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【26:伏見京香と一緒に帰る】

 四人でたっぷり三時間、歌いに歌った。

 カラオケルームを出ると、あたりは少し薄暗くなってる。


 カラオケルームから最寄の駅まで、四人で歩いた。



 駅に着くと、嵐山と有栖川は「じゃあまた明日」と言って、改札口をくぐる。


 俺は徒歩通学で、駅を越えてさらに15分くらい歩いた所に自宅があるから、改札口の前で嵐山達を見送った。


 あれ?

 伏見はと言えば……


 改札口の手前で、俺の横に並んで二人に手を振ってる。


 ──ん?

 伏見は電車に乗らないのか?

 確か前にマック行った時には、有栖川と同じ方向の電車に乗って帰ったはずだけど……


「伏見は電車に乗らないのか?」


 横に立つ伏見に訊くと、「ここから歩いて帰る」と、ボソッと言った。


「え? 前の時は電車に乗ったよな」

「ええ。あれは用事があって、そのまま出かけただけよ。家はここから歩いて帰れる所なの」

「ああ、そうなのか。俺と同じだ。俺もここから歩きなんだけど、この前は買い物に出かけたから電車に乗ったんだ」

「そうなの? 奇遇ね」


 伏見はクールながらも、少し驚いた表情を浮かべる。


「伏見の家はどこ?」

「○○町」


 なるほど。○○町だったら途中まで俺と同じ方向だ。そこから違う方向に分かれることになる。


「そっか。じゃあ伏見って○○東中学だったのか?」

「えっ? ええ、そうよ」

「俺は○○西中だよ。隣の学区だったんだな」


 そうなのか。伏見がどこの中学だったかなんて、全然知らなかった。


東雲しののめ君。私の住所を教えたからといって、ストーカーしてウチに来たりしないでね」

「しないよ!」


 伏見は、何を失礼なことを言うんだ。

 そんなこと考えたこともない。


 ──と思いながら伏見を見たら、横でホログラムが叫んでる。


『わーっ、勇介君と、まあまあウチが近いよねー! ぜひぜひウチに、遊びに来て欲しいー!』


 ──どっちなんだよ。

 苦笑いを浮かべるしかない。


「あ、そうだ伏見。途中まで一緒に帰るか?」


 伏見は俺の誘いに、じっと俺の顔を見てる。


 綺麗な二重まぶたに長いまつ毛の綺麗な目。

 改めて見たら、やっぱり伏見って美少女だ。

 

 少しドキリとした。


東雲しののめ君が、どうしてもと言うなら」


 私はどっちでもいいけどっていうふうに、クールに伏見は答えた。

 あれ? あんまり嬉しくはないのかと思ってホログラムを見たら、万歳してる。


『うわーい、うわーい! 勇介君と一緒に帰れるぅーっ!』


 ──だから、どっちなんだよ。

 なんだったら、やっぱりいいやって断るか。その方が面白そうだ。


 ……とも思ったけど。

 

 にこにこして嬉しそうに万歳するホログラム伏見があまりに可愛くて、意地悪するのは申し訳ない気がしてきた。


「そうだな。俺は、どうしても伏見と一緒に帰りたい」

「あっそ。じゃあ一緒に帰ってあげる」


 伏見は極めてクールに言い放ったけど……


 その後横を向いて、俺からそらした顔がニヤけてるのを、俺は見逃してないぞ。


 ホログラム伏見に至ってはさらににやけてて、目尻は下がるわ、口はだらしなく開くわ……


『でへへ……勇介君が、どうしても私と一緒に帰りたいんだって……うへへ、嬉しすぎるー 勇介君と二人っきりで、歩いて帰れる……』


 男がこんなだらしない顔をしてたら気色悪いのひと言しかないだろう。

 けれども伏見のような美少女がするこんな表情は、少しエロさも感じさせる。

 なんと言えばいいのだろう、割と男心に突き刺さる。


 ──とは言うものの、「一緒に帰ってあげる」なんて超高飛車なセリフに、尻尾を振って喜ぶなんてのはちょっと悔しい。


 少し仕返しをしたくなる。


「じゃあ行くぞ、伏見」


 あえて突き放すように言って、俺は先にスタスタと歩き始めた。

「えっ……?」 

 少し焦った伏見の声が背中の方から聞こえて、慌てて小走りでついてくる様子が伝わってきた。

 

 そして同時に、後ろからホログラム伏見の慌てふためいた声が聞こえてくる。


『あーん、勇介君、待ってよー ちょっと偉そうに言っちゃったから、勇介君は怒ってるのかなー!? どーしよー!?』


 しばらくはあせらせてやろう。

 そんな意地悪な考えが頭に浮かび、ちょっと早足で歩き続けた。


 リアル伏見はなにも言わずに、がんばってついて歩く息遣いと足音だけが聞こえてる。

 だけどホログラム伏見は、泣きそうな声を出してる。


『ふぇーん、勇介くーん! 待ってよー! せっかく楽しく一緒に帰れると思ったのにー! 置いてかないでー! 偉そうに言った私が悪うございましたー!』


 あはは、可愛いじゃないか、伏見京香。

 そろそろ優しいところを見せてやるか。


 そう言えば、以前俺が立ち去ろうとして伏見が焦って追いかけてきた時、慌てたコイツはバッタリと倒れたことがあったな。


 伏見は案外おっちょこちょいだから、あまりあせらせるとよくないかも。またコケてしまうとまずい。


 俺は歩くスピードを緩めて、伏見に優しい言葉をかけてあげることにした。『気がつかないで、早く歩きすぎてごめんな』

 ──よし。笑顔で、こう言おう。


 そう思って振り返ると……



「あっ……!」


 伏見はまさにつまずいて、小さな声を上げた。

 上半身が泳ぐようになりながら、前につんのめってる。


 ヤバい!

 コイツ、またぶっ倒れちまう!


「伏見っ!」


 こちらの方に倒れかけてる伏見に、俺は両手を伸ばす。

 伏見も前のめりになりながら、俺の方に向かって両手を伸ばしてきた。


 その動作が、なぜだかまるでスローモーションのように俺の目に映った。

 俺は伏見の両手をつかんで、ぐっと自分の方に引き寄せる。

 伏見は勢い余って、俺の胸に頭から飛び込んできた。


 間一髪──

 伏見は倒れずに済んで、俺の胸に全身でどんとぶつかり、そして俺の胸に顔を埋めた。

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