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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく10 other ヴェーラ

別視点での本編です。

 私は先日、両親から好きに生きろと縛りから解放され、今は学園生活を満喫しています。

 わずかな期間ではありますが、気になっていた転校生ミオさんとも無事仲良くなり、この前は私の部屋に招待することができました。

 キーラのように話しやすくて、私に執着するような興味を持たない。丁度いい距離感を保ってくれる面白い人です。


 ですが、そんなミオさんを付けまわす不届き者がいるようで、ヤナとイリーナが調査をしてくれています。ヤナとイリーナは私を過保護にしていましたが、力強く説得したおかげか最近は棘が無くなってきたように思えます。


 中間テストの勝負は私からなかったことにしてもらい、クラス二位の成績でミオさんにおめでとうと祝福された時はなんだか気恥しくも快感に近い嬉しさがありました。

 いつぶりでしょうか? こんなにも純粋に喜べたのは。


 兄が外国で勉強を終えて帰ってきて、家を継ぐと宣言したときは理解が追い付きませんでした。姉が重い病気を患っていて、まさか病気を治すためにと親の反対を押し切り留学したとは思ってもいませんでした。

 今は病院で働きつつ、家のことも勉強している兄にはもう頭が上がりません。私の尊敬する兄です。


「ヴェーラさん、ちょっといいですか?」

「あら? イリーナ、どうかしましたか?」


 ヤナは見当たらない。珍しく別行動してるようですね。丁度いいし、食事に誘ってみましょうか。


「ミオのことをストーキングしている犯人が分かりました」

「それは本当ですか!? いったい誰なんですか?」


 私の嬉々とした声に少し言いづらそうにしているイリーナ。どうして言いづらそうなのか、相手はもしかして怖い人でしょうか?


「ええと……怒らないでくださいね? ……犯人はマキシム様です」

「……そう、ですか。マキシム様が。ミオがよくマキシム様に会うと言っていましたが、自身が目立つことを利用していたようですね」

「はい、身体能力は抜群ですので、それで器用に隠れながら変装もこなして、無理があれば素直に顔を出すことで偽っていたようです。ピンポイントに調べなければ気付けませんでした」

「ありがとう。あとは私がどうにかします。ヤナにはもう監視しなくてもいいと伝えてください。今も見張っているのでしょう?」


 頷いたイリーナは私に固い挨拶をしてヤナの元へ駆けていった。まだ慣れていないのかこういうところで上下関係が出てしまう。私たちの立場は同じだというのに。


「私がいけなのでしょうか? 無駄に丁寧な話し方だから気にしてしまうのでしょうか? とりあえず、マキシム様には今後のことも含めて決着をつけましょう」


 私は教室の椅子から立ち上がり、荷物をまとめて家に帰る。

 部屋着に着替え、机の引き出しからレターセットを取り出す。ボールペンを手に取り紙にすらすらと文字を綴った。


「……これでよし! あとは返事を待ちましょう」


 手紙……に見せかけた果たし状をカバンに入れ、今日も紅茶の研究に精を出す。上手くいかないのはやっぱりポットの蒸らしかたがいけないのでしょうか?





「ヴェーラ、今日の放課後、食堂の裏でいいかな?」

「ええ、構いません。話はすぐに終わりますから」


 キーラが横にいるにも関わらずマキシム様は私に声をかけた。手紙で言いたいことは伝わっているでしょうし、スムーズに話は進むでしょう。

 キーラは訳が分からず、私を問い詰めてきたが軽くあしらって放課後が訪れるのを待った。


 ヤナとイリーナには事情を話し、ミオさんとキーラには内緒にするよう伝えた。それと隠れて護衛してくれるようにも頼んだ。

 その際、目をキラキラ輝かせて頼みを聞いてくれたのは以前の役目が戻ったと思ったのだろう。できれば正してあげたいが今回のことが終わってからにしましょう。


 聞くのも残り僅かなチャイムの音が校内に響く。放課後になった。私は覚悟を決めて教室を出る。キーラがついて来ようとしましたが、ヤナが誤魔化してくれるようです。

 遠回りをして食堂の裏に向かう。雪が積もったままで歩きづらい人の寄り付かない場所。この場所なら誰も来ないでしょう。


 遠回りしたおかげか、マキシム様が先に来て待っていました。袋小路になっているこの場所で奥を取りたいとは思わない。最悪逃げることも考慮し、少し離れた場所を選択します。


「お待たせしました。本日はお話したいことが二点ございます」

「大して待っていないさ。それで話と言うのは君の家のことだろう?」


 流石に話が伝わっています。私はまず家に兄が帰ってきたこと、兄が家を継ぐことを伝えました。


「――ですので、もうあなたに執着することはやめました。これからは家のことに縛られず自由に生きていきます」

「それはいい事だ。俺も好きでもない女と付き合いたいとは思わない。俺は俺の女を探す」


 ……なんだがカチンと来ました。なぜでしょう? この男を引っ叩きたいです。

 とりあえず怒りは後回し、今は冷静になりましょう。


「もう一つお話が。転校生のミオさんにストーカーがいるというのはご存知ですか?」

「いや、初耳だね。必要ならば俺の家から護衛を出そうか?」

「いえ、その必要はありません。犯人はもう特定できていますので」


 私の言葉にマキシム様が眉をわずかに顰められました。当たりのようです。ですがこのままでははぐらかされて終わりですので証拠を提示しましょう。

 学生カバンから、ヤナとイリーナに用意してもらった証拠を書き留めたノートをばさっと取り出す。


「これらが証拠となりますので、これからミオさんに付き纏うのはやめていただけますか?」

「ははは、これらは俺がストーキングしている証拠にはなり得ないさ。写真でもない、君らが妄想で書いた世迷言だろう? 俺はたまたまそこにいただけの被害者さ」


 確かに用意した証拠というのは紙に書いただけの妄想かもしれない。だけど切り口はいくらでもあります。まずは目の前のことから捌いていきましょうか。


「君らと言いましたが、私一人で用意したとは思わなかったのですか? 知っているということは私たちの監視に気付いていたということになりますが?」

「おや? そんなこと言ったかな? すまない、ヴェーラにはいつも取り巻きがいるからね、その子たちに用意させたものだと思ったんだよ」


 マキシム様の冷静な返答。そう返してくるとは思っていました。

 ……ですが、マキシム様のレベルも知れたことですし、ここには用意していない私の口で説明できる証拠を提示しましょうか。


「それでは参ります――」


 初めは安堵しているようにも見えたマキシム様は私の口から放たれる数多の証拠に顔が歪んでいく。後半には聞きたくないと言わんばかりに耳を塞いでしまいました。

 これ以上は何を言っても聞く耳を持ちませんね。


「あなたには王子としての立場がありますし、今回だけは見逃してあげます。ですが、次にミオさんをストーキングしているのを見かけましたら、容赦なく学校とあなたの家に報告させていただきます。証人はいくらでもいますので言い逃れできるとは思わないでください……それでは、失礼いたします」


 私は紙をカバンにさっさと片付け、その場を後にした。しかし、十歩ほど歩いた時に嫌な予感がしました。思わず後ろをふり向けば、膝を着いて拳を雪に突きつけたマキシム様が私を睨み、そして……走って追ってきました。


「――ッ!」


 私も走ります。捕まれば何をされるか分かったものではありません。ここは誰もいない場所です、碌なことがないのは目に見えています。ストーキングの証拠は隠しきれませんが彼の家ならば、暴力沙汰くらいいくらでももみ消せます。


「はっ、はっ、はっ」


 ただ真っすぐに全力で走り抜け、途中一度だけ角を曲がる。そのまま走っていると、不自然に枝が地面に刺さっているところがありました。

 私はそのすぐ左を駆け抜けます。


――ミシッ!


 なんだか不安になる音に冷汗が背中を伝いましたが枝の隣を通り抜けられました。


 しかし、その先は袋小路。私に逃げ場所はありません。一応護身用にスタンガンを用意していますが、当てられるかどうか。

 後ろを振り向けば、怒りに身を任せて向かってくるマキシム様の姿。普通の女子ならば向かって走ってきてくれると言うだけで卒倒しそうなものですが、今はそんなピンク色の展開ではありません。

 ただ唇を噛み締めた情けない面が迫ってくるだけです。


「どうして私はこんな人を追っていたのでしょうね?」

「ヴェーラあああああ!」


――バキバキッ! ズボッ!


「な!? わぷっ」


 マキシム様の姿は突然目の前から下に向かって消えました。落とし穴です。ヤナとイリーナが短時間で作ってくれた私の体重では落ちない落とし穴。

 枝が目印でした。


「どうしてこの努力を勉強に活かせないのかしら?」


 ひっくり返って苦悶の声を上げているマキシム様を蔑むような目で見つめました。まさかここまで追ってくるとは思っていませんでした。この落とし穴は念のために用意したにすぎません。


「さて、本当は聞かずに帰ろうかと思っていましたが、こうなってしまえば聞かない方が気持ち悪いので聞いてあげます。あなたがミオさんをストーキングした目的は何ですか? 異国の少女に欲情でもしましたか?」

「違う! 俺はただ、旅の話を聞きたかっただけで……」

「旅の話? その割には悪質なストーキングですね? 本当のことを話してくれますか?」


 私は足元の雪を蹴ってマキシム――様を付けるのが嫌になった――の顔にかけました。落胆の溜息しか出ないこの状況で沈黙は私をイライラさせました。

 あら? なんだか私、理不尽な行為をしていますね? まあ、いいでしょう。今だけは女王の気分でいましょうか。


「……俺は旅に出たかったんだ。王子とかあだ名をつけられて親に命令されるのは飽き飽きだ。旅の話を聞きたかったのは本当だ。そしてできれば俺も連れて行ってくれればと思ったんだ」

「なんとも情けない話ですね。あなたは少女について行かないと一人で国の外に出られないのですか? カッコよく彼女になれとまで言っておきながら、やっていることはチャンスを見計らってのストーカー行為。……どうしようもありませんね」


 しばらく私が罵倒を繰り返していると、遠くでイリーナが顔を見せた。どうやら誰かが近づいているみたいなのでここまでにしましょう。私は右手に持っていた学生カバンを持ち替え、もう一度雪を穴に蹴り入れてから速足にその場を離れました。


「さようなら、マキシム」


 最後に穴の底でしりもちを着いたままのマキシムの様子を窺いましたが、私とは頑なに目を合わせようとはせず、ずっと下を向いていました。


「どんな気持ちなのか聞けばよかったかしら?」

「え? ヴェーラさん、何か言いましたか?」

「いいえ、何も」


 これでミオさんのストーカー被害は無くなるでしょう。なんだかすっきりしました。こんな気分は清々しくて病みつきになりそうです。


 これで私は本当に自由になりました。ヤナとイリーナはまだ私にへりくだっているけれど、今度しつけ……調教……おや? いい言葉が思い浮かびません。イリーナもなんで一歩引いているのでしょうか?


「…………」

「冗談ですよ?」


 にこっと笑うと元の距離に近づいてくれました。


 後片付けを済まし、ヤナと合流するイリーナとは別れ、私は正門へと歩きます。


「旅……ですか。これは意外と面白いかもしれませんね。ミオさんの故郷に向かうのも悪くありません。この前言っていたサクラという花を見てみたいです」


 私は自由なんですから。やりたいように、鳥が空を飛ぶように自由に。ああ、なんてゴージャスなんでしょう! どんな困難も楽しみで仕方ありません。絶望すら楽しめそうです。


「まずは父と母を驚かせて見せましょう!」


 明日、ミオさんに報告するのが楽しみです!

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