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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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幸せのために24

 ガコンッ――!


 開始の合図はない。代わりに大きな音を立てて箱の蓋が外れる。


「…………」


 誰もがその様子を見守り、警戒は一層強くなる。


「――――ッ!」


 ゆらりと、糸で操られているように姿を現すハジメ、遠目でも辛そうなのが伝わってくる。


 絶対に失敗しない為にここで作戦の段階を思い出す。


「第一段階でまず、ハジメが暴走しているかどうか……」


 見た感じ意識が虚ろな様子だ。それでこれからどうやって暴走しているか確認するかだが……。


「あぁ、あああぁあああああああ!!」


「暴走してる……ッ!」


 誰かのつぶやきに私は拳を握った。本当なら戦闘班が刺激してそれで反応を確かめる予定だったから、無駄に怪我人を出さずに済んだ。


 上手くいったから次の段階だ。

 暴走したハジメが暴れるようならこちらも応戦しながら様子見、一番いいのはこのまま大人しく能力を使って欲しい。


「あああ! アァアアアアアアアアアッ!!」


 耳が痛くなるかん高い声で叫ぶハジメは、痛々しくて見ているのが辛かった。


 まず、ハジメが入っていた箱が砕けた。砕けて飛び散った破片は一瞬で真っ赤なマグマに変わり、地面を溶かしていった。

 今までに比べればこの程度は優しい攻撃。これを本格的な暴走と捉えるか、許容範囲内と捉えるか。


「――――ッ!」「――――ッ!!」


 ここからでは聞こえないがどうするか慌てているのが分かる。一人が飛び出そうとして周りが止めている。

 前の戦闘で恐怖を植え付けられた人も多い。正確な判断が出来るかどうかが今回の作戦のカギだ。


 ハジメはしばらく動かなかったが突如地面に向かって腕を動かし、それきり動かすことは無かった。


「どうしたんだ? 動かないぞ」


 医師の一人がつぶやく。ハジメが動きもせず佇んでいるのにそれまでに何も変化が起きなかった。


 私たちが顔を見合わせていると医療室の中へ今回は伝達班に回った夢来さんが駆けこんできた。


「報告します! 現在、対象は暴走しています。能力は着実に発動中ですが、不明な点も多いため警戒は怠らないようお願いします。それでは失礼します」


 さっと伝えてさっと立ち去った夢来さんに私たちはポカーンとしていた。

 ハジメはただその場に立っているようにしか見えないが、実際は神の能力で世界のどこかを元に戻している、もしくは……破滅へと導いている。


 変化がないとリアクションも取りづらくて、室内を見回すと、みなコップに水を注いで喉を鳴らしていた。

 私もあまりの緊張に喉が渇いて水を飲む。飲みすぎには注意しているが喉の渇きはなかなか癒えない。


「しばらくは待機かな?」


 父さんたちが新しい情報を持ってくるか、ハジメが何かアクションを起こすか、それがいつなのかも分からないから張り詰めた空気は存在したまま、だがずっと張り詰めていても疲れるだけだ。

 私が力を抜いてベッドに腰かけると、私に続いて何人かが椅子に座る。


 力を抜いた者同士で顔を合わせて笑って見せると、それまで立ち続けていた医師たちも力を抜いていく。


 張り詰めた空気が徐々に緩和されていった。


「そうよね、ずっとさっきのままじゃ、肝心な時に動けなくなるわね」

「警戒は怠らず、休める時は休むのは大切だな」

「戦闘が始まらないと私たちじゃやることがないし、あ、チョコレートあるけど食べますか?」

「ちょうど甘いものが欲しかったんだ、いただくよ」


 普段の雰囲気が戻ってきたというべきか、私はここに普段からいるわけじゃないから分からないけど、これで緊張はほぐれただろう。


 私たちは何かしら次の動きがあるのを待った。


 しかし、時は過ぎるばかりで何も変化が起こらない。ちらちらと外を双眼鏡で確認してみても、ハジメはオブジェクトのように動く気配がなかった。本当に暴走しているのかも分からないが父さんが動きを見せないということは順調に進んでいるのだろう。


「あ、ありがとうございます」


 私は貰った一口サイズのアーモンドチョコレートを口に放り込み、また外を眺める。

 先ほど飛び散った溶岩は黒く変色しその辺に盛り上がって固まっている。ハジメが本気で暴走すれば、ここらを跡形もなく壊すのは容易なことなのだ。ハジメはそれを己の良心で抑え込み、最低限で被害を収めている。


 300年前の大災害、あれでハジメは能力を抑え込むコツをつかんだのかもしれない。だとしたらハジメはとんでもない才能の持ち主だと私は思う。


 作戦を再確認する。時間になれば私たちは交代で休憩に入り、それ以外は昼夜問わず仕事をすることになる。

 いつまでかかるかも分からないこの戦いに私の精神は耐えきれるだろうか。


「澪ちゃん、休憩時間だよ、少し仮眠してきなさい」

「あ、分かりました。お先に失礼します」


 お昼を食べるのも忘れ、気が付けば夕方。これだけ警戒していてもハジメに動きはなかった。

 私はこれから四時間ほど休憩し、深夜帯を担当する。若い者が深夜に配置されている班は多く、医療班もその一つだ。戦闘班は関係なく交互に見張りをしているみたいだけどそこ以外は私たちと大抵同じシフト。


「父さんの所に行ってみようかな」


 仮眠室へ向かう途中に指令班の拠点がある。解放された指令室の内側を窺うととりあえず落ち着いているらしく、父さんの姿も見受けられた。


「父さん、ちょっといい?」

「お、澪か、どうした? 今は休憩時間か?」

「うん、今から仮眠室に行くところ、だけどどうしても気になっちゃって」

「だろうな、ちょっと待っとけ、今飲み物を用意してやる」


 近くにいた男性研究員に指示して私のために温かいお茶を用意してくれる。感謝を伝えてから口を付けた。


「作戦は順調に進んでいる。だが、書き換えがおそらく世界の反対側から始まっているみたいでな、いつ終わるのか計算ができなかった」


 なるほど、だから何も起きていないように思えたのか、もしかしたらハジメの手が下を向いているのにも何か関係があるのかも。


「今のハジメは安定しているの?」

「暴走しているのを安定と言えるかは疑問だが、まあ、しばらく大丈夫だろう。明日には探査機が書き換えに追いついて作戦の成功率も出せそうだし、そこまでくれば一の状態も調べられる」

「ほ……ならよかった。これで実は上手くいってないとか言われたらどうしようかと」

「実際どうしようもないけどな、あまり縁起でもないことは言うなよ」


 父さんが人差し指を口に当てて周りに聞こえないよう囁く。私も口に手を当ててコクンと頷いた。


「それじゃあ、私は寝てくるから、頑張ってね」

「ああ、しっかり寝てこい、寝不足だけは勘弁だぞ」

「はーい」


 指令室を出て仮眠室へ向かう。気を張り詰めすぎて肩が凝っているみたいだから、揉んでから休もうかな。


 ……作戦開始からあっという間に一日目が終わろうとしている。こんな状態がいつまで続くのか見当もつかないけれど、やっぱり早く終わって欲しい気持ちは変わらない。


 だけど……私はまだ、本物のハジメを見ていない。


まだ嵐の前の静けさ? 


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