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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく7

 放課後はアルバイトに精を出し、ミラナちゃんに教わりながら楽しい時間を過ごしていた。

 学校が嫌いだという人は勉強ができない状況になったら好きになるだろうか。いや、一度イヤだと思ってしまったらもう好きになることはないか。

 

 前に勝負を吹っ掛けられて、その後ヴェーラから話しかけてくることは無くなり、嫌がらせもくることはなかった。

 バイト先の窓から見える外の景色は空の青以外は銀世界が広がり、人が踏み入らない所には動物の足跡らしきものが残っていた。


 今はお客が落ち着いて、のんびりと作業に勤しむことできる時間。多少話していても怒られない。それを知っているミラナちゃんが話しかけてくる。


「ミオさんが今度あのヴェーラ先輩と勝負するって聞いたんすけど、ホントっすか?」

「向こうから吹っ掛けられた勝負だけどね。まあ、本当だよ」


 ミラナちゃんが言うには一年の誰かが私たちの会話を聞いてしまったらしく、それを友人に話したらあれよこれよと広まっていき、今では賭けが行われているほど。先生にばれると怒られるためごく一部が内密に行っていることだが、勝負自体は筒抜けのようだ。


「ミオさんはマキシム先輩のこと狙っているんすか?」

「ううん、まったく。勝ったところで強制力はないし、そもそも勝とうと思っていないよ。卒業に影響するから手は抜けないけど」


 ミラナは来客の相手をしながら私の話を聞いていた。私もミラナちゃんの動きを真似できるよう観察しながら話を続ける。お客は生徒だから文句を言われることは無かった。そうそういないが一般客の場合は適当に出来ない。だがこの緩みが私にはちょうどいい。


 適当な話をしながら仕事をし、もうすぐ閉店時間になろうとしたときにミラナちゃんは思い出したかのように話し出した。


「ミオさん、最近ストーカーに付きまとわれていませんすか?」

「ストーカー? うーん、あ! 最近変な視線を感じることはあるよ」

「それっすよ! 最近転校生を着け狙う怪しい上級生がいるって一年のクラスで噂になってるっす」

「そうなると二年か三年のどちらかに私を狙うストーカーがいるということね。でもこれといって被害は出てないよ」


 気が付けば消えている視線。前に探したことがあったが怪しい人物は見つからなかった。面倒臭いことにマキシムに見つかってしつこく付きまとわれたことはある。それ以来視線を感じても襲ってこない限りは無視することにした。


「ミオさん美人っすからね、一年でもミオさん気にしている男子は多いっすよ。ここ最近急に忙しくなったのもミオさんのバイト姿を一目見るために来ている男子生徒が多いからっすよ」

「だから先週より忙しいのか。だけど私はすぐに出て行く人間だから付き合えないよ。付き合う気もないけど」


 すぐ別れるのは分かり切っているのにどうして私を求めるのだろうか。目新しいものにはすぐ食いつくのが人だからだろうか?


「クールっすね。私には声をかけてくれる男子がいなくて寂しいっす」


 自らの身体を抱いてくねくねと全身を動かしている。器用な子だ。どうやったらそんな動きができるのだろうか。


「ミラナちゃんは誰かと付き合いたいの?」

「いえ、私は今が楽しいっすからいらないっす。欲しくなったらこっちからアタックしてやるっすよ」


 今度はボクシングの真似で拳を虚空に突き出す。元気いっぱいで羨ましいほどだ。ミラナちゃんは情報収集にも長けているようだし、クラスでも活発なのだろう。


「まあ、ストーカーについてはいつかぼろが出るだろうし、向こうが動くまでは放っておくよ」

「そっすね。ミオさんには期限があるっすからいつか出てくるっすよ」


 この日は初めて私一人でお客の対応を任された。覚えたことを発揮できたことに久々の感動を得た。ミラナちゃんが拍手をくれて、工房からは見守ってくれた店長がサムズアップしてくれた。


 アルバイトと授業は休まず出席。真面目に授業を受けた後の放課後は心地よい開放感が全身を廻る。放課後にアルバイトがない日ならばクラスの女子たちが私を街に案内してくれて、アンナさんともまた食事ができた。家に帰ってからは宿題と試験対策を忘れない。

 そして楽しみなのはベッドで寝ること。旅をしていては寝袋でこじんまりとするしかないが、ベッドとなればいくら足を延ばそうがはみ出ることがない。この快感は旅人にしか分からないだろうか。それに私の移動手段は徒歩。特に足を使う以上、自由な態勢で寝られることがどんなにありがたいことか。


 そういえば、何度か体育の授業を受けたが私の身体能力は男子に負けないほどだった。腕力では勝てないが、脚力ではマキシムの次に高かった。

 暖房の無い体育館では寒さ対策でハーフパンツの下に一枚薄いものであれば着こむことができる。そのためスパッツを履いていたが……私って足の筋肉がすごいってことは無いよね? 浮き出てなかったよね?


 二年間も歩き続けたから多少覚悟はしている。他の人がどの程度の筋肉なのか私は知らないがムキムキなんて言われたらその場に崩れ落ちてそのまま寝込むかもしれない。

 後ろ指さされるのはイヤだからタイツは忘れないようにしよう。予備も必ず持っていくこと。

 これ以上は太腿が気になって折角のベッドが怖くなりそうだから考えるのをやめた。そして、充実した毎日を繰り返していけば、中間試験は光の速さでやってきた。


 教室に入った瞬間伝わる殺気めいた緊張感。ノートや教科書を手に、私へ視線を向ける者はいない。それでも私を一瞥したのはヴェーラとマキシム。マキシムは手を振ってきたが無視。ヴェーラはクラスメイトとはまた違った殺気を私に向かって放っているのがひしひしと伝わる。プライドというものはここまで人を本気にさせるのだろうか。


 やがてチャイムが鳴りホームルームが終われば、各々の席は戦場と化した。

 いつもは先生の目を盗んで会話に勤しむクラスメイトもよそ見一つしない。机に置かれた薄い紙一枚を真剣に凝視する。周りを気にする暇があったら己を集中させる。


学年末試験より配当の低い中間テスト。されど中間テスト。ここで低い点を取ってしまえば代わりの利かない学年末試験が大きな壁となって立ち塞がる。そこで一年間立ち止まるか乗り越えるか。壁の高さは目の前の紙一枚で大きく上下する。


 最悪卒業しなくてもいい私は申し訳なく思う。クラスがピリピリしている中、私は授業でやったことを赤ん坊がよたよた歩くようにのんびり思い出していくだけ。赤点を回避できればそれでいいという考えがクラスで浮いてしまっていた。


 深呼吸をする者、消しゴムを真っ白にしようと机を擦る者。ルーティンなのか真剣な眼差しでペン回しをする者。

 腕時計を見つめていた監督役の教師が「はじめ!」の合図を出す。誰もが最速タイムを競うように紙を裏返した。

 私は慌てず、誰もがペンを走らせ始めたタイミングで紙を掴んだ。

 名前を書き、問題を一問一問間違いがないように丁寧さを求める。

 最初のテストは数学。得意でも苦手でもないやる気が出ない科目を周囲のペンが勢いを増す中、私は冷静な速度でペンを走らせた。


 しかし、いつしか私はクラスの空気に飲まれ、正気を失ったように記憶が曖昧になっていた。気が付いたのは試験終了を知らせるチャイムの音と試験監督の声。目の前にあるテスト用紙の科目は数学ではない。思わず時計を見た。


「あれ? これって最後のテスト?」


 テスト用紙が回収されていく様子をただぼうっと見ていたが、いつの間にか放課後になっていた。キーラが私の顔の前で上下に手を振って意識があるか確かめていた。


「あ、気付いたかしら? テストの結果は明日出るわ。この後アルバイトはあるかしら?」

「ううん、テスト期間だからないよ。今日は疲れたし家でゆっくりしようかな」

「あら? テストが終わったからとっておきのお菓子を出そうと誘ったのだけど、余計だったかしら?」


 キーラのにやにやした顔に腹が立ったが答えは決まっている。


「行く! すぐ行く! 今すぐ行く!」


 机に出たままだった筆記用具を高速で片付けて椅子から立ち上がる。私の脳は縋り付きたいほどに糖分を欲していた。


 キーラとエントランスに向かう。下駄箱で上履きを脱ぎ、革靴に履き替える。寮が近いとはいえ防寒対策をし、外に出ればヴェーラが周囲の学生に避けられながらも堂々と立っていた。

 私を視界に収めるや否やつかつかと歩み寄ってくる。言わずもがな目標は私だろう。


「ミオさん。少しよろしいかしら? お話したいことがありますの」

「なんの用? 結果は明日出るからその後じゃダメなの?」

「勝負事とは関係ありません。よくない噂を耳にしましたのでその確認です。よろしければ誰にも聞かれない場所がよろしいかと」


 体育館裏は誰かが聞いていたし、またキーラを先に帰らせるのはなんか申し訳ない。どうしたものかと考えていると、キーラが提案してくれる。


「なら、私の部屋にしてみてはどうかしら? お菓子とコーヒーなら提供できるわ」

「キーラがよろしいなら私は構いません。ミオさんはどうかしら?」

「え? まあ、キーラがいいなら別に構わないよ」

「なら、さっそく参りましょう。キーラのコーヒーを頂くのは久しぶりです」


 あれ? キーラとヴェーラってすごく仲がいい? 呼び捨てだし、前に家系を調べたほどって言っていたし、ヴェーラには悪いけど友達がいるとは思わなかった。

ストーカー探しに推理要素はほとんどありませんので気軽に読み進めてください。

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