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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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二つの命6

「ふぁーあ……」


 高級とは言えないが、ふかふかな布団から這い出る。備え付けの掛け時計を見れば朝の八時を指している。普段は寝袋ばかりで久しぶりの布団だからといつもよりも少し長く眠ってしまったが、おかげで快眠だった。疲れはすっかり取れて調子もいいのか体の傷も痛まない。

 寝間着を脱ぎ捨て、下着のまま洗面所の鏡の前に立つ。

 そこには白いレースの下着を身に纏った私がいる。そんなことは当たり前だが問題は肌が模様のように醜く跡になっていること。下着をずらしてみてもその下は同じように跡が肌を這ってできていた。


 下着姿のままリュックサックから昨日、病院で渡された薬を取り出し適量口に放り込む。

 カプセルタイプで苦くはない。ただ、水で飲み込んだ後に喉に引っ付いたときの気持ち悪さはいつになっても慣れない。


「……さむ」


 いつまでこんな格好でいるつもりだったのか、腕をさすりそそくさと部屋着を取り出して着替える。


 脱いだ服と薬を片付け布団を畳む。朝食は食堂でいただくことになっていて時間までは少し時間がある。

 顔を洗って歯を磨き、布団の横に置いてあった国の地図を広げる。病院からこの宿に着く前に買っておいたものだ。

 これは地図というよりは観光マップに近いもので、この国の目玉となる観光場所がいくつも記されている。


 今日は国の北西を中心に回る予定だ。別冊には地図よりも詳しい情報が載っていて、その情報と地図を照らし合わせて今日の観光プランを練る。


 滞在日数は最大で十日間。予定では八日目に出国しようかと考えている。毎日遊んで散財してはお金が無くなると思うだろうが私にそんな心配はいらない。


 嫌味に思われるだろうが七瀬家はそれなりにお金持ちだった。旅に出る際に十分すぎるほどのお金や売れる小物を持ち出している。両親やお手伝いさんといった私を咎める人はいない。もちろん一日限定や出国するまでとちょくちょくアルバイトはしているが、大企業がひしめくこの国で短期アルバイトは難しそうだ。


「こことここは行くとして、帰りにここを寄って……あ、もう時間か」


 ルートを決めるには時間が足りなかった。時間内に食堂へ行けば問題ないが、遅れていくことは好きではない。さらに今回は早めに行くことでいい事がある。

 それは、形式がバイキングだということ。早い者勝ちの形式で食べたいものが無くなるのは勘弁願いたい。


 急いで地図を畳み、部屋を飛び出す。


 ……どんどん補充されていくので焦らなくてもおいしい朝食をいただけた……満足。




 国の西側は旅人や商人の泊まる宿が集結しているだけあって、消耗品や携帯食料の品揃えが充実していた。携帯食料は私の知らない種類が多く、この国限定のものは目の前でどんどん購入されていく。

 国の北西にある大型ショッピングモールはここだけで日用品が全部揃う。ここまで大きいと目が回ってくるが、同じ買い物客は平然とモール内を歩いている。

 案内図を見て何とか目的の店までたどり着くが、ここまで来るのに予定時間の倍はかかってしまった。


「やっと着いた、すぐ近くだったのに通り過ぎているなんて」


 目的の場所というのは書店だ。国最大の大きさを誇るこの書店で本を探しに来た訳だが、他の国ではなかなか見つからなくて諦めかけていたところ、この書店ならあるのではと足を運んだ。

 壁を埋め尽くすほどの本棚。それに隙間なく埋められた本は一冊一冊しっかり管理されているのか不安になるほどの量だった。


 本の壁でできた迷路。目的の本を見つけられるなら見つけてみよと言わんばかりの大型書店は代わりに案内を丁寧にしていた。

 会社ごと、名前順、漫画なのか小説なのか、はたまた雑誌や料理本といった専門誌なのか。一目見てどこら辺に目的の本があるのかそこにたどり着けるようになっている。


「ええと……あった!」


 有名な著者なだけあって案の定すぐに見つかった。周辺国にはそもそも本屋がない所もあり、こうして手に取ることができただけで感動を覚えた。


 手持ちの本は残り一冊のクライマックスを除いてすべて読み切ってしまった。あまり多くは持ち運べないから読み切った本は売ってしまって新刊を買うことにしている。


 本当は売らずに本棚に並べて保管したいが残念ながら旅人にそんなことはできない。本というのは重ねると異常なまでに重くなり、バッグの底を突き破ることもある。だが、簡単には破けないし、十何冊と持ち運ばなければ問題ない。それでも重くなることには変わりないため、気付かぬうちに何冊も持ち歩いているということが無いように多くても三冊で留めている。


 本を手にレジに向かう途中、ふと目に留まったのは絵本のコーナー。その付近にいるのは子ども連れの奥様方。読み聞かせ用の絵本を選定している姿が多数見受けられた。


「あいちゃんも絵本が好きだったっけ、お土産に一冊買ってあげようかな」


 レジへのルートを急遽変更し、絵本コーナーへと足を運ぶ。視線を右から左へ向けると目まぐるしく変わるカラフルな表紙に、私は絵本への興味を駆り立てられた。

 気になった絵本を手に取ってぱらぱらとめくってみると、作者の伝えたい喜怒哀楽がお話を通して押し寄せてくる。


「あ、この絵本懐かしいな」


 かなり左端に差し込まれていた絵本を手に取る。ポップな色調であるこの絵本は、私がまだ幼少期の頃に母さんがよく読んでくれた絵本だ。故郷ではそれなりに人気で、読んだことはなくとも題名くらいは知っているという人は多いのではないだろうか。


 しかしこの絵本は有名なためにあいちゃんがすでに読んだことがあるかもしれない。


「あ、この絵本は……これならあいちゃんも読んだことがないはず」


 手に取った本のタイトルは『はちろうはまっている』

 簡単なあらすじとしては犬のはちろうが崖から落ちてしまうが飼い主が助けてくれると信じて待ち続ける。飼い主も見つかると信じて探し続け、最後は見事飼い主の元へ帰ることができる。

 だけどどうやって助けたか、その方法は忘れてしまった。読んだのがいつだったのかすら覚えていないほどに昔の事。


 この絵本は発行部数が少なく、なかなか手に入らない絵本でもある。私が持っていた理由としては、母さんの知り合いがこの絵本の作者だったらしく、お願いして手に入れたと聞いている。

 流石は大型書店。こんなマイナーな絵本を置いてあることに驚きだった。実家では大切に保管してあるがもう一度手に取ることがあるとは思わなかった。


「うん、これにしよう!」


 最初の方のページをぱらぱらとめくる。私の知っている絵本に間違いない。話の最後は思い出していないがあえて見ないことにする。あいちゃんと読んで思い出したいからだ。

 目的の本と絵本の二冊をレジに持っていく。

後悔しているわけではないが、絵本というのは思ったよりも値が張るものだと初めて知った。

絵本の値段はすべてが高いわけではないです。たまたま高かっただけです。

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