう一度聞きます。名前は何ですか?」

「ダ、ダンゲリオン……で……す……」

「ダンゲリオンさんは、どうしてここにいるんですか?」

「はあ?」

「はあ?」


 このユートの質問には、魔神もルーシーも呆れてしまった。

 どうやら、ユートは目の前の恐ろしい生物を魔神と認識していないようなのだ。


「お、お前、何言っている、そいつは復活した魔神だぞ」


 ルーシーはやっと声を振り絞ってそう叫んだ。魔神はユートの攻撃で相当ダメージを受けたらしく、威圧のエネルギーがかなり低下していた。


「ははは……何言っているんですか、ルーシーさん。こんな弱そうなモンスターさんが魔神のわけがないでしょう。魔神はまだ復活してませんよ。きっと、そこの封印の箱の中にいるんですよ」


 そう言うとユートは魔神ダンゲリオンが出てきた封印の箱を聖体の白絹で包み始めた。


「い、いや、ユート。この100人の神官が倒れている状況を見たら、この目の前のモンスターが魔神だって分かるだろ!」


 ルーシーはそうユートに怒鳴った。

 この状況で目の前の魔神を認識できていないのは明らかにおかしい。

 ルーシーの怒りに魔神も便乗する。


「そ、そうだ、余は魔神ダンゲリオン。この神殿に封印されし魔神なり」

「はいはい、冗談はそこまでね」


 全く取り合わないユート。魔神ダンゲリオンの頭をポンポンと叩いて、黙らせる。あまりの屈辱に魔神ダンゲリオンは、激しい怒りに全身を奮わせた。

 そして、両手を合わせると振り上げて、ユートめがけて打ち下ろす。


「暴れちゃだめだよ!」


 ユートはそう言うと魔法を唱えた。

 スピードを落とす魔法『遅刻』である。動きがスローモーションのようになる。


「少し、力を弱めておきます。そうすれば悪さはできないでしょう」


 ユートはさらに魔法を2つ唱えた。


「う……うご……うご……」


 魔神ダンゲリオンは声が出なくなる。

 そして頭を抱えてその場で崩れ落ちた。


「さあ、ルーシーさん帰りましょう」

「え、ユート、魔神に何をしたんだ?」

「ああ、ユグノーさんの魔導書で勉強した魔法を使ってみたのですよ。最初のは『沈黙』。言葉が出なくなって魔法が唱えられなくなるのです」

「唱えられなくなるって、魔神は魔法無効化能力があるんだぞ。それを黙らせるなんて……」


 魔法無効効果はモンスター側が持っている魔法抵抗力による効果である。

 しかし、術者の魔力がはるかに上回る場合、抵抗力を無視して効果を発揮させることができるのだ。


「2番目は全ての能力を1/3にする魔法『弱体』。体力自慢も防御力も攻撃力も耐久力も1/3になるのですよ」

「……極悪」


 ルーシーは魔神のことが少し哀れになった。魔法を封じられ、そして全ステータスが1/3になるのだ。

 今、戦いを挑まれたら魔神の敗北は決定的だろう。


「これに懲りて悪いことしたらダメだよ。あと自分のことを魔神だなんて、嘘を言ったら駄目ですよ。ここにいるルーシーさんなんか、思いっきり信じてしまっていますからね」

「いやいや、ユート、こいつ、どう見ても魔神でしょ、魔神以外ないでしょ」

「ルーシーさん。世の中にこんな弱い魔神なんていませんよ。さあ、魔神の棺桶は封印したし、いきましょう。神官さんたちもお昼寝が終わりそうですし」

「いやいや、みんな魔力に当てられて気を失っているんだ。お昼寝じゃない」


 ルーシーの言うことなど、全く気にかけないユート。

 そのまま、ルーシーを連れて町へと戻って行った。


 それと入れ替わりに、ギルド長の要請で神殿にやって来たのは、アリナたち勇者一行。

目が覚めて起き上がり、状況が把握できていない大勢の神官と復活した魔神ダンゲリオンを見つけたのであった。


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