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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく2

 暖房の効いた部屋でのんびり過ごす快適が身に染みてきた今日この頃。堕落の道を文字どおり身を丸くして進んでいるわけだが、流石に疲れも取れ、二日後には初登校というわけで、寮長さんが学校を案内してくれるそうな。


 その際、同じクラスになる予定のキーラという同い年の女子生徒も同行してくれた。

 金髪に軽くウェーブのかかった長い髪。まるでお嬢様然とした容姿だが、私を見つけたとたん犬のようにぱたぱた走って近づいてきた。

 簡単な自己紹介を済まし、私が旅人と分かるや否や質問が飛んでくる。


「ねえ、ミオ。あなたのいた国はどんな国なのかしら?」

「そうですね、年間を通して寒くなりすぎず、暑くなりすぎず、比較的過ごしやすい所でしたね。この国みたいに雪が積もることは滅多にありませんし、今は綺麗な花を咲かせている頃でしょう」

「へ~、私、この雪にはうんざりで疲れてるから、雪のあまり降らない国に行ってみたいわ。あ、それと敬語はいらないわよ」


 キーラとはさっそく仲良くなり、親睦を深めていった。


 寮と学校は隣接していて徒歩三分で校舎にたどり着く。支給された上履きに履き替え、綺麗に磨かれた廊下をペタペタと音を鳴らしながら歩く。新品の上履きは子ども用の靴みたいに音が出て恥ずかしいが、しばらく履き続ければ音も落ち着くだろう。


「ここが職員室。まずは担任に挨拶をしておきましょう」

「一クラスしかないから、先生もクラスメイトも変わり映えがなくてつまらないわ」


 そういうキーラはずけずけと職員室へ足を踏み入れた。

 見た目とは裏腹に積極的な性格のキーラは一人の教師の前にたどり着くと、何やら話した後、私のことを呼ぶ。


 キーラの大きな声のせいで私に注目が集まる。しかし、教職員は声の主がキーラと分かった途端に「なんだ、キーラか」と一言呟いては職務に戻った。


「キーラさんは教師からも人気があるんですよ、クラスでは喧嘩の仲裁とかもしているくらい」

「なんか呆れられているようにも見えるんですけど気のせいですかね?」


 キーラの前に座っていたのは、いかにもダンディな老師。年を感じさせない背を伸ばした座り方。整理整頓されたデスクの端には紅茶の入ったカップからゆらゆらと湯気をのぞかせている。


「ナナセミオ君だね? こんにちは、話は伺っているよ。私は君の担任になるニコライだ。分からないことがあったら私か、このキーラに相談しなさい。それでなんだが……」


 ニコライ先生がキーラの方をチラッと見る。それはキーラに聞かれてもいいのかという確認でもあった。


「一人くらい味方がいた方が窮屈になりませんし、構いませんよ」


 キーラは何のことか分からず、おとがいに人差し指を当てて「?」が見えるくらいに首を傾げていた。


「ん? 何のこと? 席を外した方がいいのかしら?」

「キーラ君、ミオ君はね、高校に通ったことが無いんだ。だから、サポートをしてやってほしい」

「あら? そうだったの」

「高校の存在は知っているけど、高校の中身は知らないからいろいろ教えてね、キーラ」

「分かったわ! ミオが困らないよう私がサポートするわ!」


 相変わらず見た目にそぐわない爛漫な笑顔。たわわな胸を張り、動きに合わせて大きく上下に揺れる。


 担任との顔合わせが済んだところで寮長は先に戻った。別の仕事があるそうだ。

 校内の案内はキーラの方が詳しく教えてくれるし話しかけやすい。大きくない校舎だが、先に知っておくのと知らないではかなり差があるだろう。

四階建ての校舎の一階から階が上がるごとに学年が一つ上がり、四階は音楽室や美術室といった芸術関係の階となっていた。


 芸術関係の授業は三年生の最後でお世話になることは無いそうだが、知っておいて損はないだろう。

 私の通う教室の場所も教えて貰い、他に詳しいことはその都度説明してくれる。


「一通り回ってみたけど、何か質問はあるかしら? 質問以外でもいいわよ」

「じゃあ、キーラにお願いがあるんだけど、私といる時は右側を歩いてくれないかな」

「ん? どうしてかしら?」


 私は右目の義眼を見せようと前髪をどかそうとしたが、前髪はすっぱりと無くなっていることを思い出した。二年前から切ったはずなのに、今でもやってしまう癖。

 とりあえず右目を見せてあげるとキーラは両手を口に当てて驚いた。オーバーリアクションな反応だが、キーラにとっては普通の反応なんだろう。


「なるほど! 右側が見えないから私が右側に立って視界を補えばいいということですわね?」

「そういうこと。お願いできる?」

「まっかせて頂戴! ちゃんとばれないように振舞って見せるわ」


 その努力は私がするべきことだろうというツッコミはさておき。力強い? 味方ができたことだし、これで私の学校生活はのんびりしたものとなるだろう。本当は義眼でクラスのみなを驚かせたくないという理由だが。


 この後はキーラと食堂でランチを食べ、同じ寮の二階にあるキーラの部屋でおしゃべりに勤しんだ。

 キーラはまさかのコーヒー派で、しかも本格的なセットまで持っていた。私がたまに飲むインスタントのコーヒーとは全く別物に感じるほどキーラの入れるコーヒーはおいしかった。


 暖房の効いた部屋の窓辺からは深々と雪が降っているのが見える。本当に二か月で溶けるのか不安ではあるが、今から心配していたら身が持たない。


 椅子に座り、先ほど寮長から渡された封筒の中身に目を通す。


「学内バイト、どれにするか決まったかしら?」

「うーん、一応これにしようかなとは思ってるけど」


 テーブルに並んでいるのは学内バイトの募集要項。現在募集しているのは三か所。学内書店、清掃員、学内ベーカリー。

 学内書店はこの時期忙しくはないみたいだが、裏方の仕事が辛そう。清掃員は言わずもがな学内の清掃、主に女子トイレを担当するようだ。

そして、最後に私が手に取ったのは学内ベーカリーの募集要項。業務内容は接客、品出し。


「朝の始業一時間前から品出しと接客。放課後は下校時間までの接客。朝のホームルームは免除にできるって」

「週三回からでお給料も悪くないわね。みなさんアルバイトは学外に行ってしまいますから、こういうのに気付かないのよね」


 朝早く起きるのは苦手だが、せっかくの機会だしやってみようと思う。朝食、昼食にパン目当てでやってくる学生は多く、忙しいらしいがそれも経験だろう。


「じゃあ、決まりですわね。丁度クッキーも焼けましたし、ここらでティータイムとしましょう。紅茶を入れますわね」

「キーラって紅茶も入れられるの?」

「コーヒーほど錬成されていませんわ。いい葉を使っていても私では普通の紅茶に変わりありませんわ」


 出来立ての香ばしいクッキーと共に出された紅茶に口を付けるが、これをただ普通と言えるわけがない。

 いつもパックで作っている私の紅茶とは天と地の差があった。味音痴の私でも分かる透き通る葉の香り。先ほどのコーヒーもそうだが、キーラのコーヒーと紅茶の基準は私が想像しているよりの遥か高みにあるようだ。

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