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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく11

 朝のアルバイト中、忙しくてよく確認できなかったけど、なんかヴェーラの様子がおかしい。

 いや、おかしいというよりは性格が変わった? というべきか。


 学年末テストが近づく中、昼食の分まで買い込もうと生徒が押し寄せる。少し店からはみ出して会計を待つ生徒もいて、私、ミラナちゃん、ヴェーラと他の店員が忙しなく動き続けた。


 それぞれが自分の役割を遂行していたために話しかける余裕もない。ヴェーラがバイトに入ってからは忙しさが倍になり、ヴェーラ目当てで来る客も多い。キーラと容姿はほぼ同じなのにこの人気の差は何だろうか。


「黙って列に並びなさい。あなたは犬ではないのですよ? いえ、犬でもしつければこれくらいできます」

「……え?」


 何か罵倒のような口の悪い言葉が聞こえた気がするが、まさかヴェーラがそんなことを言うはずはないし、気のせいだろう。ヴェーラに話しかけた男子生徒は気を悪くしているわけじゃないし、むしろ喜んでいる? だから気のせいだ。


 学校の始業五分前になれば、客足は引いていき、伸びをして疲れた筋肉をほぐす程度の余裕はあった。


「もう時間だろ? 遅刻する前にあがりな。こっちはもう落ち着いたから」

「そうさせてもらいます。お先に失礼します」


 私のあいさつに続き「失礼します」「しまっす」とヴェーラとミラナちゃんがエプロンを外す。

 朝は制服の上にエプロンをするのが許されているため片付けは早い。帽子とエプロンを学生カバンに入れてしまえば、一分もかからずに店を出た。


 朝のホームルームは始まっているが、私たち三人は一限が始まるまでに教室に着けばいい。慌てずゆっくり歩き、疲れて蒸気した身体をひんやりした空気で冷やした。


 エントランスでミラナちゃんとは別れ、私とヴェーラは教室に向かう。その間ヴェーラが昨日決めたことがあると私に報告してきた。


「私、家からは自由にしていいと言われましたので、卒業したら旅に出ようと思います」

「え!? 突然だね。どこか行きたい場所でもあるの?」

「はい。ミオさんから以前に聞いたサクラと見てみたくて、親も説得しました」

「へえ、さすがだね」


 前から旅に憧れているようなことを口にしていたが行動が早い。覚悟を決めてから一日で親を説得してもうプランを考えているなんて。私なんか気の向くままに進んでいるし。


 詳しいことは後でキーラを交えて話してくれるようで、私たちは結構ぎりぎりになってしまった一限に間に合うよう速足で教室へ向かった。


 学年末が近く、張り詰めた空気の中で進められる午前の授業。先生方も留年させたくないのか、いつもよりサービスが旺盛だ。残り三回の授業、今回だけでニ十点分のヒントが散りばめられていた。

 眠気と闘っていた私はヴェーラに言われない限り十点も気付かなかっただろう。


 やっとのことで昼休み。私とヴェーラはパン。キーラは弁当でヤナとイリーナが学食。三人で話し合いができる場所を求めて私たちは食堂へとやってきた。

 ヤナとイリーナが食券を購入し、昼食を用意したところでヴェーラが話を始めた。


「さて、食事をしながらで構いません。ミオさん、昨日、あなたに付きまとっていたストーカーさんは懲らしめましたのでもう変な視線を感じることは無いと思います。またストーキングなんてしていたら私は社会的に成敗しますのでご安心を」

「ヴェーラったら容赦ないね。手出ししてきても私で対処できるから、そこまでやらなくてもいいからね」

「けじめは肝心かしら。懲りないようなら徹底的にやりませんといけないわ。それでヴェーラ、犯人は誰だったのかしら?」

「本人のこともありますし、非公開でお願いします。ミオさんには申し訳ないですが」


 ヴェーラが私に頭を下げてくるが、犯人を懲らしめてくれたことでこちらからお礼をしなければならない。こちらから感謝の言葉を伝え、何も話さず食事していたヤナとイリーナにも感謝を伝えておく。


「どうして私たちにも言うの? 懲らしめたのはヴェーラだよ」

「そうだよ。私たちは何もしてない」

「あなたたちのことだから、ヴェーラに協力していたんでしょう。犯人探しに積極的だったし。だからありがとうって言いたいの」


 ヴェーラからも頷きがもらえたからなのか、そういうことなら、と私の感謝を受け入れてくれた。


「私がいない間に何もかも解決していたのね。私にも協力させてほしかったわ」


 キーラは蚊帳の外だったのが気に入らなかったのか、弁当のウインナーを口に頬張った。もしゃもしゃと抗議するようにウインナーに八つ当たりする。


「まあ、解決したのならいいわ。残り数日の学生生活、楽しみませんと」

「そうだね。卒業したら皆とはお別れだもの。勉強に励みつつ遊ばないと」


 いつの間にか学校が楽しみになっている自分に気付く。昔は面倒くさくてどうして通わなくてはいけないのか疑問に思っていた。こんな充実した毎日を過ごせるならこんな縛られた生活も悪くない。

 解放された時は今以上に気持ちいんだろうな。でも、お別れはいつになっても悲しいか。


 出会いと別れ、これは旅をしていれば必ず迎える。仲良くなればなるほど大きくなるそれは時に涙を生む。再会した時にはどんな顔をしたらいいか。

 しかし私は同じ人に二度あったことがないから分からない。


「さて、ストーカーはお縄につきましたのでこの話はこれで終わりです。続いての話ですが、私は卒業したら旅に出ます」


 その言葉に一番驚いたのはヤナとイリーナ。それぞれ食器をポロっと落とし、椅子から勢いよく腰を浮かせる。


「ヴェーラさん! どうしてですか!? 私たちを見捨てるんですか!?」


 ヤナが唾を飛ばす勢いで捲し立てるが、ヴェーラはその言葉をさらりとかわす。イリーナがヤナを落ち着かせているが興奮しているのか肩で息をしている。


「見捨てるも何も私はあなたたちの主人になった覚えはありませんよ。卒業後はあなたたちは職に就くのでしょう? いつまでも私に着いて来るわけにはいきません」

「ですが……」

「ヤナ、イリーナ、あなたたちと絶交するというわけではありません。私とあなたたちは対等です。私のことを好きでいるというのなら、最後は友達として私を見送ってはくれませんか?」


 黙って聞いていたヤナは下唇を噛み、イリーナの手を払いのけて食堂から走って出て行ってしまった。イリーナはヤナを追いかけ、一瞬こちらを見て戸惑うように出て行った。


「どうするの? あのままじゃ、最後まで話すことなく国を去ることになるわよ」

「そうですね。ミオさん、出国の時だけは私もご一緒してもよろしいですか?」

「別にいいけど。お金とか大丈夫なの? しばらくはアルバイトするんじゃなかった?」


 一口パンを齧り、咀嚼してゆっくり飲み込んだヴェーラはその間に考えをまとめているようにも思えた。もしかして二人にここまで反発されるのは予想外だったのではないか?

 何度か外を見る仕草をした後に視線を私たちに戻した。


「……私物を売ります。家はあれですから高価な物がいくつかあるんです。それでお金は抽出しましょう。それとキーラ、あの二人を説得するのを手伝ってくれませんか?」


「それとミオも」と付け足したヴェーラは私たちに微笑んだ。最近見られるようになった落ち着いた笑顔。前は無邪気な子どもの印象が強かったが、今では以前よりもお嬢様な気がする。

 ヴェーラの誘いにもちろんと答えたキーラは相変わらず私たちのムードメーカー。ヴェーラとは容姿が似ているというのに、態度一つでここまで差が出るのか。


 パンの包み紙を丁寧に畳みごみ箱に捨てる。恐らくヤナはしばらくヴェーラと口を利くことはないだろう。

 私は卒業から三日後にこの国を出る。その時までに仲直りしてくれるといいのだけれど……。

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