追放された無能、極めた剣術スキルが「剣神」に進化した。魔法も時間も何でも斬る無敵スキルで邪神を斬って救った皇女に溺愛される。破滅しそうだから今さら戻ってこいと言われても遅い
「やった!」
ついに俺のスキルが進化して「剣神」になった。
「何でも斬れる」という説明はさすがに大げさだろうけど、これで戦力になれる。
最近は足手まといになっちゃって申し訳なかったし、早めにチームの仲間に報告しに行こう。
みんなが泊まってる宿に行くと、【黒いグリフォン】リーダーのサイモンがこっちを見る。
「ちょうどよかった、エディ。お前はもうクビな」
「えっ? 何で?」
これからというタイミングでいきなり言われたので、思わずきょとんとした。
「何でってお前、もう完全に足手まといだろ。迷惑だからやめてくれ」
と言ってサイモンは俺の荷物を床に放り出す。
「私物はまとめてあるからな。元気でやってくれ」
せせら笑いながら彼は言う。
「せっかくこれから役に立てそうだったのに」
「うぜえ、消えろ!」
粘ろうとしたが、サイモンはまったく取り合ってくれなかった。
ダメだな、これ。
彼とはつき合いがけっこう長いから、話を聞くつもりがないことを理解する。
誰も何も言わないので、みんな俺はもういらないって判断したのか。
大きな黒いリュックを拾ってとぼとぼと宿をあとにする。
「だっせえ!」
アーチャーのライが俺を嘲笑する声が聞こえた。
その日は落ち込んでしまって、何もする気が起こらない。
町の壁に背をあずけて座ってうずくまって何もせずぼーっとする。
日が暮れてきたけど、俺には帰るところがない。
宿代はまだ残っているけど、今からさがそうという気になれない。
「あ、見つけました」
ホッとした様子の聞き覚えのある声に、思わず視線を向けると元チームメイトのセイスがやってくる。
セイスは心優しい女性神官という印象だったので、さっきかばってくれなかったのが意外過ぎた。
だから彼女が来たからホッとするということにはならない。
「何の用だい?」
まさかサイモンにとりなしてくれたわけじゃないだろう。
「私もチームもやめたんです」
セイスはそう言って微笑んだので、思わずぎょっとする。
「え、何で?」
セイスはすごい神官だ。
おまけに美人だし、性格もいいので人気が高い。
俺がサイモンなら絶対手放したくない女性だ。
「だってあなたに対する扱いが許せなかったので」
彼女は笑みを消して目を伏せる。
「いっしょにがんばってきたチームとして、ひどいと思ったのです。だからやめました」
「あ、うん」
俺はちょっと気おされてしまった。
そう言えば彼女は芯が強いというか、頑固なところがあるんだった。
「今日の予定は決まっていますか?」
セイスは俺に微笑みかけてくる。
いまはこの子と会話したくないという気持ちは、吹き飛んでいた。
「何も決めてないよ」
と素直に答える。
「じゃあ教会に来ない? わたしと一緒だと泊めてもらえるはずだから」
とセイスは提案する。
行くあてがなかったので、お言葉に甘えることにしよう。
道すがら気になっていたので彼女に聞く。
「もしかして何も言わなかったのは、やめる気でいたから?」
本来の彼女ならかばってくれただろうと思ったのだ。
「ええ。あなたが来る前にサイモンが通達してきてね。そのときわたしとミュレイは反対したのよ」
セイスはすんなり教えてくれる。
「ミュレイも?」
赤髪の気の強いあの子もそう言えばだんまりだった。
もともと俺と仲がよかったわけじゃないから、特に違和感はなかったんだが。
「あの子もやめるかもしれないわ」
なんてセイスに言われて驚く。
ミュレイは優秀なレンジャーだし、速さをいかした攻撃を得意としている。
セイスほどじゃないかもしれないけど、新しい仲間を探すのには困らないだろう。
「ところでサイモンに何を言おうとしていたの? 何かを報告したかったんじゃない?」
とセイスに聞かれる。
気にかけてくれていたのか。
「そうだな。実はスキルが進化してね、ようやく役に立てるかもって思ったんだよ」
その先にサイモンのあの発言だった。
「そうなんだ! おめでとう!」
セイスは喜んでくれた。
「ありがとう」
具体的にどういうものか言おうとしたら、教会に到着する。
それはいいのだが、そこにはミュレイが立っていた。
「やっぱりセイスといたわね」
じろりとこっちを見たあと、彼女は鼻を鳴らす。
「ミュレイも心配していたのよ」
と小声でセイスがささやいてくる。
甘い感じの匂いがしてドキドキした。
同時にミュレイな意外な一面も知る。
「ちょっとセイス、余計なことを言わないの」
ミュレイはあせったようにセイスに抗議した。
何だかちょっと可愛い気がしてきて、まじまじと彼女を見つめる。
「な、何よ!? どうせ行くあてがないあんたはセイスに回収されるしかないと思っていたとか、そんなことないんだからね!?」
何を必死に言い訳してるんだろうと正直に思う。
ただ、そのまま聞くのもまずい予感がしたので、質問をする。
「もしかしてミュレイもチームをやめたのか?」
「ええ。あんたが心配だったからじゃなくて、がんばってる仲間を問答無用で切り捨てる、サイモンが気に入らなかったからよ」
とミュレイは言った。
「あんたがただの寄生やろうなら捨ててもいいけど、チームの役に立とうとずっとがんばってたじゃない?」
彼女は目をそらしながら話す。
気のせいじゃなかったら両頬が赤くなっている。
見ててくれたのか……。
「ありがとう」
「ふん」
礼を言った俺に対して彼女はツーンとした反応をする。
いつものミュレイだったが、いまはとても可愛く見えた。
教会の神父さんの厚意で俺とセイスは泊めてもらうことになったんだが、なぜかミュレイも一緒だった。
一緒にご飯の準備をして、子どもたちの面倒を見て、そうじをして、ご飯を食べて洗い物をはじめたところで聞く。
「何でミュレイも泊まるんだ?」
ミュレイは稼ぎもいいし、ひとりでも何とかなるだろう。
「あんたには関係ないでしょう」
つーんとした態度で答えられ、正直困惑する。
隠すことじゃないと思うんだが。
彼女が自分の分を終えて立ち去ると、笑いをかみ殺したセイスが寄ってくる。
「単にあなたが心配だから、もしものときにフォローするためにいてくれるんだと思いますよ。あの子は素直じゃないだけで、優しい子だから」
「なるほど」
あのつんつんした態度からはとても想像できないけど、彼女の説明で納得できた。
同時に恥ずかしさとうれしさがこみあげてくる。
「セイスも、だよね」
彼女だって教会の世話になる必要はないし、わざわざ追い出された俺を探しに来てくれたのだ。
ついつい聞いた俺に対して彼女は微笑みを返しただけだった。
「いつか、恩返しをしたいな」
セイスとミュレイ。
俺を心配し寄り添おうとしてくれた気持ちがありがたい。
「気にしなくてもいいですよ。仲間なんですから」
「仲間、なのかな?」
俺は【黒いグリフォン】をクビになり、セイスとミュレイもやめた。
チームはバラバラになったとは言えないものの、半壊状態だ。
「チームはあくまでもきっかけに過ぎないと思うのです。大切なのは人と人のつながりではないですか?」
優しくセイスに言われてこくりと首を縦にふる。
それはそうだと思うし、だから彼女がチームをやめたことに納得した。
「明日になったら俺の新しいスキルを、君とミュレイに見せたいな」
「ああ、あなたがお話ししようとしていたことですか」
俺が言うとセイスは理解したとうなずく。
「どんなスキルなのか楽しみにしていますね」
彼女はもう一度微笑んで一礼して立ち去る。
教会の夜は早いからな。
みんなの善意と寄付で運営されているので、夜に灯す光は節約されるのだ。
お世話になっている以上、教会の方針に従って今日はもう寝よう。
サイモンに無情な仕打ちをされたときは心が冷えたが、セイスとミュレイ、教会のみなさんに人の心のあたたかさを与えられた。
俺に用意されたのは使われてない部屋で、毛布に敷布団もあるのは上等だった。
野宿を覚悟したもんな。
スキルを使ってお金を稼げるようになったら、寄付をしに来よう。
野菜と肉のかけらが混ざった雑炊をごちそうになり、改めて神父さんにお礼を述べた。
「困った人々に寄り添うことこそ、我らが神の思し召しです。お気になさらず」
老境の神父さんは優し微笑んだだけだった。
……困って初めて教会のありがたみを知って、ちょっと恥ずかしいな。
「知らないことは恥ではないのですよ、エディさん」
俺の心境を見透かしたように、神父は言う。
頭を下げて教会をあとにすると、すでに出ていたミュレイが大きな木に背中をあずけたまま、こっちを見る。
「あんた、私に見せたいスキルがあるんだって?」
セイスから聞いたんだろうなと思い、黙ってうなずいた。
「どれくらい使えるかわからないから、ミュレイにも判断してもらいたい」
というと彼女はもう一度うなずく。
「だとするならモンスターの間引きかな。弱いモンスターなら、この三人でも何とかなるからね」
ミュレイの言葉にふり向くと青い神官服を着たセイスが微笑んでいる。
「正確に言うとあんたのフォローは可能って意味だけど」
いつものミュレイらしい言い回しになった。
彼女が実は優しい性格だと知ったので、これはもしかして「無理する必要ない」という気づかいなのか、と思う。
わかりづらいなと苦笑しながら答える。
「うん、心配してくれてありがとう」
俺の言葉を聞いたミュレイはぎょっとして、頬を赤らめて横を向く。
「ふ、ふん。あんたなんて心配していないわよ」
説得力はまったくなかった。
思わず笑ったら、じろっとにらまれる。
「さあ、行くわよ!」
ごまかす気満々なんだろうけど、ごまかされておこうと思った。
町の外に出る。
モンスターを間引いて素材を持ち帰るだけなら、ギルドに寄る必要がないもんな。
街の外に出ると見晴らしがいい平野が広がっている。
守るのに向いていない地形だからか、街の城壁は高めだ。
モンスターを探して誰もいないほうへ移動すると、ストーンスネークが出てくる。
「ストーンスネークよ。いける?」
とミュレイが聞く。
ストーンスネークは名前の通り、石のように固い皮膚が特徴だ。
「やってみるよ」
【斬撃】という技を発動させて、見えない刃をストーンスネークに飛ばす。
いままでのスキルだったら硬い皮膚にはじかれ、サイモンに怒鳴られるところだ。
ところが、ストーンスネークの首から上が真っ二つになり、さらに後ろにあった大きな木も真っ二つになってしまう。
「……すごい」
「完全に別人ね」
セイスは驚き、ミュレイは褒めてくれた。
俺も自分の技の威力の変わりようが信じられない。
「劇的に強くなったじゃない」
ミュレイは笑顔で俺の左肩をポンと叩く。
「おめでとうございます」
セイスは笑顔で祝福してくれる。
「ありがとう。まだどれだけ強くなったかわからないけどね」
うれしい気持ちはもちろんあるんだけど、浮かれるにはまだちょっと早い。
そう言うとミュレイがうなずいた。
「じゃあクエストを受けましょ。ストーンスネークはしょせんEランクだからね」
物理攻撃には強いが、魔法攻撃なら簡単に倒せる。
だからストーンスネークはEランク、下から二番目の評価なのだ。
「あの一撃を見る限り、Cランクも余裕そうね。この街から行ける距離にいるCランクモンスターと言えば、森のビッグボアかしら」
とミュレイが言う。
「森なら急げば一拍で往復できますし、三人でも何とかなりますね」
とセイスが賛成する。
「いや、さすがに森に手ぶらは無理じゃないか」
俺がためらうと、ミュレイは背負っていた荷物を指さす。
「最低限の水はあるわよ。食料は森で調達すればいいんだから、問題ないでしょ」
「それもそうか」
俺は納得する。
ひとりだったら厳しいが、レンジャーのミュレイとヒーラーのセイスがいっしょなら最悪逃げるくらいできそうだ。
【黒いグリフォン】はもともとBランクのチームだった。
ふたりともビッグボア相手だとひるむ様子はないのはさすがだろう。
「善は急げって言うし、さあ行くわよ」
とミュレイが言う。
「相変わらずせっかちだな。この場合は正しいと思うけど」
と言いながら俺は彼女のあとに続き、セイスは苦笑しながらついてくる。
三人だけで森に行くのは本来危険だが、それはレンジャーのミュレイがいなければの話だ。
彼女は道を調べ、森の状態を観察し、通りやすい道を選んでくれる。
ついでに食べられる野草や木の実も発見してくれ、三人で集めていく。
「……意外」
ミュレイは不意に立ち止まって言った。
「ビッグボアはもっと奥にいると思ってた」
そして彼女は視線を木の奥に向ける。
大きな足音とともに小山ほどのサイズのビッグボアが姿を見せた。
灰色の毛皮に赤い瞳は威圧感がある。
俺たちを標的だと認定したのか、低くうなった。
【斬撃】を上から下に斬るように放ってみる。
ビッグボアの体はあっさり左右真っ二つに切り裂かれ、赤い血しぶきが舞う。
「一撃……」
ミュレイが目を丸くする。
「ビッグボアを一撃で倒せるって、すくなくともBランクじゃないと」
セイスの言うことはもっともだ。
俺はすでにひとりでBランクをやれるほどの力を手に入れたらしい。