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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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雪は解けゆく1

故郷ではそろそろ春を迎え、もうすぐ満開の桜が視界を埋め尽くすだろう。

 母さんとした病室での花見は楽しかった。一緒にお団子を食べて、お酒の代わりに白湯を飲んで。


 ……でも、ここに桜は咲いていない。

 私の旅はうろうろしながらも二年ほど北上を続け、季節も故郷とは少しずれた地域を淡々と旅してきた。


 辺り一面冬景色。地面は白で埋め尽くされた銀世界を私は着脱可能なスパイク付きの長靴のようなブーツを履いて歩いている。

 裸で立っていた木は分厚い雪を重そうに被り、今にも枝が折れそうだ。


 ここまで地続きで歩いてきたが地殻変動とは恐ろしいものだ。数年で本来数センチほどしか動かないはずの大陸が約二百五十年前の大災害によって大移動を起こした。

 私が歩いているこの大地は昔の地図によれば、大航海のど真ん中。


 大災害はあらゆる建造物を崩壊させ、世界中は瓦礫の海と化した。

 崩壊させただけでなく、人工物のほとんどが跡形もなく消滅していることから、世界が崩壊に向かったのではなく、元の形に戻っているのではないかと唱える学者もいた。


 世界中の大陸部が増え、砂漠には木々が生え始め、伐採された森の木々は再生し、海の生態系も一変したという研究結果もある。


 この研究結果は世界中に広まり、人々はこの研究結果を聞いて昔よりも生きやすいい環境なのではと考えた。


 銀世界をのしのし歩いていると、国の城壁が見えてくる。

 雪が降っていないのはありがたいが、外でキャンプできるほど私の根性は太くない。


 前の国を出てから、そろそろ十時間が経とうとして、やっと見えてきた城壁にほっとする。

 この国を出てしまうと、次の国まで数日かかってしまうため、私の旅は気候が温かくなって雪が溶けてくるまで一休み。


 事情を話して、長期で滞在できるよう交渉してみる予定だ。




「可能ですよ。雪が溶けるまでの間、約二か月ですね。滞在だけでしたら問題ありません」


 入国の受付を事務室内で行う。暖房が効く事務室内は天国のようで、気を抜くと眠気にやられてしまいそうだった。


「安いホテルってありますか? 長期になるのでぼろ宿のような所で構いません」


 お金に余裕はあるが、場所に滞在すれば余裕は紙のように消し飛ぶ。

 泊まる安い宿がなければ、一軒一軒訪問してホームステイさせてもらえる場所を探すしかないと思っている。


「おすすめの宿はありますが、ミオさんは今、十八ですよね? でしたら留学制度を使われてはどうですか?」


アンナという名の金髪青目の受付嬢は、一枚の紙を取り出す。


「留学ですか?」

「はい、この国の高等教育学校に卒業まで通うのはどうでしょうか? 寮がありますので、入寮すれば、払う額はこの程度です」


 電卓を取り出してぽちぽちと計算し、出た表示を私に見せる。そこに書かれていた数字は想像以上に安く、そこらの安いホテルに一泊するよりも下手したら安いかもしれない。


「ずいぶん安いですね? それは入寮料だけの値段ですか?」

「そうですね、ですけど、これが我が国の留学制度なのですよ。もともと学費は無料ですし、ある程度は国が保証しますので。あ、決まりとして学内バイトを一つしてもらいますが、給料はちゃんともらえますので」


 なかなかにいい話ではある。断る理由もない。問題はこの学校が留学生を快く思っているかどうか。通い始めていじめになんか会いたくない。それで追い出されたら、私は外で凍え死ぬかもしれない。


 生徒たちが留学生をどう思っているのか聞いてみると……。


「この国は外国の方も多いので大丈夫ですよ。たとえ不登校になっても、少し面倒な書類を書く程度で追い出したりはしません。どうです? 学年末テストに合格できたら卒業資格をもらえますし、それは周辺国でも通用しますよ」

「分かりました。それでお願いします。寮にはいつから入れますか?」

「手続きが終わったら、すぐにでも入れますよ」


 とりあえず春が訪れるまでは無事に過ごせそうだ。

 受け取った書類に受け取ったボールペンで必要事項を書いていく。


 最終学歴の欄でペンが止まる。私は一応高校卒業程度の試験に合格しているのを思い出した。

 私の故郷では高等学校卒業程度認定試験というものを採用していて、私はそれに合格している。おかげでその先の学業にも進むことができるわけだが、高校を卒業したわけではないので最終学歴の欄には中卒と書いた。


 高校に通っていたわけではない私は新入生扱いになるのでは? と思ったが、教師に話を通して、転校生扱いとしてくれるらしい。


書類を書き終わり、アンナさんが国のお偉いさんに承認をもらいに事務所を出て行った。

待っている間にどこか観光に行っても連絡手段がない私はここを出られない。寮の場所も分からなければ、いつ留学生として認可されるのかも分からない。


 冷え切った体を温めるにも最適なこの事務所で紅茶を飲んでアンナさんの帰りを待つことにした。


 二杯の紅茶に一回のお花摘み。小説を五十ページほど読み進めると睡魔が襲ってくる。三十分ほど椅子に座ったままウトウトしていると、寝落ちする前にアンナさんが帰ってきた。


 一日と待たずその場で無事に承認されたらしく、これから寮を案内してくれるらしい。


 事務所を出て、防寒をしっかりしたアンナさんの後ろについて行く。

 雪かきされた道路は歩きやすいかと思ったが、想像通りとはいかず、凍っていて逆に滑りやすくなっていた。


 幾度か氷に足を取られてしりもちを着きそうになるが何とか踏ん張る。

 国に入れば問題ないと思っていたが、どうやら雪国をなめていたらしい。取り外したスパイクをブーツに取り付ける。

 それから、地面にしっかり足を付けてゆっくり歩いた。


 アンナさんは慣れているのかサクサク進んでいる。私のペースに合わせて進んでくれるのでありがたい。


 赤い壁の建造物が道路を囲うようにそり立つ街並み。道を行く人々のほとんどが金髪。私の薄い青の髪色に近い銀髪の人も多く、私という存在は故郷に比べて浮いていない。それでも確かに違う私の髪色は一体どこからきたものなのだろうか?


「ここがあなたの通う高等教育学校、第二高校です。まあ、二か月と少しだけですけどね」

「しっかりした外壁の学校ですね」


 雪のように白い外壁の学校。迫力はないが外壁に力を入れているのが分かる。

 今は冬期休暇らしく、寮に人がほとんどいないが学食はやっているらしく食事に困ることはない。


 寮母さんに挨拶を済まし、私が住む部屋に案内してもらう。

 四階建ての三階、そこの一番端、305号室に案内された。三階は留学生が住む階らしいが住んでいる人はいない。つまり、留学生は今のところ私一人だけのようだ。


 間取りは2DKと一人で過ごすには十分な広さ。ベッドや簡単な家電は備え付けで後から揃える必要はない。

 制服や必要な教材は後日届くようで、私の初登校は四日後だそうだ。


「何かあれば私の所に来なさい。アンナってありふれた名前だけど、私だけだから通じるし、大抵のことは対処できるから」

「ありがとうございます。暇なときにでも話し相手になってもらおうかな?」

「私が仕事していることを忘れないでよね」


 私とアンナさんは他に誰もいない三階で笑う。

 アンナさんとは移動中に話している間に意気投合して、年は少し離れていても仲のいい友達になった。


「じゃあ、またね」

「はい、また暇なときにでも国を案内してください」


 そうしてアンナさんは部屋を出ていった。

 私は荷物を置いて椅子に座る。出入り口で履き替えたスリッパを足で弄ぶ。


 しばらくそうしてぼうっとしていたが、半日雪をかき分けて歩いた疲れがどっと出てきて、大きなあくびが出る。


 気が付けば夜。夕食はアンナさんのおごりで外食したため、食堂に向かう必要もない。そうなると、手持ち無沙汰でやることがない。小説でも読もうかと思ったが、すぐに寝落ちするのは目に見えている。


「少し早いけど、シャワーを浴びて寝ようかな」


 使い方の分からないシャワー室を懸命に操作し、熱いシャワーを浴びた後は歯を磨いてベッドにもぐりこんだ。


 疲れがベッドに吸収されるように全身の力が抜けていき、私が夢を見るまでにそう時間はかからなかった。

お久しぶりです。今回は学校に通いますがいつもとあまり変わらなかった気がします。


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