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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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EX:これも終末 Final

 真っ白な人がいた。

 私がいつもお母さんとお父さんに隠れて毎日通っていた森の隠れ家にその人はいた。


 ぼろぼろのズボンにずたずたに引き裂かれた灰色のシャツ。気絶するように眠っていたその人は最初、私は不審者だと思って木の陰でコソコソと様子を窺っていた。

 砂埃にまみれて薄汚れて汚いはずなのに、どこか純白で、その人のことを私は不思議と綺麗だと思ってしまった。


「ああぁ……」

「あ、起きた!」


 フリルのついた水色ワンピースの裾を翻しながら警戒もせず近づく。先ほどまで不審者だと思っていたのは何だったのか。

 ぱたぱたと近づいて顔を覗き込むと、真っ白な人は目を開けた。


「わっ!」


 真っ白な人の瞳に光が灯っていなかった。驚いてしりもちを着いてしまう。


「あ、あぁ」


 真っ白な人は身体を起こして立ち上がる。しかしここは木の根元を切り抜いたようなちょっと背の低い隙間。真っ白な人は頭をぶつけてうつぶせに倒れてしまった。


「わっ! 大丈夫? 頭痛くない?」


 ぶつけた場所をさすってあげると、真っ白な人は私に気付いてゆっくりと顔を上げた。


「あなた、どうしてここにいるの?」

「あ、ああぁ……」


 呻くだけで何も話してくれない。それに真っ白な人と呼ぶにはちょっと味気ない。


「私があなたに名前を付けてあげる!」

「あぁ……」


 なんとなくそのうめき声が返事っぽく聞こえて面白かった。ふふふと笑ってしまう。

 ちゃんと名前を考えてあげないと……どうしよう。


「そうだ! ここに来た一番目のお客さんだから『イチ』、あなたの名前はイチね!」

「あああぁ……」

「で、私の名前が……どうしよう、あなたはあだ名だから私もあだ名を紹介するね……私は『レイ』、ここを見つけたのが私で、一番目よりも先だからレイ。よろしくね!」


 私の名前は別の読み方でレイって読むだけなんだけど、大人の人はそれで分かっちゃうんだって、私にはよく分からないな。


 イチが何やら外に出て、この切り抜かれた木に手をかざすと突然、木全体が強く光り出した。

 そして木は光に包まれたまま大きく形を変え、四角い蔵へと変形した。

 木と同じく黒くて、まるでお化け屋敷のような蔵。

 待ちきれなくて勝手に中に入ってみると、そこには大量の本が置いてあった。蔵の雰囲気に合った古臭い本。一冊手に取って開いてみると、そこには小難しく、子どもの私には理解し難い言葉がずらっと並んでいた。


「うぅん、分からないよ……イチ、これ何?」

「あ……ああ、あぁ」

「分かんないよ……」


 相変わらずイチは呻くだけで何を言っているのか分からない。近くにあった椅子に座って俯くイチ、いつまでも元気が無くて心配で、近づいて頭を撫でてあげる。


「イチってすごいね! これ、絵本に描いてある魔法? 私にもいつかできるかな?」

「…………」


 呻くことすらやめたイチは何も言葉を発さない。ただ私の撫でる感覚を味わっているように思えた。

 しばらくすると、イチの膝にポタっと涙が落ちた。もしかして泣いてる? と思って下からイチの顔を覗き込んでみると、光が灯っていなかった瞳がわずかに輝いた。

 その瞳がとても綺麗で、涙で濡れているのがもったいないと思った私はワンピースのポケットからハンカチを取り出してイチの目元を拭いてあげた。


「どうして泣いてるの、イチ?」

「あ……と」

「え?」


 次の瞬間、イチの全身は光りだし、驚いた私は持っていたハンカチを手放してしまう。その光に飲み込まれたハンカチと共にイチは……。


「き、消えた……」


 目を丸くしたまま蔵の中を見回してもどこにもイチはいなかった。


 ――カタッ


 何かが椅子の上に落ちてきた気がしてそこに視線を向けると、一冊の手帳が置いてあった。


「これって……イチが落としていったのかな?」


 悪いと思いながらもページを適当に開いてみると、そこには文字が羅列してあった。最近学校で漢字をならったけど、読めないものが多くて結局意味は分からなかった。


 だけど、たった一ページだけひらがなで書かれたページがあって、これなら私でも読むことが出来た。


「えっと……「ぼくをみつけてくれてありがとう」……なんだろう? 誰かにお礼を言いたかったのかな?」


 いつかイチが帰ってくると信じて、私はこの手帳を大事にしまってあげることにした。いつか意味が分かるようになるだろうし、今はなくさないように本と本の間にしまっておいてあげよう。

 でも、ちょっとくらい落書きしてもいいかな? 一ページくらい私の書きたいことを書いちゃってもいいかな? その方がイチも驚いて笑ってくれるかも。


「あ、今日はお母さんと一緒にお買い物に行くんだった! それじゃあね、イチ、いつか遊ぼうね!」






 ――もうこれがいつの記憶だったか覚えていない。夢で見たこれはいったいいつの話なのか、すごく昔のように思えるし、ごく最近のことのようにも思える。


だけど、この「イチ」という男は僕のことだ。もう顔も思い出せないあの少女は僕の頭を撫でてくれた。最後のその一瞬だけだったけど、僕は意識をはっきりと取り戻したんだ。


 本当に一瞬で、また神の力に侵略されそうになって急いであの場から離れたけど、お礼にあの蔵をプレゼントできてよかった。

 無意識に作っちゃっていたからできれば改装したかったけどね。


 女の子の趣味じゃなかったかもしれないけれど、急な状況ではあれが精いっぱいだったんだ、許してくれ。


 あの少女が撫でてくれた温かさは今でも忘れていない。長いはずの人生で唯一僕としていられた瞬間だから。言葉が話せなくて急いで手帳にお礼を書いて置いていったけど、ちゃんと見つけてくれてよかった。


 代わりに貰ってしまったハンカチは今でも大切なお守りとしてしっかり持っているよ。名前の所はもう薄れて結局あの子の名前は分からなかったけども、確かに「レイ」ではなかったな。


 もう、君に会うことは叶わないだろうけども、僕は君に救われたんだ。ありがとう。


 だから、君のくれた温かさを僕は愛するこの人にも分けてあげたい。冷たい命を真っ赤に燃えるほどに温めてあげたい。


 僕の腕の中で眠っている澪ちゃんの頭を撫でてあげる。澪ちゃんがずっと笑顔でいられるように。


「僕を見つけてくれてありがとう……僕を愛してくれてありがとう」


 さあ、最後の仕上げだ。破壊し、何かを貰ってばかりだった僕が出来る精一杯の恩返し……受け取ってくれ。


 破壊の限りを尽くした僕が世界を終末に導き、そして世界を書き換える。



 澪ちゃんを大切に抱きしめ、目を閉じると、僕たちの身体は真っ白な光に吸い込まれた。


次話で正真正銘最後となります。

初投稿作品をここまで書いてこられたことに、少し残念な気持ちもあり、しかし嬉しい気持ちでいっぱいです。

よろしければ最後までお付き合いください。

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