プロローグ2
「さぁ早く乗らないと、時間がなくなるぞー」
学校の前の道に横付けされた大型バスに、先生の指示に従うように生徒が吸い込まれていく。ボクもバスの搭乗口で行なっている出席をとり、バスの中の指定の座席へと向かう。
自然体験学習の班決めから数週間がたち、今日はいよいよ当日となった。あれから自然体験学習のことで数回班員で集まることがあったが、流石は海道君のハーレムグループ、ボクに発言権はなかった。まぁ班員の人達はボクに興味がないだけで、悪い人たちでないんだろうけど。
「よっこいしょ」
「見た目と違って、おじさんみたいだな」
「……ボクがおじいさんなら、君もおじいさんになるわけだけど?」
「……最近、腰が痛くてね」
「おやおや」
しかしこのハーレムグループの班に所属して、ひとつだけいいことがあった。それはいま隣の座席にいる海道君と友達とまではいかないが、こうして意味の無いやりとりをするぐらいにの仲になることが出来たことでだ。
実は班員になってから知ったのだが、海道君も友達がいない人間だったのである。いや、正確には彼の周りには彼女達がいるわけだが、男友達というのが居なかったらしい。
そういうわけでまともに会話ができた男子生徒はボクが初めてだったらしく、そういうこともあって彼とボクはこの数週間でそこそこ仲良くなれた。
「なぁ、今日の自然体験学習の焼きそばの具ってなんだろうな?」
「うん?しおりの一番最後に書いてあったでしょ」
「本当か?……本当だ、気づかなかった」
「まぁ小さく書かれているからね」
「これは見辛いし気づかないな」
「おや、もしかして老眼かい?」
「ははは、まさか。……まさか」
座席についてから話が途切れること無く続いていたので、気づいた時にはバスが出発していた。
自然体験学習の場所は自然体験というだけあって、山の中である。そして我らが高校は都心にあるので、片道一時間ぐらいの道のりとなり、そうなるとそこそこの仲の海道君とボクでは会話が長続きせず、道半ばでお互い黙ってしまった。
(話のネタを考えてくればよかったな)
そんなことを思いながら何気なく窓から景色を眺めていると、ふと窓に水滴が付いていることに気付いた。そしてしばらくするとバスの中にいてもわかるくらいの音を立てて、雨が降ってきた。
「……すごい雨だな」
「そうだねぇ」
雨音に耳をすませながら、山に近づいてきた景色を見ていると、海道君が不意に話しかけてきた。
「このままじゃ、体験学習は中止か?」
「うーん、どうだろうね。山の方とこことでは、天気が違うんじゃ無いかな」
「そうか」
ボクの適当な相槌を聞いて、海道君はちょっと安心したように応えた。君、自然体験学習楽しみにしてたもんねぇ。
『ザーーーー』
しかしボクの適当な相槌とは異なり、バスが山に入っても雨は止むどころかむしろその勢いを増し、バスが走っている崖の下にある川を見てみると、結構な水量になっている。
(これは、中止かな?)
このまま天気では危険だから、恐らく自然体験学習は中止だろう。しかし確か今日の朝の天気予報では、こちらの天気は晴れだった筈なのが……。山の天気は変わりやすいというやつだろうか。
「なぁ、大森。これは駄目なやつじゃ無いか?」
「あぁ、どうやらそのよう……」
海道君からの残念そうな声に反応しようとした時、けたたましい音ともに横から衝撃を受け、視界が不意にズレ、そして暗転した。
「うん……がっ!?うぅ……」
眠っていたのか、閉じていた目を開けると何故か自分は硬い石畳の上に横たわっていた。それになぜか全身が痛い。ものすごく痛い。
(……どうなっている。ここはどこだ。なぜボクは全身が痛い)
痛みのある体を起こして辺りを見回してみるが、目を開けているはずなのになぜかっきりと見ることが出来ない。何かぼやけているような、そんな感じがする。だがボヤけていても景色の色ぐらいはわかる。その背景の色からするに、少なくとも
バスの中でなさそうだ。
『おや、目覚めたようだね』
まどろみと痛みの中、辺を見回していると自分の後ろから声が聞こえてきた。反射的に声のした方を向いてみると、目が霞んでいてよくわからないが、そこには人らしき存在が立っていた。
(……誰だろうか)
『おやおや、私を見たらもっと驚いてもいいと思うのだがね?……あぁ、そうか。君達はダメージを負っていたんだっけ。それなら、ホイ』
人らしき存在は、一人で質問して一人で納得しようなやりとりをし、ボクに向かって手のひらを向けた。そしてそにの手のひらから光り輝く粒子のような物放出され、それがボクに当たった。
すると身体中の痛みが取れる感覚がし、ボヤけていた目も鮮明に見えるようになった。そしてボクはその鮮明になった目で人のような者を見てしまった。
『やぁ、おはよう』
頭には二つの黒い角、髪は黒紫、瞳は真紅、背中には六対十二枚の黒い翼、そしてニョロニョロ動く尻尾。
それは紛れもなく、悪魔であった。