失敗続きの子虎
視点が変わってますが本編です。
また親分に叱られてしまった……。
これで十度目。自分がなぜこうも上手くいかないのか、理由はさっぱり分からない。
ぼくはこの『奴隷商』の仕事を始めてそろそろ一年になる。だというのに、一度も奴隷を捕獲できていない。
言われたことは忠実に守り、実行してきた。だというのに襲撃は失敗し、奇襲はことごとく読まれて返り討ちに遭う。この仕事、向いてないのかな……。
「いけない、いけない!」
後ろ向きなことは考えてはいけない! それが失敗に繋がるって教わったじゃないか!
だとしたら何が悪かったんだろうか?
防具が薄いのか? いや、ナイフ程度なら貫通を許さない頑丈なチョッキのはずだ。
だとしたら、武器が弱いんだろうか? 親分から貰ったこのナイフはごつごつしていて切れ味は抜群だ。野菜なんかすぱすぱ切れる。
「じゃあ、ぼくの見た目が悪いのかな? 先輩たち、ぼくのこと優しいって、笑顔がいいって言うし」
ポーチから手鏡を取り出す。
ちぢれのない真っすぐな金髪で、さらさらした髪は先輩たちによくいじられる。
ぼくの「レオ」という名前はよくかっこいいと言われるが、ぼく自身イケメンとは言えない。女性に話しかけても逃げられない程度には整っていると思っている……少なくても醜悪ではないはず。
体型は太りすぎず、痩せすぎず、筋肉は……少し鍛え足りないかな? まあ、それを抜きにしても足に自信はあるし、反撃されても捕まったことがない。
「武器もよし、ぼく自身も問題ない。じゃあ、何が悪いんだ?」
分からなければ聞きに行こう! 親分は今、休憩中だったかな? ぼくに何が足りないのか聞いてみよう。
そう決まれば即行動。この積極性は親分に唯一褒められた長所だ。
寝床である天幕から駆け出て、親分のいる天幕まで鼻歌交じりで向かった。
親分の天幕に入れてもらったとき、親分は木の椅子に座って、趣味のコーヒーを嗜んでいた。
座っていても分かるほどの腕と脚の筋肉は一切の無駄がない。立ち上がったときにぼくたちを見下ろす隻眼の眼光は、直視したら誰もが逃げ出してしまうほどの威圧感がある。
そんな親分にぼくは六歳の頃に拾われた。
親が盗賊に殺されて、一人大声で泣き喚いているときに親分は助け出してくれた。当時から強面で、だけど先輩たちから信頼されている親分にぼくは不謹慎ながらも憧れた。
「親分、教えて下さい」
「おう、どうしたレオ、何が知りたい」
「ぼくの何が悪いんでしょうか?」
「は? どういうことだ?」
親分はコーヒーカップを机に置いてぼくの方へ体を向ける。顔は厳ついが真面目な話は茶化さずに聞いてくれる良い人だ。
ぼくは仕事が上手くいかない理由は何か、考えていたことを伝えた。
親分はぼくの話を聞いた後に腕を組み、小さく唸る。そんなに難しい事なのだろうか?
「……うーん、お前がやっていることは間違っていない。ただ……」
「……ただ?」
「相手が悪い」
「……それだけですか?」
「それだけだ」
親分は冗談を好まない。発言には責任を持つ人だ。ならば今の言葉も本当なのだろう、まるで信じられないが……。
「ほかには本当にないんですか?」
動揺で声が震えていた。自分でも意外なほどにショックを受けていたようだ。
「お前にこの仕事は向いてない」
「ガーン!」
思わず口に出すほどのショックを受けてしまう。顔が俯き、肩ががくんと下がる。
そんなぼくを見てなのか、親分は更に畳み掛ける。
「もう、この仕事をやめることは考えていないか?」
「ぼくに、奴隷商の仕事を辞めて何をしろって言うんですか……」
「お前は実行組の仕事より、事務の方が向いている。どっかの国に行っても仕事はすぐ見つかるだろうよ」
それはもうクビと言われているようなものだった。それも追い出すという形で。
今までクビを先送りにしてもらっていたということだろうか? これだけ失敗し続けていたのに、説教と反省文だけで済まされて、先輩たちからは、失敗して天幕に戻るぼくに優しい言葉をかけてもらった。
それはぼくが子どもだから? 失敗して当然だったから? 聞きたいけどそんな勇気は持ち合わせていない。
しかし、こんなダメなぼくでも、一度くらい成功させて見せる。そして、親分や先輩たちにぼくは仕事ができるんだぞっていうところを見せつけたい!
「一度だけチャンスをください」
「……これが最後だ。次で失敗したら、レオ、お前は国で働いてもらう」
「ありがとうございます」
親分の目は真剣だった。
失敗は許されない。一年間で学んだことをフルに発揮して成功しなければ、ぼくはここを出ていかなくてはならない。
そうと決まればさっそく訓練だ。素振り百回に体術もおさらいだ。
時間がもったいないと天幕を出ていこうとしたときに親分は妙な確認をしてきた。
「お前はどこを怪我したら、この仕事を辞めたくなる?」
「え? あぁ、そうですね、この仕事で歩くのが困難だと辛いので、脚ですかね」
「……そうか、脚か」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、何にも。次の仕事頑張れよ」
そう言って親分はぼくに背中を向け、またコーヒーを飲み始めた。
どんな意図があっての確認なのかは分からない。とりあえず、頭の片隅にでも置いておく。
失礼しましたと言ってから、親分の天幕を後にした。
ぼくの寝床である天幕へ装備を整えに戻る途中、ぼくの世話係でもある兄貴が声をかけてきた。
「おう、どうした。しけた顔で張り切っているとなんか不気味だぞ」
「あ、兄貴……実は……」
親分との会話を兄貴に伝える。
こういったら怒られるが、禿げ頭が似合う男なのが兄貴だ。親分程には強面ではないが凄味があり、睨まれると怖い。実力は確かで幾度も仕事を完遂させている凄腕だ。そんな人がぼくの世話係として面倒を見てくれていたのだから、ぼくがどれだけ恵まれていたのか。それで仕事がうまくできないのだから、本当にこの仕事が向いていないのだと実感してしまう。
急に悲しくなってきた。張り切っていたはずなのに、失敗するかもと思っている不安が前面に押し出てくる。
「おいおい、そんなんじゃ上手くいくもんも出来ねえぞ。そんな負の感情が失敗に繋がる。教えただろ? イメージするのは上手くいく自分の姿。あとはそれに体の動きを合わせるだけだ」
「分かってます……」
分かってはいても上手くいかないことは多い。結局、ぼくの何が悪いのかははっきりしないまま。
次の仕事もいつなのかは分からない。今すぐ、ということもあり得るし、一週間後かもしれない。
そんないつのことかも分からないのにどんな訓練をすればいいのだろうか?
そういえば、兄貴は今日の朝に一仕事終えてきたはずだ。
「兄貴、今日は新しい奴隷がいますよね? ぼくをその人に会わせてくれませんか?」




