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聖なる白絹

 とにかく、ここにいてはヤバいと思ったルーシー。愛想笑いを浮かべて、軽く助けてもらった礼を言うとその場からダッシュで逃げた。


(やばい、やばい、やばい……あんな化け物と関わったらこっちが死ぬ!)


 ルーシーは自分の寝ぐらである安宿である。

ペラペラの木の扉を開けると、粗末なベッドが置いてあるだけの狭い部屋。

あの男たちが欲しがった白い布がシーツ代わりに敷いてある。


「あいつら、これがどうのとか言ってたなあ……」


 そう独り言をつぶやいた時、不意に声が重なった。


「ああ、これだね」

「だああああああああああっ!」


 思わず振り返ったルーシー。後ろにはユートが立っている。


「お、お、お前、なんでここにいる!」

「ああ、ルーシーさん、急に走らないでくださいよ。あの現場の掃除に時間がかかったから遅れたじゃないですか」

「はあああ?」


 ルーシーにはもうわけが分からない。

 あのポイズントードの肉片と骸骨騎士の骨片を片付けるために、火炎魔法で焼き払ってからルーシーの後を追ったとユートは説明した。


(な、なに言ってんだよ。焼き払うって、短時間に焼くには相当な火力が必要だろうが。それからあたしの後を追うなんて……というか、ほぼ追いついてるし)


「これ、何かパワーを感じるね」


 ルーシーの混乱をよそにユートは白い布を見てそう言った。


「わ、わかるのかよ?」

「うん。賢者様ほどじゃないけど、鑑定の真似事ならできるよ。賢者ユグノー様の蔵書は目を通しているからね」


(おいおい、賢者様の蔵書を読んだからって鑑定はできないだろうが!)


 ユートは白い布に触れると目を閉じた。そして3秒ほどで大きく頷いた。


「これは『聖体の白絹』。魔神の能力を封じる力のあるアイテム。10年に一度、聖グレゴリオ神殿の清き泉に浸す儀式が必要。昔、悪魔との戦いで命を落とした天使の体を包んだことで、この聖なる力が宿ったと言われている……というのは真っ赤な嘘で、本当は100人の僧侶たちが100日祈りながら繭を紡いで織ったためである」

 

 さらさらと鑑定結果を述べるユート。


「あ、あんた、その鑑定、大賢者様よりすごいだろ!」

「いやいや、大賢者様ユグノー様は僕よりもはるかに知識を持った方。僕なんて足元にも及びませんよ」

「あ、あんた何言っているんだよ……

「ああ、染みが2つあるのはルーシーさんのよだれの後ですね」

「があああああっ……そんなこと鑑定するな」

「ふむふむ……」


 ルーシーの慌てぶりを無視するかのように考え込むユート。


「な、なんだよ~」

「このシーツ、このまま、ルーシーさんのベッドにあってはいけないですよね」

「あ、あったりまえだ!」


 そんなことユートに言われなくてもルーシーには分かっている。

 そんな気持ち悪い布の上で寝たくはない。


「も、持って行ってくれよ」

「でも、これはルーシーさんが盗んだものですよね」

「あ……」

(やばい、やばい、やばい……)


 ルーシーの心の中で警鐘がなる。あの悪人の2人組は殺されなかったが、罰を受けた。盗賊の自分も絶対に罰を受ける。


(こ、こうなったら……やけだ!)


 ルーシーは洗いざらいユートに話した。

 自分がなぜ盗賊をやっているのか。この町の福祉が全然だめで、自分が金持ちから盗んだものを分け与えることで貧しい人々がなんとか暮らせていることを。


「うっ、ううううう……」


 両手をぐいと握りしめ、下を向くユート。

 それを見てユートが怒っていると勘違いするルーシー。

 もう腰が抜けてへなへなと崩れ落ちる。


(ああ、死んだわ~。ルーシー・ベンジャミン、15歳。ここに死す……)


 首を差し出すようにうなだれる。

 人間は最後を感じた時は覚悟が大事だと師匠が言っていたことを思い出した。


「かわいそうです~」

「は?」

「だから、可哀そうです」

「そ、そうだろ、あたし、可哀そうだろ?」


 助かったと心から思ったルーシー。

 どうやら、死を覚悟した説得が功を奏したようだ。だが、次の一言で凍り付く。


「可哀そうなのは町の人たちですよ」

「へ?」

「ルーシーさんは良いことをしたつもりですが、盗みは盗みです。罪は償ってもらわないといけませんね」


 ゴゴゴゴゴ……。

 ユートの攻撃的なオーラを感じてルーシーは速攻で土下座をする。

 頭を地面にゴンゴンと当てて、憐れみを誘う。


「ごめんなさい、許してください、償いますから、できることはなんでもやりますから……」

「分かりました。それではルーシーさんのことはアリナ様に決めていただきましょう。町の貧しい人々についても、アリナ様ならなんとかしてくださるはずです」

(た、助かった~)


 ルーシーは心底助かったと思った。

 地獄の淵まで追い詰められたが、何とか踏みとどまったという気分だ。


「それでは一緒に行きましょう」

「え、どこに?」

「決まっていますよ。魔神が封印されていると言う神殿ですよ」


 ユートは聖体の白絹をもって魔神が封印されている神殿に行き、再び、封印するというのだ。

 これにはルーシーも驚いた。そんなやばいところに行きたくはない。


「いや、あたしはちょっと……」

「何を言っているのですか。これも償いです。この布があれば封印できるのです。それに万が一、魔神が復活してもアリナ様が退治してくださいますよ」


 そうユートは何の心配もないという表情でルーシーに言った。ルーシーとしては複雑である。


(勇者が退治するより、お前が退治した方が早いだろうが!)

「ルーシーさん、早く行きますよ」

「……仕方がない、ついて行ってやるよ」

(本当は関わりたくないけど……逃げても逃げられないだろうし。それにこいつは化け物並みに強いからな。魔神でも大丈夫だろう……)


 あまり行きたくないと思ったルーシーであったが、償いと言われたらユートに従うしかないと思って諦めた。

 そうしないと、ユートから直接、制裁されてしまうかもしれない。

 どう考えても、魔神の復活より、そっちの方が怖い。


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