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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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死に神を見た5

 白いレースの隙間から日差しが部屋に迷い込む。

 どこか遠くでさえずる小鳥の鳴き声は私の意識を朦朧とさせた。

 パーカーがバックの横に畳んで置かれている。部屋着のまま寝ていたようだ。

 昨夜は泣き疲れて眠っていたらしい。ゆっくりと意識を覚醒させ、壁時計を見れば、針は朝の七時半を指していた。

 着替えるのが億劫でそのままリビングに向かえば、お母さんがテーブルに座って新聞を読んでいた。お父さんはすでに家を出た後だろう。

 昨日、散々泣いたからなんとなく顔を合わせるのが気まずい。でも、伝えなきゃいけないことがある。


「お母さん、おはよう。昨日は……ありがとう」


 私の声にお母さんは新聞から顔を上げた。


「あら、澪ちゃん、おはよう。よく眠れたかしら? 辛いことがあったらいつでも相談に乗るからね」

「本当にありがとう。初対面の私に優しくしてくれて」

「何を言っているの? 昨日も言ったでしょ、澪ちゃんは悪い子じゃないって。それに、私たちは澪ちゃんに元気になってほしくてやったことなんだから、あまり悲観的にはならないでね?」


 この後、私はどうすればいいのか分からない。両親とあんなに心温まる食事をしたことはなかったし、泣きついたこともなかった。抱擁してもらったことも片手で数えるほどだ。


 母さんが入院して、ずっと何かを諦めていたのかもしれない。そのときから、私の中の時が止まり、あの書庫蔵で見つけた手帳を読んで旅に出たものの、私の中の時が進んだわけじゃなかった。


 また涙が流れそうになるのを我慢する。そんな無理やりな顔を見てお母さんが心配しだすが、私は無理やり笑顔を作ってみせた。


「うん、わかったよ。何かあったらお母さんを頼るね」

「いつでも頼りなさい。あ、シャワーくらい浴びてきなさいな。洗濯物も出してくれたら洗っちゃうから」

「うん、ありがとう」


 一度、部屋に戻り着替えを持ってくる。風呂場へ向かう私の足取りは、寝起きにかかわらず軽やかだった。




「さっき市長から電話があったんだけどね、澪ちゃんにお話があるから後で時間をもらえないかって言っていたけど、どうする? 嫌ならお断りの電話をするけど」


 シャワーを浴び、眠気は完全に吹っ飛んだ。

 朝食をいただこうとお味噌汁に手をかけたところでお母さんが「そういえば」と私に声をかけた。

 市長さんからというと、話は入国してからのあの集団の件だろう。話は聞いておかないと今度行動もしにくいだろうし、特に断る理由はない。


「問題ないし大丈夫だよ。時間や場所とかは指定してた?」

「十時頃、家に来るって、問題は無い?」

「大丈夫だよ、十時ね、分かった」


 早くもこの国からつま弾きにされるのか、国民からの歓迎はあの集団がいるから難しいと思うけど、追放されたくない。お母さんたちともまだまだ話したいことはたくさんあるのに、言葉は悪いが意地でも居座るつもりではある。

 箸を動かし、皿に乗っている黄色い卵焼きを掴む。口に入れると、ふわふわに柔らかくて、出汁の効いた甘くて口の中が幸せになる味が広がった。


「卵焼き美味しい!」

「甘く味付けしているのよ、口にあってよかったわ」

「本当に何もかもありがとう」

「澪ちゃんは礼儀正しいのね、息子とは大違いだわ。あの子はお礼なんて滅多にしなかったから」

「それほどでもないよ、昔からお礼はしっかりするよう母さんに言われていただけだよ」

「それがすごいのよ、いくら言っても出来ないものは出来ないのよ」


 どれだけガサツだったんだろうか? お母さんの息子だから、朗らかで人を楽しませるのが好きそうな人だと勝手に思い込んでいたけど、違うのかな?

 お母さんとの会話を挟みながら食事をしていると、あっという間に皿の上はきれいに無くなっていた。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」


 食器を台所に運び、部屋に戻る。実はお母さんと話すのはまだ少し緊張していることを知られるのが恥ずかしかった。

 自然に話せていたか、挙動不審になっていなかったか、どちらにせよ、慣れるまではしばらく時間が掛かりそうだ。




 時間通りにやってきた女性市長さんは意外にも若くはつらつとしていた。


 薄い化粧に、シルバー縁の眼鏡をかけ、一定に揃えられた肩に触れるくらいの短髪で前髪も眉を隠さない程度に切り揃えている。きりっとした目つきが特にインテリ感を醸し出していた。


 初め、厳かな雰囲気だった市長さんだが、話してみると思っていたよりも笑顔の眩しいフレッシュな人で拍子抜けした。


 なんでもお母さんと市長さんの母が知り合いだそうだ。久しぶりに少し話したいとのことで家に来たらしい。

 おかげで外を歩いて集団に付きまとわれることもない。まずは現状、私がこの国でどういう立ち位置なのかを把握しなければならない。


「この国では昨日から入国者を歓迎し、外の文化を取り入れていく改革を始めています――」


 市長さんは自己紹介とお母さんへの挨拶を済まし、落ち着いたところでさっそく本題に入る。

 国の内情も関係していて細かいところが多く、全部は理解できなかった。つまりはこういうことなんだろうとは理解できたから、それらを頭で整理してみる。


 この改革は投票によって決まったことであり、私がこの国にいる分には何も問題はない。しかし、反対に投票した三分の一ほどの国民は私を歓迎していないとのこと。

 つまりは何か難癖をつけられても国で決まったことだから問題ないと言い返すことが出来るわけだが、何をされるかは未知であると。


 他にも、国民は外の世界を知るべきだ、とか、鎖国だったが故の団結力が……、等々言っていたが、そこまで気にすることではないと判断した。


「ですので、外を歩くときは誰かと一緒にいると問題ごとも少なく済むと思われます」

「あら、なら私が澪ちゃんに国を案内するわ。それならずっと一緒に行動出来て一石二鳥でしょ?」


 台所で何やら作業をしながら話を聞いていたお母さんが話に混ざってくる。私としても知らない人と歩くくらいなら、お母さんがいい。


「お母さん、お願いね」

「ええ、私からもぜひ、お願いします」

「分かったわ、私が澪ちゃんの案内がかり兼、護衛ね、じゃあ、話も終わったことだし、焼いたお菓子でも食べましょうか。まだ時間はあるでしょう? 食べていきなさいな」

「それではお言葉に甘えて」


 形式上の『お硬い話』が終わり、今は親戚の家に来た女の子のように、うふふっとお茶菓子に紅茶を嗜んでいる。

 市長という立場上、やるべきところはしっかりやらなければならないのだろう。だが、紅茶を嗜んでいる今の市長さんに、先ほどの『市長らしい風格』は見当たらない。


「澪ちゃんも食べなさいな。いっぱいあるから、あと、気になったところは連れて行ってあげるからよかったら教えてね」

「あ、そうだね、考えておくよ」


(そうだ、余計なことで悩んでいる暇はない。時間のある限りこの国を見ておかないと)

 

その前に目の前に広がる焼き菓子に舌鼓を打つ。


(まずは目の前にある幸福から)


 紅茶と焼き菓子で幸福を味わう。観光を頭の片隅に置いて、お母さん特性のクッキーへと手を伸ばした。

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