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私的な魔剣鍛冶《グラムスミス》 ~英雄やめても望むは平穏~  作者: 夜神
第2章 1部 ポンコツ侍と魔剣鍛冶
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第5話 「判断基準は人それぞれ」

 ……何故こうなった。

 予定通りにオウカの刀を仕上げた俺は、現在ガーディスに頼まれた魔物を討伐するために西の山岳地帯へ移動している。

 移動手段は馬車であり、これは騎士団の方が用意してくれた。

 荷車の方に乗っているのは俺、ガーディスが派遣した騎士が2人。手綱を握っているのは……ポンコツ侍ことオウカである。

 いやまあ……正直に言えばさ、オウカが居るのは仕方がないことだと思うよ。

 だって正義感強い娘だし、根が武人だから新しい刀が手に入ったら使いたくもなるしね。

 魔物相手に戦えなさそうだけど、自分も連れて行けと幼児のように駄々をこねられたら折れるしかないじゃない。だって非常にウザいんだもの。

 それに一応ポンコツ侍は、戦えてはいないもののこれまでに何度も魔物と相対した経験がある。

 それで死んでいないのだから非常時に助けを呼びに行ったり、周囲の村などに注意を呼び掛けに行ったりする役割くらいは出来るだろう。そういう意味では居ても困りはしない。というか、それ以上に問題なのは……


「なあ……お前らのどこが優秀な騎士なんだ?」


 鋭い目つきになっているのか、思った以上に低い声で問いかけたからか、騎士の片方は冷や汗を掻きながら盛大に身震いする。


「い、いや……べべべ別にあたしが自分のことを優秀だと言ったわけじゃないと言いますか。こちらとしても突然今回の任務を任されたわけで」


 この動揺具合で分かる奴は分かるだろう。

 そう騎士のひとりは、馬鹿力と素直さしか取り柄のないアシュリー・フレイヤ様である。

 ガーディスは何を基準にこの娘を優秀な騎士だと判断したのだろうか。

 力か? 力なのか? 力は全てにおいて優先される事柄なのか? お前の判断基準はそうなのか。それとも胸や尻のサイズ感で選んだのか。いやそうなんだろこのクソジジィ。

 と、ガーディスが居たら無意識に問い詰めそうである。

 こいつを寄こすなら最初から優秀だとか言わずに暇人を寄こすと言え。そうすれば俺だって無駄な苛立ちを感じなかっただろう。


「あのルーくん……いえルークさん。そんなに怖い目で見つめられてもドキドキしないと言いますか、冷たい言動に耐性のあるあたしでも困るというか……。本当に勘弁してぇ~、あたしは魔物討伐してこいって言われただけなんですぅぅぅッ!」


 ガキみたいに泣きそうな目で訴えかけるな。そんなのは前に居るポンコツ侍だけで十分なんだよ。

 まあ……こいつに対してあれこれ言うのも筋が違うのは分かっている。

 だが今回討伐する魔物は非常に凶暴という話だ。まだまだ騎士として経験の浅いアシュリーを連れて行くリスクと考えると小言のひとつやふたつ言いたくもなる。見知った人間が死んだりすれば俺だって思うところはあるのだから。


「まあまあお姉さん、ああ見えてお兄さんはお姉さんのこと心配してるんだよ。素直に言うのが恥ずかしいだけでぇ」

「心の中で何を思おうが自由だが口には出すな。というか、何でお前がここに居る?」


 馬車に乗っているもうひとりの騎士。それは先日ヨルクを護衛していた傭兵の少女だ。

 白い髪にやる気を感じさせない表情と口調。近くに置かれている長刀……鞘の先端に小太刀が仕込まれている特殊刀からして間違えるはずもない。


「うん、それはあたしも思ってた。何であなたが騎士の恰好してるの?」

「いやいや、お兄さんもお姉さんも今更過ぎない? まあ別にいいんだけどぉ。ウチ傭兵やめて騎士になったんだ」

「いやいやいや、そう簡単になれるものじゃないし!? というか、あんた犯罪者として捕まってたじゃん!」

「まあそうなんだけどぉ……騎士団も少しでも腕の立つ人手が欲しかったんだろうねぇ。こっちが捕まってから諦めて知ってること話して、お兄さんと良い勝負したとか言ってたらお爺ちゃんが勧誘してきたしぃ。まあ俗に言う司法取引的な? あと名乗ってなかったと思うから名乗っておくね。ウチはハクア、ハクア・エクレール。ハクアでいいよぉ」


 マイペースな少女の言葉にアシュリーは頭を抱えるが、騎士団として見れば悪い話ではない。

 現状騎士団は、ここ最近の事件で国中を捜査している。いくら人手が居ても足りないような状態だ。また今居る騎士の多くは魔竜戦役といった大戦を経験していない。故にこの少女のように腕の立つ人材は欲しくもなるだろう。

 ただ……人格といった面で心配にはなる。

 幼い頃から傭兵として生きてきたがためにこの少女は命を奪うことに抵抗がない。

 騎士団にも犯罪者や魔物の討伐といった汚れた仕事はあるだけに、それが良い方向に働くことはあるだろう。だが平時は見回りや訓練、公共の施設の修繕といった雑用を行うこともある。

 命のやり取りが最も生の実感を覚える行為になっているだけに戦闘時以外が心配でならない。傭兵時代は受けた仕事は何であれ真面目に取り組んでいたため、仕事としてやるからには大丈夫なのかもしれないが……


「も~お兄さん、そんなに見つめられたらウチときめいちゃうじゃん。まぁウチとしては、お兄さんがウチのこと考えてくれるのは全然ありだけどぉ。お兄さんが望むなら……身体を重ねてもいいと思うしぃ」

「ちょっ真昼間から何言ってんの!? そそそういうのはもう少し日が落ちてからというか、いや日が落ちても言っちゃダメ!」


 顔を真っ赤にしてるってことはちゃんと意味合いは理解してるんだな。まあさすがにあと数年もすれば20歳になる娘が、そういうことを知らないのもおかしな話だが。


「やきもちぃ?」

「ち、違ッ……!? そそそそんなんじゃないし! ルーくんのこととか何とも思ってないんだから。基本的に冷たいし無愛想だし優しくないし! ま、まあたまには……その……」

「ごめんごめん。謝るから落ち着いてよぉ先輩」

「これが落ち着けるわけ……! え、先輩? あたしが?」

「うん。お姉さんの方がひとつくらい年上って聞いたし、こっちの方が遅れて騎士団に入ったわけだからねぇ。だからお姉さんはウチの先輩」

「そっか……先輩か。えへ……えへへ……先輩……あたしもついに先輩」

「このお姉さんチョロいなぁ……」


 そんなの前に会った時から分かってたことだろ。

 しかし……ここまで上手く弄ばれるとアシュリーの将来が心配になってくる。

 強姦の類なら持ち前の馬鹿力でどうにか出来ることも多そうだが、詐欺とかだと致命的にダメな気がする。故に悪い連中にだけは引っ掛からないで欲しいものだ。泣きついて来られても困るし。


「ところでお兄さ~ん」

「近寄ってくるな鬱陶しい」

「もうそんなこと言っちゃって。本当は嬉しいくせにぃ」


 今の俺の顔を見て本当にそう思うならお前の感受性は破綻してるぞ。

 あとマジですり寄ってくるな。お前は発情した猫か。

 傭兵生活で磨いた女としてテクニックかもしれないが、はっきり言って俺には通じないぞ。お前やアシュリーは一般とずれてるところがあるから女として意識しにくいし。女慣れしてない高校生なら勘違いしてもおかしくないがな。


「話したいことがあるならさっさと本題に入れ」

「時間はあるんだし交流を深めようよぉ……って言いたいところだけど、上の人にあれこれ言われると後が面倒そうだしこのへんにしとこかな。ねぇお兄さん、あっちの綺麗なお姉さんとはどういう関係なの?」


 馬車が一瞬大きく揺れる。突然話題にされたオウカが動揺し馬の操作を誤ったのだろう。

 俺やハクアは特に問題はなかったが、先輩になった実感を噛み締めていたアシュリーだけは舌を噛んだらしく、声にならない悲鳴を漏らしながら悶え苦しんでいる。この娘は馬車に乗る度に舌を噛むのではなかろうか。


「その……今しがた耳に届いた綺麗なお姉さんとは某のことだろうか?」

「うん。お姉さん以外に綺麗な人なんてここにはいないじゃん……先輩どうかしたぁ? え、今のだと自分は綺麗じゃないのかって? うん、だって先輩は綺麗よりも可愛いだし」


 ハクアの言葉にアシュリーは口元を押さえた状態で笑みを浮かべる。うん、実に気持ち悪い。

 というか、絶対に方便だろ。適当に言ってるだけだろ。

 客観的に見ればオウカは凛とした美人であり、アシュリーも明るく元気な美少女かもしれない。いや外見だけならばそこは断言してもいいかもしれない。

 だがしかし!

 俺からすれば、このふたりはただの残念な奴でしかない。外見を気にする前に内心を磨け。


「それで、ふたりはどういう関係なの? 合流する時に最初から一緒に居たけどぉ」

「そ、そそそれは某がここしばらく魔剣鍛冶(グラムスミス)殿の家にお世話になっていたからで。今回同行を願い出たのも魔剣鍛冶殿が魔物退治に行くということでその恩返しになればと思い……!」

「なるほどなるほどぉ……ひとつ屋根の下で生活していたと。つまりお姉さんとお兄さんは男女の仲なんだ」

「なっ……そ、それはその」


 何でそこで赤面して言い淀む。それだけ見たら何かあったかと思われるだろうが。

 手合わせしたり同じテーブルで食事をすることはあったが、寝る場所は別だったしラッキースケベもなかった。初対面の時に身体で払うとか馬鹿げた発言をした以外に恥ずかしがる要素はないだろ。


「お兄さん、モテるのは仕方ないけどすぐ新しい女を作るのはどうかと思うなぁ。ウチの気持ち知ってるくせに」

「そんなもの知らん。それにそいつと俺の関係は客と店主ってだけだ。家に泊めてたのも宿に泊まる金がないって泣きつかれたからであって他意はない」

「本当にぃ? どうなのお姉さん?」

「それは……その……そのとおり。そのとおりですが……いえ、何でもないです。魔剣鍛冶殿の言うとおりです。我らの間には特に何もありません」


 オウカの後ろ姿が若干気落ちしているように見えるのは、俺の気のせいだろうか。

 もしも気のせいでなければ、オウカは何か間違いが起こって欲しかったということになるのだが。

 いくら伴侶を連れて帰るのが習わしだからといって既成事実を作って男を持って帰ろうとはしないはず。

 あいつも一応女であることは捨てていない……はずだ。ちゃんと恋愛をして伴侶を獲得し、そして村に帰りたいと思っている……と願いたい。


「ルーくん……今の話本当だよね? 信じていいんだよね?」


 しゃべれるようになったかと思えば……お前はこういうとき睨みながらしか会話に入って来れないのか。

 何かもうこいつの彼女面に思える言動にも慣れてきたけど、それに比例してこいつの将来恋人が不安になってきた。多分こいつ恋人が出来たら束縛激しそうだし。素直ゆえに愛も重いというか……

 自分だけの時間が欲しい俺とはつくづく相性が悪い。まあ俺とこいつがそういう関係になることはないと思うが。


「逆に聞くが……お前の中の俺は、女なら誰かれ構わず口説く奴なのか?」

「そんなことは……ないけど。でも知らない間に女の人増えるし」

「田舎の鍛冶屋とはいえ商売なんだから増える時は増えるだろ。というか、黙ってないとまた舌噛むぞ」

「そうそう噛むわけな――ッ!?」


 言わんこっちゃない。首都から離れれば、それに比例して道が荒くなるのはお前も知ってるだろうに。

 あ~はいはい、痛いのは分かったから俺を叩くのはやめてくれ。俺を叩いてもお前の感じてる痛みは引かないから。それどころか俺が痛い思いしてるから。良い子だから端の方で悶絶してなさい。


「はぁ……」


 まだ目的地に着いてすらいないのに疲れてきた。

 このメンツと本当に魔物退治なんて出来るのだろうか。いくら考えても心配と不安しか浮かんでこない。それだけに自由に空を飛んでいる鳥が羨ましく思えた。




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