○○とルームシェアしました。
【○○とルームシェアしました】
ダンジョンと呼ばれるモノには、いくつかタイプがある。
最初にダンジョンコアと呼ばれるモノが生まれ、徐々に大きく深くなるタイプ。
洞穴や坑道、地下通路、墓地、廃城、遺跡、地下牢、森、火山などに、ボスと呼ばれるモノが生まれたり、住み着いて大きく深くなるタイプ。
そこにボスではなく、ダンジョンコアが生まれる場合もある。
ダンジョンコアやダンジョンボスが居なくても、ダンジョンと呼ばれる事もある。
コアやボスが居なくなった後を、枯れダンジョンや廃ダンジョンと言う事もある。
結果として危険とお宝の可能性があれば、ダンジョンという事になるのだ。
今ここにダンジョンコアがここに生まれる。
そして新たなダンジョンが、この世界に産声を上げた。
「な、何でチュートリアルをしただけで外と繋がるの・・?」
自分がダンジョンコアであり、どのような能力があり、何をすべきか知った後、ダンジョンを大きくしようとしたら、いきなり外界と繋がってしまった。
「ど、どうしてこんな事に・・?」
最初から強く大きいダンジョンのダンジョンコアとして生まれるレアケースもあるが、通常は一部屋と言う小さなものから始まる。
日々ダンジョンポイント(DP)と呼ばれるモノを貯め、ダンジョンを少しずつ強く大きくしていかなければならない。
不運なダンジョンは地表に近く、ふとした切欠で外と繋がってしまう事がある。
「すぐに冒険者と呼ばれる人間に見つかっちゃう・・、どうしたら・・」
ダンジョンの存在が分かれば、欲深い存在がコアの事をあれやこれやと・・
何か助かる方法がないか、ヘルプ機能を使ったり、ダンジョンを大きくするのに使うダンジョンポイント(DP)を使って、何とかならないか調べるも芳しくない。
突如自分の目の前に、侵入者を告げる冷酷なメッセージが現れる。
「そ、そんな! もう侵入者、冒険者が来るなんて・・」
『ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんかーぁ?』
自分の部屋へと繋がる扉の向こう側から、女性の声がかけられる。
「ああ、もう終わりだわ・・」
冒険者に見つかったダンジョンコアの運命が、現実になりつつあった。
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会議室に部下の二人を呼び寄せる。
実は双子である。
双子で同じ職場というのは、結構珍しいのではないだろうか?
ましてや同じ部署というのも。
双子だからこそ斬新なアイデアで、周りをあっと言わせる様な企画を出してくれると、少ないくない期待をかけていた。
・・にも拘らず、大きな問題を起こしてくれた。
上司として、若干説明が足りなかったかとは思うが・・
(コンコン)
ノックの音が会議室に響く。
「入りたまえ」
「「失礼します」」
入ってきた姉弟の双子は、気まずそうに視線を向けてくる。
自分たちがしでかした失敗を、十分に理解できているようだ。
結構結構・・
「二人とも、どうして呼び出しを受けたのか分かっているかね?」
「その前に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん? 何かね?」
双子の姉の方が質問をしてくる。
「何故、このような会議室セットを?」
びきっ!
どこぞの血管が浮かび上がる音と共に、怒声が発せられる。
「君は自分が仕出かした事を棚に上げて、そこを突っ込んでくるのかね! 呼び出されての第一声がいうに事欠いてそれか! ずいぶん余裕じゃないか!」
「も、申し訳ありません!」
ぴっ!っと背筋を伸ばして、どこぞの軍隊の敬礼をしてくる。
・・やはり馬鹿にしているとしか思えない。
弟のほうは弟のほうで、姉の行動をやれやれと言う顔で首を振っている。
確かに彼の方が、彼女に振り回された感が強く、気苦労が絶えないと聞く。
「姉が変な事を・・。申し訳ありません」
やはり弟の方がきちんと謝罪してくる。根っからの苦労人のようだ・・
「お呼び出しの件は、私たちが担当する世界の事でしょうか?」
「はぁー・・、その通りだ」
「えぇー、何か問題がありましたでしょうか?」
ぶちっ
どこぞの血管が切れる音と共に、再び怒声が飛び出してくる。
「有っただろうが!」
「姉さん・・」
姉の方は、あまりの怒りに口をパクパクさせる上司と呆れ果てる弟にを無視して、自分の言いたい事を並べる。
「最初の説明の中には、二人で一つの世界というお話しは聞いていません。通例では一人に一つの世界なんですから。間違って二人で二つの世界を造ってしまった事をとやかく言われる筋合いはありません」
強気の発言に、上司も頷いている。
「その件はこちらの伝達ミスもあるので仕方がない所だろう。鏡面世界という考え方も、非常にユニークで高く評価されている」
我が意を得たりと言わんばかりに自分の言い募る。
「では何が問題だったのですか?」
「住民を簡単に世界間移動した件に決まっているじゃないですか・・、姉さん」
「その禁則事項をやってくれたことに決まっているだろうが!」
弟と上司の言葉に、ああ、やっぱりね、という顔をする。
「まあ分かっていましたけどね・・」
そっぽを向いて頬を掻く態度に、上司が再びキレそうになるが、弟が執り成しをする。
・・って、本当にお前気苦労が絶えないな、と弟を思いやる上司。
「でも、それのどこが問題なんですか?」
「「なっ!?」」
姉のとんでもない発言に、上司と弟が固まる。
「姉さん・・、本気でそれを言っていますか?」
「おまおまおま・・、本当に分かっていないのか!?」
あまりの出来事に、二人は二の句が告げない。
「良いですか? この場合の禁則事項は、異世界間での人のやり取りを禁止するというものですよね?」
「分かっているじゃねぇか・・」
「でも鏡面世界は、二つで一つの世界、一つの世界で人のやり取りをすることは禁止されていませんが?」
正確には今までその様な事例がないから、賞罰の対象にはなっていなかっただけである。
「ほぉ・・・・・」
上司の顔から表情が消える。
「つまり、お前さんは・・、ちゃんと上司である俺の指示を、納得して、理解していたと言う事で良いんだな?」
「・・・・あっ!?」
「二つの世界が、一つの同じ世界と言う事なら、管理者が行き出来きるはずだよな?」
「え、えっとぉ・・・」
「同じ世界なのに、二人の管理者が両立されていない現状の報告を求めたいんだがな?
報告の内容が、ひじょーに楽しみだ」」
「・・・・・・」
姉の方ははっきりと言っていた、二人で二つの世界だと・・
別々の世界には、当然一人ずつ管理者が存在し、原則として行き来は出来ない。
二つの世界なら、世界の住人の行き来も出来ないし、その行為を禁止している。
もし二人で一つなら、世界の住人の行き来きで問題にならないだろう。
しかし管理者が別々に存在している理由がなくなってしまう。
何よりも上司の指示を理解していたと証明してしまう。
「・・・分かったか? 納得したか? 理解したか?」
「はい・・」
既に自分の逃げ道は塞がれ、言い訳は自分の首を絞めるだけとなっている事に気づく。
「異世界の住人の移動は、世界間のバランスを容易に壊しかねない。それは世界の理を壊す事になりかねず、『世界の初期化』が起きる可能性がある」
例えば魔法しかない世界は、それ以外の知識や技術が入らないように理として作用する。
そこに管理者権限で科学を導入した場合、科学の世界の土壌を創るために綺麗さっぱりありとあらゆるものを世界はまっさらにしてしまう。
これを『世界の初期化』と言う。
勿論、一人二人が移った事では大きな影響は起こりえないだろうし、魔法と化学の融合と言う形で、世界の理として受け入れられる場合もある。
しかしそれが何千、何万と言う単位で、一斉に移ったらどうなるか?
あの方 は、人間をこよなく愛するが故、一度生を受けた人間たちが、管理者の都合で強制的に消滅させる事を良しとはされない。
別世界の人間を呼び込む事は、その危険性を多く孕むため禁じられているのだ。
更に世界の理が初期化をしないように、直接介入率と言う管理者が世界に及ぼす影響を、数値化する事で常に気を配っている程の念の入ようである。
しかし・・
双子の世界はそれぞれ、世界の理が違うにも拘らず、何度も世界の住人を行き来させて問題が起きなかった事に、あの方 や他の管理者たちも調査をしている。
鏡面世界・・ 二つの世界が擬似的に一つになっている今までにない世界。
管理者たちにとっても注目されている世界なのである。
「とは言っても、世界の初期化が何故発生しないか、今後発生するのかわからない以上、鏡面世界同士での住人の移動は禁止だ。分かったな!」
「「はい、分かりました」」
「あと君たちには、本当の異世界の住人を経験してもらう予定だから覚悟しておくように。特に姉の方!」
上司はそこまで言うと、二人にお開きを告げる。
‐BAR 堕天使 −
砂漠のような世の中にあって、オアシス的な役割を果たす紳士淑女の憩いの場・・
店員の Mephistopheles より差し出されたグラスを傾けながら、双子の事を考える。
禁則事項を当たり前のようにやっていた二人・・
あの二人は軽く受け止めていたようだが、本来であれば天使として存在の抹消でさえありえる程の重大違反なのである。
上司の意図を汲み取らず、二人で一つではなく、二人で二つの世界を創った事か?
否、そんな些細な事ではない。
当然、禁止されている異世界間の住人の移動を行った事の方である。
我ら管理者たる天使を創造された、あの方 の禁止された事を行った。
つまり あの方 に逆らったと取られても仕方のない事なのだ。
それを理解している天使たちは、戦々恐々と あの方 の裁きを注視していた。
しかし あの方 は双子の天使の存在抹消をする事がなかった。
まず始めに自分に逆らった訳ではないと言う事。
逆に規則の抜け道を見つけて、上手く利用した事について高く評価している程だ。
次に過ちは誰にでもあると言う事。
あの方 は何時も言われるのだ、一度の失敗で切り捨てるべきではないと。
そもそも抜け道があった事の方が問題であり、過ちではないとも考えられている。
最後に鏡面世界の特殊性の評価出来ると言った事。
大量の住民の行き来をして、世界の初期化が起きないと言う事態が注目されている。
今尚、継続調査をされている段階で、創造した管理者を処分できない。
以上の点から大事にはならず、二人を許されている。
「しかし、どうしたものか・・」
本当の異世界住人の受け入れを学んでもらうにしても、普通の人物では意味がない。
「先程から溜息ばかりですが、どうかされたのですか?」
「いや、言うことを聞かない部下に、お灸を据えたいのが、ちょうど良いアイデアがなくてね」
「そうですか・・。でしたら、あちらのお客様の相談に乗られてはいかがでしょうか?」
「・・・客?」
店員の手が差し向けられた方を見ると、一枚の紙に目を落として溜息をついている女性管理者が居た。
「何に困っているか、知っているかな?」
「なんでも長年勤め上げた方に、新しい生活をさせて上げたいと・・。しかし受け入れ先がなかなか見つからないようで」
「ふむ・・」
ただの人間か・・
まあ、本当の別世界からの住人の受け入れをする、最初の取っ掛かりとしては良いかもしれない。
そう考えると、店員の言葉に従って声をかけてみる。
「だいぶお困りのようですが?」
「えっ!?」
「先程から、溜息を・・」
「そ、それはお恥ずかしい所をお見せしました。実は・・」
店員から聞いた話と同じ話を聞かされる。
「どのような方なのですか?」
「この方です」
そう言うと、手元の紙をこちらに滑られてくれる。
写真も付いており、着物を着た、黒髪でおかっぱ頭の十歳ぐらいの女の子だった。
「・・・ん!?」
そこに書かれていた情報にさっと目を通すと、目を見開き、とても悪い笑みを浮かべる。
「是非! 是非協力させて下さい!」
「えっ!? よろしいのですか? この方は・・」
「良いんです、良いんです。願ったり叶ったりですよ!」
双子への罰の第一弾が決まったところだった。
その準備をしている間に、罰の第二弾、第三弾が転がり込むのはまた別の話。
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私は長い間、この家を守り仕えてきました。
この家の主人と、その家族は私を優しく受け入れてくれました。
私もその思いに応え、一生懸命この家を守ってきました。
真っ白な空間・・
それしか表現のしようのない場所に、私は立っているのか寝転んでいるのか・・、それとも浮いているのかさえ分からない。
金色の髪、青い瞳の女性がふと私の前に現れる。
家の人たちが話してくれた、海を越えた大陸に居るという人々に似ていた。
「えーっと、あなたは? あと、ここは何処なのでしょうか?」
「私は、あなたが暮らしていた世界と呼ばれるモノを管理する者よ」
「世界を管理する・・、神様という事ですか?」
「そう呼ばれる存在ではありわね」
神様が海を越えた大陸に居る人と、同じ姿だったとは驚きです。
長いこと生きてきましたが、知らない事はまだまだあるようです。
「あなたの勤めは終わったわ」
「・・そう、ですか。私は死んだのですか?」
「うん、そうなるかしらね」
確かに家に居た私が、突然真っ白い空間に移れば死んだという事なのでしょう。
「記憶がはっきりしないのですが、何故私は死んだのでしょう?」
「あなたが守る家の人の死の運命を、あなたが身代わりになったって聞いているわ」
「ふむー、なる程」
確かにあの家族を守るためならば、私は喜んで身代わりになったのでしょう。・・ん?
「あのー、今聞いているとおっしゃいませんでしたか?」
「ええ、言ったわよ?」
「どういう意味でしょうか? まるで神様が二人いるような・・」
「ああ、世界の管理者は、世界の数だけ存在するわ。ここはあなたの暮らしていた世界とは別の世界の管理者、つまり私のための場所よ」
「そう言う事でしたか」
神様が一人じゃない事、たくさん世界がある事を今知りました、生涯勉強ですね。
「前の世界の管理者は、あなたの長年の働きに尊敬の念が絶えず、何かあなたにしてあげたいと思って私に依頼したのよ。望みはあるかしら?」
「望み・・、ですか」
私はずーっとあの家を守ることだけを考えてきました。
それが望み・・、ほかの望みなど浮かぶはずはありません。
「例えば生まれ変わって、もう一度やり直すことが出来るわ」
「・・あの家に行けますか」
「それは出来ない。もう別の世界ですからね」
どんなに素晴らしく新しい人生であっても、同じ家に行けないのであれば・・
変な主人に仕えなくてはならないのであれば・・
「なら嫌です」
「それは、困ったわねぇ・・」
「神様なら、強制的に行わせる事がお出来になるのではありませんか?」
「それじゃ尊敬の念や、褒美にはならないでしょ?」
私の言葉に、神様は思わず苦笑いをしています。
ならばと、話題を変えるように私にお願いしてきます。
「そうねぇ・・、じゃあ尊敬の念とかおいて置いて、人助けをお願いできないかしら?」
「・・人助けですか?」
「今ちょっと困っていて、助けが必要な人が居るのよ」
「それはいけませんね」
もし困っている人が居て、私が助けることが出来るなら助けたい。
「その人を助けてくれたら、後は好きにしていいわ」
「いきなり好きにして良いと言われましても・・」
「行ってもらう先は別の世界、あなたの事を知る人は一人も居ない」
「・・・それで?」
私の事を知らない・・、私を利用しようとしないと言う事でしょうか?
そして新しい自分の生き方を決められる・・、心が少し動かされます。
「その人からのお礼として、色々な知識や情報を貰って、やりたいことを見つけるのはどう?」
「ふむーぅ・・」
「やりたい事をやっても良いし、その人と一緒に居続けてもかまわない」
「なる程、人助けをしながら新しいことを学ぶという事ですか?」
「そういう事ね」
つい先程も、長く生きても学ぶことはたくさん有ると知ったばかり。
ましてや自分の知らない別世界ともなれば、色々なことが学べるはずです。
それよりも・・
「分かりました。今後については未定でも、助けを求める人が居るなら行きましょう」
「ありがとう。そう言ってもらうと嬉しいわ」
「それでどうしたら、その人の所に行けるのですか?」
「新しい世界に着いたらすぐ目の前に洞窟があるから、その先に居る人を助けてあげて」
「洞窟の中・・? 確かに何らかの助けが必要な状況でしょう」
迷子や遭難、怪我をして動けない、更には命にかかわる危機的状況の場合も考えられます。
「少し急いだ方が、良いかもしれませんね」
「じゃあ、早速送り出すわね」
「お願いします」
神様の元を離れて、助けを求める人の元へと向かう事にしました。
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真っ白い空間から、いきなりどこかの山の中へと放り出されます。
さすがは神様、一瞬で新しい世界、見知らぬ土地へと送ってくれたようです。
「あっ、そんな事より! えっーと、洞窟、洞窟・・・」
辺りを見回すと、それはそれは大きな木の根元にぽっかりと開いた穴を見つけました。
「洞窟・・と言うよりは、洞穴ですねぇ。それにしても大きい。と言うかこの木も物凄く大きいです」
上を見上げても木の天辺は見えないほどの高さです。
洞穴はの入り口は、大の大人一人など簡単に飲み込めそうな程の大きさです。
「(もしかして、足を滑らせて落ちたのでしょうか?)」
中を覗き込みますが、真っ暗でよく見えません。
「もしもーし、誰か居ますか?」
シーンとしていて、中から声が帰ってくることはありません。
洞穴を見える範囲で確かめると、垂直の穴ではなく、なだらかな下り坂のようです。
「誰かー、誰か居ませんかー?」
声をかけながら、手探りで壁伝いに進んでいきます。
洞穴の下り坂を少し進むと、あとは平らな道になりました。
入り口の光が少し後ろの方に見える辺りで、突然足元から道がなくなりました。
「・・えっ!? あっ? 何です・・かぁぁぁあぁぁぁぁ・・っ!?」
どうやら階段になっていたようで、一気にそのまま転げ落ちました。
「あいたたたたぁぁぁ・・。えらく酷い目に会いました・・。助けを求めている人も、この先で怪我をしていたり、気を失っているかもしれませんね」
下手をしたら大怪我で、命の火が消えかかっているかもしれません。
手を突いて立ち上がろうとすると違和感を感じます。
「・・あれ? 土じゃない。石? 石畳・・かも?」
周りを手探りすると、今まで触って来たような土ではなく、石畳や石積みの壁のようです。
思い返せば、たった今転がり落ちたのは階段・・
「(何で普通の洞穴の先に、明らかに人の手が入ったかのような場所があるんですか?)」
おかしな状況に、首を傾げながら助けを求める人を探します。
「誰か居ますかー? どなたか住んでいらっしゃいませんかー?」
声をかけながら周囲を手探りで調べると、どうやらここは四角い部屋の様になっています。
真っ暗で大雑把になりますが、歩幅で換算すると二十畳ほどの部屋のようです。
四角形の一辺の真ん中に、転げ落ちた階段があり、その向かいの壁に扉がありました。
「(この奥に住んでいる人が、助けを求めているのでしょうか?)」
扉を開ける前に、声をかけて中に人がいないか確認しましょう。
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんかーぁ?」
扉の前に立つと、出来るだけ大きな声で中に居るであろう人に声をかけます。
「ごめんくださーい」
しばらくして反応がないので、扉を叩いてみますが、やはり何の反応もありません。
「(助けを求める人が、この中にいるのでしょうか?)」
そう思い、仕方なく扉の取っ手を掴んで引いてみると、鍵がかかって居ない様子です。
「失礼しまーす・・」
ゆっくりこちら側に扉を引くと、光が漏れてきます。
「へぇ・・」
扉を開け切ると、六畳ほどの四角い部屋がありました。
部屋の真ん中に、子供ほどの背丈の台座に、大人が一抱えする程の珠があります。
部屋は、何処が光源が分かりませんが明るく、珠もゆっくりと点滅しています。
「この部屋の明かりを使いましょう」
扉を全開にして、元来た部屋を照らしてみます。
やはり部屋の大きさは二十畳ほどでしたが、人の姿は見当たりません。
「助けを求める人の姿が有りませんねぇ・・」
神様がああ言ったのだから、誰も居ないと言うことはないと思われます。
「どこか見落としがあるのでしょうか?」
明るい小さい方の部屋に再び入ると、珠の点滅が激しくなりました。
「この珠、まるで生きてるかの様に点滅しますね」
珠を手で触ろうとした瞬間・・
『ひぃ!?』
「えっ!?」
突然人の悲鳴のような声が聞こえてきて、思わず手を引っ込めました。
周囲をきょろきょろと見渡しますが、他に出入り口もなく、人の気配も有りません。
「確かに人の声が・・。誰かいらっしゃるのですかーぁ?」
もし隠れているのであれば、そう簡単には出てこないかもしれない。
「何かお困りじゃないですかぁー? 助けに来ましたぁー」
多分神様に言われて来たと言っても信じては貰えないだろう。
逆に変なやつと警戒されるかもしれない。
「もしもーし、大丈夫ですかぁー? 怪我とかしてませんかぁー?」
(ごくりっ)
頭の中に、唾を飲み込む音が聞こえてきました。
『ほ、本当に助けてくれるの?』
「勿論です!」
なんとも摩訶不思議な事に、声が頭の中に直接響いてきます。
「何処に居ますか?」
『あなたの目の前に居るじゃない・・』
「えっ!?」
台座の周りをうろうろしながら探したり、大きな部屋の方を覗き込みますが誰も居ません。
『こっちこっち、こっちよ』
「何処ですか?」
『だから、あなたの目の前よ』
目の前には、点滅する珠があるだけで人の姿は見えない。
「何処に・・」
『だ・か・ら、あなたの目の前よ!』
「・・えっ!?」
珠をジィーっと見つめながら、近づいてみる。
「も、もしかして・・、この珠がしゃべっているのですか?」
『珠って・・。そうよ、その通り。私があなたの頭に直接話しかけているのよ』
どうやら助けを求めているのは、人ではなく珠の方だったようだ。
「これはまた、吃驚です!」
自分には知らないことが、本当に山の様にある事を改めて知りました。
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双子の管理者の姉の方は、フゥーと溜めていた息を吐き出す。
「これで上司から言われた事は終わりね・・」
ダンジョンコアに、異世界人が無事に接触できた。
「しかし間抜けなダンジョンコアがあれば確保しておけって言われた時は、何言ってんだろうこの上司は? って首を傾げた物だけど、こういう出会いのためだったわけね」
二つの世界間で住民たちの移動を行った、別名ぎったんばっこん事件・・
鏡面世界。
姉の科学の理をもつ世界『イノバ』
弟の魔法と剣の理をもつ世界『イグザ』
この二つが水面に移る鏡合わせのように作られた世界。
自分の世界『イノバ』に住む人類が滅びる直前までいってしまったため、仕方なく強引に弟の『イグザ』に住民の大半を逃がした。
しばらくして弟から世界が落ち着いたんなら、早いところ住人を引き取ってくれと言われた。
呼び戻した住人たちに、元の世界と近い環境を提供するために、今までになかったモンスターやダンジョンなどを準備していた。
本来であれば、これだけで世界の初期化が起こってもおかしくない。
「(・・だからこの特殊性で、許されている所は大きいのよねぇ)」
軽く溜息を吐くと、上司からのお説教を思い出す。
罰として押し付けられた異世界の住人のために、その一つに目を付ける。
「異世界の住人を呼ぶと言う責任、異世界の住人が世界の及ぼす影響を学べって言われたけど、しばらくは様子見かしらねぇ・・」
上司から与えられた条件・・
異世界人にギフトやアビリティ、タラント、スキルを与えない。
異世界人を死に至らしめてはならない。
ただし異世界人を召喚した責任として、管理者がある程度関与する事は許される。
詰まる所、異世界人から目を離せないという事だ。
「確かに、ぎったんばっこんするだけなら、こんな大変な事にはならわね・・」
自分の世界を管理しながら、今回とは全く関係のない、ある人物のフォローも絶賛進行中な状況でである。
「一応、弟君の方にも現状を伝えておきますか!」
双子の管理者の弟に、現状報告のため声をかける事にする。
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まず出会ったからには、一人と一つ?は自己紹介から始める事にしましょう。
「えっー、はじめまして。ご挨拶が遅れましたが、私・・・おちょうと申します。
不束者ですがよろしくお願いします」
自分の存在を知っていて、もしかしたらと思い、ちょっと偽名を使いました。
『おちょうちゃんね。はじめまして、ダンジョンコアです。名前はまだありません』
「だんじょんこあ? それがお名前ではなくて?」
『んん? ダンジョンコアを知らない?』
「はい、存じ上げませんが・・」
『そう言えば、おちょうちゃんがここに来た経緯も知らないのよね』
「そうですねぇ。お互いの事を、もう少し詳しく話しましょう」
『そうね、それが良いわ』
お互いの会話が微妙に噛み合っていないため、お互いの身の上を打ち明ける事にする。
『まず私からで良いかしら?』
「はい、お願いします」
『まずダンジョンコアって言うのは、何て言ったら分かるかなぁ・・。こんな洞窟や廃城、迷路などで生まれる妖精とか精霊とかで、大きくしたり深くしたり、罠を仕掛けたり、モンスターを配置して・・』
「ふむーぅ・・つまり、からくり屋敷の付喪神と言った所でしょうか?」
『からくり屋敷・・、付喪神ねぇ・・。うーん、そうとも言えるわね』
「なる程、なる程」
ダンジョンコアは妖精や精霊の種を表す物であり、個々の名前ではないと言う事ですね。
「そう言えば、もんすたーとは何でしょうか?」
『自分たちに害を与える動植物の事よ』
「・・・自分たちを害を与えるもんすたーを配置するんですか?」
『ごめんごめん。あくまでも人間にとって害を与えるモノを、人間たちがモンスターって呼んでいるだけなのよ』
「ああ、そう言う事ですか」
これでモンスターを設置するの意味が分かりました。
ダンジョンから見れば、自分を守る盾でであり、剣な訳です。
『それで私は生まれたばかりなのよ』
「ほほぉー」
『色々できる事があって、やる事もあって、ちょっと部屋と階段を作ってみたら、いきなり外と繋がってしまったと言う訳なのよ』
「外と繋がると何かまずいことがあるのですか?」
『ダンジョンコアって、ダンジョンを大きく深くしたり、罠やモンスターの配置と言った事ができる凄い力を秘めていて、その力を手に入れようと人間が来るのよ』
「人間が・・、だんじょんこあさんにとってもんすたー・・ですか?」
私が守ってきた人間が、このダンジョンコアさんを傷つけようとしている・・
『そうよ。だから最初はおちょうちゃんの事も警戒したの』
「それは、そうですよね」
人間・・大好きな人たちも居れば、利用とする人たちも居た事は確かだ。
『人間はダンジョンにとってモンスターであり、ダンジョンコアである私を壊し、大きな力を手に入れようするの』
「そのために人間に対しての罠やモンスターを設置するという訳ですね」
『そうそう。ただ本来は時間をかけて、ある程度大きくしてから外と繋げるんだけど』
「・・・・はぁ!? 外に繋げる? 言っている事が矛盾していますが!?」
繋げる? 繋がっちゃったのではなくて?
『ダンジョンにはルールがいくつかあって、その一つが外と繋がっていなくてはいけないと言うものがあるの。多分だけどダンジョンも一種の生き物で、何時までも卵の殻の中に入られないと言う事かもね』
「ふむふむ、なる程」
『黄身のままじゃ、割れたら美味しくいただかれちゃうわけだから、ある程度育つ期間が与えられていたのよ』
「猶予・・保護期間という感じでしょうかね」
『そう言う事』
「つまり、いずれ外と繋げなくちゃいけないけれど、準備期間を吹っ飛ばして外と繋がってしまったのが今現在であると?」
『その通りね』
これで先程の矛盾点が明らかにされました。
『で、外と繋がる、人間が来るのが悪いわけじゃないの』
「どう言う事ですか?」
『ダンジョンを大きくするには、ダンジョンポイント、略してDPと言うものが絶対に必要になるの』
「でーぴーですか、それで?」
『そのDPは最初にもらえる分と、後で手に入れられる方法があるのよ』
「ふむふむ」
『後からを手に入れる方法には幾つかあって、その一つに侵入者を倒すか追い出す事で大量に手に入れられるのよ』
「つまり生まれたては弱くて人間に叶わないが、ある程度大きく人間に対抗できるようになれば、DPを手に入れるため人間と戦うのがだんじょんこあであると」
『その通りね』
「なる程、納得しました」
ダンジョンコアを助けるには、人間と争わなくてはならない。
「(ちょっと困った事になりましたね・・)」
内心溜息を吐いてしまいます。
『じゃあ、今度はおちょうちゃんについて教えて頂戴』
「分かりました」
ダンジョンコアさんに振られて、自分の話しをする事に・・、信じてもらえるでしょうか?
「信じてもらえるかどうか・・」
『ん? どう言う事?』
「えーっと、だんじょんこあさんは神様って信じますか?」
『神・・、世界の創造主という事かしら?』
「ええ、その神様です」
『信じるも何も、実際に存在しているじゃないの?』
「・・・えっ!? 存在しているのをご存知なのですか?」
『実際に見た訳じゃないけど、私の知識、情報にはそういう物があるわよ』
「と言う事は、この世界に暮らす人々も神様を知っている?」
『それは分からないけど、神によって世界が作られたされているわ』
それならば話は早い。
「わたしは此処とは違う世界の者で、神様にこの世界に来て、困っている人が居るから助けて欲しいとお願いされました」
『違う世界・・異世界ね。その神様が私を助ける様にあなたを導いてくれた、と?』
「その通りです」
『なる程・・、じゃあ助けて頂戴!』
助けてもらえるという事に、思わず食いついてくるのですが・・
「いや、あのですね・・、だんじょんこあさんとは知らずに、人間さんが困っていると・・、つまりですね、怪我をしていたり病気だったりと・・」
『ああ・・納得したわ。そりゃあ、いきなりダンジョンコアの窮状を救えるはずはないわよねぇ・・』
「はい・・、すみません・・」
お互いの身の上話をしてみればしてみたで、二人して困った事になってしまいました。
一通り自己紹介を終わったので、これからの事について話し合っていきましょう。
「では何がお助けできるか分かりませんが、困っている事を一つずつ解決していきましょうか」
『そうね。一人?で考えるより遥かに建設的よね』
「まず生まれたての弱い状況で、外と繋がっていつ人間がやって来るか分からない」
『そうそう』
「となると一番は外との穴を塞ぐのが良いと思うのですが?」
『あー・・、それは出来ないわ。一度外と繋がると、必ず一箇所は外と通じていなければならないって大原則が存在するのよ』
「そうですか・・。それならば、少しでも出入り口からだんじょんこあさんの部屋を遠ざけた方が良いと思いますが」
DPと時間の許す限り、少しでも大きく強くしていきましょう。
『それもそうね。チュートリアルで、あと通路と部屋を一つずつ作くらなくちゃいけないし』
「ちゅーとりある・・とは何ですか?」
『チュートリアルって言うのは、さっきやる事って言ったじゃない? 私がダンジョンコアとして、うまくダンジョンを運営できるようにするための練習とか勉強とか、課題みたいなものよ』
「へぇー、それがまだ残っていたのですか?」
『ほら、突然外と繋がっちゃったからそのままになっていたのよ』
「ああそうでしたか。まずはそれから始めましょうか」
『了解。この状態だと・・、隣の部屋と、私の部屋の間に通路と部屋を入れる感じしかないわね』
「それで良いと思います」
出入り口、階段、部屋、通路、部屋、ダンジョンコアさんの部屋でチュートリアルを終了となりました。
チュートリアルが終了すると、ダンジョンコアさんが突然奇声を上げます。
『おおぉ!?』
「どうかしましたか?」
『チュートリアルが終わったら、次のチュートリアルが始まったのよ』
「また部屋とか通路の設置ですか?」
『いいえ、報酬として罠かモンスターを3個分貰えるみたい』
「三個と言う事は・・、部屋と通路分という事ですかねぇ?」
『うーん。分からないけど、そうかもね? そんなに強い物じゃないけど・・どうする?』
「勿論、設置した方が良いですよ!」
弱かろうが何だろうが、無いよりマシには違いないです。
少しでも強くと考えれば、文句など言っていられませんからね。
『何を何処に設置しようか?』
「正直、罠はどの程度効果があるかわかりませんので、もんすたーにしましょう」
『分かったわ。報酬で召喚できるモンスターは、スライム、ウルフ、スケルトンの三種類みたいよ』
ダンジョンコアさんから、それぞれの特徴を教えて貰います。
「では、最初の部屋から順にうるふ、すらいむ、すけるとんを配置しましょう」
三種類のモンスターを、それぞれの場所に召喚してもらう。
『了解了解! ・・・ん? えっ!? ええっ!? あれ? 何で?』
「ん? どうかしましたか?」
『いや・・えーっとね、何て言ったら良いのかな・・。色々有って反応に困った・・』
「ゆっくり落ち着いて、一つずつどうぞ」
慌てている、いや混乱しているダンジョンコアさんを落ち着かせます。
『そうね。まず最初の部屋にウルフを設置しました』
「はい」
『そうしたら・・、ヘルハウンドが召喚されました』
「・・・はい? 違うものが現れた・・と?」
確かに設置したものと違うのが出てくれば驚きますよね。
『うーん、上位種みたい』
「そんな事があるのですか?」
『ちょっと調べてみたんだけど、設置する際に、極稀に上位種が出るみたいなのよ』
「ほうほう、運が良かったという事じゃないですか。何の問題も無いじゃないですか」
『えーっとねぇ、スライムがエルダースライム、スケルトンがスケルトンナイトになったんだけど?』
「えっ・・? 三回連続で? 極稀な事なのに?」
『単に運が良いレベルではすまないと思う訳よ。しかも上位とはいっても、一ランク上じゃなくて、三つから四つ・・それ以上ね』
偶然・・、と言う事ではないでしょうね。多分。
「そ、それは・・確かに。とは言え、今答えが出ないなら、考えるのは一旦保留にしませんか? 他にはありますか?」
『そうね。別件なんだけど・・』
「何でしょうか?」
『モンスター召喚のチュートリアル達成したみたいなの』
「ほう、先程と同じですね」
『そうそう。それで報酬がもらえたのよ』
「どんな物でしょうか? 強化に役に立ちそうですか?」
今自分たちに必要で欲しいのは、ダンジョンを強化できる物です。
『強化・・は無理かな。ダンジョンマスターの部屋ね』
「だんじょんますたー、の部屋・・ですか? そもそも、だんじょんますたーとは?」
『うーん、分かりやすく言うと、人の形をしたダンジョンコアかしら?』
「ほうほう」
『基本は人と同じだから、ダンジョンマスターには居住空間が必要になる訳よ。私の様なダンジョンコア型には不要だけどね』
「勿体無いですね。折角ただで作れるというのに、使える人が居ないなんて」
『なら、おちょうちゃん使う?』
「良いんですか?」
しばらくはダンジョンコアさんと暮らすのですから、間借りできる場所があれば大助かりです。
『どうせ使う人が居ないんだもの、構わないんじゃない?』
「分かりました。ありがたく使わせていただきます」
『どんな部屋にする?』
「はい? どんな部屋・・って、種類があるのですか?」
『えーっとねぇ・・』
どのような部屋があるか教えてもらう。
洋室や和室といった種類に、台所、風呂、厠なども付いているとの事です。
「では古民家をお願いできますか」
『了解了解』
ダンジョンコアの部屋にあった唯一の扉の、何もなかった筈の向かい側の壁に、突如扉が現れました。
「おおっ! 吃驚です」
『出来たわよ』
「もうですか! 入っても良いですか?」
『何言ってるの? 当たり前じゃない』
ダンジョンコアさんのお言葉に甘えて、扉を開け中に入ってみます。
扉を開けると土間があり、炊事場がありました。
竈との仕切りの先は、お風呂や物置、厠があります。
「うわぁー、凄いです!」
土間に続いて、中央に囲炉裏のある板張りの部屋があります。
三面の内、一つの壁には茶箪笥など、一つは障子、一つは襖となっています。
明かりの入ってくる障子を開け様としましたが、何故か開きません。
「あ、あれれ?」
『あー、ごめん。障子はあくまでも壁だから・・』
「なる程、あくまでも壁材であると言うことですね」
『まあオプションで庭を追加できるけど、DPが必要ね』
「それなば不要です」
そう庭よりも、ダンジョンコアさんを強くする方にDPを使うべきでしょう。
「あっ、ちなみにおぷしょんって何でしょうか?」
『えっ? ああ・・そうね、追加で出来る事って意味かしら?』
「なる程」
今度は襖の方を開け様と思いますが、こちらも壁なのでしょう。
「うわっ! 畳の部屋です」
開かないと思っていた襖がすぅーっと開き、中には畳敷きの部屋が現れました。
押入れの中には布団が一組入っていました。
箪笥の中には、残念ながら何も入っていませんでした。
『暮らすための最低限しか用意されていないから、服とか食材とか、この家なら薪さえもDPで交換になるわね』
「ふむふむ、なる程・・」
『あっ、水に関しては生きるのに必要と言うことで、自動的に補充されるわ』
「そうですか、それは助かります」
今の自分に必要か分かりませんが、ただで手に入ると分かっておけば安心です。
しかしDPを効率的に稼ぐ方法を見つけ出す必要が有ると考えます。
「やはりでーぴーをもっと稼がなくてはいけませんね。私が出来る事はありませんか?」
『うーん、あまりお勧めできないけど・・』
「有るのですか?」
『・・・侵入者を倒すか追い出す事でDPが手に入るって話覚えてる?』
「ええ、勿論」
『真に言い難いんだけど・・おちょうちゃん、あなた侵入者なのよ?』
「・・・えっ!? これまた吃驚です」
普通にダンジョンコアさんと話していましたが、冷静に考えればそうなるのですね。
『つまりおちょうちゃんがダンジョンを出入りするだけで・・』
「でーぴーが稼げると言うわけですね」
『出入りするだけでも結構大変だと思うけどね』
「いえいえ、素敵なお部屋もいただけたのですから、少しはお役に立ちませんと」
私が多少なりともDPを稼げると分かりました。
ならば最初に貰えたDPを使ってダンジョンの強化をしましょう。
しかしお互いダンジョン経験が豊かではありませんので、モンスターや罠を仕掛ける度に、私とダンジョンコアさん、は頭を悩ます事になりました。
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そんなに日も経たない内に、ダンジョンコアさんから真剣な声が発せられれます。
『おちょうちゃん!』
「どうしましたか? だんじょんこあさん?」
『来たわ・・、侵入者よ』
「そう、ですか。ついにこの時が・・」
私とダンジョンコアさんが出会って、そんなに日が経った訳ではない。
モンスターや罠にDPを使って(多少、私にも・・)おり、部屋も増えた訳でははない。
『DPは殆ど残っていないわ』
「あとはもんすたーさんと罠さんたちに期待しましょう」
『・・と思ったら、侵入者を倒しちゃったわ』
「・・・はい? ど、どう言う事ですか?」
『多分だけど、偵察だったんじゃないかと思うの』
「なる程。入ってすぐに何かあると思って、仲間に伝えに言ったと」
『やっぱりおかしいのよねぇ・・』
「何がですか?」
侵入者が現れ、撤退した事に何か引っかかることがあったのでしょうか?
『侵入者に関するDPって、侵入者のレベルかける百のDPが稼げるって話したじゃない?』
「そう言っていましたね」
ダンジョンを出入りを始める際に、そう説明を受けていたのです。
私はレベルは一だったため、DPは100のはずなのに、実際には二倍の二百ポイントが入ったと大騒ぎしていました。
『侵入者のレベルが十二だったから、DPは千二百ポイント稼げた・・はず』
「もしかして?」
『そう。予想通り二千四百ポイント入っているのよ』
「つまり私だけの事ではなかった、と言う事ですか」
その場では私しか居なかったため、私の問題かと思ったのですが違ったようです。
『そうね。今の所考えられる理由は・・っ!? 侵入者! 四名よ!』
「これは・・、厳しいですね・・」
生まれたてのダンジョンでは、冒険者4名では荷が重いとい言ざろう得ないです。
『ん? 何か・・戸惑っているみたい?』
「だーくふぉっぐの罠さんが効果を発揮しているのでしょうか?」
視覚を奪って、ヘルハウンド部隊を有利にするため、ホワイトフォッグと言う罠を仕掛けたのです。
そうしましたら、上位の視覚、聴覚、嗅覚、感覚も狂わせてしまうダークフォッグが設置されてしまいました。
ちなみに部隊と言っていますのが、ウルフも追加で召喚しましたら、ブラッディウルフとか、アイスウルフと言った上位モンスターが計五体も出てしまいました・・
『そうかも知れないわね・・』
「では今の内に、一人ずつガブリと・・」
酷い言い方かもしれないけど、こちらとしても身を守るために、やむを得ない事と割り切ります。
『あっ!?』
「どうしましたか? うるふさんたちがやられましたか?」
『いいえ、二人倒した所で通路に入られちゃった。けど何かその場で足踏みしているというか、グルグル回っていると言うか・・?』
「無限回廊の罠のお陰ですかね?」
通路には単純に長く感じる罠を仕掛けただったはずなのですが、こちらも感覚を狂わせて延々と続く回廊に錯覚させる上位の罠になっちゃいました・・
ちなみに此処にもスライムを一体追加したのですが・・
『こちらも今の内に、ペロッと食べていただきましょうか』
「じゃいあんとすらいむさんですね」
何の捻りも強さも無い、ただ家ほどの大きさのスライムがジャイアントスライムです。
弱いのですが不意打ちで丸呑みしてしまえば、簡単には負けません。
『一人だけだけど、とうとう最後の部屋に・・』
「すけるとんないと、すけるとんきんぐの出番ですね」
残された一人の冒険者は、骨だらけの部屋に踏み込みこまれました。
正面に座るモンスターを見て、侵入者が真っ青になっているとダンジョンコアさんが教えてくれました。
もう一つの扉の前におかれた玉座に座る、王冠を被ったスケルトンキングに側に仕えるかのように立つスケルトンナイトがいます。
スケルトンキングは、他の一番弱いスケルトンと同じ力しかありません。
ただし特殊能力として、スケルトンの超高速無限召喚と言う恐ろしい能力をお持ちです。
スケルトンキングが、嗤うかの様に歯を打ち合わせ、指をぱちんと鳴らします。
周りの骨がカタカタと音を立てて、何百と言うスケルトンになっていきます。
『終わったわ』
実況中継をしてくれた、ダンジョンコアさんがそう一言呟きます。
「ふぅー・・、何とか乗り切りましたね」
『DPが一万四百ポイント! やっぱり二倍だわ』
「それは良かったですね」
『うーん・・、そうね! そうしておきましょう』
原因究明は諦め・・、じゃなく継続調査しながら、ダンジョンの強化を行っていきます。
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それから六十日、こちらの世界で一ヶ月が経とうとするが特に何もありません。
何もないと言いましたが、ほどほどに人間以外にも結構な数の侵入者がいらっしゃいました。
「最近、誰も来ませんね。まあ、来て欲しいわけじゃありませんけど・・」
『ねぇ、おちょうちゃん?』
「どうしましたか? ダンジョンコアさん?」
『いやね、侵入者の撃退で二倍のDPがもらえるって話したじゃない?』
「ええ、そうでしたね」
『毎日DPがもらえるのよ。何かよく生き延びられました、ご褒美ですみたいに』
「ほうほう」
『それも二倍貰えているのよ』
「そうなんですか?」
ダンジョンコアさんからの新しい情報に驚きます。
『それだけじゃなくて、おちょうちゃんに使ったDPが何故か十倍になって戻ってきているんだけど?』
「十倍? それは・・どうしてでしょうか?」
DPを使って、着物や家財道具を出してもらった事が何度かあります。
その使った分が十倍になって、ダンジョンコアさんに戻されたと。
『いや、それはこっちが聞きたいことであって・・。まあそれで色々調べたんだけど、そんな事は何処にも書いてないのよ』
「何か問題があるのですか?」
『いえ。今の所問題らしい問題は無いわ』
「うーん、なら良いのでは?」
『気になるけど・・、まあ良いか!』
「そうそう、そうですそうです」
やっぱりと思いつつ、一人と一つ?はのんびりお気楽に過ごしていきます。
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そんな中、お気楽になれない人物が一柱いた。
双子の姉の管理者が、目の前の透明な板を見ながら口をあんぐりと開けている。
「な、何で? 一日のDPの回復量が二倍な訳? 侵入者撃退も二倍・・? トラップやモンスターの設置を行えば、必ず一ランク以上の代物が出てくるの?」
急いで目の前のダンジョンコアやダンジョンの設定を調べていく。
「特におかしな所・・は無いわね。あの異世界人には、そんなギフトどころか、アビリティもタラントさえも与えていない。たった一人の同居人で、こんな劇的なことが起こるはずはありえない」
今までの経験からでは、ありえないことが起こっているのは確かだ。
「と言うか、なんで同居人に使ったDPが十倍になって戻ってくるのよ、おかしいでしょう? 絶対に有り得ないでしょう!?」
鏡面世界とは言え、科学の理にダンジョンを作った事による影響かと考える。
しかし他のダンジョンには、その様な異常が起きているようには見えない。
自分の世界にトンでもないダンジョンが出来つつある事に、背筋に冷たいものが流れる。
「一体この状況は何な訳・・。原因らしい原因がまったく掴めないなんて・・」
本当の異世界人を受け入れることで、原因や要因の分からない事象が出てくるなんて・・
ダンジョンに関しては、弟の方が詳しいはずと一縷の望みをかけて聞いてみる。
「ねぇ、弟君。ちょっと聞きたい事があるんだけど?」
「どうしました、姉さん?」
今までの状況を簡単に説明すると、弟君の方から呆れた声が聞こえてくる。
「・・姉さん、上司からの指示書ちゃんと目を通していないんですか?」
「・・えっ? あの子に関する事が載っているの?」
「いや、載っているも何も、あの異世界人の影響なの当たり前じゃないですか・・」
「何かあるのね、あの子! 向こうの管理者がものすごいギフトを与えているのね!?」
「いいえ、特に向こうの管理者はギフトやアビリティ、タラントと言った物は与えたとは書いてありませんでした。ただあの子の元から持っているギフト・・、そう呼んでも差し支えの無いものは、そのままとなっていましたから」
弟君の無意識のはぐらかしに、ちょっとイライラしながら本題を尋ねる。
「な、何なの・・、教えて頂戴!」
「はぁー・・、指示書ちゃんと読めば分かるはずなんですけどね。おちょうちゃん? あの子は、チョウヒルコなんですよ」
「チョウ・・ヒルコって、何?」
「座敷童子って言った方が分かりやすいですかね?」
「座敷童子・・・? えっ!? あの座敷童子!?」
「姉さんが思っているので正解だと思いますよ。最上位の座敷童子ですね、彼女は」
座敷童子・・
自分が住んでいる家に、家内安全と富と繁栄をもたらす妖怪である。
「そ、それがどうしてこんな事になるのよ!?」
「まだ分からないんですか姉さん? 家内安全は、ダンジョンに立ち入る人を拒絶したり、ダンジョンそのものを見えなるするはずだと思いませんか?」
「だから、そんな風になっていないじゃない!?」
「ダンジョンの特性として、必ず外と繋がっていなくてはならない、侵入者を拒めないといった物があります」
「だ・か・ら、それが何よ!?」
「座敷童子の能力とダンジョンの特性が合わさって、ダンジョンを守るモノの強化、一ランク以上の上位種と、侵入者の弱体化もしくは無力化へと変化して、更に罠の効果が高まったんだと思います」
「・・・・なっ!?」
「当然ながら富はDPの倍量もらえる事になったのでしょう。繁栄に関しては、これだけ強化できるダンジョンなら確実に繁栄するでしょうね」
「そ、そんなぁ・・」
ダンジョンを長く見てきた弟君の、冷静な判断に愕然とする。
上司から押し付けられた本当の異世界人は、本当にとんでもない代物だった。
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新品同然となった、前来た冒険者たちの装備を弄りながら呟きます。
「うーん、あまり人は来て欲しくないのですが・・」
『何かあるの? おちょうちゃん?』
「いいえ・・、折角だんじょんこあさんに作って貰った大型倉庫とりぺあるーむを役に立たせる方法を思いつきまして」
侵入者である冒険者を倒した後に残っていた装備品を回収して、何か勿体無いなぁと思いました。
するとだんじょんこあさんが、自動的に修理してくれるリペアルームや、色々な物を無限に時間が経過しないで入れておける大型倉庫が作れると教えてもらったのです。
ダンジョンを大きく強くする傍ら、ダンジョンを一生懸命往復してDPを稼いで、用意して、侵入者が残した装備と修理して保管していました。
『ん? 何か良いアイデアが浮かんだの?』
「以前、だんじょんには宝箱があるとおっしゃっていましたよね?」
『うん。それで?』
「わざわざでーぴーで宝箱を出さなくても、修理した物を置いておけばどうかなぁと思いまして」
『なる程、それは良いアイデアね! DPも溜まってきたし、ダンジョンのバランスを見直しても良いかしらね』
侵入者からダンジョンを守るために、強く強くとひたすら強化をしてきました。
『出入りしてもらえば撃退になるんだから、絶対に入ってほしくない領域からは強くすればいいかしら?』
「そうですね。ここから先の侵入はご遠慮ください、見たいな立て看板を用意したらどうでしょうか」
『そうね・・。そこにアイテムの部屋?を用意してお好きな物をお持ち帰りくださいにしようか』
「それ良い考えです!」
部屋や通路をどんどん付け足して、召喚したモンスターたちを設置していきます。
どうしても一ランク以上の上位種が出てしまうので、一部屋一体ずつにします。
あまり考えずに繋いでいきましたので、複雑怪奇な迷路のようになりました。
『バランスをと考えても、これだけ上位種が出ると困るわねぇ・・』
「一部屋に一体ずつで、罠も併用しない、不意打ちをしない設定にしてますから、これでご容赦していただきましょう」
弱いモンスターが出る事は出たのですが・・、その群れ単位だったのです。
しかも、もれなくリーダーやボスと言った、結局は上位種が付いてきたのです・・
さびしがると言うのも変ですが、バラバラに出来ず群れ単位でしか移動できませんでした。
侵入者に配慮するダンジョンと言うのも変ですが、バランスを考えるとこれしか思いつきませんでした。
そんな私たちの思惑は、どんどん外れていきます。
『一生懸命バランスをとったんだけど・・ねぇ』
「弱りましたねぇ」
『そもそも上位種ったって、単騎で不意打ち無しな訳でしょ?』
「まあ、そうですね」
『なのに何で、レベル四十以上じゃないと倒せないのよ・・』
「しかも複雑に入り組んでいるせいなのか、レベル六十の人ぐらいで、やっと折り返し地点に到着できるかどうかですからねぇ・・」
何故かレベルで言うなら六十以上の人でなければ、弱め易しめのはずのバランスのダンジョンを超えて、立て看板まで来る事はできませんでした。
『折角の立て看板なのに・・何でかしら?』
「文字が読めない・・と言う訳ではないようですし・・」
立て看板までこれる侵入者は、立て看板をきちんと読んでいるようです。
その上で、敢えて危険と承知の上で看板から先のダンジョンへ侵入してきます。
『うわぁっ!? また無謀にも立て看板から先に踏み込んだわよ・・』
「だんじょんこあさんの話では、彼らはスキルが使えないとか、ステータスが弱くなっているって言ってましたよね?」
『そうなのよねぇ・・。自分の実力の半分も出せない状態で、突っ込んでくるなんて、呆れて物が言えないわよ』
ダンジョンコアから話を聞けば、冒険者たちは十分に力を振るえずに倒れていくようです。
『やっぱり私の力と言うヤツが欲しいのかなぁ・・』
「だとしたらあの立て看板は失敗ですね」
この先危険と書かれた看板には、ダンジョンコアよりと明記してしまっているのですから。
『じゃあダンジョンコアよりの所を、別の人にしようか』
「ではかっこ良く、先人たちより、みたいのは如何でしょう」
『うん、良いんじゃない!』
早速看板をその様に作り変えます。
あとは看板の効果を試したいのですが、こう言う時には侵入者がなかなかいらっしゃいません。
いらっしゃったとしても、看板まで到達できる侵入者は今の所まだです。
『その内に、嫌と言うほど来るんじゃない?』
「ほどほどで良いんですけどね・・」
ダンジョンコアさんの突っ込みに、苦笑いでしか答えられません。
『でも、おちょうちゃんが、家に同居してくれてから、万事上手く行くのよねぇー。何でかしら?』
「さあ? でも上手くいくなら問題ありませんよね?」
『それも・・そうね!』
「そうです、そうです!」
自分が座敷童子と言う事は内緒にしながら、一人と一つ?は今日も仲良く、ダンジョンを大きく強くしていきます。
とんぴんぱらりのぷう