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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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幸せのために14 other 父2

もう少し父の話は続きます。

 あれから咲夜は三日間熱を出し続け、俺が病院に連れて行こうとしても駄々をこねて布団から出ようとしなかった。


 強情な彼女に明日までに治らなければ病院に連れて行くと軽く脅したところ、次の日にはけろっと治っていた。


「なんなんだこの子は……」

「うふふ、伊吹さん」


 自殺未遂を容易く実行し、助けられたら無理やり責任を取れと脅迫、熱を出して倒れたから拠点に連れ帰ってみたら、目を覚ましてからものすごく甘えてくるし、こちらとしては……まあ、嫌じゃないし、ちょっと役得だから別に構わないけど、初対面の男にここまで心を許すのはどうかと思うぞ。


「今日から私が食事を作りますので台所をお借りします。伊吹さんには食材の買い出しを頼んでもいいですか? 私はあまり外に出たくないので」

「大丈夫か? 病み上がりなんだし無理はするな」

「ありがとうございます。やっぱり伊吹さんは優しいのですね」

「うるせぇ」


 目が覚めてからいつもこうだ。俺を褒めて頼って、俺の不器用な料理を美味しいと言ってくれて、そのうえ顔もスタイルもよくて女として完璧かよ。


 ……あれ? この子と付き合うのはそう悪くないのでは?


 咲夜に頼まれた食材を買いに町に赴く。この国に仲間がいなくてよかった、少女を連れ込んでいると知られたらいつまでからかわれるか分かったもんじゃない。


「はぁ、まあ、もう少ししたら咲夜も飽きて出て行くだろう」


 それまでの辛抱だと自分に言い聞かせて買った材料を持ち帰るわけだが、咲夜の料理が美味すぎて先ほどの決意が何度も揺らぎそうになった。


「ふんふん〜」


 しかし、いつまでたっても出て行かない彼女は完全にここに居ついてしまい、近くの小さな雑貨屋でアルバイトをしながら家事をこなしていた。今も鼻歌交じりに皿を洗っている。


 そつなく家事をこなす彼女の姿は掃除途中の汚れ姿すら美しく、料理をしている後ろ姿を見ればそのまま思わず抱きしめたくなる。


「伊吹さん、今日の夕飯は何が食べたいですか?」

「久しぶりに肉が食べたいな、それもがっつりと」

「分かりました。それならハンバーグですね、これなら量も取れますし」

「お、いいね、それで頼むよ」


 ……一か月後にはこうなっていた。新婚のような初々しさを残しつつ息の合った会話、俺はいつの間にか彼女に洗脳されていたのだろうか。


 しかし、俺にもやることはある。世界を終末から救うため、世界を駆け回らなければならない。丁度この国での仕事が終わり、そろそろ次の国へと移動する頃だった。


 今夜そのことを咲夜に伝えなければいけないと思っているあたり、俺は彼女に情が移っていると思う。何も言わずどこかに消えてしまえば咲夜も諦めるだろうか。


 夕餉時、小さな丸テーブルの向かいに座る彼女に伝えるべく俺は箸を置いた。


「伊吹さん、私の話を聞いてくれませんか? 私がなんで自殺しようとしたかの話です」

「お、おう、いいぞ」


 カウンターを食らった。息が詰まり、俺は緊張していたのか上ずった声で返事をする。俺の話はあとでも明日でもいい。


「私はこの国の郊外に屋敷を構えるほどお金持ちの息女です。お父様は他国でも有名な投資家で、近いうちに資産の一部を私の三人いる兄弟に託そうとしていました」

「兄弟に託すなら咲夜は関係なくないか? 自殺する必要なんてないだろ」

「私には許嫁がいました。ほとんど会ったことも話したこともありませんけどね。でも、その人が我が家の話を聞きつけて急な結婚を迫ってきました」


 勝手な話だ。結婚して兄弟の仲間入りをすれば金が手に入る、金持ちの一族に入れるだけでなく咲夜という美人を手に入れられる。たしかに許せない。


「結婚させないために上二人の兄が私と許嫁を暗殺しようとしてお父様に見つかりました。許嫁の魂胆もバレ、婚約は解消。末っ子の弟はまだ幼くてお金を託してもあまり意味がありません。それで矛先が私に向いたのですが、お父様としても女の私にお金を託したくはなかったのです」


 この国の男女差別は他国よりひどい。法律で守られているとはいえ、女性に対する意識は低いままだ。

 咲夜に託したところで搾取されるのは目に見えている。


「それで私が死ねば兄二人が上位に戻るから問題も解決するかなって」

「いやいや、そうはならんだろ! 咲夜が死んだところで兄二人に対する評価は変わらないだろ」

「でも、お父様は反省した兄二人に託すと言っていました。なのでこれ以上問題は起こさないかと」

「それでいいのか? 咲夜が死ぬことで解決するなんて間違っているだろ」

「ここにいる限りばれないとは思います。アルバイト先でも名前を偽ってますし」


 咲夜が見つかれば密かに暗殺の手が伸びる。ただの女の子でしかない咲夜に抵抗する手段はない。


 咲夜を助ける案ならある。だが、その案を口にするには少し勇気が必要だった。


 俺たち新人類のことを話す必要がある、初めは隠して転勤するとか適当なことを言おうとしていたが、それでは説得力が足りない。それにすべて話しても信じてもらえるのかは怪しい。


 咲夜は割り切っているつもりでもやっぱり怖かったのか表情は明るくない。俯いて茶碗を見つめている咲夜に俺は手を伸ばし、そっと頬に触れる。


 我ながら大胆なことをしたなと思いつつも驚いて顔を上げた咲夜に、できるだけ優しく柔らかい声で話しかける。


「俺と一緒にこないか?」

「え……?」

「責任は最後までとってやる。咲夜が生きていてよかった思える人生を俺がくれてやる、そう願ったよな? 約束通り死ぬまで責任をとってやる、だから咲夜が死ななくても解決できる方法として俺についてこい」


 目を見開いたまま瞬き一つしない咲夜は彫刻のように動かない。頬に触れている手から伝わる熱がちゃんと生きている人なんだと理解させてくれた。


「私、死ななくてもいいの?」

「考えが極端なんだよ。別に死ななくても身を隠すとか他国へ逃げるとかさ、出来ることはあるんだ。俺が責任を取るついでに咲夜の願いを叶えてやるってこと」

「でも、この国を捨てるんだよね?」

「それはちょっと説明する必要がある。実はこの家、正確には俺個人の家じゃないんだ」


 俺は咲夜にできるだけ分かりやすく新人類のことを話した。次の国では多くの仲間と合同で活動し、一緒に行動するなら必ず咲夜の目にも入る。下手に隠しておく方が危険だ。

 世界のこと、俺たちのこと、最低限話すべきことを話しておき、あとの判断は咲夜に任せた。


「……こんなところかな、どうだ、俺についてくる気はあるか?」

「伊吹さんが言っていることはまるでファンタジーね、まだ全部を理解したわけじゃないけど……お願いします。私を連れて行って、それで私に幸せな人生をください!」


 真夏の太陽へ顔を向けるひまわり以上にぱっと咲いた笑顔。俺が太陽というのは役不足だが、咲夜の笑顔のためならば俺は太陽になってやろう。


 咲夜をただの居候としてではなく、家族ほどではないが俺の隣にいるべきパートナーとして認識を変えていったのはこの時からだ。


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