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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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二つの命13

 帰りにお見舞いに行こうかと思ったがそんな気力はなかった。あいちゃんと話したいことはいっぱいあるが私のメンタルは思っていた以上にお豆腐のようだ。


 自転車は宿のフロントで聞いたところ、裏の駐輪場に置いてよいとのことだったのでありがたく利用させてもらった。

 いっそ返してしまおうかとも思ったが、移動手段に自転車は快適なために期限までは借りることにした。


 買った本をベッドに寝転がって読み耽る。

何かに集中すると時間の感覚が鈍ってしまい、いつの間にか小説の文字が読みづらくなるほどに部屋は薄暗くなっていた。


「こんな時間か」


 時計を見れば、日は落ちて部屋が薄暗くなるのにも納得の時間だった。

 部屋の明かりを点け、同じ態勢でいたために凝り固まった体を少しずつ伸ばす。大きく腕を上に伸ばして全身を震えさせる。

 ……筋肉が伸びていく感触が気持ちいい。そのままベッドに倒れ込みたくなる。


 そんなことをすればたちまち睡魔が襲ってきて夢の中に吸い込まれるのは目に見えている。ここはグッと我慢して散歩にでも行こう。


 夕食までは時間がある。外の冷えた空気に当たるのもいいだろう。


 季節は冬、雪こそ降っていないが寒いことに変わりない。昼間でも空気は冷えて厚着を必要とするが夕方はそれ以上。少なくともマフラーは必須だ。


 ここ最近になって後悔し始めているが、どうして冬が近い時期に旅なんて始めてしまったんだろうか。


 今更後悔しても遅いことは分かっているが一度考えてしまうと引きずってしまう。

 マイナスな気分も払拭するために散歩で気晴らしといこう。

 朝と同じフロントの人に散歩に出ることを伝えてから宿を出る。夕食も朝食と同じく多少遅れても問題は無いそうだ。


 夕方の綺麗に晴れた暖色の空は、寒色で覆われた私のこころを塗りつぶしてくれる。

 マフラーをしっかり首に巻いて手袋も忘れない。素肌を顔意外隠して街を歩く。

 夕方の観光は入国初日以来だ。あの時は宿探しで観光らしいことは出来ていなかったから、夕方にゆっくり街を見るのは初だ。


 しばらく歩いていると、昨日のフリーマーケットの通りまでやってきた。

 夕方になると人はほとんどいない。大体が店じまいをしていて通りは閑散としていた。


 賑わいあっているのが当たり前だと思っていたこの場所も閑散とするのだなと、いたってシンプルな感想が出てくる。人がいなくなると狭くて通り辛かったこの道もいまや物足りなく思えるほどに。


 じゃあ、どのくらいがちょうどいいかと聞かれたら答えることはできない。人それぞれの感情が入り混じる疑問に答えなんてないのだろう。


 今回はただの散歩。何かを購入する予定はないし急ぐ必要もない。財布を持ってきているが取り出す機会はないだろう。


 寒空の下をぼちぼち歩いていると薄暗い路地にたどり着いた。ここは以前に通った路地と同じ……夕暮れも相まってより不気味さを増している。

 街灯は少なく道も狭い。前ほど人はいないが私のことをじろじろ観察してくることに変わりはない。


「……ここだ」


 フリーマーケットの通りに来てしまった時点でここに来ることは必然だったのかもしれない。

いつかここに戻ってくる気はしていた。


ここは怪しげな老人が意味不明な石を売っていた場所に繋がる通路だ。


 人ひとり、それも私が体を横にして通るような狭い通路。この時間では奥にぼんやりと明かりを灯す街灯が一つだけ。通路は真っ暗で足元は闇で支配されていた。


 なんとか狭い通路を抜け、ほんの少し開けた場所に躍り出ると、そこには前と同じ老人が同じ態勢で居座っていた。

 並んでいる商品に変わりはなく、相変わらず用途不明な物ばかりが置いてある。


 私がなぜここに来たのか私でも分かっていない。老人が最後に告げた商品……『命』についてもう一度話を聞かなくてはと心のどこかで思っていたのかもしれない。

 あれのどこが気になるのか、私が知ってどうなるのかは分からない。……分からない事だらけだが、あの商品だけはこの国の何よりも私の興味を引いた。


「命について教えてくれますか?」

「…………」


 老人は黙り込んだまま。眠っているのだろうか。肩を揺さぶって確かめてみようか。そう思って手を老人に伸ばした瞬間、老人の口が開いた。

 突然の動きに驚いて伸ばした腕が反射的にはねた。


「……何が知りたい」


 前来た時と同じくしわがれた声。どうやら私が質問しない限り答えてはくれないらしい。


「どこで手に入れましたか?」

「……神から賜った」

「使い方は?」

「……心を転写する」

「どうやって?」

「……………」


 老人は答えない。答えたくないのか、はたまた答えられないのかは分からないが、聞いたところで理解できそうにない。


「値段は?」

「……売れた」

「はい?」


 売れた? 確かによく見ると命が入っていた円柱のケースが見当たらない。代わりに置いてあったのは五段にも重なった分厚いアタッシュケース。

 以前はなかったものにごくりと唾を飲み込む。だとすればあのアタッシュケースの中に入っているのはすべて……。


「あ、あなたがここでものを売っているのはなぜです?」


 話しの趣旨を変える。怖くなって命についてはもう触れたくなかった。関わると大変なことに巻き込まれる……そんな予感がした。


「…………」


 老人は口を開かなかった。寝ているのかも分からない態勢でただじっと俯いて商品を眺めていた。

 老人はもう口を開くことはないだろう……そんな気がした。


 私は諦めて立ち上がる。老人へは一度会釈してから背を向け、来る時よりも格段と闇の広がった狭い通路へと身を投じた。

もう一話連続で投稿します。

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