喪失者3
あれから二日過ぎたが特に面倒ごとに巻き込まれることなく国の観光をした。
時折、見下すような目をしてくる人や格下だと思って話しかけてくる輩はいたけど、そんなときは自慢の逃げ足でどうにかした。
そして今日はお気に入りの小さな斜め掛け鞄と緑色のワンピースを着て、この国で一番活気があると噂の商店街に来ていた。
商店街に行く前に国内を歩き周って思ったのだが、移動がすごく快適だ。
身体の不自由な人たちが暮らす国なだけあってバリアフリーは完璧に施されている。
階段はなくスロープがメイン、ほとんどがエスカレーターやエレベーターで、車いすでもそうでない人でも街中を同じペースで移動できている。
それほど大きい国でもなく障碍者しかいないから自動車は製造すらしていないらしく、自転車も少数だった。
年齢、性別、障碍、体格に関係なく皆が使えるユニバーサルデザイン? といっただろうか、そこかしこに使われたそれは私にも使いやすくなっていてちょっとした感動を覚えた。
国中が過ごしやすい場所で溢れていて、たどり着いた商店街では廃れる気配のないほどにお店が多く並んでいる。
かき入れ時なのか、それぞれのお店からは活気ある声で客に呼び掛けていた。
「お嬢ちゃんはこの国に来たばかりかい? これ持っていきな!」
そんな商店街を歩く私もお客の一人だった。
身体の軸が若干左に傾いている果物屋の店主は、品物を物色していた私に林檎を2つ手渡してくれる。
「ありがとうございます。ここは活気があっていいですね」
「そうだろう! ここは国で一番人の集まる場所さ。王のつくったくだらない制度なんざくそくらえだ、ここは全員が平等な場所なのさ」
「国は認めているのですか?」
あんな制度をつくる王だ。この商店街のような素敵な場所が存在していることに何か理由があるかもしれない。
「いいや、国はこの商店街を認めていないはずさ。なんせここにいる奴らは全員王に逆らっているようなものだからな」
「どういうことです?」
「さっきも言ったろ? 全員が平等だって。国からの介入はないが制度をガン無視しているからな、王には気に入らない所なのさ」
王は気に入らないけど国の介入がない商店街……なるほど。
「この商店街には国が手を出せないほどの何かがあるのですね?」
「その通りさ。この商店街は国一番の収入源になっているんだよ、王にとっても小遣いが降って湧く場所なのさ」
「もしかして税金ですか?」
「そう、この商店街は店舗が数えきれないほどに大きくなっている。そうなれば国に入る税金もどんどん増えていく。王はここが気にいらなくても潰せば金が入ってこなくなるから、それだけ代えがたい価値がこの商店街にはある訳だ」
「なるほど。いろいろ教えてくれてありがとうございました」
「おう! 国を出る時にでもまた来てくれ。サービスするぞ」