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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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幸せのために7

「どうして、娘さんに会ってあげないんですか!」


 いきなりの怒声に驚き、ドアに触れる手がピタッと止まる。そしてそのドアに耳を近づけてみる。


「20年も探し続けて、やっとこっちで会えるというのに、最後まで会わないつもりでいるのですか!」


 男の声は耳を澄ませれば先ほどよりはっきり聞こえた。何かに対して怒っている。その対象はおそらく……。


「副リーダー、何を言っている。俺が澪に会いたくないとでも?」


 やはりそうだ、このドア一枚挟んだ向こうに父さんがいる。私のことをいつも見てくれて、心配してくれた父さんがいる。

 私は嬉しくなってドアを開こうとしたとき、父さんの言葉に全身の動きが停止した。


「副リーダー、俺は澪に会いたくないんじゃない。会う資格がないんだ」


「え……?」


 思わず零れた声は幸いにも向こうには届いてなかった。もう少し話を聞こうと意識を集中する。


「リーダー、どういうことですか? 親が子に会うのに資格なんているんですか?」

「お前も子がいるのだからわかるだろう? 子に何もしてやれなくて、どの面下げて会いに行けばいいんだ」

「そんなの関係ない、娘さんと喧嘩したわけじゃないんでしょ? 会いたいから会いに行けばいいんですよ。理由としては十分です、親が子に会いに行って何が悪いんです!」

「お前は簡単に言うが20年だぞ? その間、澪の夢に何度も入って探し回ったのに、結局俺は何もできなかったんだ。そんな俺が会いたいからと、顔を合わせることはできないだろう」


 父さんの早口な言い訳が聞こえる。父さんは言い訳を並べているが私は知っている。父さんが私のためにどれだけ心配してくれたのかを知っている。


 夢の中に入ってまで私を探してくれた父さんに感謝したい。それでも会うことは父さんにとってダメなことなのかな。


 副リーダーさんと喧嘩して、言い合いして、頑なに私と会わないようにしていた。


「そんなに私と会うのが怖いの? 私は感謝してもしきれないほどに言いたいことがあるのに」


 私のつぶやきの間にも二人は言い合いをしている。会わないことを貫き通そうとする父さんはやっぱり私の父さんだ。私の頑固なところは父さんから継いだんだ。

 でも、ここで諦める気はない。タイミングを見計らって中に入ろう。


「娘さんだってリーダーに会いたいって思ってます。だから会ってあげてください!」

「なんだ、澪とすぐにでも会えるみたいな口ぶりだな。だが、俺は会わない。部屋にいるから必要な時だけ声を掛けろ。指示はさっき出した通りだ。明日からは別のことを始めるから今日中に終わらせるぞ」


「父さん!!」


「ほら、こんな話をしているからうちの娘の幻聴が聞こえ……て……」

「幻聴じゃないよ……久しぶりだね、父さん」


 父さんが遠くに行ってしまいそうで、私は思わず研究室の中へ飛び込んだ。


 ゆっくり私の方へ振り返った父さんの顔は驚きで満ちていて、次の瞬間にはその場から逃げていた。


「待って! 父さん!」

「取り押さえろ! 絶対にリーダーを逃がすな!」

「お前ら! 離せ! コラ! 髪は引っ張るな!」


 「リーダー!」「主任!」と声を上げた30人ほどいる職員全員が一致団結して父さんを取り押さえる。タックルを受け、しりもちを着いた父さんはついに観念したのか、その場で両手を上げて大人しくなった。


「はあ、お前らはいったい何なんだ? どうしてここに澪がいる?」

「さあ、なんででしょう? リーダーが会いに行かないから会いに来てくれたんじゃないですか?」


 私は大きく頷き、副リーダーさんの言葉を肯定する。

 しりもちを着いたままの父さんに手を貸すと、少しためらったがしっかり私の手を握ってくれた。


 立ち上がった父さんは私より頭一つ分背が高い。顔を上げると自然と父さんの髪が視界に入ってくる。


 私と同じ青みがかった白い髪。おでこが見えるくらい乱暴に短くカットされ、ぼさぼさだった。


 だけど、記憶の中で影が掛かっていた父さんの姿が明晰になる。やっと父さんに会えたことが嬉しかった。


「夢来はいるか? どうしてここに澪がいる、連れてくるなって言っただろ」


 父さんの声に室内の奥から返事が返ってくる。隠れようとしていたのかな。


「私は何も知りませーん。リーダーが会いに行かないのが悪いと思いまーす」


 まるで小学生のような返答で夢来さんは誤魔化した。私がいる手前、父さんは夢来さんの適当な態度を怒りに怒れず拳を固めていた。


「はあ、もういい。ああー、ええと、澪、悪いけど話はあとでちゃんと聞くから、今日のところは帰ってくれないか?」

「イヤだ」


 私は笑顔で即答する。


「今日の受付担当誰だっけ?」

「あ、わたしです」

「リーダーは娘さんとお話があるから早退って記録付けといて」


「おい、何を勝手に――」


「ということで、リーダーはお帰りです。指示は貰っているんで問題は無いですよね? さっさと帰ってください」


 職員の皆様が父さんと私の背中を押して抵抗する間もなく研究所から追いやられた。

私は全く抵抗していないが父さんはかなり暴れていた。

 自動ドアにロックを掛けられ、中へ戻ることも出来なくなった。


「まったく、困ったやつらだ。後で説教しないと……」

「父さん……」

「あー、ええと、って、さっきからこんな態度ばっかりだな……澪、久しぶり。元気だったか?」

「うん、おかげさまでね、それより仕事はないんでしょ? だったら私の部屋に来ない? お茶とお菓子くらいなら出せるよ」

「ん、そうだな、お邪魔させてもらうよ」


 部屋に着くまでは世間話というか、私の身体に異常がないかとか色々聞かれた。

 そんなにも心配していたのなら何度でも会いに来てくれればいいのに……。さっきのことをまだ引きずっているのかあまり視線を合わせてくれなくて少し悲しい。


 たわいない会話を繰り返し、閑静なリノリウムの廊下を歩いて私の部屋に辿り着く。


 ほんの少しの緊張と、期待を胸に私はドアノブに手をかけた。


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