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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく12

 学年末試験当日。私たちは慌ただしい日々を送り、気が付けば明日には卒業。今日の午前中にテストをして午後には結果が返ってくる。留年生が出ることは滅多にないそうだが、私の場合は中退になる。気は抜けない。


 中間テスト以上にピリピリした空気の中、前の席からテスト用紙が回ってくる。全員の机にいき渡ったら、クラスは雑音一つない静寂に包まれる。

 先生が腕時計を注視し長い待機時間に耐える。始まってしまえば一瞬で終わるテスト時間。その開始までの方が異様に長く感じる。


「――はじめ!」


 突然の開始に若干出遅れる。でも、その代わりに周囲の音を聞くことができた。周りが焦ってペンを走らせる。ちょっと感じが悪いかもしれないが、周りが焦っていると私のこころは落ち着いた。ゆっくりとペンを持ち上げて紙に名前を書く。

 そこからは本当に一瞬だった。


 気が付けばチャイムが鳴っている。その音に喚起する者、呻きの声を上げる者。今のは始まりの合図? 終わりの合図?

 キーラが弁当を持って私に近づいて来る。どうやら後者だったらしい。どうやら私はテストになると異常に集中するらしい。この情報は今後役に立つことは無いだろうけど……。

 

 久々にここまで真剣になった。いつ以来だろうか? 多分、まだ右目があった時か。

 私の手が届かない未来を散々見せられた挙句、最後まで振り回して離れていった私の右目。無意味に抗ったのが懐かしい。


「ミオ? どうしたのかしら」

「あ、ううん。何でもないよ。ちょっと昔のことを思い出しただけ」

「こんな時に昔を思い出すってテストがそんなに辛かったのですか?」


 ヴェーラも私の席にやってくる。結局あれからヤナとイリーナはヴェーラから離れ、声をかけてくることもなかった。明日で卒業、その三日後には国を出る。それまでにどうにかしたいところだが。

 ヴェーラを見るとやっぱり不安なのか、テスト終わりなのにあまり顔は晴れていなかった。


 三人で昼食を食べ、最後だからと校内を散歩していると昼休みはあっという間にチャイムが終わりを告げた。

 チャイムに合わせて教室に入る。午後ははじめ、一時間のホームルームを過ごす。ニコライ先生からいままでよく頑張ったとありがたいセリフがいくつも飛んでくる。どことなくクサいセリフなのにニコライ先生だからか格好よく思える。


 先生の話が終われば最後の交流を深める目的で自由時間。教室からは出られないが、クラス全員と話せたのはよかった。転校してから話していない人もいたから意外と楽しい時間だった。少し不安だったけど、マキシムにも声をかけた。なんだか初めて会った時と比べてしおらしくなったように思えたが、最後にはいつも通りキザな言葉で話を締めてきたから心配はいらないだろう。


 そして最後の授業。内容はテストの返却だけだが、どの授業よりも緊張するものがあった。

 私には落としていてもデメリットはない。だけど、キーラとヴェーラ、ヤナにイリーナと共に頑張ってきたからこそ合格していて欲しい。私は信じたくもない神に祈った。


 ――せめてこういうときくらい空気読んで神らしく私たちを導いてください。


 そして、テスト用紙を手に持つ先生の口が開かれた。


「全員合格だ! 卒業おめでとう!」


 教室は授業中にもかかわらず歓喜の渦に包まれた。席を立ちあがり、友の元へ行ってハグをする。中には涙を流している女子もいる。


「お前たち、涙を流すのは早いぞ。明日の卒業式をしっかりやり終えてから泣きなさい。まあ、途中で泣いてもいいがな」


 そういう先生も目元が潤んでいる。なんだかんだ先生も教え子が卒業するのが寂しいのだろう。今は私たちに背中を見せている。


 私もキーラと手を取り合い、ヴェーラからはハグを求められた。キーラが嫉妬したのか私に抱き着いてくる。苦しくて無理やりはがした。

 合格と聞いてヴェーラは安堵した表情を見せていたが、視線は何度もヤナとイリーナの元へと寄せられていた。

 自ら勉強を教えたこともあって喜びを分かち合いたいのだろう。でも二人がそれを拒否しているのが辛くてどうしたものかと迷っている。言葉にしなくても態度でよく分かる。


 ヴェーラに手伝ってくれとお願いされたが、これと言って作戦があるわけではない。現状自然に仲が戻るのを待っているだけ。

 そのもどかしい様子にキーラとどうしたものかと視線を合わせたが、これと言って解決策は見つからなかった。

 だが、キーラが何やら任せてと力強く頷いていたから、何か手は打ってくれるみたいだ。


 その日はそのまま放課後を迎え、今日は最後のアルバイト。私、ヴェーラ、ミラナちゃんと、他の学生アルバイトが集まった。従業員も含めての送迎会をしてくれて、私はここをアルバイトに選んでよかったと店長と他、お世話になった従業員に感謝の言葉を伝えた。


 ミラナちゃんには国を出る時に顔を出してくれるみたいで、私は本当にいい友達を見つけた。

 最後まで忙しいアルバイトを終えた後は、店長が私たちの顔を模したパンを用意してくれて、ヴェーラと一緒にありがたく受け取った。コック棒の上から頭をかいて視線を逸らす店長が面白く、みなで笑ってあげた。

 店長は照れ隠しのように怒り、送迎会は笑いの中めでたく終わりを迎えた。


 仕事終わりはキーラの家でパーティを開くことになりヴェーラと共に寮へ向かう。

 貰ったパンはなんだか食べるのがもったいなくてどうしようかとヴェーラとくすくす笑う。

 すっかり角の取れた清楚なお嬢様になったヴェーラは、私の手を取って、いたずらっぽく走り出した。雪はだいぶ解けて地面がすっかり顔を出している。道の両端に寄せられた雪に近づき私もろとも突っ込んだ。


「――わぷ!」


 二人して髪に雪を残したままキーラの部屋に行くと、大変羨ましがられて料理が一品食卓から消えた。

 ごめん、ごめんと必死に謝り、何とか返ってきた料理を三人でつつく。

 キーラの部屋の家具等はほとんどが実家に送られ、今は持ち運べる簡易的な物しか残っていない。卒業式が終わったら部屋をきれいに片づけ、この寮を出て行く。


 明日で卒業。準備ができればすぐに旅に出る。こんな風にあったかい食事をしたのはいつ以来か。これも右目を無くす前かな。


 なんでだろう。右目を無くしてから不幸なことが起こらなくなった。私の頭を叩き砕くような思考を奪う割れる音もいつからか聞こえなくなった。最近は私の目の前で誰かがいなくなることもない。

 以前、死に神を受け入れたつもりでいたけど、もしかしたら右目こそが死に神の本体だったのかもしれない。


 相変わらず世界の崩壊は進んでいるようで、無人の国を何度も見てきた。病気が蔓延した国。集団自殺した国。独裁で潰れた国。理由は様々だが、世界は確実に終末に近づいている。


 私が見たいのは世界が終末を迎える瞬間。その時は私自身も終末を迎えるんだろうな。できれば神様とやらになんで世界を滅ぼすのか聞いてみたいものだ。


 本来なら五人で囲っていた料理。しかしどこを向いてもヤナとイリーナはいない。五人も入れるスペースはないのに、あと二人いるだけでもっと華やかになっただろう。

 いない人を望んでも仕方ないからヴェーラと店長から貰ったパンを見せて今度は三人で笑い合った。

 まだ温かくて、食べるのはもったいなかったけど十分堪能させてもらった。

 二つのパンを三人で分け合いそれぞれ齧り合った。

この章の終わりが近づいてきました。

投稿頻度も投稿時間も安定しなくて申し訳ないです。

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