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終末までもうすぐです  作者: 七香まど
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旅に出る覚悟

初投稿です。拙い文章ですが温かく見守ってください。

 私は膝に置いて読んでいた本を閉じ、あくびと共に大きな伸びをする。

「ふぁーあ……」


 本棚に片付け、座っていた木の椅子から立ち上がる。長時間座っていたためかお尻が痛い。


 ここは書庫と物置蔵が合わさったような、結局は同じ役割を果たしているにすぎないのだが、私はここを書庫蔵と読んでいる。


 書庫蔵の中は嵌め殺しの窓が一つあるだけで、薄暗い室内に天井から質素な明かりを吊るしていたが、いつの間にかその明かりと同じくらい外は陽が射していた。


「絶好の旅日和……さてと、行きますか」


 私はブラウンの大きなリュックサックを手に取りそのまま背負う。


 梯子に昇って明かりを消し、埃臭い書庫蔵を出るとそこは綺麗な森の中。辺り一面、木々が生い茂り、冷えて澄んだ空気がわずかな眠気を吹き飛ばしてくれた。

 頭上には少しばかりの雲がたゆたう青い空が広がっている。今日は一日晴れるだろう、手に雨具を持って歩く必要はないだろう。


 ――深呼吸を二回。


 六腑に澄んだ空気が染み渡る。埃臭い蔵に一晩こもっていたのだから、余計に森の空気が美味しい。


 しっかりと蔵の南京錠に鍵をかけ、鍵を大事にしまう。後ろ向きに蔵の全体が見えるところまで下がり、少し離れた所から蔵全体を眺める。


 乾いた木材でできた色黒の蔵は思ったより頑丈に出来ている。いつから存在しているのかは分からないが、一度も雨漏りをしたことがない。放火すら耐えそうな気がする。


 蔵内部にある本はほとんど読破した。膨大な量ではあったが、今まで苦に感じることはなかった。そうじゃないと読んでられないしね。もちろん読み疲れることはあったが、この書庫蔵に初めて入ってからの十年間、一度たりとも飽きることはなかった。


 今更ではあるが、普段は薄暗い森の中にあるこの蔵は不気味な空気を醸し出している。


「誰も近寄らない町はずれの森の中にある封印蔵。……まるでお化け屋敷ね」


 クスっと小さく笑ってしまう。私はたった今までこの蔵の中で一晩中読書をしていたというのに何がおかしいのか。


「ああ! そうなると私は蔵に潜むお化けだ」


 自問自答してしまうことにまた笑いがこみ上げてきた。誰もいない森に私の笑い声が響き渡る。これもお化けの声なのかもしれない。


長時間眺めていても仕方がないので今までお世話になった蔵に背を向ける。

 この蔵は両親よりも長い時間を共に過ごしてきた。しかし、もうこの蔵に戻ってくることはないだろう。数日前から覚悟はしていたが、やっぱり不安は残る。


 そうだ、病気で亡くなった母さんに私の覚悟を聞いてもらうとしよう。母さんの墓はこの森の奥にある。

私は母さんのお墓がある方に体を向け、改めて深呼吸を一回。深く、しかし鮮やかな緑の森の中、誰かに聞かれる心配はない。

 大きく息を吸い込み、叫ぶように、しかし独り言のように私は宣言する。


「私、七瀬澪ななせ みおは旅に出ます。母さんの遺言通り私は好きにやっていこうと思います。だから『神の使い』として世界の崩壊と終末を見てこようと思います」


 丁寧にお辞儀をする。たっぷり十秒は頭を下げ、ゆっくり頭を上げてから書庫蔵に背を向けて城門へと歩き出した。

 そして、人の感情のようにころころと変わる天気とともに、私は空の下を進むことを誓った。


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