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市街戦

 それを地面に投げる。するとどうだろうか……。煙と共に中から現れたのは骸骨の騎士。


「モ、モンスターかよ」


 ルーシーは逃げようとしたが、ここは袋小路。

 そして骸骨の騎士は意外にも動きが素早い。

 広いところなら盗賊のルーシーなら逃げられたかもしれないが、この狭い場所で2体の骸骨騎士と黒づくめの男たちから逃げることは難しかった。

 たちまち、壁に追い詰められ、剣を首筋に突き立てられて抑え込まれてしまった。


「さあ、白状しろ。お前があのカバンを盗んだことは分かっているのだ」

「わ、わかったよ……盗んだことは認める。中のものも返すよ。眼鏡は壊れてしまったけれど」


 ルーシーはそう白状したが、男たちの目的はステータスが見える眼鏡でもルーシーが胸に付けているペンダントでもなかった。


「あの中に白い布があっただろう」

「あ、あった……あったよ」

「どこにやったのだ?」


 骸骨騎士の剣の先が首筋の皮膚に食い込む。

 薄っすらと血が滲む。


「あ、あたしの寝ぐらだよ……レイトン地区の安宿さ、フルリの宿、部屋番号は201……こ、殺さないで……」


 ルーシーは恐怖で全てをしゃべった。

 この状況で嘘はないと確信したのだろう。2人の男は骸骨騎士に命じた。


「その小娘は用済みだ。殺せ!」

「いやあああああっ、殺さないで!」

「ガチャ、ガチャ……」


 骸骨騎士が剣を動かそうとした刹那。一瞬でその骸骨騎士は粉々に砕け散った。

 一体、何が起きたか分からなくて惚けたように立ち尽くす黒づくめの男たち。


「おじさんたち、いくら悪い子でも殺してはダメですよ」


 そこに現れたのはユート。

 最初からルーシーが人相の悪そうな男たちに狙われていることを知って、後を付けていたのだ。

 事情を聞いたうえで、いよいよピンチと言うことで介入したというわけだ。

 ユートは男たちの後方の物陰で話を全て聞いており、男たちがルーシーの殺害を命じたことを聞いて一足飛びにルーシーの元へ駆けつけたのだ。

20mの距離を僅か0.01秒。攻撃に使った武器は、物陰に落ちていた石。

握りこぶし大の石を右手で掴んで骸骨の騎士を殴ったのだ。


「あ、あんた……あの勇者のところにいた……」

「はじめまして、ユートと言います。勇者アリナ様に仕えるただのしがない付き人です」

「あ、ああ……あたしはルーシー……」


 自己紹介をされたので思わず自分も名前を名乗ってしまった。

 しかし、今の状況はそんな悠長なことをしている時ではない。


「貴様、何者だ!」

「はい、僕はユートと言います」


 ユートはそう言ってにっこりと笑った。緊迫した空気が台無しである。


「ユート?」

「お前、少しは空気を読めよ、クソガキ!」


 2人の男は顔を見合わせた。なんの変哲もない少年である。


「そいつも殺せ、骸骨の騎士」


 男たちは残った骸骨の騎士に攻撃を命ずる。

 ブロードソードを振りかざした骸骨の騎士。

 だが、その剣が振り下ろされる前にユートの右手が骸骨の騎士の顔面を捉えた。

 そのスピード、0.001秒。

 拳が当たった瞬間に粉々に砕ける骸骨の騎士。

 ありえない光景に動けない2人の男たち。


「ば、ばかな……夢でも見ているのか?」

「骸骨の騎士だぞ、ベテラン戦士と同じ戦闘力だぞ!」

「おじさんたち、そろそろ止めましょう。じゃないと、アリナ様に言いつけますよ」

「ア、アリナだと……あの光の勇者の?」

「はい、そうです。僕の尊敬する勇者アリナ様です」 


 男たちは勇者アリナの名前を聞いて驚いている。

 腰が抜けて、へなへなと座り込み、ようやく壁にもたれかかっているルーシーは、そんな男たちに心の中で突っ込みを入れている。


(そうじゃないだろ。勇者じゃないよね。ヤバいよね。その少年の方が!)

「勇者の仲間と言うことは、手練れの戦士か!」

「いや、魔法使いだろ、今の動きは魔法でないと説明がつかない!」

「僕が戦士ですか……何を言っているのですか。僕なんてアリナ様の仲間なんかには程遠いですよ。僕はまだまだ修行の身。ただのしがない付き人です」


「はあああああああああああ?」

「はあああああああああああ?」


 あんぐりと口をあけて固まる男たち。

 ルーシーも思わず声を出した。


「嘘つけ~っ」


 周りの反応に照れ隠しで頭をかくユート。

「嘘なんてつきませんよ。ただのしがない付き人です。そんな反応されると恥ずかしくなりますよ」

(な、なに言っているんだ、この少年。ありえねえだろ!)


 ルーシーは思わず自分のほっぺたをつねった。

 目の前の少年はあの眼鏡で攻撃力が「Z」であった。

 「Z」なんて聞いたことがない。伝説の勇者は魔王が「SSS」というランクに位置づけられるとは聞いたことがあるが、「Z」である。

 それがとんでもないランクであることは間違いがない。

 あまりにもとんでもないので、魔法の眼鏡は一瞬で砕けてしまったくらいだ。


「くそ、かくなる上は……」

「おい、お前、それはまずいぞ。ここは街中だぞ」


 一人の男がポケットをまさぐる。

 彼らにはいざという時に渡された奥の手があった。

 それはクリスタルに封印されたモンスター。

 骸骨の騎士などよりもはるかに強い、巨大なモンスターが出現した。

 大きな馬車ほどもあるそれはポイズントード。

 巨大なカエルのモンスターである。


「さあ、ポイズントードよ、毒を吐け。あの子供を毒で侵せ!」


 ズドーン……。

 鈍い音がした。

 ボトボトと何かが落ちてくる。

 ルーシーは赤い液体にまみれたそれが肉片だと知る。

 ポイズントードの肉片だ。

 どうやら、爆裂魔法でポイズントードの体を粉々にしたらしい。

 呪文を唱えたようには見えなかった。


(無詠唱かよ……爆裂系の魔法だぜ……)


 ルーシーは雨のように降り注ぐ肉片を呆然と見つめるだけであった。


「な、な、な……」

「う、う、う、う……」


 声にならない声を上げる2人の男。

 へなへなと地面に崩れ落ちる。


「これくらいで勘弁してくれます?」


 ユートはそう言って、2人の男の顔を覗き込む。

 思わず失禁してしまう2人。コクコクと了承の合図を送る。


「よかった」


 にっこりと笑うユート。

 なんとか、四つん這いでその場を離れようとする2人の男たち。


「あ、忘れていた!」


 そうユートは大きな声を上げた。

 男たちは体をビクッとさせて動きを止める。

 恐怖心から冷汗がドドドっと出てきて滴り落ちた。

 ユートはポンポンと両手を叩いてから、手のひらを2人の男に向けた。

 そこから淡い光の玉が現れて、男たちの方に飛んでいき弾けた。


「ほわわわ~」

「へへえええ~」


 惚けたように口を開けて、そのまま夢遊病者のようにふらふらと立ち上がり、その場を離れていく2人。


「お、おい……お前、一体、あいつらに何をしたんだよ?」


 ルーシーはそうユートに聞いた。ユートはにっこりと笑顔を向けた。


「ああ、ちょっと、魔法で記憶を消しただけですよ。直前の記憶をね。でも、魔力の注入加減が分からないのです。あれ、少し多く記憶を失わせたかもしれないですね」

「あ、いや……」


 ルーシーは心の中で突っ込んだ。


(ちょっとじゃないよね。あれ、魔力入れ過ぎて大人の記憶全部飛ばしたよね。完全に子どもレベルだったよね!)


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