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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく13

 卒業式なんてあっという間だった。涙を我慢できたものはおらず私たちは感涙の中、在校生が作った花のアーチをくぐる。

 造花で造られた花道。ミラナちゃんとその友達の後輩が卒業おめでとうと声をかけてくれた。


 二か月程度の学園生活でもこんなに声をかけてくれる人がいたことに驚きだ。キーラなんかほとんどの在校生に声を掛けられている。どれだけ面倒見がよかったのかがよく分かる。

 ヴェーラに声をかける者はミラナちゃんとアルバイトの後輩。もっと早く自分を取り戻しておけば声をかけてくれる者も多かっただろう。他には交際を申し込みに来た男子たちが数名いたが、ヴェーラが何か話すと首をがっくりと下げてその場を去っていった。


 ホームルームは先に終わっている。先生とも挨拶を済ませた私たちは寮へ向かって歩き出した。

 寮の玄関に着くやいなやキーラは「すぐ遊びに行くわ!」と私より多い荷物を片付けに部屋へと駆けだした。


「はあ、最後まで慌ただしい子ですね。私も手伝ってきます」

「うん、私も片づけが終わったらキーラの部屋に行くよ」


 キーラは荷物を実家に片付けたらヴェーラの家に遊びに来るつもりだ。私とヴェーラと一緒にいられるのは残り僅か。その間に思い出を多く作っておきたいのだろう。どこか寂しい雰囲気を出しながらも後ろ姿はうきうきとしていた。


 私の片付けなんてたかが知れている。教科書と制服は寮母に返し部屋を簡単に掃除するだけ。リュックに入れるのは卒業証書と数枚の写真。アルバムは重いからと先生が私と私の周りの人たちが写った写真を数枚選んで今日の朝に渡してくれた。

 改めて写真を眺めると、初めの頃はそれなりに緊張した面で過ごしていたんだと分かる。


「さてと、着替えますか……」


 なんだか名残惜しいが仕方ない。写真をリュックに仕舞い、代わりに久々の旅装束のセットを手に取った。洗面所へ向かい制服を脱ぐ。


「成長したのかな?」


 鏡に映るのは相変わらず起伏の少ない胸。腰は結構自信があるがそれに見合った体型をしていない気がする。

 飾り気のない上下おそろいの水色の下着。質素な姿に思わず落胆の息が出る。全身を這っていた醜い傷跡は綺麗にならず、今でもうっすら残っている。痛いかすら分からない私の身体はもう壊れているのかな……。


 右目を失ってからしばらくして、死に神の力を行使することが急激に減った。用なしと言わんばかりに、神が見捨てたように私は普通の旅を続けていた。

 それでも神がどうしても許せなかった。なのに感謝した方がいい気がして。神に弄ばれているような気もすればなんだか焦っているようにも思える。

 理由はない。ただ、そう思っただけ。結局私には神がいるのかどうか確かめる術はない。


 髪と同じ青を基調とした防寒使用の旅装束。やっぱりこの格好でいるのが一番落ち着く。

 着替え終わり、制服を畳んで片付ける。部屋に忘れ物がないかしっかり確認して私は部屋を出た。鍵をかけ寮母に教科書と制服を返し、その足でキーラの部屋に向かった。


「あら、ミオ。それは旅衣装かしら? ずいぶん気が早いのね」

「ちょっと感覚を取り戻しておきたくてね。私の片づけは全部終わったから手伝うね」

「ありがとうございます。キーラったら物が多いんです」


 悪態をつきながらもてきぱきと手を動かすヴェーラ。ちゃっかり服を着替えているキーラに怒りが沸々と額に浮き上がっている。下手に怒らせないよう私は目の前の食器に古新聞で包み始めた。

 昨夜、片付いているように見えたキーラの部屋は見えないところに物を置いていただけだそうだ。


「……やっと終わりました」

「ありがとう、ヴェーラ。助かったわ」


 すべて片付けたために片付け後の飲み物も出てこないが、代わりにペットボトルの水が支給された。

 私たちはそれをラッパ飲みしながら大きく息を吐いた。


「ミオさんのおかげで早く終わりました。ありがとうございます」

「散々お世話になったからね。これくらいいいよ」


 キーラが言うべきセリフをヴェーラが代わって口にする。忘れてたとばかりにあざとく舌を出しているキーラには後でげんこつが落ちるだろう。

 お菓子もない部屋にいつまでも居座っても暇になるだけ。私たちは荷物を持って部屋を出ることにした。

 三年間住んだ寮はキーラにとって感慨深いものがあったのだろう。出る時はそれなりにしんみりしていた。いつも明るいキーラが丁寧に鍵を閉めている。帰るべき家を手放す悲しさがあるのだろう。


「それじゃあ、行きましょうか」


 寮母にはしっかり挨拶を済まし、私たちは正門までやってきた。もう生徒はいない。卒業生はそれぞれ片づけや実家に帰ったのか閑散としていた。

 学生として最後の日。私にはよく分からない感情だったが、二人にとっては心がぽっかり空く感覚だそうだ。これから人生が全く変わるのだから実感が湧かないとのこと。

 私にとっては長い冬が終わったという感覚でしかないのだが、中々難しいものだ。いずれ花が咲き、温かい風が私たちを包むだろう。だけど二人の隣に私はいない。それぞれがばらばらの所にいる。


 もしかしたら季節感がばらばらかもしれない。この星の反対側にいれば季節も逆になるだろう。同じ冬でも雪の降らない地域にいるかもしれない。

 それでも私たちが一緒に過ごした思い出が消えるわけではない。たまに思い出して、楽しかったなと……。


 キーラと別れ、私はヴェーラの家へと向かった。事前に話は済ませてあり、今日と明日、二日間泊めてくれることになった。代わりにヴェーラには旅の知識を叩きこむことになっている。

 ヴェーラの両親に挨拶を済まし、荷物を置いたらさっそくキーラがやってきた。荷物を実家に置いてすぐに出たらしい。


 二日間。その間に私は何ができるのか、どんな思い出を残せるのか。行き当りばっかりだろうがそれが楽しくて、なんだかうきうきする。国を出た後のことは考えなくてもいいかな?

 今はどうしてもこの時間を大切にしたかった。

早くも次回でこの章の最後となります。

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