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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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二つの命23

出国してから二時間ほど歩き続けた。ルートにもよるが、ここまでくると辺りに誰もいない。

国もないただの瓦礫道。整備された道路を歩きすぎたせいか、この瓦礫道が普段よりも鬱陶しく思える。


 しばらく歩くと名もない山の麓にたどり着く。

 どこか適当な場所を見つけて『命』を埋める。そのためにここまでやってきた。だが、埋めるためには片付けなければならないことが一つある。


 国を出てからずっと私のことを付け回しているストーカーがいるようだ。相手は一人。隠れるのは得意ではないのか尾行にはすぐ気付けたが、追いかけてくる足取りにはどことなく力強さがあった。


 私が山に入れば、ストーカーも山に足を踏み入れる。目的は間違いなく『命』だろう。

 辺りを見回しながら山を登る。途中、道を外れて崖になっているような道も危険を顧みず進む。


 山の中腹に開けた場所を発見した。近くに崩れた山小屋があり、雑草が生い茂る畑や井戸もあることから昔は誰かが住んでいたと推測できる。


 ここに埋めるかどうかは別として、まずはストーカーをおびき出す。そのためにリュックから『命』が入ったケースを取り出す。木が生い茂る足場が不安定な所に投げ入れれば簡単には見つからないだろう。

さっそく投げ捨てようとする素振りを見せる。


「まった!」


 そのとき、後ろから慌てた様子で若い男が姿を現した。動きは見るからに軽やかで、あっという間に間合いを詰める。


「こんにちは、ストーカーさん」

「チッ、気付いてたか」


 気付かない方が難しいだろう。それに姿を現したらストーキングの意味がないだろうに。

呆れてため息を吐く。


「ご用件は?」

「そいつを渡して貰おうか」


 やっぱりこれか。ということはあの貴婦人の差し金ということで確定だろう。

 それにしてもたった一人、それも馬鹿そうな人がストーカーしていていたのはどういうことだろうか。


「あなた、一人なんですね」

「ああ、他の奴らに手柄を横取りなんてされたくないからな、独断で追いかけた」


 この男が実は頭が切れて私を騙そうとしているなら別だが、他に追手がいないことを教えてくれたのはありがたい。

 それにしても私がオークションに参加した人だと気付けるとは流石はお金持ち。


 男は素早く動けるみたいだがドロップアウトしたのか筋肉が少し弛んでいる。動きと見た目が合わない相手でどことなく動きが気持ち悪い。無駄に舌なめずりをする行為には鳥肌が立ちそうだった。


「分かったらそいつを寄越せ。痛い目には遭いたくないだろう?」

「これを奪ったら私を性欲の赴くままひどい目に遭わせるということね」


 なんとなく余裕ぶって挑発してみた。これで恥ずかしがる行動を見せてくれればこの後の行動も決まってくるのだが。


「は? それがいいならそれでいいけど、あんたチビだし顔に傷持ちだしな、そういうことは胸がでかくなってから言いな」


 ……別に怒っていない。こういわれるのも想定内だ。これから成長するから大丈夫。


 男が拳を握って素振りを始める。どうやらボクサーのようだ。振られる拳のスピードは速く重く感じる。素人が見ただけでわかるのだから相当だ。直撃したら骨はあっさり砕けるだろう。


「ま、どうしようが俺の勝手だ。こんな山の中で助けを呼ぼうが誰も来ないさ」

「そうね、助けを呼んでも誰も来ないでしょうね」


 私の感情の温度が少しずつ下がっていく。冷酷になっていく感覚、これには死に神が鎌を振りかざして相手を待ち受ける。そんなイメージがあった。

 だから私は鎌を振りかざす死に神そのもの。来る者拒まず鎌を振るうだけ。だってそうでしょう? 私はそれで不幸をばらまいているのだから。


「女のガキ相手に殺しはしない。ただ、一発くらいは我慢してくれよ」

「やっぱりそういう意味ですか?」

「黙れ! 殺されたいのか!」

「どうぞ、ご勝手に」


 言っていることもでたらめに男は拳を構えたまま突っ込んでくる。私は銃を引き抜こうか迷ったが、とりあえず様子を見た。

 もちろん能力で私の体は透過する。男は私の体をすり抜けて後ろでたたらを踏んだ。ギリギリで耐え、すぐにこちらを警戒する辺り、プロ意識はあるんだと感心した。

 それにしても私のこの透過能力は非情に卑怯だ。相手の考えも努力もすべてを否定する。


「何をした?」

「見ての通り何もしてませんよ」

「そんなわけがあるか!」


 男はまたしても突っ込んでくる。今度は力任せの一撃ではなく、その場でジャブを繰り返す。

 当たらないのは分かっているはずなのに、必死な顔で何度も拳を急所に突き出してくる。正直鬱陶しい。

 私は隠し持っていたナイフを男の拳に合わせて、突き出した右腕の付け根に下からえぐるように突き刺した。これでこの男の腕は使い物にならない。

 相変わらず私の扱う物には実態が伴う。本当に卑怯だ。


「ぎゃあああああああ!!」


 男はその場に崩れ落ち、醜く転げまわる。どくどくと血が流れ出て、辛そうに悲鳴を轟かせる。

 こんな悲鳴を聞くのは何度目だろうか。今までにも盗賊や人さらいなど、私に敵対する者には容赦なく銃で撃ち、ナイフを突き刺した。


 転げまわって叫んでいる男に乗っかり反対の腕にも同じようにナイフを突き刺す。

さらに男の脚を踏んで押さえつけ容赦なくアキレス腱を切る。

 切ったときのゴムがはじけ飛ぶような音は何度聞いても不快だ。耳栓をしながらやればよかった。


 両足の腱を切ってから男を開放する。もう男には私を襲う力は残されていない。

 相手が襲ってこようとも、死に神は鎌を振るうだけ。それで相手がどうなろうと私の知ったことではない。相手が襲ってきたのが原因なんだから。


 アキレス腱が切れたときはそれほど痛くないって聞いたけど実際どうなのかは分からない。切ったときに余計泣きわめく人はそれほどいなかった。ナイフで切られた程度にしか痛くないのだろうか。


 男は過呼吸になりながら傷口を必死に抑えている。貫通するほどに深々と刺さったナイフを捻ってから抜いたのだから、骨も軽く砕けてかなりの激痛だろう。出血もひどい。


 反撃してくる様子はないのでこれ以上痛み付けることはしない。それに根は良い人そうなので大丈夫だろう。


「あなた、元はどこかのお坊ちゃんか何かですか? 口調がところどころ丁寧でしたし、私を殴るときも手加減していましたね。素振りの時のような勢いはありませんでしたよ」

「俺は……悪党だ!」

「自分で言っている辺り図星ですかね、ボクシングに自信があったから用心棒として雇われた……そんなところでしょうか?」

「ち、ちがう……俺は生粋の、悪党……ウッ」

「痛いでしょう? 早く治療しないと死にますよ」


 私はナイフに付着した血を拭き取り、外からは見えないように仕舞った。

 リュックに『命』を片付け、山を下るために元来た道へ体を向ける。


「た、助けてくれ!」


 歩き出したところで男が地面にうつ伏せで這ったまま私に助けを乞う。男の言葉に特段大きなため息が出る。


「助けを呼んでも誰も来ませんよ」

「あんたが、俺を助けて……くれ」


 息も絶え絶えでそれでも私に助けを乞う。私は足を止め男に振り返る。


「助けは来ないってあなたが言ったじゃないですか」

「あんたが……いる」

「ですから、『誰も』助けに来ないって」


 強調して言ってあげると、男は観念したように仰向けになる。付近には血だまりができていて、いずれ出血死するだろう。


「あなたは悪党に向いていませんよ」


 男は助けを乞うことも叫びをあげることもなかった。

ここは静かな無人の山、その中腹で人が倒れているなんて誰も思わない。


 ……あの男は私が殺したのだろうか? いや、今更の話だ。これまで同じことは何度も体験している。今更そんなことを考えても意味がない。


 山の麓にたどり着く。結局捨てられなかった円柱のケースを取り出し、厳重なロックを一つずつ解除していく。

 時間はかかりつつもあっけなく取り出せた『命』の手触りはしっかりと磨かれた翡翠の宝石の様。人間の命とほぼ同じ大きさだが形は歪みのない綺麗な球体。簡単には壊れそうないほど頑丈そうだが、どうやって移植するのかは分からない。


 こんなよく分からない物に分かっていて頼ろうとしていたのだから私が愚かだ。


 ケースに『命』を戻すが不思議なことにケースの中心で浮いている。どういう仕組みなのか想像もできないが、私の知らないことはまだまだあるのだと思い知らされた。


 私は本当に世界のことを知らない。目の前にあるこのケースすら私にとっては未知の存在だ。


 ……知らないことがあるのなら、それを知っていく旅をしよう。すべては学べない。旅を終えたとき知ったことはこの世の一割にも満たないだろう。それでもいい、知らない方が楽しいさ。


「……私って何がしたいんだろう?」


 旅に出た目的って何だっけ? ナイフで人を刺したのはいつが最初だっけ? 右目はもうない。最初に見た未来って何だっけ?


 前髪を触ろうとしてバッサリと切ってしまったことを思い出す。眼帯をしてその内側には義眼が埋め込んである。

 義眼があるとはいえ何か物足りない。右目の問題ではなく、精神的な問題。何か抜け落ちた感覚が拭えきれなくてどこか気持ち悪い。


 代わりになるものはないだろうか?


「……そうだ、未来が見えなくなった分、死に神の力を受け入れてしまえばいい」


 そうすれば、私のどこかに空いた穴を埋められる。勝手に暴走するくらいなら私の意思で鎌を振り下ろそう。


 私を待っていてくれる人たちがいる。私が覚えていなければならない友がいる。


 ここで私は死ぬわけにはいかない。私に向かってくる敵がいるならば、容赦なく鎌を振り下ろそう。それが私の生き方だ。


 私の行動を邪魔したあの男がこうなることは必然だった。私は鎌を振り下ろしたのだから。


「私は私のために旅をする」


 私は目的を果たすために旅をする。それがいつ達せられるかは分からない。身を守る術は持っていないが、死に神の鎌があればそれで十分だ。


 私の旅はまだまだ始まったばかり、苦難はこれからもやってくる。私はそれらをことごとく乗り越えてみせよう。


 顔を上げ、目的を果たすべく一歩を踏み出す。


 世界中に散らばる瓦礫の山。それを乗り越えるべく私は次の国へと歩き出した。

ひとまず二つの命編は完結です。

初心者丸出しの作品をここまで読んでくださった方には何と申し上げていいのか、感謝の言葉もありません。

続きはストックがたまり次第なのでいつになるかは分かりませんがEXかotherで間を繋ごうかと思っています。

明後日にotherを投稿予定です。

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