幸せのために6
翌日、待ちに待った研究所潜入の日……ではなく、父さんに会いに行く日。
父さんは忙しいらしく事前にアポは取れなかったらしい。だから「もし会えなければ諦めること」と夢来さんに念押しされた。本当は会わせたくないのだろうか?
「うーん! 上を向いている分にはいい天気。下を向けば瓦礫の山なのに、清々しい気分はなんでだろうか!」
無理やりに元気を出すことにする。
人類の生き残りはここにいる人たちだけ。そう断言できるだけの理由を私たちは知っている。
そう、私たちだ。私も知っている。思い出したんだ。
世界中の破壊は20年も前から続いていて、今も終末へと順調に向かっている。
ここで生活する人々は私のように能力を持っている。夢来さんのように夢に干渉する力だったり、植物の成長を早めたり、自身の身体を硬化できたり、一人ひとり違う能力を持っている。
そういう人たちはかつて特殊な遺伝子改造を受け誕生した『新人類』なる者らしい。
寿命が長く、生命力に溢れている新人類は数こそ少ないが、過去に起きた天災以降、密かに活躍し続けていた。
いつかの歴史資料館で見た謎の人物の記述について、あれは私たち新人類の仕業だった。
能力を駆使し、少人数で世界中を駆け回ってときには戦争を止め、ときには食糧を与えて飢える者を救っていた。
しかし、いくら頑丈な新人類でも死ぬときは死ぬ。銃にハチの巣にされれば耐えることはできない。超人的な身体能力に謎の存在は不審がられて数少ない仲間は余計に数を減らした。
見た目の変化は若い時期が長く、よく知っている老人となるのは寿命が近くなってからだ。だから私が寝ている間成長していないように思えたのは、ただ単に成長が遅いだけ。と、思ったけど、私の場合は違うらしい。夢来さんは教えてくれないから後で調べないと。
40年近く生きているが、人間の寿命に合わせたらまだ10代後半だ。決しておばちゃんなんかじゃない。
若さに執着する意味はない気もするが、これが女性の本能なのか、年増と思われたくない。
それはともかく、新人類を含め、知的生命体はこの星で生きていくことは不可能なのだと結論付けてしまった私は、現実を捨て、夢の中へと逃げてしまったわけだ。
――コンッ コンッ
ドアからノックの音がする。時間通りだ。
ドアを開けると、夢来さんが白衣を着て待っていた。私の面倒を見てくれていた夢来さんだが、本来は研究所の職員であり、仕事の合間を縫って私を迎えに来てくれた。
「おはよう、澪ちゃん」
「おはようございます」
「それじゃあ……行こっか?」
部屋に鍵をかけ、前を歩く夢来さんについて行く。エレベーターは私たちのいる階に止まっていてすぐ乗れる。地上一階までも数秒で辿り着く。
「澪ちゃんは玄関から出るのは初めてだよね?」
「はい、私にとって外は屋上でしたから、先生にも玄関からは出ないでくれって止められていましたので」
「そうね、間近でこの惨状を見てまた発狂されたら対処が面倒だもの」
「もうすべて受け入れる覚悟がありますから、前みたいに暴れたりしませんよ」
あの時のことは思い出すのも恥ずかしい。奇声を上げて、暴れて夢来さんに止められて、見苦しい所を思い切り見られている。
しかも何度も。初めの一か月は夢来さんに何度もお世話になった。最近は奇行に走ることは一切なくなったが、私を見てきた夢来さんからしたら、まだ心配なのだろう。
「えっとね澪ちゃん、今日は研究所にはね、リーダー……澪ちゃんのお父様はいるの、所属しているって意味じゃなくて、言葉通り、今日はいるの。だけど広いし、どこにいるかは分からないけど私が教えることは出来ないの、ごめんね」
「どうしてですか!?」
裏切られるとは思わなかった。まさか一緒に探してくれないなんて……。
私が怒りを露わにしていると、夢来さんは本当に申し訳ないと何度も頭を下げてきた。
「ごめんね、こればっかりはどうしようもないの。他の職員も同じで教えてくれないわ。リーダー……澪ちゃんのお父様がそうするよう命令したから」
「父さんが私に会わないためにそんなことを……」
「だけど、職員は今日の話を聞いて、本当は二人を会わせてあげたいと思っているの。どこにいるかは教えてあげられないけど、研究所にいるのは確かなの、逆にリーダーは澪ちゃんが来ることを知らないからこっそり会ってあげて」
もし居場所を教えたとなれば後で何を言われるか分からない。そう態度が語っている夢来さんは悪くない。父さんに会える可能性がもっとも高い日に私を連れてきてくれたのだから。
「研究所の中には入れてあげられるけど、そこから先、私は関われない。誰に聞いても今日はいない、いつ戻ってくるか分からないとしか返ってこないから、リーダーに気付かれて逃げられない内にアタックしてね」
「分かりました。ここまで案内してくれてありがとうございました。後は頑張って探して問い詰めます!」
握りこぶしでやる気を示す。代わりに少し緊張してきたが、その分やる気も出てきた。
玄関を出てすぐ隣にある大きな工場を思わせる研究所に足を踏み入れる。
正面のエントランスは自動ドアで、私が近づくとスッと左右に開いた。
夢来さんと共に中へ入ると、研究所とは思わせないクリアな匂いの空気が私を包む。壁は真っ白で入り口正面には受付があり、そこに白衣を着た一人の女性が座っていた。
「……あなたは……ッ!」
「どうしましたか?」
その女性は私の顔を見ると、突然目を合わせてくれなくなった。露骨に目を逸らし、私の隣にいる夢来さんの方を見ている。
「大丈夫です。あなたは何も見ていません」
「…………」
夢来さんにそういわれた女性は頷き、下を向いて事務作業に戻っていった。
そして夢来さんはわたしの傍を離れ、奥にある扉の方へ歩いていく。
「さて、私はこっちに行くね、澪ちゃんはそっちの扉から好きなタイミングで入っていってね。さっきも言ったけど、私はもちろん、誰に聞いても教えてくれないから。味方のようで敵なのかな? だから、頑張って!」
自分でも何を言っているのか分からなくなったのか、夢来さんはそそくさと扉の向こうへ身を滑らせていった。
夢来さんが先ほど指さした方にはもう一つの扉があり、近くの案内図を見る限り直接研究室へ繋がっているようだ。
「……頑張ってね」
「え? はい……」
後ろから受付の女性の声がしたがいつの間にかいなくなっていて、一人となった静かなエントランスで私の呼吸音だけが聞こえる。
「すぅー……はぁー……よし!」
「――なぜですか!」
意を決し、いざ、行かんと扉に手をかけたとき、中から若い男の怒声が聞こえてきた。
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