死に神を見た1
痛々しい未来を見ていた。
毎度のことだが映像は色褪せている。その色褪せた映像に見えるは、何かをぶつけられているシーンだった。
私の未来視には二パターンの見え方がある。
一つは、空や崖といった少し離れた所から幽霊のように観測する見え方。
二つ目は、人や動物の目となってその者の見ている光景を追体験する見え方。
そして、今回は後者だった。
身長は私とほぼ同じ、俯いて斜め前の地面を見つめていた。コツ、ガツン! という音と共にこの者の体が前後左右に揺れている。
いじめにあっているのだろうか?
何かを投げつけられているようだが、この者は避けようとせずただ突っ立っていた。やがて、視界を頭から流れてきた血で染まり、見るもの全てが赤く染まった。
しばらくして攻撃が止み、正面から若い男の声がする。
「死に神が――」
ここで映像は終わり、私は現実に引き戻された。
「――ッ!」
右目と頭に熱を帯びたように鋭い激痛が走る。
未来が見えるタイミングはいつだってランダムだ。頻繁に見えるわけではないが突然のことすぎていつもついて行けなくなる。
(十秒近い映像をたった一瞬で見せられたら頭も痛くなるよ)
背負っていたリュックサックを降ろし、近くの切り株に腰かける。
ペットボトルを取り出して水を一口。痛みが治まるまでの間、見えた未来を頭で整理する。
「囲まれて何か……あれは石だったかな? 前後左右から投げつけられて、小さかったけど血が流れるほど多い。俯いていたからどんな場所かも把握できないし」
要するに何も分からなかった。最後に『死に神』という単語は聞こえたが、これが何を指して言っているのかは分からない。
そういえば最後の一瞬、顔を上げようと動いたところで映像は途切れたが、途切れる瞬間にモミジの葉が映っていたように思えた。
「あのモミジがここのモミジだとすると、死に神がいるのはこの先にある国かな」
根拠はないがなんとなくそんな予感がする。
ここは心が洗われるほどに美しい紅葉が全面を覆い尽くす森の中。珍しく周りに瓦礫は無く、橋のようなただただずっと先まで続く細い一本道を進んでいる。
ゴールは見えないがこの森を抜ければ国が見えてくるらしい。
早く国に着いてもいいが、せっかくだからこの紅い景色を堪能するとこにした。
辺りを見渡せば、木の葉は太陽と変わらないまでのオレンジや赤に染まっている。読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、旅の秋、何をもってしても便利な言葉で片付けられる紅葉の秋真っ盛りだ。
この森に入った直後、狐はいないかときょろきょろ探してみたが、見つかったのはスズメやカラス、狐ではないが一度だけ狸を見つけたから、まぁ……良しとしよう。
イチョウやモミジに囲まれた紅葉の一本道は、私をパレードの主役に仕立て上げた。
軽く手の平を上に向けて前に差し出せば、モミジの葉が一枚、はらりと乗った。
その葉を指でつまんでよく観察する。
虫食いのない、見事なまでに美しいモミジは、こうして手に取って見ると一層赤く輝いて見えた。
本当は押し花などにして本に挟んでおきたかったが生憎と材料がない。残念だ。
「捨てるのはなんかもったいないなぁ」
周りには同じモミジの葉はいくらでもある。だが、私の元に来たこのモミジに愛着が湧いた。
しばらくモミジの茎部分を持ってくるくると回してみたり、太陽に透かすように掲げてみたが、余計手元に置いておきたくなっただけだった。
仕方がないから、とりあえず手帳に挟んで枯れるまで持ち歩くことにする。
「落ち着いたし行くかぁ」
どこかのんびりとした声が出たが、この景色の中では仕方がない。
切り株から立ち上がって、軽くお尻をパンパンとはたく。
すでに右目と頭の痛みは引いた。目的の国まで分かれ道は無いと聞いているから、のんびりと紅葉狩りを楽しんで向かうとしよう。
「それにしても『死に神』か」
どうしても不吉な単語が出てきたあの未来に関わるのは勘弁願いたい。面倒ごとはごめんだ。