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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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二つの命4

 開いていた扉を軽く数度叩き、部屋の主に声をかける。


「こんにちは、あいちゃん」


 真っ白なベッドに腰まで毛布を掛けて座っている少女はこちらに振り向いた。


「おねえちゃん、だあれ?」

「私は七瀬澪。あいちゃんとお話をしたくてきたの」


 看護婦のお願いとは、ある少女に検査の準備ができるまで話し相手になってほしいとのことだった。

 病院服を着たまま、向かった先は403の病室。一人しかいないのか、この少女の名前である『八代 愛唯』だけが入り口のプレートに表示されていた。


「あいはね、やしろあいっていうの。あいもおねえちゃんとおはなししたい」


 舌足らずで片言のようなゆっくりした話し方。


 病室に入ったときは窓からの逆光でよく見えなかったが、近づくと少女の全貌がはっきりと見えてくる。髪は光すら飲み込みそうなほどに漆黒でベッドに付いて余るほどに長く、髪と同じく吸い込まれそうな黒くて大きな瞳。長い病院生活なのか肌はミルクのように白い。いたって健康に見えるが、私と同じ病院服を着ている少女の襟から見える鎖骨は、目を背けたくなるほどに醜く浮き出ていた。


 愛唯ちゃんは笑顔のままじっと私のことを観察している。

 その顔は、ぽけ―っとしていて何を考えているのかは判断が難しい。ただ、この子は笑顔が似合うなと思った。


「そこにある椅子に座っていいかな?」

「いいよー」

「ありがとう」


 ベッドに近づき、隣にあった丸椅子に座る。愛唯ちゃん……いや、『あいちゃん』の方がしっくりくる。近づけば近づくほど、この少女の体は今にも壊れてしまいそうで触れることを躊躇われた。ひびの入ったガラスに注いだ水のように常に何かが零れ落ちているようで……正直怖かった。


「普段はここで何をしているの?」

「あいはね、いつもえほんをよんだり、そとをみているの」


 そういってあいちゃんは窓へ顔を向ける。ここは病院の四階という高い位置であり、街の様子を眺めることができる。遠くには私の通ってきた入国ゲートも見える。


「お気に入りの場所はある?」

「あそこ。ひとがいっぱいはいってくるところ」


 あいちゃんが指さした場所は遠くにある入国ゲート。入院続きのあいちゃんにとって変わりゆく光景は大好物なようで、初めて見るものを持ってくる入国者には好奇心が駆り立てられるようだ。


 入国ゲートだけじゃない。出店や路上ライブを指さしては何が面白いのかを語る。その姿はとても嬉々として、とてもじゃないが入院しているような子どもには見えなかった。


「あいちゃんは好きな所がいっぱいあるんだね」

「うん……あいはあるけないから、ここでみているだけ」

「行ってみたいとは思わない?」

「ううん、あいはね、そとにでたらあそこにつくまえに、しんじゃうんだって」


 それからあいちゃんは言葉を切ってまた窓の外を眺める。

 気付いたが、ベッド横にあるテーブルには山のように薬が積んである。背中側からは透明なチューブが数本通っており、それはあいちゃんの病院服の中へと続いていた。

 なかなかいい言葉が思いつかない。鎖のように少女を縛っている。こんな状態の少女に対して外に行きたいかどうかなんて、酷な質問だった。


 あいちゃんは否定したが、本当は外に行きたいはず。今も羨ましそうに街中を眺めている。


「あいちゃんは何かやりたいことはあるの?」

「あるよ、でも、それはできないから」


 それ以上は教えてくれなかった。諦めているともいえる口調に少しばかりの疑問を覚えずにはいられなかったが、追及することは何となく憚られた。

あいちゃんがコンパクトケースを取り出す。


「それは何が入っているの?」

「これはね、かがみがついていて、あいがうつるの」


 若干会話が繋がらないがとにかく鏡が付いていることを教えたかったらしい。その鏡は少し濁っていて、何年も使い込んでいると推測する。それが入院してからだと思うと本当に長い期間ここにいるのだなと可哀想に思った。

そしてあいちゃんが枕の下から一冊の絵本を取り出た。


「おねえちゃん、えほんよんで?」

「いいよ。もっと近づいてもいい?」

「うん!」


 それからというもの、先ほどみたいにしんみりした雰囲気にはならず、お互いの趣味を話したり私の旅の話を聞かせたりと楽しい時間を過ごした。看護婦が私を呼びに来るまでおしゃべりを続け、私が出ていくときは駄々をこねられるほどには仲良くなれた。


「時間があったらまた来るね」

「うん、ばいばい」


 最後は悲し気な表情だったが、検査が終わった後に来れば笑顔に戻るだろう。私もまたお話がしたい。


「七瀬さん、どうでしたか? 愛唯ちゃんとは仲良くなれましたか?」

「ええ、とっても。検査が終わって時間があればまた会いに行ってきます」

「……ええ、それがいいですね。仲良くなってくれてよかったです」


 看護婦のわずかな間に違和感を覚えたが、深い意味はないのだろう。看護婦はそのまま検査室まで私を連れて行った。

この子がメインヒロインです。

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