いざ異世界へ
「彼女達を、助ける?」
『おやおや、海道君。フリーズしていたようだけど、もう治ったのかい?』
彼女達を助けて欲しい。悪魔からその言葉が出ると同時に、フリーズしていた海堂くんがスクリーンから目を離し、悪魔の方を向いてそう呟いた。
「彼女達を……、紫陽花達を助けられるのか!?」
いつもの海道君らしい冷静さは何処へやら、彼女達を助けられる、という情報がもっと欲しいのか、悪魔の方へと詰め寄っていく。
『おお、近いよ海道君。そんなに焦らなくても、今教えてあげるから』
詰め寄られた悪魔は困ったような口調で話しているが、相変わらず楽しそうにしている。そして笑顔のまままた指を鳴らし、スクリーンを消した。
『君達を蘇らせたのはさっきも言った通りで、彼女達を救って欲しいから。ここまではいいね?』
「……あぁ」
「まぁ、はい」
彼女達を救うためにボク達を蘇らせた。そう蘇らせた本人が言っているのだから、恐らくこれは間違いないだろう。しかしここでさらなる疑問は生じる。人を二人も簡単に蘇らせられる存在が、世界を超えて人を呼び出せる存在が、果たして他者の手を必要とするのか。
人体蘇生。これはどのフィクションでも禁忌の技術だったり、それ相応の代償が必要になったりする。ましてやそれは同じ世界の中で行われることがほとんどであり、世界を超えての蘇生なんて魔法の世界であったとしても、人間には出来ない芸当だろう。
そんなとてつもなく凄いことを、目の前の悪魔はやってみせている。そんな存在が何故、彼女達を救うためにボク達を蘇らせたのか。本人が直接行った方が早いのではないのだろうか。
自分の中で渦巻く疑問、その疑問に答えるかのように、悪魔は話を続ける。
『次に何故、私がわざわざ君達を蘇生したのか。それはね、私が直接この世界に干渉できないからなのだよ』
「世界に干渉できない?」
『そう』
世界に干渉できない。これまた大きな理由が出てきたね。天才のボクでもこれは想定していなかったなぁ。いや、ボクもまだまだ未熟だね。
『私は確かに力はあるけど、まぁ色々制約があってね』
「それで、俺たちを蘇らせて、間接的に干渉しようってわけか」
『その通り。……で、どう?協力してくれる?』
悪魔は両手を合わせて、真っ直ぐな瞳でボク達を見て、お願いをしてきた。しかしこれは、お願いを受ける受けないの自由はないだろう。悪魔はボク達を彼女達を救出するために、蘇生したのだから。
「あぁ、勿論だ。紫陽花達を俺は放って置けない」
『さっすが!それでこそハーレムを形成する男だわ』
海道君の回答に迷いはない。まぁ彼と彼女達は小さい頃からの付き合いらしいので、彼は彼女達を救うことに賛成だろから、悪魔に協力するの当然だろうね。
『それで、大森君はどうする?』
さて、では特に彼女達をと仲の良くないボクはどだしようか。まぁ助ける義理というか、理由はないんだが……。先程も言った通り、ボクに自由はないだろうからね。断った恐らく消されるだろう。
「……ボクも、協力します」
『おぉ、そうかい。……よかったよ、前向きな返答で』
ボクの返答を受けて、悪魔はやはり笑顔でそう返した。しかしなんか微妙な間があったような気がするのだが。この悪魔、人が断れ無いことをわかってて、協力するかどうか聞いたな。中々いい性格してるじゃないか。まぁ悪魔だからそれも普通か。
「それで、俺らはなにをやればいいんだ」
悪魔とボクの話が終わったタイミングで、海道君が悪魔に具体的な救出方法を聞いてきた。先程のスクリーンを見た時よりは落ち着いているが、まだ少し焦っているようだ。そんな海道君の様子を見てみも、以前悪魔は笑顔で彼の質問に答えた。
『彼女達は神の生贄になるべくして、この異世界に呼ばれた。そして彼女達を呼んだ者は、厄介なことに一人では無く複数人いる。そして彼女達の召喚場所もバラバラでね、それに拘束されている場所が何処も結構面倒でね』
「それでもあんたに協力すれば、紫陽花達を助けられるんだろう?」
『おぉやる気満々だね』
ボクはやる気が下がっていってますよ。元々死にたくないから協力しているようなものだし、そこに心底面倒くさそうな情報とくれば、モチベーションはゼロですよ。
まぁ、一度協力すると言った以上は、最後まで仕事は果たしますがね。しかしこれは家に帰るのは大変そうだ。
『じゃ、詳しい話しはまた現地に行ってからってことで』
そう言って悪魔は指をまた鳴らした。するとボク達の足元に、青黒い渦のようなものが出現した。これ入って大丈夫系のやつかな?そう悪魔に聞こうと思ったが、なにせ足元に渦が出現したわけだから、当然足場を失った人間は重力に従って下に落ちるわけで。
「うおおおおお!?」
『ははははは!死にはしないから安心しなー』
渦に中に落ちていく中、上から悪魔の声が聞こえる。せめて今から送るよ、みたいな掛け声は欲しかった。ちくしょう、やっぱり悪魔か。もし自分の世界に帰る前にもう一度あいつに会えたなら、一発何かやってやろう。そう考えながら、青黒い渦の中を落ちていると、急に視界の色が変わった。
大きな黄色い球体が目に入ってきた。月だ。
「おう、月がきれい」
「……そうだな」
月の感想を述べていると、声がすぐ隣から聞こえてきたので、そちらを振り向いてみると、そこに海道君がいた。どうやら彼も無事に渦を降りることができたようだ。
さて、この綺麗な月をいつまでも見ていたいが、実はそうもいかない。何故ならば、ボク達はいま
非常に不味い状況に置かれているからだ。このままいくと、死ぬ。