3.悪役の捨て台詞
結局それ以降、グウィンと絡むことはなかった。
けれど学園の学期初日、その日は唐突にやってきた。
「こ、これから学園の教師としてグウィン・ハフネス様が就任することになりました。」
((・・・・・・えっっ!?))
恐らく全生徒が思ったであろう思考だ。
ミアも「は?」という顔になって驚いた。
(あの教養のなさそうな男が・・・?)
そしてピタリと固まり合点がいく。
乙女ゲームの世界だとわかってからは、ほとんど前世の記憶を振り返ってはいなかったがこの学園の後期初日に悪役キャラであるグウィン侯爵が教師として就任するルートがあった。
確かヒロインが、侯爵の年の離れた弟の騎士ルートに入ったらだっけ?
それに嫉妬したグウィンは権力を使って、学園の教師になる。
それでことある事にヒロインに接触するのだ。
(・・・ようはロリコンなのでは。)
この世界では、そうではないけれど前世の記憶では17歳のミアたちに手を出そうとする25歳の男性。
うん。ロリコンだ。(ちなみに本物のロリコンは、もう少し小さい子限定のイエスロリータノータッチだろうけれど)
生徒の一人が聞いた。
──担当科目はどこですか?
「・・・ここの副担任。そして数学と魔学の授業を専攻してくださる。」
みんな、声には出さないけれど、うげぇと思っただろう。
このクラスは、数学と魔学のどちらか一つは必ず履修している生徒が多いのだ。
ちなみにミアは両方とも履修しているため、表情が今日一曇った。
「ま、まあ頑張れ!」
先生がグッと拳を握りしめて応援したら、ブーイングが飛び交った。
そんなSHRの途中で、嵐はやってきた。
「よう諸君。これからここの副担任になるグウィン・ハフネスだ。」
ガラリと扉を開け、ニヤリと笑みを浮かべながらズカズカと入ってくる男。
みんな息を飲んで、グウィンを見つめている。
「グウィンこう・・・先生。ちょうど貴方のお話をしていたところです。」
「ん?なるほどぉ。んじゃ、詳しいことはわかってるって言うことだな?じゃあ俺は戻るんで。」
予想以上にすぐ去っていくようで、ホッとする生徒一同。しかしミアは突っ込みたい。おい、教師がそれでいいのかと。
だがその後すぐに、ニヤニヤしながら振り返って言った。
「ああ、そうそう。ミア・ウィンター昼休み、あとで生徒指導室に来いよ。」
就任したばかりのグウィン侯爵に、伯爵令嬢のミア・ウィンターが呼び出される。
それがどう言った理由なのか、周りの生徒は察した。
「・・・?」
周りの異様な目に気がついたミアは、首を傾げてグウィンを見つめ返した。
けれどグウィンはニヤリと笑うだけで、何も言わず教室を後にした。
「お呼びでしょうか?」
貴重な昼休みを削って、ミアは生徒指導室へやってきた。
「来たか。前言ったこと、俺が実行しないとでも思っていたか?」
「はい?」
ポカンと口を開けて、返事をする。
疑問符がついているというのに、それを肯定と勘違いしたグウィンは、満足そうに頷いた。
「うんうん。そりゃそうだろうな。音沙汰がなくなって一ヶ月以上は経ったからな?」
生徒指導室にあるソファに座っているミアに歩み寄る。
そうして、ぎしりと音をならしソファに膝を乗せたグウィンはミアに覆いかぶさった。
何をされているのか分からないミアは、手を膝において、座った形のままグウィンを見つめる。
「・・・」
「・・・」
沈黙。
「侯爵は、何をしたいんです?」
「や・・・うん。」
何がしたいんだろうな・・・と小さく呟いたのを見て、この人は馬鹿なのだろうかと目を細める。
そして、考えに考えてやっと近いようで遠いグウィンの目的に気がついた。
「・・・あ、また脅しですか?
女性と男性の体格差は歴然としてます。ましてや侯爵はガッチリとした体系なのです。それなのに私をまた追い込むとは・・・」
ズッ・・・と拳を握り、ミアを跨いで動けないようにしているグウィン侯爵の足の間に狙いを定める。
「えっちょ。」
「ここ、使い物にならなくなりたいのですか?」
温度の感じられない笑顔で問いかけられ、サーッと血の気の引いたグウィンは、ものすごい勢いでその場から飛び退いた。
「おっ、お前・・・!誰にこんなことをしてると思ってる!?」
「侯爵様ですね。」
「ここには誰もいない!俺の股間が使い物にならなくなったら高い声で訴えて、お前を潰してやるぞ!」
「侯爵様の噂と実績を考えると無理なものでは・・・?あと潰されるのは私ではなく侯爵の大切な所ですよ?守らないと。天下の女たらしが格好悪いですね。」
心底不思議そうに首を傾げ、考える姿のミアを見てグウィンは歯ぎしりをする。
「クソっ!覚えてろ!」
侯爵の大切なあそこも怪力のミアによって使い物にならなくなりますね。皆様もこのような女性にはお気をつけください。うじゃうじゃいますので。