恋い慕ふ三
朝食を済ませるとカバンを持って立ち上がった。
朝方なので寒い。冬場程ではないにせよ、手が冷たくなる。さてどうしたものか。
あたしは考えながらひたすら歩いた。彼は今頃血なまこになって探しているだろう。
けど見つかるわけにはいかない。連れ戻されるわけにはいかないのだ。また、あの暗い日々に戻るのかと思うと背筋が冷える。首を横に振って嫌な事は考えるまいとした。
そうして歩くうちに最寄りの駅が見えてきた。ホールから入って切符売場に向かう。財布を出して6駅先の値段を確認する。
(800円か。痛い出費だけど。仕方ない)
500円硬貨と100円硬貨三枚を売場の機械に入れた。ピピッと電子音がして切符が出てくる。それを手に持って乗り場を確認した。
二番乗り場だ。階段を降りてそちらに向かう。二番乗り場に着くと電子掲示板で出発時刻も見た。
「……8時5分か」
駅の中や乗り場は意外と人の姿はまばらだ。空いていてラッキーと思った。
現在の所持金は10万だ。バイトを頑張って貯めたお金で。まあ、そのおかげで余計に彼には疑われたが。
昔の事はいいからと頭を切り替えた。手を擦って温めた。中々に風が出てきて冷える。こういう事ならせめてダウンジャケットでも着てくるんだったと思う。
カバンを開けてもいいが。どうしたものかと思っていたら独特の音楽が鳴る。
『二番乗り場に電車が来ますーー』
男性の声でアナウンスが流れた。同時に電車が来る。キイと停車した。
ドアが開いて中から何人もの人が出てくる。あたしはその中に紛れ混んで電車に乗った。
席に素早く座るとしばらくしてドアが閉まった。電車の中は暖房が効いていて助かったと思う。そうして発車する。
しばらくは窓の景色をぼんやりと眺めた。お昼ごはんはどうしよう。行く宛もないあたしはどこに目的地を決めればいいのだろうか。
ふうとため息をついた。6駅先の町に着くまで30分くらいはかかる。その間、誰かと話すことも無くいたのだった。
6駅先の町に着いた。電車から降りて切符を通過口に入れてホールを出る。外に出てまたひたすら歩いた。
確か、この町にはあたしの親戚が住んでいたはずだ。それを思い出して朧げな記憶を頼りにその親戚の家を目指す。人に聞こうかとも思うが。
それは止めておいた方がいいかもと思い直した。それでも地図もないのでスマホで親戚の名前を言って地図機能で探してみる。
当てずっぽうだが家の場所が出てきた。その通りに行ったら小洒落た赤い瓦屋根の家にたどり着いた。
門の前に立って呼び鈴を鳴らしたのだった。すぐに返事があり玄関のドアが開けられた。
「……はいはい。どちら様でって。あんた、朱莉ちゃんじゃないのかい?!」
ドアを開けて出てきたおばさんの第一声がそれだった。
「……ご無沙汰です。横津のおばちゃん」
あたしが言うと横津のおばちゃんは目を見開いた。そして慌てて駆け寄るとあたしにいきなりどうしたのと言ってきた。