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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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幸せのために26

 三日目も特に変わったことは無く……。

 作戦開始から四日目のこの日、事態は急に動き出した――。



 ビーーッ!! ビーーッ!! ビーーッ!!



「――これはッ!」


 アラートがけたたましく鳴り響く、これが鳴ったということは緊急事態に陥っている。


「はっ、はっ、はっ……」


 ちょうど休憩時間に入ろうとしていた時間、外は明るいがハジメの姿は角度的に見えない。

 全力で走って医療室へ駆け込むと、伝達班の夢来さんもやってきた。


「お伝えします! ただいま、彼は精神の疲労状態に陥り制御が不安定な状態にあります。これによって作戦中の書き換えが止まることはありませんが、おそらく戦闘は発生します。むしろ書き換えが加速して早く終了に向かっているそうですが、彼の暴走を止めるのは困難となりました。医療班はいつでも動けるよう全員態勢で待機をお願いいたします」


 夢来さんは伝え終わるとすぐに持ち場へと戻っていった。私たちもすぐ動けるよう医療品の確認やそれぞれの役割を再確認していた。


 双眼鏡で外を見てみると、ハジメの腕はほとんど上の方まであがっていた。腕が真上まであがれば世界の書き換えが終わる、そして人々を生き返らせる段階に入る。


 それまでに、本物のハジメを見ることが出来るのだろうか。いや、違う、私はハジメを見ようとしていない。今、ハジメは自らの意思で動いている。知ろうと思えば私はハジメの根幹を知ることが出来たはずだ。


 まだ戦闘は始まらない。前とは違って変化が確認できる程早くハジメの腕は動いて行き、それと同時に遠くからすさまじい音がここまで届く。


「あれを見ろ!」

「あれが世界の書き換え……」


 遥か遠くからものすごい勢いで光が向かってくる。あれに飲み込まれたら書き換えられる。

 ゴーッっという大きな音を光に変えて向かってくることに少しばかり不安と恐怖があった。だけど、その光は近づいて来ればくるほど、優しくて暖かい光なんだと私たちは悟った。


 だから不安なんてない、そのまま身を任せていいだろうとベッドに腰かけると……。


 光の浸食が私たちを囲うようにこの地域で止まった。


「どうしたんだ? 何か問題でも……?」


 医療室の医師たち、外にいる戦闘班のみんなも不思議に思って様子を窺っている。


 これは……きっと休憩だ。ハジメはこの後に必要な力を休憩で回復させている。

 精神的に疲れていると言っていたから相当苦しいはずだ。私には何もできないのが悔やまれる。


 再びやってきた夢来さんも今は休憩をしているのだと伝えにくると、みなはほっとしたように息を吐いた。


 警戒は続いたまま時間が過ぎていき、緊急アラートがなってから三時間が経過した。

 相変わらずオブジェクトのように動かないハジメだが、休憩が終わったのかついに動き始めた。


 ゆっくり、ゆっくりと光の範囲が狭まって書き換えが進んでいく。前とは違って私の歩く速度よりも遅く、しかし着実に世界を書き換えていった。


『アァ! アァアアアアアアアアアア!!!』


「ハジメ! どうしたの!?」


 突然の咆哮、書き換えは進んでいるもののハジメの様子がおかしい。


 ハジメは頭を抱え、周囲の瓦礫を浮かび上がらせた。これは神の能力ではない、ハジメ本来の能力だ。


 ハジメは苦しんでいる、最後に必要な力が大きすぎるんだ。精神的に疲れているときにも膨大な力を制御しなくてはならない、想像できないほど辛いはずだ。


  そして持ち上げた瓦礫の一つが光に飛び込んでいった。

 すると、ぶつかったであろう場所が徐々に灰色に染まり、そして一つの黒い点を作った。

 やがてそれはまた白い光に飲まれて消えていくのだが、私たちは誰一人としてそれを見逃そうとはしなかった。


『迎撃準備ィッ! 絶対に外側に攻撃を通すなァ!』


 戦闘班が動き始めた。ハジメの攻撃を止めるべく班長が号令をかける。

 各々が武器を持ち、迎撃のために大盾を構える。もうハジメを殺すなんて考えは存在しない、これはハジメを援護するための戦い。


「お願い、ハジメ……頑張って!」


 胸の前で指を組んで祈る。

 この作戦は絶対に成功する、だから、私に本物のハジメを見せて!


『アァアア! アァアアアアアアアアア!!!!』


 先ほどよりも苦しそうに咆哮をあげるハジメ、髪を書き毟って頭を激しく振り、そして瓦礫を外側に向かって飛ばし始めた。


『塵一つ通すなァ! これを……これを防ぎきれば、我々の勝利だあァ!!』

『うおおおおおおお!!』


 戦闘班の雄叫びが私たちのいるビルを震わせる。

 その間も書き換えは進んでいき世界は真っ白に染まり、ドーナツの穴のように残ったこの場所で、私たちの最後の戦いが始まった。


 ハジメの攻撃は強烈で、瓦礫は絶え間なく飛んでくる。周囲に無ければ能力で生み出し、前後左右上下問わず瓦礫を飛ばし続ける。

 私たちのいるビルにも攻撃は命中し、崩れ落ちて下敷きになる前に私たちは避難することを余儀なくされた。


『絶対に防げ! 我々の勝利は近づいているぞォ!!』

『うおおおおおおおおおおお!』


 戦闘班の全力がハジメの能力にぶつかる。地上で、上空で、ガンッガンッとぶつかる瓦礫はぼとぼとと私たちに降りかかり、命からがらに戦闘を見守っていた。


 砂礫が私たちに降りかかり体中がざらざらに、砂埃が酷くて目を開けているのも辛い。

 だけど、それ以上にハジメや戦闘班の人たちの方が辛いのは分かっているから誰も文句を言わない。懸命に歯を食いしばる。


 怪我人を何人も出しながらなんとか耐え凌ぐ。

 持てるだけ持ちだしてきた医薬品で治療しつつ、私たちは戦場を駆けまわる。


 あまり時間はかからないはずなのに、今までの人生よりも長く感じる。息も苦しくて口の中は砂でじゃりじゃりする。

 脚もパンパンで走る度に痛くなる。生傷も増えて、自分の身体を治療したいのをグッと我慢する。


 ガアンッ――!


「しまッ――!!」


 ひときわ大きい音とともに戦闘班のリーダーが近くで焦りの声を出す。

 嫌な予感がしてそちらに視線を向けると、そこには戦闘員が誰もいなかった。戦場が狭まってきて戦闘スピードが上がり、それについていけなくなっていた。


 ハジメはひと際大きな瓦礫を生み出しそこに投げ込もうとしている。それが白く輝く世界にどんな影響を与えるのか分からない。だけど、誰しもこれを通してしまえばすべてが水の泡となり、努力が無駄になると察していた。


 だが、誰も動くことが出来ない。今までのハジメのようにすべてが静止し、瓦礫が飛ばされるのを走馬灯のように見ていた。


「ダメぇええええ!!!」


 無意識のうちに駆けだしていた。

 ハジメを止められるのは私だけ、声を裏返しながらも叫び、ハジメに向かって駆けだした。

 

 どうやって止めるかなんて具体的に思いついていない。だけど、私じゃないと止められないのは分かっている。


 ハジメの正面から走り手を伸ばす。


 だが、上空で浮かんでいた大きな瓦礫が私へと矛先を変えた。落ちるように迫ってきた瓦礫に私の身体が硬直する。


「――――ッ!」


 間に合わなかった……そう思った時、私の視界を大きな背中が隠した。


「澪! 走れええええええ!!」


 父さんが能力の付与された大盾を持って瓦礫に叩きつける。しかし耐えきれるはずもなく私の後方に勢いよく飛ばされていった。

 しかし……。


「ハジメ!!」


 瓦礫は落ちてくる軌道を逸らし私の隣に落ちた。無我夢中で残りわずかな距離を走り抜ける。

 ハジメは周辺に落ちていた瓦礫のつぶてを飛ばしてくるがその程度じゃ私は止められない。


 地面にあった黒い塊……マグマの固まった痕に力強く足をかけ、私はハジメに向かって飛んだ。


最後までに寄り道を二つほど。話の続きですので大丈夫です。

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