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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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EX:これも終末3

今回は視点が変わります。

「行ったのう」

「それで、かっちゃんはどこにするんだ?」

「まさと、まだ、おったんか」


 澪が森に消えた後、かっちゃんこと「かつと」と親友の「まさと」は残っていた。

 時間は残り二十五分。二人ともあまりゆっくりしている暇はない。


「大抵のやつらは自分の家だが、俺は仕事場にするつもりだ」

「ワシは……教室かの」

「教室といっても先生の家だけどな、学校もいわばこの集落全部が学校でグラウンドだし」

「そうじゃったのう。当たり前のことで忘れとったわい」


 二人して陽気に笑う。その姿はまるで学生時代のまま。竹馬の友といえる二人がそのまま成長した姿。


「そんじゃ、俺はもういくぜ。最後に一仕事残っているからな」

「お、遂に完成するのか?」

「ああ、みなに見せられなかったのは残念だが、俺たちの中にすべて残っているものだからな」

「まあ、相棒の完成品をあの世から見るとするかのう」

「あの世まで持っていってやるよ、楽しみにしてろ、相棒」


「じゃあな、またいつか」と、二人はお決まりのあいさつで別れる。まさとは仕事場へ、かつとは教室へ。


「それにしても八十年前の占いを今日、実現できてよかった。未来を担う子の未来が不幸で終わるのは悲しいからのう」


 今日、あったことは遥か昔に書かれたシナリオだった。途中、ばらばらになったこともあれば、暁の死によって予定が変更になりそうでもあったが、澪のおかげで無事に最後までやり遂げたと、かつとは満足している。


かつとたちの学校、もとい担任の家にたどり着く。何年も放置されてぼろぼろの空き家と化しているが、かつとたちがここで勉学に励んでいたことは確かだ。

 生徒全員が入れるよう改造された広い座敷。畳を一人半畳で分け合い、ノートと鉛筆一本を持って座って先生の話を聞いていた。


 かつとはかつての席に立ち、昔、まさとが壊して脚が一つない教卓に向かって一礼。


「本日をもって、私たち十四名は卒業します。今までお世話になりました!」


 この言葉に老人臭い話し方はない。若者らしい言葉遣い。


『なんだ、ちゃんとした言葉遣いができんじゃねえか!』


「……先生? ……幻聴かのう?」


 かつとにはかつての恩師の言葉が聞こえた気がした。そして、幻が見えた。


 八十年前と少し。学生だったかつとたちが教室ではしゃいでいる光景。

 窓際では、かつととまさとが喧嘩している。女子は集まってファッショントーク。男子は手作りのコマで対決中。

 あまりの懐かしさに目が眩む。もう、残り時間はわずか。


「今日は年度末、明日から新年度。生きてみたかったのう。明日はワシの百歳の誕生日じゃったのに」


 かつとはその場に座り、頭を垂れた。


「目標に向かって進み続けた……悪くない人生じゃったのう」


 その態勢のまま、電池が切れたようにかつとは動かなくなった。






 まさとは仕事場に急いでいた。

 これからやることはいたって簡単。やろうと思えば数分で終わる。

 だが、それ故に急いでいた。完成したものを目に焼き付けるため、自身の人生を振り返るために。


 まさとの仕事というのは写真である。強面には似合わない職業と言われてきたが、まさとはそれでもカメラを愛した。


「かつとの野郎、昔はファインダーをのぞいた姿が似合わないからやめろ、なんて言っていたが、俺はやり遂げたぜ、これが最後の一枚だ」


 先ほどかつとに会う前に現像し終わった一枚を手に取る。今日の誕生日会での集合写真がそれには写っていた。


 その写真を持って、見上げるほどの広い倉庫に急ぐ。

 重い扉を開けば、正面の壁いっぱいに大量の写真が貼り付けられている。それも百枚や二百枚ではない。驚きの一万枚である。


「これで……完成だ!」


 脚立をのぼり、丁度壁の中心に集合写真を張り付ける。貼り付けた写真が落ちないことを確認してから脚立を降りる。

 そして写真の張り付いた壁を見上げる。


「ああ、これが俺の人生だ」


 感動に浸るまさとの思考は若かりし頃のクラスメイトが集落中を駆けまわっていた。


 一万枚の写真が貼り付けられた壁はモザイクアートとしてそこに現れていた。


 かつてまさとたちが学生を卒業する時に撮った集合写真。それを一万枚の写真で表現していた。


「俺は写真家として、俺たちの軌跡を残した。この写真たちを見る者はいないだろうが、それでもいい。俺たちがここで生きてきた証明になるのなら、これは俺のすべてだ」


 小学入学時に渡された一台のフィルムカメラ。それに夢中になったまさとはフィルムが無くなるまで撮り続けた。

 父からバイト代として少量のフィルムを貰っていたが、その日のうちに使い切ってしまう。


 節約することを覚えてからは使い切ることがなくなったが、それでもいつかは尽きる。


 畑仕事と両立しながら、占い師としての姿を隠して街に赴き、時には写真撮影の仕事をしながらフィルムを手に入れていた。


 街の写真屋にはいつの間にか常連扱いされ、まとめ買いで安く提供してくれたのは貧乏なまさとにとって嬉しい誤算だった。


 何十年も通い続け、その写真屋は最近、遂に閉店。もうフィルムを手に入れることはできなくなったが、まさとには残り一枚あれば十分だった。


 過去に撮ってきた写真は一万三千枚。モザイクアートを完成させるのには十分であり、最後に完成させるための写真も決まっていた。


「お前もお疲れ様だ」


 何十回と修理したフィルムカメラはいくつも破損個所があり、持つ力加減一つで彩度が変わるほどにぼろぼろだった。

 それでも長年にわたってまさとと人生を歩んできた相棒。修理不可にはならず、最後まで役目を果たした。


「あれは……もしかして!」


 まさとは倉庫の隅に何か落ちているのを発見する。

 それを拾い上げて確信する。それは未使用のフィルムだった。


「まだ、あんじゃねえか! これで……あいつらにこれを見せられる」


 慎重な手つきでカメラにフィルムをセットし、壁のアートをカメラに収める。

 数枚撮ろうと思っていたまさとだが、ここでカメラの異変に気付く。


「あれ、動かねえ……。そうか、お前も寿命だったか。だが、安心しろ。お前も連れて行ってやる」


 役目を終え、力尽きたカメラの中にはしっかりと壁のアートが焼き付いたフィルムがある。

 それが分かっているだけで充分だった。


「あっという間だったな……。人生も……この残り時間も」


 壊れたカメラを抱いたまま、モザイクアートの下に座る。

 そして、最後の力を振り絞って、右手を拳にして突き出した。


「あの世でまた会おうな! みなで集まったら、俺の最高傑作の一枚……見せてやるからよ。楽しみにしておけ!」


 叫んだ後、突き出した右手は重力に従って落ちていき、そのまま動くことはなかった。

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