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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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二つの命19

 並木道を走り続ける。病院は見えているからあとはそこに近づくように進むだけ。

 ここに来るまでほとんど人には会わなかった。車と自転車が数台。つい先ほど親子だろう母とサッカーボールを持った男の子にすれ違った程度だ。


 私は走り続ける。息切れを起こし、足が痛くなってスピードが落ちてしまっても私は走り続けなきゃいけない。

 時間がない。一秒でも早く前に進むために足の裏に力を込める。


 たった一つの命を救うのがこんなにも大変だとは思わなかった。


私の行く先々で人があっさりと不幸になる。国は崩壊し、人は死んでいく。私の目の前で終末を迎える。それが当たり前だと思っていた。


神が私を通して人々に不幸をばらまき、世界を終末に導こうとしているのだと、そう思っていた。

でも、今回は違う。私が不幸から救ってあげられる。命の危機にある少女を私の手で救う手立てがこの手の中に残されている。


持って行っても間に合わないかもしれない。残酷な結末を見るくらいならこのまま国を出た方が幸せかもしれない。……それでも私は病院に向かって走り続ける。不幸を振りまくだけの自分に人助けの希望が残されている。

無慈悲に散りゆく命を私の手で守りたい。私を使い、手を汚さず傍観をしているだけの神を私は許さない。


「私が助けるんだ!」



……それだけでよかった。

……それだけが私の頑張れる力の源だった。

……それだけが神に反逆する唯一の方法だった。



……だからなのかな?


 右目が少しずつ熱を持っていくのが分かる。時間が無いのに、神は私に使命を言い渡す。


「私に未来を見せないでよ!」


 私の嘆きを無視し、右目は非情にも残酷な未来を映し出した。


「……ウッ」


 右目が疼いて熱い。毎度のことながら痛みに耐えかねてその場に蹲る。


 未来が見えることを察知できたのは今回が初めてだった。理由は分からないがこのタイミングで未来を見せてきたことに神からの悪意を感じる。

 今回見えた未来の映像は短い。


 それはトラックに轢かれそうになった男の子を私が飛び込んで間一髪で助け出した映像。

 その男の子には見覚えがあった。先ほどすれ違ったサッカーボールを持った男の子だ。来た道を戻ればすぐにでも追いつける。いつ事故に巻き込まれるのか今回はそれが鮮明で、私が走って戻り追いついた直後……今すぐ決断しなければ手遅れになる。


 右目の疼きが収まらず、全身も痛みを訴えてきた。震える手で痛み止めを取り出し、それを口に放り込む。残っていた水を飲み切ってふたも閉めず乱暴にしまう。


 ここが分かれ道だ。私が今見えた未来を無視して病院へ向かえば私は神の定めた運命を変えたことになるだろう。

これも反逆の一手なのかもしれない。でも、そうするとあの男の子は? 私が介入しなくて男の子は助かるの?

こんなジレンマに陥りたくなかった。私が最優先ですることは病院へ急ぐこと。私の目的は不幸に会う人を救うこと。


頭痛のような痛みに頭を抱える。だがその痛みは薬によってすぐ収まった。迷っていても仕方がない。冷静になった頭で決断する。


「男の子を助けて病院へ急ぐ!」


 誰でも思いつくような簡単な答え。そしてこれが現状の最適解。

 ……なんであのタイミングで未来が見えたの?


 そんな疑問が頭をよぎるが今の私に考えている余裕はなかった。


 私は通ってきた道を逆走する。今は時間が惜しい、全力で走ってあの親子まで急ぐ。


 しばらくして親子を視界に捉える。トラックの姿はないがカーブ先の奥は木が重なっていて見えない。

男の子がサッカーボールを手から滑らせて歩道から車道に転がっていく。その光景を目にした瞬間、私の思考は加速した。

 世界がゆっくりと動きだし、一瞬で考えを整理する。


(サッカーボールを取りに車道に飛び出る男の子……奥は急なカーブ……木で先が見えにくい……)


 私は走りながら荷物を地面に捨て、サッカーボールに気を取られている男の子に飛びついて数メートル転がった。

 ――直後、トラックが私たちのすぐそばを通り抜け、すぐに停車した。

 運転手が慌てた様子でトラックから降りてきてこちらに駆け寄ってくる。私の腕の中にいる男の子は状況が理解できず目を回していた。


「後はお願いします」

「え、きみは一昨日の――」

「安全運転ありがとうございます。怪我はないので心配無用です」


 男の子を運転手に預けて私はその場から離脱する。荷物を拾い、また走り出す。

 男の子の母親がこちらに駆け寄ってきたが相手をしている暇はない。代わりに軽く手を挙げてほほ笑む。何かを察してくれたのか頭を大きく下げて私を引き留めることはしなかった。


「お願い……間に合って!」


 これだけ走っているというのに、脚の痛みや呼吸の乱れは無い。まるで体が疲れることを忘れているようだった。だから、私の背中を流れる冷たい汗の存在も忘れさせてくれると思ったのに……。

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