二つの命7
お昼ご飯は特に決めていなかったから、とりあえず繁盛していたカレーの専門店に並んでみた。意外と待つことはなくニ十分もすれば席に座って落ち着けた。
辛さを自由に選べるらしく私は下から数えた方が圧倒的に早い位の辛さを注文する。私は甘党ではあるが、せっかくのカレー屋で甘口はどうかと思ったので、せめて甘口ではないほどの辛さに挑戦する。
十分も待たずにやってきたカレーに対し「なんかお洒落な銀食器に美しく盛り付けてある」くらいの貧相な感想しか言葉にできない。
私に審美眼なんてものはないし、有名人がよくやる立派な食レポなんてもってのほかだ。それでも頑張って食レポにチャレンジしてみるならば――
「私の知っているカレーよりもスパイスが効いていて、口に入れた後のカレーが辛いというよりもそれが癖になる……うん、無理! 私にはできない……あ、辛い!」
後からやってきた辛さに悶絶し、急いで水の注いであるグラスへと手を伸ばす。そして、水を一気に口へ流し込む。
「ひりひりする……あ、でもスパイスのいい香りが……」
スパイスの香りだけじゃない。カレーのコクと旨味が口に広がっていく。口の中は辛くて痛い、なのに味を忘れたくなくて次の一口を無意識に運んでいた。
気が付けば器は空になっていた。幸福感に浸りながらも食器を持った右手は銀食器に付着している残りのカレーを意味もなく刮いでいた。
水をちびちびと飲んでいき、グラスが空になったのを確認してから会計に向かった。もう少し余韻に浸りたかったが、この後も寄る所はある。ずっとここにいるわけにはいかない。
「ありがとうございました! また、お越しくださいませ!」
店員の元気な声を背中に受けながら退店する。
そういえば気になって店員に聞いてみたところ、私が頼んだカレーの辛さは一般の人が食べる平均の辛さだったようだ。辛いのが苦手な人はもう二つ下の辛さで注文するらしい。
今となっては今回の辛さでよかったと思うが、これ以上の辛さは正直耐えられる気がしない。
昼時が過ぎても列は途絶えていないことは驚きだ。この中に一番上の辛さを耐えられそうな人はいないだろうか、そんな人がいたら一度お目にかかりたい。
「いるわけもないよね」
みなが選ぶ辛さの平均があれなのだ、ずっと上にある一番上なんてこの世の物とは思えないほどの辛さだろう。耐えられる人がいるわけない。
超人探しを諦めて次の目的地へと歩き出す。途中、カレー屋の中から叫びのような歓喜ともいえる声が辺りを震撼させたが、離れた所にいた私には何があったかは分からなかった。私には関係のないことだと振り返ることなく再び歩みを進める。
――後日、あの店で何かの記録が更新されたと国中の噂になった。
食レポなんてしたことないのでこれで勘弁してください。味覚音痴にはこれが限度です。




