そこは空中
「のおおおおおお」
「おおお……」
悪魔によってこの世界へと送られたボクらは、現在地面へと向かって加速していた。言い方を変えれば、落下しているといえよう。このままでは確実に死ぬ。せめてもの救いは地面と激突するには、後数十秒ほどかかる高さに放り出されたことか。
この僅かな時間を有効活用して、なんとか助かる方法考えなくては。何かいい方法は……。うん、ないね、これは詰みましたわ。死にはしないとはなんだったのか。あの悪魔、死んだら呪ってやる。
『聞こえますか、聞こえますか』
「この声は!」
『そうです。あなた達の神様です』
落下から助かる方法が思いつかず、現実逃避気味にボクらを空中に放り出した悪魔に、どんな呪いをかけてやろうかと考えていたところ、その本人の声が頭に直接響いてきた。
というかこの悪魔、今自分のことを神様とか言ったか?あの見た目で神様は無理があるだろう。いや、もしかすると本人が言うように本当に神様なのかも知れ無い。なにせボク達を蘇らせたしね。
でも神様ならボク達をこんな空中にいきなり放り出すだろうか。普通は安全を考えて地上に出現させてくれるんじゃ無いのか。そう考えるとやっぱりこんな空中に放り出したあいつは、やっぱり悪魔なのでは。
『時間がありませんので、手短に説明します。あなた達の人体を再構築する際に、色々と便利な機能を追加しておきました』
「便利な機能?」
『そうです。便利な機能、魔法を使えるようにしておきました』
今この悪魔、さらっととんでもないことを言ったな。いやそれよりも、魔法を使えるようにしておいただって?それならこの窮地を脱出することができるかも知れない。
『今からその使い方を伝えます。といっても簡単なものですが。海道君は【月の鎧】、大森君は【月の衣】と唱えてみてください』
そんな簡単なことで魔法が使えちゃっていいのだろうか。もっとこう、長ったらしい詠唱とかあるべきなのでは。しかしまあこの空中落下の中で、それだけで命が助かるのであれば、この際細かいことはいいか。
「【月の鎧】!」
「【月の衣】!」
言われた通り教わった言葉を唱えると、体の中から何かがスッと抜けるような感じがした。それと同時に体が少し、光っていることに気づいた。その光は月光を薄くしたような光で、ボクを首から布で包み込むような形で光っていた。
ふと気になって海道君の方を見てみると、やはり彼も光に覆われていた。しかしボクと違って頭から足先まで密着するように、体全体が光っていた。
『どうやら両方とも無事に発動できたみたいだねぇ』
「この光を纏っていれば、このまま落ちても大丈夫なのか?」
『一応ね』
「一応?それはどう言う」
『海道君のは効果的に物理防御を上げるやつなんだけど、大森君のは魔法防御を上げるやつなんだよね』
「なんだって!?」
おいおい、それじゃあボクは死んじゃうじゃないか。助かるかもと思わせといて、実は無理でしたってか。やはりこいつは神様なんかじゃなくて、まじもんの悪魔だったのだ。
『まぁ、蘇生ついでに肉体も強化しといたし、その魔法も微々たるものだけど、物理防御が上昇するから。多分大丈夫』
「多分だって!?お、お前冗談じゃないぞ。ボクはまだ死にたくない!」
『ははははは、ほらもう直ぐ地上だよ。それじゃ、無事に地上に降りれたらまた連絡するね』
「あ、ちょ。おい!」
あの野郎切りやがった。……仕方がない、こうなったら自分でなんとかするしかないか。とはいえ今からできることなんて、ほとんどないけどね。
「なぁ、おい大丈夫か」
着地地点の様子を見ながら、生き残るプランを考えていると、海道君が話しかけてきた。【月の鎧】は【月の衣】と違って物理防御を上げるようなので、恐らく海道君は無事に着地できるだろう。なので海道君は自分の心配ではなく、ボクの心配をしてくれているようだ。
「まぁできる限りの事はやりますよ」
「そうか。……死なないでくれよ」
ここの会話だけ切り取ったら、最終決戦前の会話見たいだな。でもこう言う会話をすると、決まっていい終わり方はしないだよな。やってくれたね海道君。
そうこうやりとりをしていると、遂にもう間もなく地上というところまで落下していた。ボクもいよいよ覚悟を決めて、落下の為の準備をする。
落下地点は木々が生い茂っている森林。恐らくボク達は木に突っ込むかたちで、落ちていくだろう。そうすると、まずやらなくてはならないのは、木に突き刺さって死ぬことを避けることである。
ボク達は結構な高さから落下させられて、重力によってすこぶる加速している。この状態でちょっと尖ったものにぶつかろうものなら、物体が体を貫通していき、ボクはお陀仏である。だから木の先端は避けなくてはならない。
そして次に行わなくてはいけないのは、落下速度の減速だ。まず今のまま地面とぶつかれば間違いなくボクは死ぬ。魔法である程度は強化されているらしいが、それも微々たるもの。だからなんとかして減速しなくてはならない。
だが幸いなことにここは森林。上手く木を利用すればクッションの役割を果たしてくれて、減速することができるかもしれない。漫画でそうやってるのみたしね。
(よし、やるぞ)
ボクが助かるプランは完成した。上手くいくかは分からないが、上手くいくようにやるしかない。ボクは覚悟を決めて、落下する森林を見つめた。