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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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喪失者2

入国して最初に思った感想だが……。


「この国、この広場だけかな……なんか暗い?」


 たしかに雲はだいぶ分厚くなって陽の光を遮ってはいるが、国民の顔にはなぜだろうか、明るさがない。

 そこら辺で遊んでいる子供たちは楽しそうにしているが、大人たち……そう大人に元気がない。


「やああああああ!」


 国の城壁近くの広場を観察しながら歩いていたら、十歳に届いていないくらいだろうか? 少女とも思えるかん高い掛け声を伴いながら、少年はかなり遠いところから棒のようなものを右手で振り上げて走ってきていた。本当に木刀ではなくただの木の棒だ。

 少年はいったい何をたたき割ろうというのだろう? と思ったらその少年の目は真っすぐ私を捉えていた。


「私かぁ、この国の恒例行事って可能性は……ないよねぇ」


 警察官が気付いてもっと遠くからこちらに向かって走ってきているくらいだ、間違いない。というより警察官、すごい遠いんだけど、よくこっちに気付いたなっていうレベル。


「くらえええええ!」


 少年の声が広場に響き渡る。……しかしかなり遠い位置から。


「逃げてもいいけど、そうするとなぜ狙われたのか聞けないし、だけど警察官も遠いなぁ」


「ちぇすとおおおお!」


 だいぶ少年が近づいてきた。

 右手だけで振りかぶっていたから多分そうだろうとは思っていたが、この少年には左の肘から先がない。

 田中さんから話を聞いただけじゃあまり納得できなかったが、実際に見ると本当なんだなって納得できた。


「どうしようかな……とりあえず落ち着かせて話を聞いてみるかな」


 ということで私はお互いの距離が残り5メートル位になったところで、少年に対して大きく二歩『前進』した。


「え? あ、おわああああ!」


 まさか近づいてくるとは思っていなかったらしく、棒を振り下ろすタイミングを失った少年は右足を自分の左足に引っ掛けて棒を振り上げたままつんのめる。

 このままだと転んで怪我をしそうだから大きく手を開いて少年を抱き留めた。数歩後ろに下がって勢いを殺し、屈んで少年を地面に降ろして落ち着かせる。

 興奮している状態じゃあ何を聞いても意味がないだろう。


「落ち着いたかな?」


 数秒後、落ち着いたのを確認してなぜ私を狙ったのか質問しようと思ったタイミングで少年がゆっくりと鼻を赤くした顔を上げた。

 その顔は少し涙ぐんでいて、涙を拭いてあげようと思った直後だった。


「……固くて痛い」

「君を優しく受け止めるだけの柔らかい胸が無くてごめんね?」


 私の中の何かが、この少年の言葉でぶちっと切れた。しかし、相手はまだ十歳にも届いていないだろう少年。なるべく優しく、優しく……上手く笑えているだろうか? 


「あ、う……うわああああああごめんなさいいいい!」


 少年は私の『優しい顔』を見て、木の棒を落としたが拾うことなく叫びながら一目散に逃げていった。


「あれ? なんで?」


 上手くできたと思っていたがそうでもなかったらしい。今更やって来た警察官も私を見て引きつった顔をしていた。




 やってきた警察官に聞いた話、広場の大人の面持ちが暗かったのは失業して国を出ようかと迷ってここまで来るからだそうだ。

 少年については皆目見当もつかないという訳ではなかったが、警察官から話を聞き、なぜ私が狙われたのか教えて貰う。


 どうやらこの国における、私の立場は圧倒的に弱いそうだ。

 この国の差別制度は数年前から始まったらしいが、立場の弱い人を襲い、攫っていく。目的は判明していないそうだが、どこかの不良グループが王の真似事を始めたんじゃないか? ということらしい。


「あんな子どもでも私より立場が上なのね、あの少年の近くに仲間が何人かいたのかな?」


 少年の奇襲攻撃? が失敗した上に警察官がいたから逃げていった。そんなところだろうか。

 この制度に反対の人は多く、国全体に浸透していないこともあってそこまで酷な差別はされていない。

 しかし私を攫って何がしたかったのだろう? 次にあの少年に会ったら脅してでも聞いてみようかな。


 そんなことを考えていれば、夕方5時を知らせる音楽が鳴る。国民の雰囲気と相反して音楽はかなりポップで陽気なものだった。


 空は薄暗く雲も厚くなり、雨もほんの少しだがぽつぽつと降ってきた。雨が降るとは思っていたけど今まで降らなかったのは幸運だった。


「本降りになる前に宿を探さないと」


 すっかり忘れていた宿探しを始める。

 空の天気はいつ本格的に雨を降らそうかと迷っている様子で、びしょ濡れになる前に宿を見つけて今日はもう寝たい。なんか疲れちゃった。

 そのために、田中さんがオススメしてくれた、安くて良質な宿が集中している区画へ走って向かった。


 ちなみに宿のオーナーは親切な人で嬉しいことに少し安めで泊めてくれた。


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