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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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二つの命2

「……ここって異世界?」


 長い溜めをつくってやっと出た言葉がこれだった。


ゲートをくぐった先は私が見たことのない『未来』で溢れていた。

門に施されていた装飾も呼吸を忘れるほどに素晴らしかったが、それは別の国でも再現することは可能だろう。しかしここは違う。他の国とは次元が違う。


私が得てきた知識ではこの国のほとんどを正確に説明することができない。目の前のビルを見上げてみる。ビルに引っ付いている大きなパネルはデジタル時計になっていて、道路を見れば、銀色の巨大な長方形の箱を背に乗せた、見たこともない大きな自動車が器用に交差点を曲がっていく。

近くを歩いていた小学生の男の子たちが「トラックの運転手になりて―!」と指さしながら私の前を駆けて行った。


(え! あれがトラックなの!)


 私の知っているトラックというのはもっと小さい。二人乗りのところは合っているが背中にあのような巨大な箱は載せていない。載せられるものは精々大きな箪笥程度だ。あとは、商人が手荷物を載せて運ぶ程度にしか物は載らない。


 そういえば、私が知っているトラックはみな、「軽トラ」と呼んでいたのを思い出した。あれが軽ならば、そうじゃないトラックとはどういうものなのか考えたことがなかった。

 その巨大なトラックは一台だけではない。二台、三台と次々やってきては私の前を滑走していく。


 カルチャーショックに思考が停止してしまうが、近くにあった歩行者用の信号機を見つけて、ほっと胸をなでおろす。すべてが知らないもので埋め尽くされているわけではない。私の知っている信号機とは若干形状が違うように思うけど、何が違うかは具体的に挙げられない。

 点滅する歩行者型に映るライトが私の知っている信号機よりも見やすい? 程度の感想しか思いつかず、それ以上考えるのをやめた。


「それにしてもどこを見ても人がいる。なのに誰も話しかけてこないなんて逆に新鮮」


この国では入ってしまえば旅人や観光客なんてありふれた客人でしかない。物珍しくじろじろ見られることもなければ、話しかけてくる人もいない。


 スーツを着た営業らしき人が腕時計を見ては駆け足になり、子供連れの老婆は迷子にならないよう手を繋ぎながら背の高いビルに入っていく。他の国でも見られる光景ではあるのに、この国で見るとすべてが違って見えた。


 細かいところにも私の知らないものが散らばっている。それらを観察しながらも移動を開始する。最初は周囲の人にぶつかって迷惑をかけることもあったが、流れに合わせて移動すると私も国に溶け込んでいた。


 移動の流れに合わせ、無理やり追い抜かそうとしなければ誰にも迷惑をかけることなくこの国は移動できる。


 私のような別の国からやってきた人がいるのに誰も私に反応しない。それだけ国外からの客が多く、見慣れているのだろう。この国の知名度に感嘆のため息が出る。


 迷子センターらしき所にここら一帯を記した地図が配布してあったのでそれを手に取る。

 ここから五キロ先までを記した地図には数えきれないほどの情報が載っていた。飲食店の情報や公共の公園、博物館に美術館といった観光には欠かせない情報がこの地図に散りばめられている。


「えぇと……あった! ここから北に三キロか」


 目的地はすぐに見つかった。特に難しい道を通るわけではなさそうなので、たどり着くまでの出店をゆっくり楽しみながら向かうとする。

 大きな交差点を他の観光客と共に渡り、その先にあるこれまた人で埋め尽くされた大通りを歩く。

 歩道があるというのに歩行者は車道を堂々と歩いている。自動車やトラックといった車両が通る気配はない。


 途中、警官を見つけたので車道を歩行者が行き来していることについて聞いてみると、この時間帯は車両を通行止めにして歩行者が自由に移動できるようにしているらしく『時間帯遊歩道』と呼ばれるそうだ。

 おかげで信号に足止めされることもなく、この街を堪能できる。


「一つください」

「あいよ! 350円ね」


 緑色のがま口財布からピッタリ350円を取り出し屋台のおじさんに手渡す。

私の空腹を匂いで誘わせた屋台の焼きそばを購入し、近くのベンチに座る。プラスチックの容器を開き、割り箸を手に取って空腹を満たすべく焼きそばに割り箸を突っ込んだ。


「やっぱり焼きそばは屋台が一番だね」


屋台で作る焼きそば、家庭で作る焼きそば、インスタントの焼きそば。それぞれ同じ焼きそばではあるが、食べたときの触感やソースの匂いなど、それぞれが違う特徴を持っている。その中でも私は屋台の焼きそばは大好きで、こうして匂いをかぎ分けて探し当ててしまうほど。


 特性の濃厚ソースにもちもちの麺、ざっくり切られた厚みのある野菜に、散りばめてある青のりは作り手によっては有無が分かれる。日の丸弁当が如く中央に載せられた紅生姜は端に避けずに混ぜて食べてしまう。紅生姜は人によっては食べない人もいるが私は好きだ。


 それぞれ匂いや触感を楽しみつつ口に運んでいれば、小食な私でも短時間で完食してしまう。これが焼きそばの魅力であり、すぐに完食してもう一つ食べたくなる恐ろしさでもある。

 途中で満腹になり、余りを持ち歩くはめになるのは目に見えているので二つ目は断念したが。

 空になったプラスチック容器を屋台横のごみ箱に片付ける。


「ごちそうさまでした!」

「おう! 嬢ちゃん、いい食べっぷりだったぞ! よかったらまた来な!」

「え!? あ、ありがとうございます?」


 その場から駆け足で逃げ出す。近くのベンチだったとはいえ、まさか見られていたとは思わなかった。遠くで「おう! 待ってるぞ!」という声が背中の方から聞こえたが、振り向いて手を振る余裕はなかった。


「恥ずかしい……」


 鏡を見たら顔は耳まで真っ赤になっているだろう。自分でも分かるほどに満面の笑みで食事していたのを覚えている。そんな顔を見られたことに羞恥心が沸々と湧き上がってくる。

 早足でその場を離れ目的地に急ぐ。風が少し吹いているおかげで顔の火照りはすぐ収まった。

焼きそば美味しいよね。

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