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【2:伏見京香はきゃーきゃー言う】

 伏見ふしみ 京香きょうか


 肩までの美しい黒髪。

 少しクールな感じの美少女。

 決して巨乳ではないが出るとこは出て、締まるところは締まって、スタイルもいい。


 まとめて言えば──彼女はトップアイドルかよ、っていうくらい可愛い。

 ほとんどの男子にとって、高嶺の花。


 もちろん伏見は、俺にとっても高嶺の花だった。


 ──ついこの前までは。


 だけど俺はある日突然、まるでホログラムのように、他人の本心や本音の態度が見えるようになった。


 だけど伏見がなぜ俺に惚れているのか。

 そして伏見 京香とはいったいどういう女の子なのか。

 それはまだわからない。






「あら、おはよう東雲しののめ君。相変わらず朝から、パッとしない顔をしてるのね」


 登校したら、隣の席の伏見から、昨日と一言一句同じセリフで迎えられた。

 美しい顔をしてるくせに、この毒舌。


 うるせぇよ。

 俺は毎日この顔だ。


 俺はお決まりのようなセリフを心の中で言い返してやった。

 実物の横に立ってるホログラムの伏見は満面の笑みで、かかとを揃えて気をつけの姿勢。

 そして片手を真っ直ぐ上に挙げてる。


『おっほほーい! おはこんばんちわ、勇介くんっ!』


 なんだ、その衝撃的フレンドリーなノリは!?

 思わずずっこけそうになっただろっ!


 いったいなんのキャラの真似なんだ!?

 心の中ではそんなにフレンドリーなのに、なぜに実物はそんなにクールを装いたがる?


 うーん……

 なかなかに調子が狂う。



 席について、ふと隣の席をチラ見した。

 本物の伏見は机に向かって真剣な顔で教科書を読んでるのに、横に立ったホログラム伏見は軽く腕を組んで、首をかしげてる。


『えーっと……今日は全部ツンツンモードで通そうか……それとも昨日に続いて、今日もデレっ子を出す? 今日、デレを出したら二日連続だし、それじゃあデレっ子の大失血サービスになっちゃうなー! そんなに勇介君を喜ばせて、どうしようって言うのよ、京香ちゃん!』


 ──いや、喜ばないから。


 昨日は俺がお前に気を使って、お前のデレ姿に喜んだふりをしただけだから。

 あんまり図に乗らないでくれ。


 確かに君は超可愛い。

 だから本当なら、君のデレ姿を見るのはめちゃくちゃ嬉しいはずだ。

 だけど君の心の中が見えてるから、どうもイマイチきゅんとしないんだよな。


 それと自分のことを自分の名前で呼ばないでくれ。

 なんだかイタイ子に見える。


 もうひとつ言うならば、『大失血サービス』じゃなくて『出血大サービス』な。

 大失血したら、もう死んじゃってるよ伏見さん。




 一時間目は数学だ。

 一学期末テストで学年トップを取った俺が、最も得意とする科目。


 授業を受けてても楽しい。

 ──はずだった。


『きゃー! なんでこんな難しい問題、先生に当てられて勇介君はスラスラ答えられるの!? すごーい!』

『うっわ! この練習問題。難し過ぎて私なんか手も付けられないのに、勇介君はサラサラとシャーペンを走らせてるよー! あったまいいー!』


 いやいや。

 うるさ過ぎて気が散る。


 それに伏見も、もうちょっと授業に集中しないと、自分の成績がヤバいだろ?


 チラッと隣の伏見に目をやった。

 彼女はこっちを向いてた。

 目が合った。


 彼女は慌てて前を向いて、教師をガン見した。


 ちょっと注意してやるか。


「伏見さん……」

「なに? 授業中よ。話しかけないで。授業に集中できないでしょ」


 伏見は教師をガン見したまま、俺を見ようともしないでクールに言い放ちやがった。


『きゃーきゃー! 勇介君が話しかけてきた! ヤバいよヤバい。ドキドキするーー!』


 集中できないのはこっちだ!

 お前のセリフ、そっくりそのまま、投げ返してやろうかっ!?


「あ……ああ。そうだな、悪い。授業に集中することは、極めて大切なことだ。授業に集、中、し、よ、う」


 最後の所を強調してやった。

 これで彼女も、少しは授業に集中するだろう……か?

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