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魔王と勇者の創り方

【魔王と勇者の創り方 〜マッチポンプ式世界救済法〜】


マッチポンプとは・・

偽善的な自作自演の手法、作為を意味する言葉である。






非常に美しい娘・・まだ少女と呼ぶべき年頃だろう。


肩口で揃えられた銀色の髪、紅い瞳に、暖炉の炎が煌々と照らしだされている。


少女はメイド服を着ているところから、この家に仕えているのだろう。


今は休憩中なのか、その日の仕事を終えたのかは分からないが、テーブルに向かい、イスに腰掛けながら、両手で頬杖を付いて、本を読んでいる。


手元には一冊の本が開かれており、少し右手側にもう一冊と手紙が置かれている。


何かが気に入らないのか、ページを捲るたびに、美しい顔が歪んでいく。


一通り読み終えたのか、本をパタンと閉じ左手側に移す。

新たにもう一冊の本を手元に引き寄せると、再び頬杖を付き読み始める。



『今より数百年も昔、大魔王ゲデルキア・バスデオルが攻めてきた。

この世に蔓延っていた何千、何万ものモンスターを従えて。


人々は一致して戦うも力及ばず、滅びを待つだけであった。


人々は祈り、その声は天に届いた。


光と、正義と、勇気に満ち溢れた王家に祝福が与えられる。

王子や王女たちは勇者へと変貌を遂げる。


勇者たちは、大魔王ゲデルキア・バスデオルを討伐する。

国王と勇者たちは力を合わせて、国を建て直し、再び平和を取り戻した』



少女は本をパタンと閉じる。


「勇者と王家の物語・・か」


もう一冊は勇者教だかの経典であり、同じ様な内容が難しい言葉で書かれていた。


ふぅーっと息を深く吐き出すと、二冊の本を持って立ち上がる。

徐にポイッと、二冊とも暖炉へくべてしまう。


「こんな物のために金と時間を使うなんて、何て無駄な事をしたのでしょう・・。ちゃんとした薪を買った方が、遥かに有意義だったわ」


本は紙であり、インクも使われていて燃えやすいが、ぴったりと閉じられていると、燃え尽きるのに時間がかかる。


「ずいぶんと自分たちの都合の良い様に、改竄しているのね」


何時までも燃え残る本を苦々しく見つめ、机の上に残された手紙を取り部屋を出る。






通いなれているのだろう、淀みなく道を進み、一つの扉の前に立つ。


オリジナルの魔法で鏡を作り出し、髪を整え、服を整え、何度も鏡と睨めっこをして、やっと満足したのか、笑顔が浮かびそうになるのを無理やり押さえ込み鏡を消す。


澄ました表情を取り繕って、扉をノックする。


「お父様、よろしいでしょうか?」

「ん? プラチナかい? 入っておいで」

「失礼致します」


お父様と呼びかけた人物の許可を待って、部屋の中へと足を踏み入れる。


部屋の中は非常に広々としており、更に二階層に分かれている。

少女が立っているのは、丁度踊り場にあたる場所だが、右を向いても、左を向いても、遥か先まで壁は見えない。


上下のどちらの階にも、色々な機材が所狭しと並べられている。

数箇所毎に、机とイスが置かれており、資料が山と積まれていた。


ただ間々にあるべき柱が無く、どうやって二階層部分の床と言うか天井を支えているのかと思わせる。


「何か有ったのかい?」


上の階から白衣を着た、三十代ぐらいの黒い瞳に、腰まである黒髪を後ろで一つに束ね、丸眼鏡をチョコンと鼻の上に乗せた人物が降りてくる。


「お仕事中、申し訳ありません」

「構わないよ。プラチナの方から来るなんて余程の事だろうしね」

「『愚者の目と耳』から手紙が来ました」

「へぇー・・、何て書いてあるんだい?」


一瞬驚いた様子だが、その中には多分に喜びが含まれる。

その表情を見たプラチナが、ほんの一瞬拗ねた顔をするが彼は気づかない。


「その前に、お父様」

「何かな?」

「大魔王ゲデルキア・バスデオルの事を覚えておいでですか?」

「・・えっ!?  大魔・・王? ゲデル・・バス? 大魔王、大魔王、大魔王・・」


記憶を蘇らせる呪文かのように、しばらくブツブツと呟く。


「・・ああ! 思い出した思い出した! 大魔王ゲデ・・バ、何だっけ?」

「嘘ですね」

「・・何で嘘って、分かったのかな?」


あれだけあからさまにおかしな態度をしていれば、誰でも嘘と分かりそうである。


「お父様の事で分からない事はありません」

「そうなの?」

「勿論です」


きっぱりと言い切るが、すぐにネタバラシをしてくる。


「大体にして大魔王ゲデルキア・バスデオルなど、王族や民衆が勝手に名付けた上に、真実を捻じ曲げられた存在なのですから」

「えっ!? そうなの? そりゃあ分かんないや」


アッハッハッハッハッと空笑いをする。


「お父様!」


バーンと扉を開けて、一人の少女が飛び込んでくると、そのまま白衣の男性に抱きつく。


プラチナは、その声、その姿、その態度に、般若のような表情を浮かべる。


「どうしたんだいブロンド?」


腰まである緩くウェーブのかかった金髪に、碧眼を持つブロンドと呼ばれた美しい少女は、蕩けるような表情を浮かべて身体をこすり付けている。


プラチナとブロンドも、お父様と呼んだ割にはあまり似ていない。

体つきも、プラチナが上から下までストーンと言う感じに対して、ブロンドはボンキュボンといった感じである。


「ブロンド! あなた、お父様の許可なく部屋に入るとは! それにあなた、またお父様からいただいた服に手を加えましたね」


二人に与えられたメイド服は、元は同じものだったはずだ。

プラチナは、長袖に足首近くまでのスカート、首も覆う肌の露出の少なく、若干緩めに作られている。

しかしブロンドの方は、体の線が強調され、袖はなく、胸元も大きく開き、ミニスカート、オーバーニーソックスで絶対領域を確保されたものだ。


「上からの贈り物が届きましたわ」

「おぉっ!? それは本当かい!」

「はい!」


男たちを虜にさせるような笑みを浮かべながら頷く。


プラチナの言葉は、明らかにワザとスルーされたようだ。


「いやー、最近色々な実験に手を広げすぎていたせいか、時間が経つのも分からないものだね。もうそんな時期なのかぁ」


そのままブロンドが腕を組み、引っ張るような形で、開けたままの扉を出て行く。


ブロンドは扉を出る直前、プラチナの方に振り向き、あっかんべーをする。

プラチナは一切の表情を消す。その顔には「殺す、絶対」と書かれていた。


話の途中であるプラチナも、滲み出る殺意を出来るだけ抑え、仕方なく二人の後を追う。






三人はぴったりと閉ざされた、大きな両開きの扉に辿り着く。


お父様と呼ばれた白衣の男性が、左右の扉に付けられた取っ手を、手を交差させ、左右反対で握る。


そのまま左右に引っ張るという、物理的におかしな動作をする。

すると扉そのものが消え、正面が幾何学模様で彩られる。


何のためらいもなく三人は、中へと足を踏み入れる。


部屋の中は摩訶不思議な空間で、三人が立っているのはちょっとした出っ張り。


上も下も奥行きも、どの位あるのかわからない広々とした真っ白な空間である。

そこに数え切れないほどの棚や箱が、ゆっくりとぶつからない様に漂っている。


「上からの贈り物を」


白衣の男性は、上からの贈り物と言う言葉に、ずっと上を向いていたが、ゆっくりと普通の木の宝箱が、下からせり上がってくる。


特異な部屋に似つかわしくない外観だが、小部屋ほど大きさと言うのが普通ではない。


「さぁてっと、今回はどんなものが入っているのかなっと」


嬉々として宝箱を開け中身を確かめると、笑顔なのに、目だけ笑みが消えていた。


「プラチナ?」

「はい、何でしょうお父様?」

「さっきの話の続きだけど」

「えっ!?」

「大魔王ナンチャラカンチャラって話し」

「ああ・・」


新しいおもちゃの喜びから一変、先ほどの話に戻った事に戸惑うプラチナ。


「あのスライムの事かな?」

「思い出されたのですか?」

「まぁねぇ・・。この中のアイテムが尋常じゃないから」


冷たい視線に変わった主も、にこやかに見ていたブロンドが口を挟む。


「と言う事は、お給料ではなく、お父様へのお仕事の依頼ですね」

「そう言う事だよね、プラチナ?」

「『愚者の目と耳』からの報告では、そのようです」


白衣の男性は、懐かしむような、ちょっと悔やむような表情を浮かべる。


「あの失敗作・・」

「「いいえ、成功作です!」」


白衣の男性の言葉を遮って、プラチナとブロンドが言葉を被せる。


「そ、そうかな・・。全世界の魔獣やモンスターを完全支配するだけの、特殊能力しかないあの巨大スライム・・」






---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---






−BAR堕天使−


本来は穴場的存在であるはず・・

しかし右を見てはグラスを打ち鳴らし、左を向けば固い握手を交わしている。


「(ずいぶんと成功しているケースが・・、と言うかトラブルが多いものだな)」


自分もその一人ではあるが、彼らとは立場が違う。


かれらは互いの信仰ポイントをうまく使って、自分たちの世界を救っている。

トラブルのある側が信仰ポイントを、解決する側が人材を出すのだ。


つまりトラブルがある世界でも、信仰ポイントのない自分は誰からも相手にされない。


「(これから魔王だって、勇者だって必要になると言うのに・・)」


出てくる溜息に気づいたのか、店員の Mephistopheles が声をかけてくる。


「皆さん、上手くいっているようですね」

「そうだな・・」


彼の言葉に苦笑いを浮かべる。


「でも・・、何で片方ずつなんでしょうか?」

「片方ずつ?」

「ええ。最初に魔王だけとか勇者だけって、皆さん仰るんですよ」

「そうだな・・、何でだろうな・・」


理由は幾つか上げられるが、一つは自分の世界のバランスを見ながらと言う事。

もう一つは、上司の許可を得やすくしていると言う事だろう。


「(上司だって、責任を取らされたくないだろうからな)」


直接介入率を上げる異世界召喚系は、上司の責任問題になる。

そのため異世界召喚の申請に対して、良い顔はしない。


「両方一遍にやると、どうなるんでしょうかね?」

「それは・・ (どうなるんだ?)」


先の2つの理由から、魔王と勇者を同時に召喚すると言った事は誰もしていない。


「(世界平和をコントロールする人物を召喚する? 自分の代わりに? 召喚者を?)」


色々とアイデアが浮かんでは、消え、やがて一つの方針が見えてくる。


「(魔王と勇者を自分でプロデュースする、しかも世界の理に反しないように・・)」


申請しても許可が下りるかは分からないが、上司に相談してみる事にする。




部下からの相談を受けると、検討すると言って一旦保留にする。


そして同じく部下の双子の世界管理者を呼び出す。


「お前たち二人を呼び出したのは、他でもない」

「いい加減にしてもらえませんか?」


(びきっ!)


上司の穏やかな表情が、鬼のように一瞬で変わる。


「姉さん・・、もうちょっと穏便に」

「弟君! 罰だ罰だと言って、一体何度呼び出されれば。暇ではないんですよ?」

「では、もう許されて当然であると?」

「そ、それは・・・・。そ、そこまでとは思いませんが・・」


他の管理者から伝え聞くに、自分たちの存在自体が危なかったと。


きったんばっこん事件・・。


この程度で許されるはずもない問題の行為ではあったが、メリットも多いと聞いている。

だったら、もうそろそろ勘弁してもらいたいと思う、今日この頃なのだ。


「少なくとも自分たちのやった事を十分理解して、猛省できるまでは、徹底的にこき使ってやるぞ!」

「なっ!? 信じられない!」

「姉さん・・」


弟としては、これ以上、火に油を注ぐような事は避けて欲しいと思う。


「うるさいうるさい! 上司の言葉を素直に聞けるようになるまでは絶対に許さん!」

「ぶーぶーぶー、横暴だ!」

「今度はお前の番だったな! この案件に見合う人物を探しておけ!」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 絶対に嫌!」


駄々っ子のように言動ではあるが、逃げる事も、断る事も不可能なのは理解している。


「えっ!? 今回は受ける側ではなく? 与える側なのですか?」


姉が一切手をつけない資料を、盗み見た弟が驚きの声を上げる。


「うん? ああ、そうだ。異世界人を受け入れるだけじゃなく、受け渡す側も経験してもらおうと思ってな」

「なる程」


弟としてはこちらの方が良かったかもと、内心考えていた。


「条件に見合うまで、何度でもやり直させるからな! そのつもりで探せ!」

「職権乱用! パワハラ!」


うるさい蝿を追い払うように、上司は二人を退出させその場を解散する。






双子の管理者の姉弟の創った世界は、鏡面世界と言い、お互いの世界の住人が行ったり着たり出来てしまうという裏ワザが存在した。


先進的な考えの姉の創った世界は科学の世界であったが、あれよあれよと化学兵器による人類滅亡の最終局面に来ていた。


二つで一つの世界という特殊な環境を利用?悪用?して、弟の世界へと一旦自分の世界の人間たちを逃がす。


戦争が終わった時点で、自分の世界の住人を迎え入れたのだが、弟の世界は剣と魔法の世界で、まったく世界観が違っていた。


まあこっちの人間たちは、滅んじゃったしと、迎え入れやすい形に世界をチョコチョコっと加工した上で、住人たちを呼び戻したのである。


今までの経緯であれば、科学の世界に剣と魔法の世界と言う理を入れた時点で、世界は自動的且つ強制的に、『世界の初期化』と呼ばれるモノが起こるはずだった。


『世界の初期化』・・、人も動物も草も大地も空も海も、全て一旦なかった事にする完全、完璧なリセット。

あの方 が唯一と言って良いほど、厳格に禁止し、ルール化している問題である。


しかし『世界の初期化』は起こらなかった。

他の世界管理者たちは、この稀有な事例を調査している最中のなのである。


それ故に、双子の管理者は許されていると言っても過言ではない。


これが世界管理者の中で最も有名な大事件。世界管理者の世界創造における、超最高禁止事項である『世界の初期化』による違反第一号事件・・らしいが何せ長い。


通称、ぎったんばっこん事件と呼ばれている。






上司から手渡された資料には、一切目を通さず、弟の説明から対象者の絞込みを行う。


「はぁー・・、マッドサイエンティストか」


上司の用意した資料では、人間同士の争う世界で、魔王と勇者を管理する存在をとあったはずだ。

弟の説明でも、同様な説明となっていた。


その説明から、どこをどう曲解すればマッドサイエンティストと言う候補が上がるのか?


「錬金術師で、科学と言う存在に気づいた者。そして研究のためにどんな事も辞さない精神力。正義も悪もなく、純粋に、公平に公正に・・」


ブツブツと言う独り言から察するに、勇者と魔王を創り出す人物を探しているようだ。


「うーむ、候補者が多すぎて絞りきれないわねぇ・・」


混沌とした姉の世界の闇は、殊更深いようであった。






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その錬金術師は、あと少しというところで、科学と言う奇跡の技の一端に辿り着こうとしていた。


「死んだ? 私が? 何故?」

「錬金術の失敗によるものだよ」


上も下も左右も前後も分からない真っ白な空間に、いつの間にか居た。


目の前に世界管理者と名乗る金髪碧眼の男性が突如現れ、何故自分がここにいるのか説明を受けたところだ。


「馬鹿な! 私にはやらなくてはならない事が山のようにあるんだ!」

「ふむ、研究の続きをしたいと?」

「当たり前だろう!」

「こちらの条件を飲んでもらえれば、研究の続きを出来るようにして上げられるけど?」


死んだ人間を蘇らせる・・、錬金術でも科学でも不可能の領域だ。


「一体どうやって? 死者を蘇らせるとでも?」

「それは無理だよ。ただ新しい命として別の世界に行ってもらうなら可能だ」

「新しい命・・、生まれ変わりと言う事か」


そのような事ができるとは信じられないが、研究の続きが出来るならば・・


「条件を聞こう」

「話が早くて助かるよ」


世界管理者から、世界の安定を図るマッチポンプの説明を受ける。






錬金術師は、新しい世界の大地に降り立つ。


「目の前にあるのが、神とやらが用意した研究施設か」


城がすっぽりと入るような、灰色の単なる立方体がそびえ立つ。


「外観などどうでも良い。大事なのは中身だ中身」


キョロキョロっと周囲を見回して、中に入るために必要なものを探す。


「ふむ・・、扉がない。どうやって中に入るのだ?」


建物に一歩近づくと、目の前の壁に扉の大きさの魔方陣が浮かび上がる。


「なる程、面白い。一応神と名乗るだけの事はある。この建物自体も、錬金術や魔法、旧世界魔術(科学)の英知が込められているのだろう」


何の疑いもなく、魔方陣の中へと足を踏み入れる。




もし今の光景を見た人が居たら、自分の目を疑っただろう。


いきなり人が現れ、いきなり人が消えたのだから。

建物は錬金術師の目にだけ映る存在だった。






錬金術師は、この建物に入った瞬間、知識が流れ込み、この建物の使い方を学んだ。


「建物の中に限り、自分の思った通りに施設を創り広げる事ができる。ふむ・・、DP不要なダンジョンといった感じだな」


ダンジョンとは、モンスターの巣窟であり、宝の山である。

コアやボスと言った、ダンジョンを運営する存在があり、DPという代替エネルギーでダンジョンを大きくする。


ただこの建物内で色々な部屋や設備を作り出したり、消したりしても何のリスクもない。


「まずは神様とやらの約束ための、準備から始めるか」


向こうで言われた、自分にとっても大切な事。それは・・


「『異空間倉庫』作成」


研究施設にそう呼びかけると、目の前に両開きの扉が現れる。

左右の手を交差させ、扉を引き、現れた魔方陣の中へ身を投じる。


「これか・・、報酬にして、マッチポンプを行うための素材たち!」


神と会った空間と良く似た部屋には、数え切れないほどのアイテムが用意されていた。




異空間倉庫を出ると、次の作業へと移る。


「『オートマトン研究室』作成」


研究施設に向かって、そう呼びかけると、先ほどとは違い頭の中に色々な設定事項が現る。


建物の使い方は先ほど学び、熟知とまでは言わないが大体のやり方は分かる。

入り口、材質、色、大きさ、階層、セキュリティなど一つ一つ決めていく。


全ての項目の設定が終わると、目の前に普通の扉が現れる。


扉を開け中に入り、一通り確認する。


「うんうん、必要なものは揃っているようだ」


嬉しそうに両掌をニギニギする。


「では、ちゃっちゃと始めますか!」


倉庫管理者兼相談役として金髪のブロンドを、身の回りの世話役兼相談役として銀髪のプラチナを創り出し、その世界の情報を二人に刷り込ませ、二人にお揃いのメイド服を与える。



「君たちを創り出した理由は理解しているかい?」

「「勿論です、お父様」」

「・・お父様?」

「「私たちを生んでくださいましたから」」

「・・・そ、そう? ま、まあいいか。好きに呼んで」

「「はい、お父様」」

「じゃあ二人とも、それぞれの持ち場へ行って」

「はい」


ブロンドはすぐに異空間倉庫へ向かい、棚卸しに着手する。

しかしプラチナは、その場に留まり、躊躇いがちに声をかける。


「お父様・・、あの・・」

「どうしたんだい、プラチナ? 何か問題があるのかな?」

「提案とお願いがあります」

「ほお!? 提案とお願いね。言ってごらん」


生まれたてのオートマトンが、主に向かって意見を言う特異な例に、お父様と呼ばれた白衣の男性は笑みがこぼれる。


その笑みを見て、言葉を聞いて、プラチナの表情が明るくなる。


「僭越ながら、お父様の身体には寿命が御座います。何よりも生命を、情報を、知識を、研究を継続できるように、擬似転生システム『禁断の部屋』のご準備を真っ先に行われた方がよろしいかと」

「ああ、神様の言ってたやつね。了解了解、ありがとうプラチナ」

「い、いいえ。お父様のお役に立てれば・・」


ほんのりと頬を染める。


「で、お願いというのは?」

「はい。私プラチナは、お父様のお世話係で御座います」

「勿論、そう創ったしね」

「人は生きるために、食べる事寝る事は必要となります」

「うん? そうだね? それが?」

「お父様のために、お料理を作る台所、食材の入手と保存、トイレ、お風呂、寝室、洗濯、ああ、クローゼットにお洋服、書斎に、リビング、ああ、家財道具、調理器具・・」


錬金術師は、若干暴走気味のプラチナの言葉に、目をしぱたかせる。


「そ、そうだね、私にはその辺良く分からないから、私の世話に関するこの施設へのアクセス権をプラチナにあげよう」

「感謝いたします、お父様」


深々と礼をするプラチナに、声をかける。


「これで終わりかな?」

「もう一つお願いが・・」


二つもお願いするのは、心苦しいと思ったのか美しい顔が歪む。


「何だい? 言ってごらん?」


優しく語り掛ける創造主の言葉に、躊躇いながらも口を開く。


「お父様と神との約束を果たす上で、どうしても必要な事があります」

「ほう!? それは何かな?」

「情報で御座います。神から仕事を依頼された際に、お父様に何の情報も提供できないようでは、世話役として失格で御座います」

「ふむ、なる程」

「ありとあらゆる場所から情報を集める、部下をお与えいただきたく」

「分かった準備しよう。どの位必要かな?」


百人規模で良いかなーと思って安請け合いする。


「全世界を多い尽くすほど、人間だけではなく、鳥、獣、昆虫、草花・・。できれば家の壁や天井、床、屋根に至る全て必要かと」

「け、結構多いね・・」


世界ってどのくらいの広さだろう、下手すると全人類より多いんじゃねぇ?と思わずプラチナの言葉に引きつる。


「愚者の発言です、お許しください」


プラチナは出すぎた事をしたと、悲しそうな顔をして謝罪する。


「いや情報は必要だ。急には無理だろうけど、どんどん増やしていこう」

「ありがとう御座います、お父様」


創造主が受け入れてくれた喜びの笑みを、全身全霊を持って押さえ込む。






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長い長い回想から戻ってくると、白衣の男性は溜息をつく。


「しかし何だってこの世界の人間は、こんなにも愚かなんだろう・・」


この世界には人間という種族以外は、動植物、モンスターとダンジョンだけである。


剣と魔法という世界で、モンスターという脅威が目の前にありながら、世界は幾つもの国に別れ、人間同士で戦争をしていた。


「マッチポンプによる世界の平和を図る・・か」


この世界の管理者たる、神の考えも頷ける。


人々を纏める目的のモンスターも、ダンジョンも、人間の脅威になりえていない。

逆に利権を求めて、所有権や領地を髪の毛一本分でさえ得るために戦争をしている。


この世界で、自分が錬金術の研究を続けるための条件・・


人間の脅威となる魔王を作り出し、人間を懲らしめる。

人間が悔い改めたのならば、勇者を送り出して人々を平和へと導く。


「そのために最初に創った魔王が、完全支配特化型超巨大スライムって訳だけど・・」


プラチナの助言に従って、『愚者の目と耳』と言う、人型であればナチュラルな髪色を持つ諜報部隊を創りだした。

ブロンドとプラチナの弟妹に当たるが、オートマトン、ゴーレム、ホムンクルスで、人間や動物、昆虫と様々。


彼らの能力は、風景や環境に違和感なく溶け込み、あらゆる情報を収集する事。


「仕方ありません。散々お父様から警告していたというのに、無視したのですから滅んで当然です」


プラチナの顔が怖い、隣のブロンドもしきりに頷いている。






当初三人は、いきなり魔王を送っては、人々の改心に至らないと意見が一致していた。


先ずは警告する人間を送りましょうと話が纏まり、『神の代弁者』というマットの髪色を持つホムンクルスを創り、戦争をしている国々に派遣した。


神の警告を、国々に伝えまわったが、どの国も受け入れなかった。


そこで創り出した魔王こそ、完全支配特化型超巨大スライムなのだ。


魔物と呼ばれるモンスターたちは、魔素を溜め込み、体内に魔石が出来る事による変異したり、純粋に濃い魔素から生まれる。


そこに目を付け、常に洗脳する魔素を全世界で満たさせるモンスターを考える。


魔素を常に世界に満たすには、天から降り注がせれば良いと考え、伸び縮み自在のスライムをベースに魔王を創りだした。

全世界をいくら極薄ーく覆うとは言え、元の大きさはとんでもないものとなってしまった。


念のため勇者も創っておいた方が、とのアドバイスもあり、勇者候補として、アッシュの髪色を持つホムンクルスをベースに強力な人工生命体を創っておく。


世にある魔素だけでモンスターが生まれるのに、更に魔素を追加した物だから、爆発的にモンスターが生まれてしまう。


自分たちの完全支配が利いているモンスターに、戦争している場所や、王、貴族、城、砦を狙わせ、何とか国民の被害を最小限度に抑える。


よもや直接狙われるとは思わなかった、国のお偉いさんたちは、慌てて準備するも時遅く、国の中枢は壊滅的なダメージを受ける。


国々は混乱し、逃げ惑う人々に、この世界の神を信仰する人々の集団である教会の指導者に『神の代弁者』を再び送り出す。


教会の指導者は『神の代弁者』の言葉に、藁にも縋る思いで従う。


『神の代弁者』に、勇者召喚の方法と、神器を賜る方法を伝えさせ、アッシュの髪を持つ勇者と、悪しきを滅ぼす聖弓を、偽の召喚の儀式で人々の前に出現させる。


人々は勇者と聖弓に、魔王討伐の期待をかける。


勇者は聖弓で天を撃ち、スライムを地上に落とすと、同じく聖弓でスライムの核を貫く。






しかし、その後が悪かった。勇者の活躍がそれで終わってしまったのだ。


「しかし、あんな結果になるとは・・」

「ですから、あれで良かったのです」

「その通りですわ。お父様」


二人は失敗ではないと、それはそれは熱心に説き伏せてくる。


「だってねぇ・・。完全支配で繋がっていたモンスターも連鎖的に消滅するなんて・・」


完全支配のパイプが、かなり深く繋がっていたのか、魔王スライムへのダメージが、配下のモンスター全てに行き渡り、同時に消し飛んでしまったのだ。


「一緒に居なくなった事で、民への被害は抑えられ、復興にいち早く取り掛かれました」

「ここまで完璧に計算し尽くされていたのだと、感動すら覚えましたわ」


ぶっちゃけ勇者いらねぇんじゃねぇ? 聖弓だけでよかったんじゃねぇ?と思ったのだ。


「聖弓を、神器を扱えるのは、勇者であるというのが大切なのです」

「しかも今回は、勇者が人々に平和と安定をもたらすと言う大役の証明となりました」

「それもそうなんだけど・・」


とっとと勇者を引き上げさせようとしたら、あれよあれよと国王に祭り上げられた。

仕方なく『神の代弁者』と『愚者の目と耳』と連携して、国を治めさせる事に。


「じゃあ聖弓の威力がありすぎたのかなぁ・・」

「で・す・か・ら、お父様」

「はい?」

「あれはあれで良かったのです。初めての魔王と、勇者と、神器だったのですから、まず国を治める者たちや、民衆にどう言った物か示す良い方法でした」

「そうか・・、そういう事にしておくか」

「しておくか・・、ではなく、良かった事なのです」


プラチナの剣幕に、苦笑いするしかなかった。





しばらく黙っていたブロンドが、話しに一区切りが付いただろうと口を挟む。


「それよりも、お父様」

「何だいブロンド?」

「これからの事を考えるべきだと思いますわ。宝箱には何が入っていたのですか?」


そう、この話しの発端は、宝箱の中身から始まったのだ。


「ああ、普通ならこの世界にあり、今ある技術で手に入るレベルのものなんだけど・・」

「違ったと言うわけですね? それで上からの依頼だろうとお考えに?」

「その通りだね」


わずか数百年、されど数百年・・、一体人々に何があったのか。


「『愚者の目と耳』から手紙が来たって。何て書いてあったのプラチナ?」

「はい、国が割れて戦争の兆しがあると」

「・・何で勇者の教えに従っているのに、国が割れることになったの?」

「自分たちこそ、勇者の末裔であると」


広い世界をたった一人で収めるには無理がある。

そこでいくつかの領地に分けて、代理者を任命して治めさせた。


ここまでは良かったのだが、王家との血縁関係が増え、我こそは時期国王に相応しいと言い出した領主が出てきたのだ。


「・・そんなに国王が良いのかねぇ」

「平和な世が長くなり、国の中枢の腐り始めていたようです」

「ああ、上に習えになっちゃったんだ・・」

「勿論勇者の教えを守るものたちも多く、そのような領主を厳しく戒めているようです」

「そっか・・」


腐った王家に領主、戒める領主に、長いものに巻かれる領主に、傍観する領主。


「どうしたもんかねぇ・・」

「先ずは前回同様に、警告をされてはいかがでしょうか?」

「うん、それで様子見をしよう」

「畏まりました」


プラチナは、主の指示を受けるとすぐに『神の代弁者』を各地に派遣した。






世界中に散った『神の代弁者』は、領主に会うと同じ事を伝える。


「勇者にして、初代王の教えを守るようにと、神は厳しく警告されています」


次期国王を狙う領主はこれ幸いと、『神の代弁者』を捕まえ、勇者召喚や聖具を賜るように強要する。


「我ら『神の代弁者』は、神の命がない限り何も致しません」


以降どのような懐柔も、脅迫にも沈黙で答える。






プラチナからの報告を受けた、白衣の男はとても良い笑顔を浮かべる。


「ふーん。『神の代弁者』を軟禁? 神の言葉に対して何て不敬な者たちだろうねぇ」

「全く持ってその通りです。お父様の言葉を軽んじるなんて」

「ん? そっち?」


神の言葉を軽んじた事を言ったのだが、どうも二人の間で食い違いがあるようだ。


「さて、ブ・・」

「お呼びですか! お父様!」

「・・ロンド・・」


名を全部呼ぶ前に、ブロンドが現れた事にちょっと驚く。


プラチナはブロンドが呼ばれるのは気に食わないが、このスピードは当然と考えている。


「レディッシュたちに名を与える。部屋に案内してもらえるかな?」

「あの子たちに役割をお与えになるのですね?」

「プラチナやブロンドが居れば要らないと思ってたけど、二人に言われて創った護衛部隊が丁度良いかと思ってね」

「畏まりました」


プラチナには、この施設の白衣の男の世話に関する事に必要なアクセス権を与えているように、ブロンドには、倉庫や物品、創造物の管理に関するアクセス権を与えていた。


ブロンドに案内されて、レディッシュと呼ばれた者たちの部屋へと向かう。




三人が案内された部屋に足を踏み入れると、白衣の男は呆然とする。


「えっ・・、何ここ!?」

「まぁ!」


反面、プラチナは歓喜の笑みをと声を上げる。


部屋と言いながらも、中は闘技場のようになっていた。

そこまでならまだ譲れるが、いたる所に白衣の男の写真のようなものが飾られている。


「成果を達成すると、新しい写真が増え、達成できないと今ある写真が減ります」

「・・・な、何その仕組み!?」

「素晴らしいアイデアです」


ブロンドが胸を張っての説明に、白衣の男はドン引き、プラチナは賞賛する。


「そんな事より・・、これは?」


目の前のガラスのようなものに、赤毛の少女たちが、押し合いへし合いへばり付いて、こちらに来ようとしてる。


「勿論お父様を見て、駆け寄っただけですわ」


プラチナも、さも当然と頷いている。


「うーん、こんなになるようなプログラムしたかなぁ?」

「あっ、それに関しては桁が不足してましたので、追加しましたわ」

「・・へっ!? 何の設定項目の?」

「勿論、忠誠心ですわ」

「忠誠心って・・、一応百%だったと思うけど?」

「そこはMAXにすべきと思い、三桁の上限九百九十九パーセントにしておきましたわ」


ブロンドも良い仕事をしたと、その点に関しては、プラチナも頷いている。


当たり前の事だが、錬金術は素材の質によって、出来上がりも変わってくる。


人の形を取る場合、筋力や頑強さ、柔軟性など肉体に関するものは、元となる素材の影響を大きく受ける。

しかし精神力や忠誠心など精神に関するものは、素材の影響を受けにくい。


「そうなんだ・・。百%を超えると、どうなるか分かって良かったよ。そもそも百%以上出来るとも思わなかったけど」


忠誠心九百九十九%? そんな事が有り得るのだろうか?

人?は時折突拍子もない事をして、突拍子もない結果を生み出す事があると、改めて思い知る。


「では、お父様。号令をお願いしますわ」

「えっ!? このままで? あまりに可哀相じゃない?」

「この障壁を開けますと、お父様が襲われますので」

「・・そ、そうなんだ。じゃあまず・・整列?」


その瞬間、へばり付いていた少女たちは綺麗に整列する。


「私の家族であり、君たちの同胞でもある『神の代弁者』が囚われた」


彼女たちは、一言一句聞き逃すまいと真剣な表情である。


「君たちに『刑の執行者』と言う名を与える。相手にいかなる被害を与えても構わない。速やかに連れ戻すように」

「「「はっ!」」」


レディッシュの髪を持つ少女たちは、自分たちの同僚にして家族の救出へと向かう。




救出作戦が『神の代弁者』に伝わると、捕らえられていた一斉に口を開き始める。


「領主様へお伝え下さい。時はすでに過ぎ去ったと」

「どう言う事だ!?」

「私たちが戻らなかったり、ある期間連絡がない場合、神はその場所の人物は危険と判断され、二度と力を貸す事はないでしょう」

「何だとぉ!? おのれ謀ったな!」

「自業自得に御座います」


突然『神の代弁者』の周りに、赤毛の少女たちが現れる。


「貴様らは一体!? 何時の間に!? どこから?」

「お待たせいたしました『神の代弁者』」

「ありがとう。お手数をおかけします『刑の執行者』」


無人の野を行くが如く、『神の代弁者』と『刑の執行者』はゆっくりとした足取りで正門から出て行く。




『神の代弁者』を丁重に扱った領主たちには、改めて神の御言葉が告げられる。


「先の魔王でさえ支配できなかった、十三の魔獣が目覚めようとしています。備えなさい、と神は言われます」

「どのように備えればよいのでしょうか、『神の代弁者』殿」

「神は言われます。聖者を召喚しなさい。聖なる壁を築く聖具を授けましょうと」

「畏まりました、『神の代弁者』殿」


領主は『神の代弁者』と協力して、勇者と同じアッシュの髪を持つ聖者の召喚し、悪しきを退ける聖具を賜る。






神が用意した研究施設では、白衣の男が慌しく動いていた。


「お父様、何も十三体の魔獣と大見得を切らなくても良かったのでは?」

「いやほら・・、領主がたくさん居たし、前の世界では十三は不吉な数字でもあったし」


向こうでは、聖者も聖具も準備万端、後は十三の魔獣が来るのを待つばかりである。


「十三体と言っても、ワイバーンとかグリフォンとかキマイラとか、ヒュドラのような有名どころを強化加工したものだから」


今回の作戦が決まった時点で、モンスターの作成に取り掛かる。

まずはベースとなるモンスターを作り、アイテムで強化していく。


普段なら特に問題はないが、今回は十三体、しかも短期間のため調整もあったものではない。


出来上がる傍から、どんどん世界へと転送していく。

後に聞いた話では順次目覚めたと言う、都合の良い話の流れとなったらしい。




「はぁ!? たかがワイバーンではないか。何を恐れる事がある! 『神の代弁者』とやらも、その神もたいした事はないのぉ!」


有名なモンスターではあるが、倒せないレベルではないので、『神の代弁者』拘束した領主たちは、当初は鼻で笑っていたらしい。

しかし強化されたモンスターに、軍は成す統べなく全滅。城のまん前に姿を現された時、真っ青になって『神の代弁者』に助けを求めようとするが、既に手遅れである。




『神の代弁者』を受け入れた領主たちは、彼女たちと相談する。


「如何しましょうか、『神の代弁者』殿」

「一体ずつ聖壁の中へ。聖壁の中ではモンスターの力が封じられます。そして聖者の力で祝福された軍で、あらん限りの力で戦うのです」

「畏まりました。全てはお言葉の通りに」


『神の代弁者』の言葉に従い、一体ずつ聖壁の中に招きいれる。


聖壁の中でモンスターの力の大半が封じられ、更に聖者の力で強くされた軍によってモンスターは、一体、また一体と倒されていく。


十三の魔獣を、多大な犠牲を払ってすべて駆逐すると、『神の代弁者』や勇者であり初代王の言葉を軽んじた罪であると、骨身に刻み込む。


『神の代弁者』と聖者たちの導きの下、国の立て直しを図る。

更に聖者たちは、領地を回って歩き、人々を癒していく。






国直しの荒療治が一段落すると、自分のための研究に戻りながら呟く。


「まあ、こんなもんかねぇ」

「お父様の言葉に耳を傾けない者は滅び、受け入れたものには祝福がある。当然です」

「完璧ですわ、お父様」

「そうか・・」


プラチナとブロンドの褒め殺しを、苦笑いで受け止める。


「じゃあこれでしばらく様子を見よう。また何か有ったら二人とも頼むよ」

「「お任せください、お父様」」


主の言葉に、プラチナとブロンドは深くお辞儀をする。






---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---






聖者たちの一件から十数年は世界は安定し、白衣の男は自分の研究に没頭出来ていた。


「お父様」

「何だい、プラチナ?」

「『愚者の目と耳』からの報告がありました」

「何かあったのかな?」


念入りに身だしなみを整え、入室の許可を得た後、用件を伝える。


作業を一時も止める事なく、プラチナの話を聞く。


「御落胤騒ぎが起きているようです」

「・・はぁ!? 御落胤? 一体・・誰の?」


思わず持っていたペンで、ズバババァーッとノートに縦線を書いてしまう。


「聖者たちのです」


プラチナが、『愚者の目と耳』からの手紙で、今起きている問題を伝える。


「そんな馬鹿な!?」


流石に驚きを隠せず、作業を中断しプラチナの方を向く。


「お父様の驚きも当然です。聖者たちは彼の地を去る前、今回の問題から子を成さないと、はっきり宣言してきております」

「いやいやいや。それ以前に今回の聖者の正体は、自立性支援特化式人型魔法杖なんだけど?」

「はい。彼らオートマトン、機械人形であり、子を成す仕組みは持っておりません」


今回は勇者ではなく、自力で難敵に立ち向かってもらう趣旨で、支援、補助をメインとした聖者を『神の代弁者』に召喚させる風を装ったのだ。


「やれやれ・・、御落胤と言うからには、何らかの証拠を持っているのかい?」

「一応は持っているようです。まあ、真っ赤な偽物ですが」

「当然だよね。こっちはそんなの残せとは命じていないから」


先の勇者の血統の問題を反省して、今回は血筋を残さない対応をしている。


「すぐに解決しそうなものだけど?」

「証拠が本物かどうか、誰も見分けが付かないらしいのです」

「もしかして?」

「はい。『神の代弁者』に審判を願いたいと声が上がっているとの報告です」

「はぁー・・。何でこう馬鹿ばっかり居る・・んだ・・」


自分の主の行動がぴたりと止まる。


「お父様? 如何しましたか?」



ごぼっ!



「お父様!」


不審に思い声をかけると、主は唐突に口から血を吐き倒れる。


プラチナは、すぐにブロンドを呼び寄せ、主をとある場所へと運び込む。






その部屋は大き目の会議室ほどの広さがあり、壁、天井、床にびっしりと幾何学模様や魔方陣が書き込まれ、淡く点滅を繰り返している。


部屋の中央には、棺のような四角い金属製の箱が、二つ並んで置かれている。

その箱にも、より細かくびっしりと幾何学模様や魔方陣が刻み込まれていた。


箱は一部分だけ切り取られ、ガラスのような透明な板がはめ込まれており、窓からのぞくと、黄金に輝く粒子の混じった液体に満たされ、それぞれに白衣の男の顔が見える。


プラチナがその一つに声をかける。


「お加減はいかがですか? お父様?」


声をかけられた側が、目を開け答える。


「ん? 今のところは問題ないよ」

「お父様!」


プラチナをドンと突き飛ばし、ブロンドが割って入る。


「心配しましたわ! もっと私たちの言葉に耳を傾けてくださいませ!」

「悪かったね」

「ですから常々申し上げているのです。その身体は良く持って三百年! 上からの報酬で百年に一回は、新しい体送られてくるのですから、寿命の前に交換をと!」


白衣の男は、研究を出来るだけ長く続けられる方法を、神からの報酬としていた。

それは知識、技術、経験、記憶と言ったあらゆるモノを、定期的に新しい身体に移す方法。


実行に移す部屋こそがここ、『禁断の部屋』である。


今度はプラチナが、ドンとブロンドを突き飛ばし前に出る。


「ではお父様。儀式を開始してもよろしいでしょうか?」

「うん。頼むよ」

「「はい、お任せ下さい」」


立ち直ったブロンドと揃って一礼すると、儀式を開始する。




淡く点滅していた幾何学模様や魔方陣は、二人の詠唱により、強烈な白い光を放ち『禁断の部屋』を満たす。


プラチナとブロンドは、一部始終を見逃すまいとゴーグルをつけ監視を続ける。


やがて光が収まると、今度は漆黒の闇が部屋を満たす。

濡れるのも構わず、もう一方の金属の箱の蓋を開ける。


じっと見つめていると、やがて白衣の男が目を開ける。


「「お目覚めですか、お父様?」」

「お目覚めって言っても、ホンの数秒だろう?」

「新しい素体は、ずっと眠ったままでしたので」

「そう言われれば、そうなのかな?」


プラチナの言葉に、苦笑いをする。


「じゃあ悪いけどブロンド。そっちの素材を集めておいて貰えるかな?」

「お任せくださいませ、お父様」


自分の身体に使われている素体は、一度使うと素材に変換される術式が組み込まれていると説明を受けていた。

レアな素材になるというのだから、ありがたく使わせてもらう事にしている。




身を清めて、服を着ると、改めて御落胤騒ぎの対応を考える。


「やはりここは聖者の子供らしくしてもらおうか。ブロンド、人工魔力溜まり発生石と魔獣生成石を持ってきて」

「はい、畏まりました」

「人工魔力溜まりと魔獣生成、なる程。それは名案です。ではすぐに取り掛かります」

「じゃあ、任せたよ」


二つの石の効果を考え、主の思惑に辿り着く。


ブロンドの持ってきた白い石と、黒い石を受け取ると、プラチナはすぐに『愚者の目と耳』と『神の代弁者』と連絡を取り合う。






『神の代弁者』は、国王に目通りを願い、御落胤騒ぎの解決方法を示すと告げる。


「『神の代弁者』殿、御落胤に関わる者たちを集めました」

「神は告げます。たとえ『神の代弁者』が、何を言ったところで信じるまい」


その言葉に国王派は、ご落胤派を睨み付け、御落胤派は目を泳がせる。


「神は、聖者の血を自らの手で示すが良い、と申されます」

「『神の代弁者』殿、如何様にでしょうか」

「幾つかの魔力溜りが示されました。魔獣化する前に対処せよと」

「「そ、それは・・」」


魔力溜りが濃いほど、強力な魔獣が生まれ、最悪は魔王になってしまう。

再び混乱の世の兆しに、その場が凍りつく。


「これより聖具を賜る儀式に入ります。その間に順番を決めて置くように」


御落胤派は、窮地に立たされ真っ青になる。


本物かどうかなど、どうでも良かったのだ。本物でさえないと思っている。

自分たちが協力者となり、大義名分を得て、戦争の神輿であれば良かった。


お互いが牽制し合い、譲り合う醜い争いを、国王たちは嘲笑うかの様に見つめる。






プラチナが軽食と飲み物を、主の元へと運ぶと質問する。


「どうなると思いますか、お父様?」

「うん? 御落胤騒ぎ? 逃げるか・・、自然消滅か・・かな」

「やはりそう思われますか」


御落胤の擁立派も、そこまで馬鹿ではあるまい。

ただ御落胤当人たちが、本気でそう思っているなら特攻する可能性は高い。


「魔力溜まりを消す聖具と言いながら、渡すのは魔獣生成石だからね」

「その場で生まれた魔獣に、喰われてお終いとなりますね」


どちらに転んでも、綺麗サッパリ片を付けてくれると言う話しなのだ。


「まあ軍隊やトップクラスの冒険者を連れて行って魔獣に勝っても、御落胤とは認められないから、手痛い出費になるだけ」

「御落胤が暴走して魔獣が発生すれば、擁護したものが責任を取らされる訳です」


白衣の男がその通りと言わんばかりに肩をすくめ、軽食に手を伸ばす。


プラチナが一礼をして部屋を出て、代わりに頼んでおいた素材を手に持ったブロンドが入ってくる。






---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---






白衣の男は、世界管理者の代理人であり、平和の調停者である。


しかし正義の味方でもなければ、法の番人でもない。

異世界人であり、自分の欲望、欲求に忠実であり、己の研究が一番なのだ。


何百年も平和が続くと、変な方に研究が偏る時だってある。




「そんな訳で、魔人を作ってみました!」


にこやかに褒めて褒めて感、どうだろう凄いだろう感が半端ない。



人型をベースに、体長は大人五、六人分はあろうか・・

真っ黒な身体に浮かび上がる、血色の紋様・・

胸や太もも、二の腕に極端な筋肉の付き方・・

二対の腕に、折りたたまれた飛膜・・

髪の毛はなく、太く捩れた二本の角・・

口からは、上に突き出した太い牙・・



更には、どれ程の能力を秘めているか分からないが、恐怖の対象となるだろう。


「お父様、またこんな無駄なものを・・」


プラチナの目が死んだようになっている。


彼女は主の研究や実験に文句を言う事は全くない。言うつもりもない。

主の喜びは、自分たちの喜びに他ならない。


が、物事には限度があるし、主の暴走を止めるブレーキ役がプラチナでもある。


主の顔には、目の前のぶつを是非とも使ってみたいと、書いてある。


『愚者の目と耳』からの定期報告では、世は安定して平和である。

ワザワザこんなものをぶち込む必要は、全く持って・・ない!


「お父様、お父様の研究は素晴らしいものです」

「そうだろう、そうだろう!」

「しかし世にあっては平和をもたらす物。事が起こってから、必要に応じて準備すればよいのです」

「だって、だって! 折角創ったんだし・・」


主の駄々こねに、思わず使いましょうと言いそうになるのを、鋼の精神で耐える。

鋼の精神の源は、お説教中のお父様は独占できるというものであった。


「駄目なものは、駄目・・」

「お父様!」


厳しく叱り付けようとしたその時、ブロンドが割り込んでくる。


「また新しい魔物ですね! とても素晴らしいですわ!」

「おお! そうなんだよ!」


そのまま身体を擦り付け、父親の作品を全身で褒めちぎる。

自分の成果を認めてくれる娘に、顔がほころぶ。


「ブロンド・・、一体何の用です?」


目の前に広がる二人だけの世界に、ビキッとプラチナの表情が歪み、苦々しげに問う。


ブロンドはこちらを見る事なく、後ろ手で手紙をヒラヒラさせる。


「・・『愚者の目と耳』から?」


しぶしぶ手紙を受け取り、内容を確認し、その間にブロンドは主にねだる。


「お父様、今度はどのような容器に飾りましょうか! あと作品名も必要ですわね!」

「・・・えっ!? 飾る? 作品名?」


娘であるブロンドからの予想外の言葉に、戸惑いを見せる。


「えーっと、飾るって・・何処に?」

「勿論! 『異空間倉庫』にですわ!」


倉庫に仕舞うではなく、飾る・・ 正に倉庫管理者のブロンドならではの言葉。


「いや、あのね。仕舞うとか飾るとかじゃなくて、使ってみたいんだけど・・」

「きっと倉庫が華やぎますわ!」


白衣の男の言葉を、夢見るような蕩ける表情で・・完全にスルーする。


魔物を飾って華やぐ倉庫というのは如何かと思うが、倉庫への出し入れは、ブロンドが主の役に立っているという証明である。


どのような物でも、倉庫に一旦仕舞うのは、彼女の中での決定事項である。


「そ、そう・・かな? そう・・だね?」


ブロンドの喜ぶ姿に、何も言えなくなってしまう。


このように多くの作品はお蔵入りとなるのだが、今回はプラチナが待ったをかける。


「その魔人、使う事になるかもしれません」

「「・・えっ!? どういう事?」」


いぶかしむ主に、悲しそうな表情となるブロンド。


「今の国王に『神の代弁者』が捕らえられました」

「「はぁ!?」」


主とブロンドの、間抜けな答えが重なる。






『神の代弁者』の役割は、悪くなった国への警告や、問題の対応を行うだけではなく、不定期に予防として、過去を思い起こすように勧告して回る。


『神の代弁者』の行動は、自らの報告のほかに、『愚者の目と耳』からも報告が入る。


「それで、何で『神の代弁者』を捕らわれる必要があったんだい?」

「今の国王は、今の平和は自分の手柄であり、平和を乱す予言をする者を罰すると」

「・・どういう事かな?」

「簡単に言えば、不敬罪という事のようです」


自分の治世に文句を付けて、不安を煽り不吉な予言をするから不敬罪・・


「馬鹿なのかな? 今の国王は・・。プラチナ」

「はい、お任せ下さい」


溜息を吐くと、プラチナに『刑の執行者』を使って、救出の手配を命じる。


「やれやれ・・、君の出番だよ」


巨大なフラスコに向かって語りかけると、魔人が血色の目を開き、狂気の笑みを浮かべる。


『イエス、マスター』


液体に満たされたフラスコから、地獄の底から響くような声が聞こえる。






魔人の降臨と共に、人間たちの蹂躙が始まる。


最初の頃はたかを括っていた国王も、次々に連敗する軍、破壊される町、焼かれる田畑、食い散らされる家畜といった情報に、焦りを感じていた。


但し魔人が待ちの近くに現れてから、一日は何もせずジッとしていたので、攻撃さえしなければ逃げる余裕は与えられていた。


王都を間近に控え、総戦力で魔人を撃退に向かう。




しかし結果は散々足るものであった。


「総司令官ともども・・、全滅しました」

「そ、そんな馬鹿な・・」


伝令の言葉に国王や家臣たちは、報告に愕然とし、絶望の表情を浮かべる。


重苦しい沈黙を破く言葉が、誰からともなく発せられる。


「『神の代弁者』殿を・・」


その場の誰もが『神の代弁者』に向けられ、最後の救いと言わんばかりに縋り始める。


「すぐに『神の代弁者』様をお呼びしろ!」


自分たちの益にならないと不敬罪で、牢獄に閉じ込めた人物に助けを求めると言う。


「それには及びません」

「えっ!?」


国王の前に、『刑の執行者』に守られた『神の代弁者』が現れる。


「私の時は過ぎ去りましたので、お暇を申し上げに参りました」

「ま、待たれよ! 『神の代弁者』殿。今世界は魔人によって未曾有の危機に晒されておる・・」

「神は幾度となく勧告され、警告を発してきたはずです」

「そ、それは・・その・・」


自分たちの行いを、ここで糾弾され言いよどむ。


「神は御命じになります。逃げよと」

「ど、どうかその神に、魔人を倒す勇者を願っていただきたく!」


事ここに至っても自分たちの非を認め、謝罪の言葉一つ出てこない。

更には都合の良いことに、勇者を召喚してくれと言う。


「・・神は示されます。救いの方法を」

「おお! それは?」

「この度の真実を、国民に広く知らしめよと」

「はぁ!? そんな事できる訳が・・」


魔人による被害が、全て国王たる自分の責任となれば、民の怒りを買うのは目に見えている。


軍が瓦解した今、一度暴動が起きれば抑える力はない。


「むぐぐぅ・・、捕らえよ・・」

「えっ!?」


自分の前を去ろうとする『神の代弁者』を捕らえるように命じる。


「『神の代弁者』を捕らえよ! 何としても勇者を召喚させるのだ!」

「はっ!」


その場にいた家臣に命じて、『神の代弁者』を捕らえようとするが、『刑の執行者』の前に成すすべなく打ち倒される。


「一度ならずも、二度までも。何と愚かな」


呆然とする国王の方を振り返る事なく告げると、その場を去っていく。


国王たちの残された道は二つ・・、魔人に殺されるか、民に殺されるか。






『神の代弁者』と『刑の執行者』の労をねぎらっていると、プラチナが声をかける。


「お父様、魔人は如何しますか?」

「放っておきなさい」

「あまり被害がでますと・・。民衆に罪はありませんし、上の方からも・・」


プラチナの言葉に、しかめっ面になりながらも、視線を漂わせ考える。


「ふん! 仕方がない。『愚者の目と耳』に命じて情報収集を」

「どのような?」

「後継者を探させて。英雄に仕立て上げるから。皆も宜しく」

「「「畏まりました」」」


その場にいた全員が一礼を持って答える。




国民の事を思いやる、王位継承権の遥か下の方にいる王子や王女たちを選び、先ずは自分たちの父親を国王の座から引き摺り下ろさせる。


その成果で『神の代弁者』が白衣の男の用意した、試練の間と名付けた英雄足りえる力を付与させるダンジョンで、勇者や聖者と同じアッシュの髪を持つ、賢者のホムンクルスと一緒に訓練させ、魔人討伐をさせる。


王子や王女たちは、賢者の言葉に耳を傾け、国民と一致団結して、国の再建を図る。






再び世界に平和が訪れると、自分の研究や実験に熱が入る。


「今度はどんな物を作ろうかなぁ」

「どんなモノでも構いませんが、節度を持ってください。お父様」

「必ず一度はお預けくださいね。お父様」


娘たちの言葉に苦笑いを浮かべ、実験や研究中の状態を整理し、新たな研究や実験のアイデアを纏めていく。


今の世界と前の世界ではかなり環境も、結果も違っている。


まだまだ自分にはやる事があると、笑みが自然と浮かんでしまう。






---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---






鏡面世界を創った双子管理者の姉は、上司の命令を心の底では笑っていた。


自分の世界の住人を、弟の世界と行き来させた、異世界召喚のエキスパートである。

良い悪いはこの際置いておいて。


たかだか一人の住人を、異世界を送り込む事に何の苦があろうか。


しかし時間が経つ毎に、言い知れぬ不安感、漠然とした焦燥感に襲われる。


「(何でこんな気持ちが沸くのよ!?)」


二度とは戻ってこない、見も知らぬ同僚の、自分の管理外の世界への召喚・・

全くの未知の経験が、世界管理者の彼女にとてつもないストレスを与える。


機会ある毎に自分の上に詰め寄って、召喚された人物の状況を聞きまくる。


「報告書があるだろう、報告書が! ちゃんと読めば・・」

「そんなんじゃなくて、実際に見ないと不安で不安で!」

「馬鹿か!? そんなことが出来る分けないだろう!」


痺れを切らし、埒が明かないと、召喚先の世界の管理者を探し当てる。




−BAR堕天使−


世界管理者の数は、なかなかに多く、全員を知り合うことは難しい。

全くといって良いほど知らない天使から連絡を受けた時は驚いたものだ。


「なる程・・、それで呼び出しですか」

「そうなのよ! それで彼はどうなの?」

「とても良くやっていますよ」


会って早々、一方的に聞きまくられ、喋りまくられ、くだを巻かれている。


「上手く言ってよかったですね」


にこやかに黙って聞いていた店員が声をかけてくる。


マッチポンプ方法の切欠をくれた立役者であり、感謝してもしきれない大恩人である。


「そうだな、今のところは・・な」

「何か問題でも?」

「うん? いや何、人はやはり人であるということだ」

「人・・ですか?」

「私たち(世界管理者)など、及びもしない存在という事を痛感しているよ」


召喚した白衣の男は、こちらの思惑を汲んで、世界平和の調停をしてくれている。

しかし時折見せる、身内への怒りが、彼自身が魔王になる可能性を秘めていた。


「人は誰彼の指示で動くのではなく、自らの思いで動いてこその人なのだと・・ね」


一人ブツブツ良いながら双子の姉を尻目に、グラスを傾け締めくくる。


「そうですね」


笑みを浮かべると、そっとグラスに息を吐きかけるように呟く。


上手く言った事を、グラスに浮かぶ別の人物に伝えるように。




END








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