助けた理由
目が覚めたら悪魔がいて、そいつはボクと海道君を生き返らせた命の恩人?恩悪魔?だった。この場合どういう呼び方をすればいいんだろうか。……まぁともかくボク達を生き返らせたらしい。
そして今その悪魔は蘇ったボク達に、何故ボク達が死んでしまったのか、他のクラスメイトはどうなったのか、これからどうすればいいのかを今節丁寧に説明してくれていた。
しかしいざ説明を聞いてみれば、ちょっと凡人では理解できないことが次々に明らかになった。まずボク達の死因は土砂崩れに巻き込まれたことだけど、その土砂崩れは仕組まれたもので、それを引き起こしたのはボク達とは異なる世界の人達であること。
何故そんなことをしたかというと、それは異なる世界の人々が、神々の降臨のために必要な生贄なり触媒なりを欲しっていたからであること。
では何故殺す必要があったかというと、世界を越えるためには肉体は邪魔ならしく、一度殺して魂だけの存在にする必要があり、何故ボク達がその生贄計画に引っかかってしまったかというと、どうやらボク達の中に、異世界の神様の生贄に相応しい体質を持つものが数人いたかららしい。
まぁつまり要約するとボク達は異界の人々の生贄計画によって、死んだということらしい。ふむ、ちょっと流石のボクでも理解できないね。
『ということなんだけど、ここまでは理解できたかな?』
「……まぁ、おおよそ理解したよ」
おお、流石海道君。ハーレムグループを形成していただけのことはあるね。きっとその理解力で、彼女達を上手くまとめていたんだろうねぇ。
『大森君はどうかな?』
「まぁ、ボクも少しは」
嘘だけどね。本当はほとんど理解できてないし、まだ全然飲み込めてないけど、ここでボクが会話のペースを乱すのも悪いしね。ここはあえてわかった風でいきましょう。
『うーん、理解が早くて助かるよ。流石は私が選んだ人間だけあるねぇ。ハハハハハ」
「ははははは」
すみませんねぇ悪魔さん。本当はほとんど理解できてないんですよ。
『じゃ、次に行こう。えーっと次は……。あぁ!そうそう、他の人たちはどうなったか、だね』
悪魔はボク達の理解が早いのが嬉しいのか、上機嫌な様子で次の説明へと移っていった。しかし他の人達がどうなった、か。そういえば蘇ってからは海道君にしか会ってないな。他クラスメイトはどうなったんだろうか。
『他の人達、つまりあのバスに乗っていた君達以外の人がどうなったか、ということだけど。数人を除いて、みんな死にました」
「……死んだ?」
悪魔から口にされた真実は残酷なものだった。ボク達以外のクラスメイト、そのほとんどはあの事故で死亡したらしい。……別に仲がいい人がいたわけではないが、仲が悪かった人達でもなかったので、なんというかやるせない。
「……待て、今貴方は数人を除く、といったか?」
ここで悪魔の言葉を受けて、海道君が何かに気づいたらしく声を漏らした。それを受けて悪魔は元から笑顔だった顔を、さらに笑顔にした。
『そう、肝心なのはそこ。数人は生きている……、というか一度死んで蘇ったのです』
なんと、どうやらボク達のように死んで蘇った人達がいるらしい。いや、よかった。割とどうでもいい人達だけど、死なれるよりは生きていてもらっていた方がいいからね。気持ち的に。
しかしここで一つの疑問が生じた。ボク達と同じように蘇ったのなら、何故ここにその蘇った人達はいないのだろうか。どこか別の場所で蘇生した?しかし海道君とボクは同じ場所で蘇生させられている。ならわざわざボク達と分ける理由が、なにかあるのか。
そういえばボク達は元々、異世界の神の生贄になるために殺された。ということは異世界の人達はボク達が必要なはず。なら蘇生させたのは異世界の人達か。
待てよ。そういえば悪魔は蘇ったようです、と言っていた。これは自分が蘇らせていない言い方であり、それはつまりボク達以外の蘇生者は、別の誰かに蘇生させられた、ということか。
(……だからなんなんだ)
しかしこれがわかったところで、別にどうもならいだろう。死んだけど蘇生させられた、つまり生きている。これでこの話は終わりではないのか。チラッと海道君の方を向いて見たが、どうやら海道君もボクと同じ考えに至ったらしく、納得したがそれがどうしたのか、といった顔をしている。
しかし悪魔の方を見てみると、相変わらず上機嫌そうな笑顔をしており、ボク達が一応の答え至ったことに気づくと、さらなる言葉を放った。
『ふふ、どうやら二人とも同じ答えになったようだね。まぁ答えは一つしかないから、そうなるんだけど』
「……それで、蘇った他の人達はどこにいるんですか?」
『あぁ、それはね』
ボクの質問に対して、悪魔は指を鳴らして答えた。するとボク達と悪魔の間にスクリーンのようなものが現れ、そこにはなんと海道君のハーレムグループの面子が映し出されていた。
「な、なんだこれは!!」
その映像を見て、海道君は声を荒げた。まぁ無理もない。映し出された面々はみなボロボロの傷だらけ、おまけに鎖か何かの拘束具で囚われている。さして彼女らに興味のないボクでも、中々にくる映像である。ボク達と随分蘇生後の待遇が違くないかい?
『……さっきの神の生贄になる為に殺された、といったことは覚えているかな?』
あまりの驚きで固まっている海道君を横目に、悪魔は再び話し始めた。海道君は映像を見て固まってしまっているので、ここボクが答えるしか無さそうだね。
「……ええ。確かそんなことを言っていましたね」
ボク達は神の生贄になる為、異世界にその身を呼ぶ為に殺された。確かにこの悪魔はそういっていたが何故今それを……。あぁそうか、そういうことか。今映し出されている彼女達は、その神への生贄か。
だが異世界の神の生贄される為に蘇生したというならというのなら、何故ボク達は彼女達のように拘束されていないんだ?
『ふふ、そうです大森君。彼女達は、異なる世界の人々が狙った、神への生贄。まぁ言い換えれば、君たちが死んだ原因ですね』
「死んだ原因……」
『そう、死んだ原因。彼女達が居なければ、本来君達は今頃、自然体験学習とやらを普通に行っていたでしょうね』
彼女達がいたからボク達は死んだ。つまり彼女達がいなければ、ボク達は死ななかったわけか。……まてよ、彼女達がいなければ死ななかった。ということは、ボク達は異世界の人々の狙いではない、ということになる。ではボク達は殺されたあと、何故蘇生させられているんだ?必要のない人間の筈なのに。
一つの矛盾。不要な者を蘇らせたという事実。その疑問の答えを知っているのは、恐らくこの自分に目の前にいる悪魔だけだろう。そう大森思った大森は、思考するために下げていた目線を、再び悪魔の方へと向けた。
『ふふ、そう。君達は本来死ぬはずの人間だった。しかし君達は死ななかった、いや蘇った。それはなぜか、私が助けたら!』
そう、ボク達はこの悪魔によって蘇った。
『では何故私は、君達の命を助けたのだろうか?』
そう、それだ。ボク達を助けた理由。わざわざ死んだ人間を蘇らせた理由。
『それはねぇ……』
それは。
『彼女たちを、助けて欲しいからさ』