二つの命16
眠気を必死に我慢し徹夜して看病をした。汗を拭いたり布団をかけ直してあげたり、夜中に大きな問題は無く、あいちゃんが大切にしていたコンパクトケースを握って祈るように過ごした。
朝日が昇り始める。不思議と眠気はなかったが、ママさんに仮眠室へ連れていかれてそのまま少し眠るよう命令された。
今日はオークションで『命』が出品される日。夜に行われると思ったら昼間に開催されるそうだ。
パパさんはその準備で慌ただしく昨日から動き続け、それでも隙間時間を見つけてはあいちゃんに会いに来ていた。
ママさんは私と同じくあいちゃんの看病。車いすではパパさんに手伝えることがあまりないのだという。
そして今は病室で待機中。一度朝の九時にパパさんと病室に集まることになっているが、パパさんが来ない。すでに三十分も超過している。
代わりにやってきたのは、あいちゃんの担当である看護婦だった。
「八代さん、これを」
「この手紙はどちら様から?」
「すみません、私には分かりません。ただ、渡してくれと……」
ママさんは渡された手紙を開き、文字を目で追った。しかし手紙を持つ手は読み進めるごとに震えていき、最後には手紙を膝に落とした。
「ど、どうしたんですか!?」
「……つかささんが拉致されました」
「え!?」
つかささんが? あいちゃんのパパさんが拉致された!? 一大事じゃないか、早く見つけ出さなくては。
「つかささんの居場所は分かっています。ただ、そうすると……」
「オークションに間に合わない」
直感的に理解した。パパさんはすぐに助け出すことのできない場所にいる。
あいちゃんとパパさん、どっちを救うか……そうじゃない! どっちも救わなければいけないんだ!
「でも、どうやって」
「七瀬さん、一つお願いがあります」
そう言ってママさんが取り出したのは、この国で最も大きな銀行のカード。
「オークションに行ってきてもらえませんか?」
「ええ!?」
「もちろんそのために必要な物はこちらで準備します。今から準備すればギリギリ間に合うでしょう」
「ま、待ってください! なぜ私なんです? パパさんの部下とかではダメなんですか?」
「あの人たちは愛唯のことを何も知りません。何も知らない人に億単位のお金を渡すことはできません。その点、七瀬さんなら事情を理解しています」
なんとなくそれは嘘だと分かった。あいちゃんのことを知らないなんてことはありえない。ママさんが言っていることは屁理屈だと思うが、もっとも信頼できる人として私を選んでくれた。
あいちゃんのそばを離れたくない。『命』にかかわりたくない……しかし、今動けるのは私だけ。
私なら拉致されそうになっても『あれで』対処できる。
「分かりました。何としても手に入れてきます」
それからママさんにオークションについての説明を受け、一度宿に戻った。
パパさんの女性部下が運転する車で宿に戻り、フロントから荷物を受け取る。
車に乗って宿に戻ってくる間に、私のサイズに合ったドレスを届けてくれるのだから、仕事の速さに驚いた。
部屋に戻り急いでシャワーを浴びる。カラスも驚きの行水で素早く体を乾かす。部下に手伝ってもらい、私の髪色に似た青いドレスを身につける。
ドレスなんて仰々しいと思ったが、この国において、お金持ちのオークションでは男性はタキシード、女性は豪奢なドレスが正装なのだそうだ。
前に貰った香水の赤い方を取り出し、清潔にした膝の裏に少しだけ付けた。
ほんのりと甘い香りがする。匂いを誤魔化したいわけではないがこういう場くらいしか使用する機会がない。
私だとばれないようになのか金髪のウィッグも用意されていた。ありがたく使わせてもらう。簡単なメイクをしてもらい、ウィッグのせいで出てしまった右目を隠すために蝶の形をした紫色の仮面で誤魔化す。目元はサングラスのようになっている。
用意ができたのならすぐにでも会場に向かう。宿の玄関を出る時に珍しがって何人もの宿泊客が振り向いたり立ち止まったりしたが、私だと気付く人はいないだろう。
部下の車に乗り込みすぐさま出発した。オークション開始までにはギリギリ間に合いそうだ。




