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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
23/95

EX:これも終末 2

建造物が元から少なかった田舎道。やっぱり瓦礫は放置されているがそこまで気になる量ではない。


 誰も手を付けていないにも関わらず、何不自由なく歩いて通れる道のことを『天然道路』と呼ぶ人がいるが、旅人である私からしたらこのような道を『天国歩道』と名付けたい。


そんな道を歩けば、高揚してついスキップしたくなる。邪魔なものが無いんだもの。

 開けた場所に出れば、大きく深呼吸をしたくなる。澄んだ空気を肺いっぱいに溜める。


「へっへっへ、お嬢ちゃん、ちょっといいかい?」

「ぶふーー!」


 はしたなく勢いよく吸った空気を勢いよく吐き出してしまった。

 浮かれていたせいで後ろの茂みに誰かいることに気付けなかった。こういったことは命取りになるから気を付けていたはずなのに。


 澄んだ空気だと吸っていたら、後ろから気持ち悪い笑い方をする、小太りの男が飛び出してきた。

 足は短く、紫色の丈が短いジャケットだけを羽織っている。腹は丸出し。そのせいで笑い方がより気持ち悪く感じる。そして何よりも理解できないのが頭のモヒカン。四角柱の箱を頭の形に合わせて乗せているような……まるで似合っていない。


 さらに深緑色ということもあり、なんだか太ったトカゲを彷彿とさせた。

 男は私の視線に気づいたのかニタァと口の端を歪める。


「うまく隠れていただろ?」

「…………」


 同系色だからってそんなわけないだろ! と突っ込んでやりたかったが、実際気付かなかったので言い返せない。


 さっさとここを離れようとそっぽを向いて歩き出したときに、男は頭が痛くなることを口にした。


「好きな四字熟語は何だ」

「……は?」

「ちなみに俺の好きな四字熟語は『狼貪虎視』だ、意味は『無道で欲が深いさま』まさに俺のことを指している言葉だな」

「ろうどんこし?」


 聞いたことがない四字熟語だった。ここまで自信あり気に放しているのだから実在する言葉なのだろう。


「あんたは?」

「ええと……電光石火?」

「ふ……俺の勝ちだな」


 いつの間にか勝負になっていた。それに勝敗の基準も分からない。


「そうですか、それじゃ行きますね」

「まて、金を置いていけ」

「なんで?」

「俺が勝ったんだ、当然だろ? その金でうまいもん食うんだからな」


 何が当然なのかは分からないが、男が私に近寄ってくる。

 ……とりあえず銃を腰から素早く引き抜き、男に向けて一発打ち込んだ。……なんか気持ち悪かったから。

 弾は明後日の方へ飛んでいく。わざと外したが効き目は十分だった。


「ヒィ! まさに電光石火のはやわざ! すみませんでした!」


 その場で飛び跳ねて、その勢いのまま土下座してきた。ジャンピング土下座だ。

突然の態度変化にこちらが唖然とする。


「…………」

「どうぞ、お先に進んでください! だが、この先には弟がいる。俺のように簡単にはいかないぞ!」


 最後は小物臭が半端なかったが、とにかくこの男から離れたかったので、駆け足でその場から逃げた。




「ふっふっふ、そこの君、ちょっといいかな?」

「よくないです」


 一発でこの人があの男の弟だと分かった。

 だってモヒカンが同じ形なんだもの……色は深青色だけど。

 弟は兄と違って痩せこけていた。前でボタンをきっちり留めた白衣を着て、見た目だけなら格好いいはずなのに、モヒカンが全てを台無しにしている。眼鏡のフレームを持ち上げ、いかにも秀才感を出そうとしているが、その動作が頭をかくメガネザルにしか見えない。


「好きなことわざを教えてくれないか?」


 話しを聞いてくれない。私の言葉を無視したし、今度はことわざときた。


「ちなみに僕の好きなことわざは『実るほど頭の下がる稲穂かな』だ。僕みたいな優れた人物は謙虚にふるまう。僕にピッタリのことわざさ」

「えぇ……」


 自分で謙虚と言っている時点で謙虚でも何でもない。ただの自分をひけらかしたい馬鹿だ。


「ほら、君も教えてくれたまえ」

「……能ある鷹は爪を隠す」


 思いついたことわざを口にする。ことわざどおりの特出した能力はもっていないが腰の銃があればどうとでもなろう。

 腰に手を伸ばして銃の確認をしていると、目の前で急にわななき始めた。


「な、なんだと、もしや君は僕を圧倒できるだけの力を持っているというのか」


 何か勘違いをしているがこちらとしては好都合。たしかに銃でどうにかなる。


「そうだよ、戦ってみる?」

「む、無理だ。君に勝てるはずがない」


 膝を着いて地面を拳で叩く。よく分からないが……どうやら私の勝ちのようだ。


「僕が負けるなんて……だがしかし! この先には末っ子がいる。あいつは僕たちのようにはいかないぞ!」


 あ、まだいるんだ。それにしても普通は後ろに兄が待っているものなんじゃないの?

 弟任せだし。順番がおかしいんじゃないかな。


「クソ! 勝ったら服をはぎ取ろうと思ったのに! 女の子の匂いを嗅いでみたかったのに!」


 悪寒がした。腕には鳥肌がぶわっと出てきて、ぶん殴りたい衝動に駆られる。しかし触りたくないから目の前の変態から一気に離れる。

銃を取り出して変態に突きつける。そのまま撃ってしまっても問題ないと思った。


「ヒィ! 銃口を向けないでくれ!」


 男はひっくり返ってしりもちを着く。その際、白衣の隙間から足の付け根辺りまで見えてしまった。

 見たくないので視線はずらしたが、一つ、疑問に思った。

 ……なんで足の付け根まで見えた?

 白衣のボタンを前でしっかり留めているせいで気付かなかったが、この人、下に服を着ていないんじゃないだろうか? この人が痩せているように見えるのは、つまりそういうことなのかと考えが及んだ。


「…………」


 自分でも分かるほど無表情になる。こちらに近づくなという意思を込めて、無言で男の足元に一発弾を打ち込んでから、私はその場から逃げ出した。






「ひっひっひ、君、いいかな?」

「先を急いでます」


 末っ子って言っていたし、この人が最後だといいなと思いつつ銃を引き抜く。あまり使いたくはない。

 この男は……とにかく筋肉がすごい……鳩胸だ。

 深赤色のモヒカンが全てを台無しにしているのは兄弟揃って相変わらずだが、今回はパンツ一枚の爽やかな男が私の前に立ち塞がった。

 顔は爽やかで上半身の筋肉がたくましい。そのせいで先ほどの笑い方がミスマッチしている。極めつけには――


「あし……ほっそ」


 脚の筋肉がほとんどない。赤いモヒカンも相まってまるで鶏のようだった。


「何を言っているんだい? 大切なのは胸筋! 胸板の厚さが全てなのさ、私の胸筋を見たまえ!」


 何かポーズをきめて見せつけてくるが、ぶっちゃけ興味がない。

 兄たちが弟に託したのは、三男に筋肉があるからだろう、この筋肉でどうとでもなると思いこんでいるのだろうか。

 デブにガリに筋肉。何があったらこうもばらばらになるのか……。


「それで今回は?」

「尊敬している人物を教えてくれ」

「人物かぁ」


 四字熟語、ことわざときたから、慣用句か故事成語あたりだと思ったのに予想が外れた。

 好きな人物なんていないんだけどな……。


「ちなみに私の尊敬する人は『ムネニク・カタメ』様だ。このお方の胸筋はまさに神だ。私の目標でもある」


 だから上半身しか鍛えてないのか。その脚で上半身を支えるの辛くないのかな。


「さあ、君は誰かな?」

「……アシニク・ヤワメ」


 まあ、この男の細く柔らかそうな脚を見て思いついた。実際、そんな人はいない。とりあえず適当に受け流す。


「だ、誰なんだ、その甘美な響きの人物は? ……もしや、尊敬しているということは君の脚は素晴らしいほどに柔らかい……?」


 上半身にしか興味がなかったのではないのか!

今更だがこの兄弟はどこか、ねじが外れている。


「勝負は引き分けだ。よって、私は君の脚を触らせてもらう。代わりに私の胸筋を触っていいから」

「え、いらない……」


 地雷を踏んだ気がした。そもそも長男に会ったときから、私は地雷原を走り続けている。

 突き出た胸をさらに突き出して近づいて来る。私の脚に向かって一直線だった。

 銃を突きつけたがお構いなし。撃っても筋肉に阻まれそうで怖かった。


「もうヤダーーー!」

「あ、まて!」


 本当にイヤになって叫びながら逃げ出す。こうなったら逃げるが勝ち。逃げ足なら自信がある。追いつかれたらどうなるか想像もしたくない。


「弟よ加勢するぞ!」

「ぼくもいるぞ!」

「兄貴たち!」

「ゲッ!」


 女の子が出しちゃいけない声が出た気がする。まさか、三兄弟が揃うとは……。

 とにかく逃げる。よそ見をしていられない。ただ真っすぐ、声が聞こえなくなるまで。

 しばらく走っていると声が小さくなる……どんどん距離が離せている気がする。どうしても気になって後ろを振り向く。


「ぜぇ……ぜぇ、脂肪が重い」

「うぷ、運動不足にはきつい」

「クソッ! 脚が筋肉を支えきれない!」


 ……馬鹿以外のなにものでもない。盗賊まがいのことをやっていて、身体能力が求められるのは明白だろう。私も旅に出る前はそれなりにトレーニングをしていた。


 離れた所でモヒカンが左右に揺れている。三色もあるというのに綺麗には程遠い。

 距離を離すためにもしっかり手を振って加速する。三馬鹿とはみるみる距離が開いていく。


 しかし、進んだ先には高い壁がそそり立っていた。何もなしに乗り越えることは不可能だ。


 ――ドン、ドン、ドン。


「誰かいませんか!」


 壁の向こう側に誰かいると信じて呼び掛けてみるが反応がない。

 何が彼らを元気づけているのか、何度か呼び掛けているうちに三馬鹿が追い付いてきた。

 悪あがき程度だが、銃で牽制してみることにする。


「金を置いていけ~」

「匂い嗅がせろ~」

「柔脚~」


「ヒィ!」


 銃を見て怖がる様子がない。三馬鹿はじりじりと私を囲い込むように迫ってくる。信号の色にもなれないモヒカンたちがどんどん拡大されていく。

 こうなったら銃を乱射して包囲網をこじ開けようか……。


 ――ガチャッ


「え!?」

「入国希望者か……こいつらは何だ?」


 同系色で気付かなかったが、私の叩いた壁のすぐ隣が扉になっていた。どうやらここは国の裏口に当たる部分のようだ。

 その扉から出てきたのは青い制服に身を纏った厳つい顔の大男。胸元には警備会社と思わしき名前が記されたネームプレートがあった。


「恐喝犯と変態と筋肉です! 追われています、助けてください!」

「ほう……女の子を追いかけまわすとはいけない趣味をしているなぁ、お兄さん方?」


 目の圧力がすごい。三馬鹿が一歩引いている。


「そんな、俺たちは……なあ?」

「そ、そうだよ。ただ、ねえ?」

「気になって……のう?」


 警備員の態度が和らぐとこはない。それどころかこめかみに血管が浮き出始めた。

 そして後ろの扉、恐らくは警備員室になっているであろう場所に向かって大声で呼びかけた。


「お前ら! 不審者だ、とっ捕まえるぞ!」

「に、逃げろー!」

「逃がすか!」


掛け声に応えるように他の警備員が続々出てきては三馬鹿を追い始めた。

 私はというと、残った警備員に正門まで案内してもらい、無事に入国することができた。



数日が経過した。

三馬鹿はというとそれはもうあっさりと取り押さえられたそうで、今はおとなしく牢屋にいるそうだ。


 この国では、犯罪者は坊主にする決まりのようで、あのカラフル? なモヒカンは非情にも刈り取られたそうな。

 三人ともかなりショックだったらしく、長男は拒食してひどく痩せこけ。次男は長男の分までやけ食いで一般の体型に。末っ子は筋肉が弛んで醜いデブになり果てたそうだ。

 ……私が国に滞在している短期間でそうなるのだから恐ろしい。一名はただ健康になっただけだが。


 基本、国の外に法律は存在しない。しかし国の者に見つかれば話は別。今回のようにしょっ引かれる。

 荷物をまとめて宿を引き払う。

四字熟語、ことわざ、尊敬する人物……なぜそんなことで勝負を仕掛けてきたのかは最後まで分からなかった。だが、そんなことはもうどうでもいい。今後、あの三人に会うことはないのだから。


「さて、行きますか!」


 ……あ、腹いせにあの三人から慰謝料をふんだくりました。

感想とか大層なことは望んでいないのですが評価はしてくれるとうれしいです。

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