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私的な魔剣鍛冶《グラムスミス》 ~英雄やめても望むは平穏~  作者: 夜神
第3章 1部 英雄と商人と魔剣鍛冶
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第7話 「一触即発な展開」

 あれから数日。

 未だにスバルさんラブな誰かは現れていない。

 どうしてあたしがそのように言えるのか疑問を持つ人も居るだろう。でもそれは簡単な話だ。

 何故ならば……ここ最近は毎日お昼ご飯食べに行ってるから!

 もちろん今日もお邪魔してます。ちなみに今日は非番なので出来れば夕食もご馳走になる予定です。

 非番多くないかって?

 いやいや、ちゃんと働いてますから。

 騎士ってみんなが思ってるより大変なんだよ。勤務時間も朝からだったり夕方からだったり、場合によっては1日中だったりと変則的だし。任務も街の見回りから魔物の討伐まで多種多様なんだから。

 それに誰だって急に病気になったり、怪我をしたりする。そうなったら誰かがヘルプで入るしかないじゃないっすか。

 あたしはほら病気とかしないし、怪我しても擦り傷とかくらいだからヘルプで入ることが多いわけです。

 だからそのぶんの休みをもらえてるだけ……誰に弁解してんだろあたし。よく謝ってるからあれこれ考えるのが癖になってるのかな。それともスバルさんの相手をしてて疲れて……まあいいや。それより


「お邪魔しま~す! 今日もご飯食べに来まし……た?」


 ……ごめんみんな、やっぱり聞いて。

 誰もいないかもだけどいると思って現状を語らせて。そうじゃないとあたしの精神が持たないから。

 だってさ、中に入ったら真っ先にすっぽんぽんな光景が目に入って来たの。

 しかもスバルさんがユウの胸を両手で掴んでる状態で。ふたりとも身体が濡れてるから汗でも流してたのかもしれないけど。状態が状態なだけにさすがのあたしも困惑ですよ。


「おぉう……」


 スバルさんってやっぱりスタイル良い。鍛え抜かれてて無駄な肉が全くないし。

 でも胸は大きくて張りもある。お尻だって引き締まってるけど女性らしい丸みはある。身体だけ見れば完全に女だ。

 何より……全体的に小麦色だけど、胸とか股あたりはほんのり色が薄い。それが何とも言い難いエロさを放っている。シルフィ団長とはまた違った魅力が……いやいや、あたしはシルフィ団長一筋。浮気はいかんぞアシュリー・フレイヤ。


「……ほほぉ」


 改めて見てみると、ユウはユウで年の割にエッチぃ身体してんな。

 しっかし何でお前はそんなに胸だけ育ってんだ。あたしやスバルさんと比べると小振りだけど、それは年不相応な代物だぞ。

 せめて2、3年後にそれくらいに育つべき。女の子は早熟だから同年代が見たら色々思っちゃうぞ。まあ獣人だから人間より育ちやすいのかもしれんけど。

 でも最後にこれだけは言わせて。

 実に将来有望なおっぱいだ。今後が非常に楽しみです!


「……失礼しました。眼福でした。あとはおふたりでごゆっくり」

「おい待てバカ女! 何勘違いしてるかしんねぇけどちげぇからな。微妙に間があったのは気になるけど、それは置いといてやるからこの変態からオレを助けろ。つうか眼福ってなんだ。さりげなくてめぇも変態発言してんじゃねぇ!」


 いやだって……ねぇ?

 目の前に裸の女の子が居たら女の子だって色々見ちゃいますよ。胸とかお尻とか二の腕とか、その他もろもろ自分と比較したくなっちゃうし。ある意味男の人よりも女の方が見るんじゃないかな。


「眼福か……ふむ。アシュリー」


 うわぁ……この感じ凄く嫌な予感しかしない。


「そんなに見たいのならば好きなだけ見るといい!」

「何でそこで仁王立ちするかな? せめて前くらい隠そうよ!」

「見られて恥ずかしい身体ではない!」


 そうだけど! そうじゃない!

 あたしは女だし、確かにスバルさんの身体は素晴らしいよ。

 でもさ、ここはあなたの家じゃなくてルーくんの家なの。ルーくんは男なの。少しは慎みを持とうよ。ユウの教育にも悪いから。


「ルーくんがここに来たらどうすんの!」

「ふ……愚問だな。そうなればルークに責任を取ってもらうだけだ!」


 自分から裸を見せるような真似をしといてそれはひどくない!?

 一般的には男が悪いことだけど、今回の場合に限ってはあたしはルーくんの味方をするよ。だってやってることが罠に嵌めてるだけだもん。


「バカなこと言ってないで今すぐ身体を拭いて服を着なさい!」

「君は私のお母さんか。そんなんだと将来子供が出来た時にウザがられてしまうぞ」

「余計なお世話じゃ!」


 つうか、さっさと身体を拭け。服を着ろ。

 今すぐやらんとあたしがあんたの代わりにねっとりたっぷりと身体中拭くぞコラ。そんでゆっくり下着を付けながら観賞すっぞ。

 ただ服は自分で着せる。だって露出の多い服ばかりだから楽しむのは下着までで十分だし。


「分かった、分かったからそれ以上怒らないでくれ。すぐに身体を拭いて下着は付けよう。今のやりとりの間にユウはすっかり服まで着てしまったし」

「その言い方だとオレが裸のままなら着替えようとしてねぇみたいなんだが」

「というか、何で下着までなの。服まで着ようよ」

「あいにく今は全て洗濯中だ」


 何で全部洗ったし!

 着替えがあんまりなさそうなのは知ってたけど、あるうちに買いに行ったり出来たでしょ。羞恥心がないとそのへんまでダメになるわけ。


「ならマントでも付けててください」

「ふ……アシュリー、聞いていなかったのか? 私は全て洗濯中だと言ったはずだぞ。マントも洗っているに決まっている!」

「堂々と言うことじゃない! ならどうすんの? 今日1日下着姿で居るわけにもいかないでしょ。いつスバルさんの追っかけが来るかも分かんないわけだし」

「そのへんは問題ない。ルークのを借りればいいだけだ」


 確かにルーくんの服なら問題なく着れるだろうけど……お前はルーくんの彼女でもなければ嫁でもないだろ!

 いつ来るか分からない追っかけに対抗する手段としてって言うなら理解できるけど、絶対そんなこと考えてないよね。純粋に思ったこと口にしてるだけだよね。

 もしシルフィ団長が急に来てルーくんの服を着てるスバルさんを見たらどう思うと思ってるの。あの人純粋なんだから確実に誤解するよ。下手したら涙浮かべちゃうよ。

 何より……気軽に異性を服を着ようとしてんじゃねぇ!

 何か分かんないけど、別にルーくんのこととかどうでもいいけど。だけど恋人いない身からするとさ、借りシャツしてるみたいで憧れと妬みが芽生えちゃって胸の内がカオススパイラルだから!

 何言ってんのって? 正直自分でもよく分かんない。故にそこは考えずに感じて。


「ほらタオル。それとルークの服も持ってきたからさっさと身体拭いて着ろよな」

「ユウは仕事が早いな。助かるよ」


 これで一段落。

 やれやれ、本当スバルさんの相手って疲れるよね。ある意味あたしよりうるさくて鬱陶しいし。

 なのにルーくんはあたしが騒ぐ方が怒る気がする。

 付き合いはスバルさんの方が長いわけだから贔屓されるのも仕方ないけど、もう少しあたしに対して寛大であっても良いんじゃないかな。


「…………ルークの匂いがする」

「おい! 何でそこで匂いを嗅ぐかな。真っ裸じゃなくなったけど下着付けただけでしょ。人が話してるんだから匂いを嗅ぐのやめろ!」

「いや~すまない、つい」


 つい、じゃねぇ!

 匂いは気になるものだけど、この人良い匂いするなぁって人はいるけども。でも身近な人の服を堂々とクンカクンカするのはやめよ。

 本人がこの場に現れたら色んな意味でドキッとしちゃうから。スバルさんだって自分の服を誰かに嗅がれてたら嫌でしょ。


「私にとってルークの匂いは好きな匂いなんだ」

「そんなこと聞いてないんですけど」

「まあいいから聞きたまえ。これはとある一説なんだが、女性は自分となるべく異なる遺伝子を持つ異性と交配したがるらしい。その方がより強い生命力を持った子孫が誕生するそうだ。良い匂いと思う相手は遺伝子的に相性が良いらしい。つまり私にとってルークはそういう意味でも相性が良いというわけだ」


 ご教授どうもありがとう。でもこれだけは言わせてください。

 結局言いたいことって最後だけだよね!

 さらりと遺伝子的にも私とルークはラブラブなんだ。ちょっかいを出してもいいが取れると思うなよって言いたいだけだよね。

 そこまでの感情が込められてるかは分からないだろって?

 あぁそうだよ。でも日頃の距離感を見せられたらそう解釈もしたくなるのが人ってもんでしょ。だってあたし独り身だし。年齢=彼氏いない時間だし!


「子供の前でそういうこと言わない!」

「いや、いまさらそんくらいのことでどうも思わねぇよ。それにオレら獣人の方がそういう傾向が強いしな」

「え……ユウ、あんたもしかしてまだ子供なのにルーくんの子供を産みたいとか思ってるの? 発情しちゃってるの?」

「思ってねぇし発情もしてねぇよ! 何で獣人の一般的なことを言っただけでそういう発想になんだよ。発情してんのはお前の方だろバカ女!」


 ルーくんに対して発情とかしてないし。スバルさんやユウの裸を見た時は興奮したけど。

 でもそれは生理的なもの。

 綺麗なものを見たら綺麗だと思うし、可愛いものを見たら可愛いと思う。そういうのと同じだから。やましい感情とか皆無だから。シルフィ団長にも悪いし!


「大体なオレはここに住んでんだぞ。オレ自体が日に日にルークに似た匂いになってきてんのにルークの匂いで発情とかするかっての」

「それもそうだよね」

「だが先日、私はユウが衣類に顔を埋めている姿を見たのだが」

「え……」

「ち、ちげぇから! それは洗濯したものに臭いがないか確認してただけっつうか……オレをお前ら変態と一緒にすんなよな!」


 ちょっと怪しいけど、必死な姿が可愛いので追及はやめておいてやろう。

 しかし……今ユウはお前『ら』と言っただろうか。それはつまり私も変態に含まれると?

 いやいや、あたしにはスバルさんみたいに露出の趣味もないし。

 仮に一般から見て変だとしても、スバルさんやあのクソエルフ、酒場の吸血鬼には到底及ばない。よってそこを変態とした場合、あたしは変人であっても変態ではないということ。

 大して変わらないと思われるかもしれないけど、変人か変態かで言ったら変態の方が嫌じゃん。


『あの~すみません~』


 コンコンという音と共にドア越しに聞こえた声。あたしの記憶にはないが、若い女性のように思える。


「おいスバル、誰か来たんだからさっさと着替えろ」

「別に下着を着ているのだから焦る必要はないと思うのだが」

「オレらやお前の知り合いなら別にいいけど、ルークの客とかだったらあいつの評判が悪くなるだろ!」

「ふふ、ユウはルークが好きなんだな。だが私が妻だと名乗れば問題ないような気もするぞ」

「問題あるだろ! あぁもう、いいからさっさと着替えろって。おいバカ女、お前ちょっと時間稼いでろ。その間にオレが強引にでも着替えさせる」


 本来客の立場である私が何故そのようなことをしなければならないのか。

 あたしの奥底からそんな声も聞こえてきた気がするが、日頃食事の世話をしてもらっているだけにここは素直に言うことを聞こう。

 でもあたしが出て大丈夫なのかな? それはそれで誤解が生まれる可能性がありそうだけど。

 まあでも下着姿のスバルさんが出るよりは大丈夫だよね。騎士の恰好だってしているわけだし。


『あの~』

「はいは~い、今出まーす」


 ドアを開くと、そこには黄色味を帯びた茶髪の少女が立っていた。

 胸やお尻はあたしやスバルさんより小さい。でも女性らしい丸みがないかというとそうではなく、身長に見合ったバランスの良い身体つきをしている。着痩せするタイプかもしれないので、実際はもっと凄いのかもしれない。

 瞳は大きく綺麗というよりは可愛い顔立ちだ。髪の毛は肩に掛かるくらいの長さだけど、毛先などは遊んでいて自分なりに身なりをしっかりと整えている。

 何というか……全体的にふんわりした印象を受ける女の子だ。


「あれ? あの~ここってルーク・シュナイダーさんの家ってお聞きしたんですが、もしかしてわたし間違っちゃいました?」

「ううん、合ってるよ。あたしはまあ友人というか知人というか……まあ他がちょっと手を放せない状態だったから代わりに出ただけで」

「なるほど、そうなんですね。じゃあ中に入っちゃってもいいんですか? さっさとその男から愛しのスバル様を取り返さないといけないんで」


 にこやかな顔だっただけに放たれた毒を理解するのに少し時間が掛かった。

 うん、この子結構やばい気がする。何か凄く腹黒そうというか、愛のためなら何でもしそうな感じだ。

 ぶっちゃけ今回はスバルさんと協力するって言ったルーくんの問題だし。騎士だからって人の私生活に介入するのは良くないよね!

 そう結論付けたあたしは、少女を家の中に招き入れる。

 それとほぼ同時に厨房の方からユウとスバルさんが戻ってきた。

 スバルさんが来ているのはルーくんの服なので少しダボっとしているけど、男性的な雰囲気があるだけに悪くはない。上に至っては胸があるからちょうどいい感じだし。

 なんて考えていると、後ろから肩を掴まれ勢い良く横向きに押された。突然のことに対応できず、盛大に倒れたのは言うまでもない。


「お久しぶりですスバル様!」

「あ……イリチアナ、君だったのか」

「もう、わたしのことはイリナって呼んでくださいって何度も言ってるじゃないですか~。というか、今日のスバル様は一段と凛々しくて素敵です。いつもの恰好も素敵ですけど、そういう男性的なスタイルもわたし的にグッと来るというか」


 スバルさんの手を取るのと同時にこの捲くし立て。

 あのスバルさんが押されている顔をするなんて……まああの立場に居るとすれば、あたしも似たような反応をするだろうけど。

 でもそれ以上にわたしって可愛いじゃないですか~って感じが気に食わん。必要以上に可愛さ振りまいてんじゃねぇよ。確かに可愛いけどあざといわ。


「でも~何かその服ってスバル様の丈に合ってませんよね?」

「これはその……うっかり着替えを全部洗濯したからルークのを借りているというか」

「ふーん……まあおふたりは将来を約束されてるって話ですもんね。それでそのルークさんは今どこに?」


 教えてくれないとそいつ殺せないじゃないですか~。

 そう言いたげな笑顔である。

 これは落ち着くまでルーくんは顔を出さない方がいいんじゃないかな。そう思った直後、工房の扉が開いた。そこから出てくる人物はひとりしかいない。


「いつもより騒がしいと思ったら来客か」


 現れたのはイリチアナとかいう少女にとって恋敵であるルーク・シュナイダー。

 でもいつものルーくんじゃないよ。今日は気温が高いし、火を使う工房の中はさらに暑かったんだろうね。上は肌着1枚まで脱いでいるし、汗だって凄く掻いている。

 あたしは訓練とかして汗を掻くからそこまで気にしないけど……うん、やっぱりあの子は凄い顔をしてる。これは一触即発の雰囲気。

 あたし、今日は来ない方が良かったかも……。




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