二つの命1
新章始まります。
目の前に広がるは見たことのない世界……と思わせるほどに最先端の技術が凝縮された国。
250年前の大災害から真っ先に復興を遂げ、世界的にも知らないという人はいないと言われる世界三大国の一つ。
この国では手に入らないものはないとされ、ガラクタのような物から宝石、世界の特産物や裏で取引されるような怪しい薬までもが手に入り、形のないものならば名誉や人権すらも手に入ると言われ、実際にそれらが過去に取引された記録が残っている。
国外や海外からの貿易も盛んで国が衰退することはないと世界が認めていて、国外からの観光客は季節を問わず途絶えることがない。
他国との文明を二つ三つ先といき、世界的にもトップクラスの科学技術を持っているこの国は衰退したこの世界で災害前の文化にいち早くたどり着ける国の一つとされている。
そんな国を観光することは私が旅を始める前からの憧れでもあった。都会と呼ばれる国で最も栄えている場所は故郷にもあったが、桁が違う。この国そのものが都会と言ってもいい。それだけの差があった。
世界三大国というだけあって、入国審査の列もただものではなかった。
前の国を出て一日と数時間、もうすぐ国が見えてくるだろうというところで周囲に人が増え始めた。
その人たちは私と同じ方向へと歩みを進めている。商人や観光客らしき家族連れ、私と同じ旅人もいれば、遠い外国の人までいる。
そして、国が見えたところで人々は歩みを止めていた。まだまだ国は遠い所にあるというのに、入国するためには並ばないといけないようだ。
ほとんど立ち止まることなくスムーズに動いているとはいえ、この調子だと入国まで一時間以上はかかるだろう。今が夏じゃないのは幸いだった。
同じく並んでいる人たちは慣れているのか、暇潰しのために前後の人と会話したり、別の作業なんかをしながら国内へと吸い込まれている。
前後の人は別の入国希望者と仲良く話していて、私が間に入る余地はなかった。仕方ないから購入した小説を取り出し、栞の挟んだページを開く。
「…………」
まだまだ先は長い。本を開いたはいいものの、前はいつこの本を開いたのか思い出せず初めから読み返すことにした。少し前のページを読み返せばいいかとも思ったが、時間はかかるのだから初めから読み直してもいいだろう。
文字を読みつつも、前が進めば隙間を開けないよう私も前に進む。半歩だけ進んだり、一気に十歩進むこともありスピードはまちまちだ。
その度に個人で入国したか団体で入国したか、そして何人が入国したかの人数当てゲームを頭の中で無意識に始めていた。
俯いて本を読んでいるために答えは分からないが暇潰しにはなった。
(……三人……これは一人……四人)
読んでいた小説はいつの間にか最終章の終わりに差し掛かっていた。これからが感動のシーンではあるが、本にかかる影が気になって視線を上げる。
「わあ!」
そこには、どこの国でも見たことのない壮大さと華やかさを前面に出した魅入るほどの装飾が門に施されていた。
栞を挟まずに思わず小説を閉じてしまうほど視線は装飾へ注がれた。私だけでなく、他の観光客も装飾に魅入っている人は多い。
小説の最後も気になるが、今は入国するまでの残りわずかの時間で装飾を目に焼き付ける。
列に並び始めたときは長く感じた入国までの距離も、長く見ていたいと思うとあっという間に入り口にたどり着いてしまう。
「出国時にもう一回見れるし、まあ、いっか」
残り数人となった入国受付まで、流れを前の人を見て予習しておく。この門は正確にはゲートと呼ばれるらしい。呼び方が違うだけで格好良さが変わった気がした。
まもなく私の番となり、五つある受付の三番に呼ばれる。
時間をかけないよう早歩きで向かい、審査官の前に立つ。
「この国に来た目的は何ですか?」
「観光です」
流れ作業なのか常に何か書類に書いている。質問も流れ作業のようで一分もしないうちに書類の空欄はすべて埋まった。
「銃や刃物は持ち込み禁止となっていますので、あれば出国までお預かりします」
「あ、では、これとこれをお願いします」
腰から銃身の短いリボルバーとリュックサックから少し無骨なナイフを取り出して渡した。
治安もしっかりしているこの国では無用の長物だろう。隠し持って捕まる方が怖いし預けたほうが安心する。
慣れているのかてきぱきと銃とナイフは運ばれていき、代わりに番号の書かれた四角い札を渡された。
「これを出国時に渡してください。それでお預かりしたものをお返しします」
「分かりました」
「最後に、荷物の検査を行いますので、そこのゲートをくぐってください」
受付が示した先には変哲もない薄い門のようなものがあった。金属でできていて真ん中のてっぺんにはランプらしきものが付いている。
言われた通り、ゲートをくぐるとランプが緑色に発光した。音は出ないし、これでどう検査されたのかは分からないが、これでいいらしい。
リュックサックも小さなトンネルのようなものをくぐり、反対側から出てくる。こちらもこれで大丈夫らしい。
入国前から未来を見せつけられた気分だが、この国では普通の事なのだろう。この国に慣れすぎて出ていけなくなってしまわないか心配になってきた。
受付はもう次の人を対応している。手渡されたリュックサックを背負い、奥へと足と進める。
「ようこそいらっしゃいました! 我が国をお楽しみくださいませ」
荷物検査の方々が一斉に頭を下げる。
流れ作業だった入国受付も最後は丁寧だったことに好感を持てた。
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