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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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幸せのために13

 外は私の知っている以上に瓦礫の世界だった。

 建造物は崩れ落ち、地面にぶつかっては爆ぜて飛び散る。どこかしこも瓦礫と砂礫で埋まり、元の地面の姿はどこにも見当たらない。


 幸い怪我人はすぐ見つかった。男は意識が残っていたのか自力で這いずりながら扉近くまでやってきていた。

 しかし出血はひどく、男が這ってきた道は真っ赤な血に染まっていた。


「大丈夫ですか!? すぐに運びますから」

「……げろ……」

「え?」

「に……げろ!」


 男は私の腕を掴み、虚ろな目で私に訴えると同時に意識を失った。


 力の入っていない人というのはここまで重いのか、持ち上げられずほとんど引きずるように動かす。


「うんせ……よいしょ!」


 ビルにそろそろたどり着きそうになった時、私の全身に影が落とされた。何だろうと振り向くと、巨大な瓦礫が私の上空に浮いて待っていた。


「え……? どうして……」


 後ろを向いた正面には背の高い一人の青年が立っている。ぼろぼろになりながらも確かな足取りでこちらに向かってきているが、漆黒の髪は長く顔は俯いたままでどんな面をしているのか伺えない。


 一歩、また一歩、真っすぐ私の方へ向かってくる青年に恐怖で腰が抜け、力なくその場にしりもちを着く。


 この人が……この人が神の遣いなんだ。宙に浮いている民家の壁のような大きな瓦礫はこの青年が操っている。

 さっきトイレに行っといてよかった。そうじゃなかったら今頃は大変な粗相をしていた。


「あぁああ……」

「ヒィッ!」


 この青年と相まみえているだけで体がすくんで動かない。わずかに髪の隙間から覗かせた眼光は鋭く、私をその場に貼り付けにした。


 決して私の身体が強張っているんじゃないと言い聞かせたくて必死に手足を動かすが砂で地面を滑るばかりでまともに逃げることが叶わない。


「ぁ……ぁ……」


 私が消え入りそうな声を漏らすのは絶望を見てしまったから。


 目の前の青年を狙って遠くから大量の瓦礫を飛ばしてくる男がいる。私が見えていないのかこのままでは私も被害を受ける。


 逃げようと思っても体が動かない、透過して回避しようにも上手くできない。


「あ……あぁ……」


「アァアア――ッ!!」


 涙を浮かべる間もなく私は死ぬんだと諦めかけたその時、私は信じられない光景を見た。


 飛んでくる瓦礫と私を遮るように巨大な瓦礫が落ちてきて攻撃を防いだ。これだけなら青年が自身の身を護るために防いだとして何もおかしくない。


 だが、攻撃は二度あった。先ほどの攻撃で巨大な瓦礫は砕け散っていて次弾を防ぐ術がない。まともに受ければ青年も私も木っ端みじんにはじけ飛ぶだろう。


「ガァ!!」


 青年は咆哮のような掛け声とともに両腕を前に出し拳を握った。


 驚くことに飛んでくる瓦礫の弾が徐々に割れていき、弾が小さくなっていく。

 しかし小さくなっても重傷は免れない。生きられるかもという淡い希望は浮かび上がったが確率は低いだろうな。


 やっぱり無理だったんだと全身の力を抜くと、目の前で能力を行使していた青年が突然振り向き私に覆いかぶさった。


「な、なにを!?」


 突然のことに頭の理解が追い付かない。


「あぁああああああああああ!!」


 細かくなった瓦礫の弾は青年の背中に容赦なく命中し、血をまき散らす。私が夢の中で石を投げつけられた時とはまるで違う、これではこの人が死んでしまう!


「やめて! あなた死んじゃう!」

「あぁああああああああああああああああああ!!」


 私の声を無視し私を庇い続ける青年は本当に理性がないのか、何人もの新人類を殺してきた人物と同一なのか疑いたくなる、本当に話し合いすらできない危険人物なのか。


 なにも出来ず目を瞑って耐えていると、やがて攻撃は止み砂埃が晴れていく。背中に大量の砂礫を乗せた青年が私に体重を預け、そのまま沈黙した。

 私の服まで真っ赤に染めるほど大量の出血、死んでしまったのか……。


 恐る恐る口元に手を近づけると、微かにだが息をしていた。


「生きてる! まだ生きてるよ!」


 私は根性で腰を上げ、青年の腕を私の首の後ろに回し、腰を抱いて持ち上げた。

 足を動かさないから引きずることに変わりないが、力のない私が最も運びやすいやり方だ。


「澪!」

「父さん!」


 現状を把握するために父さんがこちらに向かってくる。やっぱり私の存在には気づいていなかったようだ。


「澪、どうしたんだその怪我は!?」

「私は怪我してないよ、返り血だから、この人が庇ってくれたから大丈夫」


 私は足を動かしてとにかく前に進む。今は時間が無い、この人以外にも運ばないといけない人がいる。

 だが、父さんは下を向いてしゃがむと、唐突に私の右ふくらはぎを掴んだ。


「イっっっっタイ!!」

「やっぱり怪我してるじゃないか! おい、お前ら! こいつを急いで中に運べ、澪は俺が連れて行く」


 父さんの部下が何人かやってきて青年を運んでいく。先ほど私に逃げろと叫んだ男も何とか間に合いそうだ。

 しかし私が安堵していると父さんからお叱りを受けた。


「澪、なんでここにいる? 澪は医療担当だっただろ、わざわざ外に出ないよう忙しい所に配置したのに気が付いたら危険な場所にいる。危うく死ぬところだったんだぞ! まさかあいつの後ろに澪がいるとはな」

「私じゃないと助けられなかったの! 他に人は手が回らなかったし、すぐ目の前だったし……」

「ああ! もう分かっている! 澪にしかできなかったのなんて分かってる。俺は説教が嫌いだし苦手だからこれ以上は言わん、とにかく澪が無事でよかった」


 父さんは私を横向きに抱えて歩き出した。恥ずかしかったがだんだん力が抜けて立っていることさえできなくなっていた私では文句の一つも言えない。

 私から顔を背ける父さんはまだ怒りが収まっていないのか歩き方は乱暴だった。


 そういえば私って父さんに叱られたことってほとんどないな。旅の途中、国や町の人に怒られることがあって、父さんはいつも私を慰めてくれていた。

 不器用な父さんのお叱りは説教に思えなくても全力の説教だったのかも。ねちねちとは怒らないし、心配していたのが丸わかりの説教。やっぱりちゃんと私のことを見てくれて嬉しかった。


父はもう一人の主人公ですね、娘のことを守ってあげるために奮闘しています。


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